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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第2章 頂点を取りに
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第54話 行動予測の真髄

 強いな。こうして接戦の試合を見るとその能力の高さがよく分かる。流石は生徒会といったところか。

 副会長の班を相手にギリギリまで迫って見せたウェルシー先輩の班も相当に強い。今残っている班は、どこもこのレベルの強さがあるのか。楽はさせてもらえないな。


「ふむ、もし副会長の班と当たったら、どうやって接近すべきだろうか」


「前にやっていた、ティールさんがカレンさんを投げる作戦はいかがですか?」


「そうだな、それがあった。それなら届くのではないか?」


「いえ、駄目ね。あの班相手だと撃ち落とされるわ。それよりフォンに副会長の水を凍らせてもらって、あとはカレンの身体能力頼りの方が勝率は高いのではないかしら」


「でも、フォンさんの魔法は一回しか使えないです。副会長さんがもう一度魔法を使ってきたら……」


 仲間たちが作戦を練っているのを聞きながら、俺も考えてみる。……ウェルシー先輩たちがやっていたのと同じ作戦で行けるのではないだろうか。カレンならあそこから詰め切ることも出来るだろう。

 と、そこまで考えて、思考を打ち切る。


「今考えることではないな」



『二回戦第三試合は、クレイ・ティクライズ班とディアン・プランズ班だ』



「ほら、出番だ。行くぞ」


 さて、ディアン先輩の班か。この班も面白い構成だ。ディアン先輩含む5名が徒手空拳、1人、サラフ先輩だけが補助の魔法を使う、超前衛型。サラフ先輩の強化を受けた5名がとにかく攻め、超接近戦で相手を潰す。

 特にディアン先輩は強い。瞬間速度ならギリギリレオンの方が速いだろうが、全体的な速度は恐らく最速。ただ走っているだけで、目で追うのも難しいほどの速度で移動する。単純な殴打だけでなく、投げたり払ったりと攻撃も多彩。剣を素手で受け流して見せた時は、目がおかしくなったかと思ったほどだ。

 クルと殴り合ったら、しばらくやり合った後、クルが負けるだろうな。


 そんな強いディアン班だが、明確な弱点がある。間合いの狭さだ。

 全員が素手で戦うのだから、その間合いは全班の中で最も狭い。遠距離攻撃もなく、武器攻撃もない。懐にさえ入らせなければ、圧倒することも出来るだろう。


 もちろんそれを補う技術があるからこそ勝ち上がってきている。油断は出来ない。


 フィールドに出る。副会長たちの魔法で散々荒らされたはずだが、もう元に戻っている。地面は地魔法で均すだけだろうが、木まですぐに戻せるのは、流石ディルガドールといったところか。

 初期位置に着いて、試合開始の合図を待つ。


 ディアン班と戦うにあたり、最も警戒するべきなのはディアン先輩だが、最優先排除目標は違う。サラフ先輩だ。

 ディアン先輩は確かに強いが、通常の状態なら手が付けられないというほどではない。カレンなら問題なく撃破出来るし、クルでもやり方次第でどうにかなるだろう。


 これが、サラフ先輩に強化されると話が変わる。


 常に魔法を使用したレオンに迫る速度で移動し、素手で盾を破壊するほどの力を得る。見たことはないが、恐らく剣など真正面から殴り合って破壊するのではないだろうか。

 こうなってはカレンでも時間稼ぎが精一杯、クルと二人掛かりでなんとかなるか、といったところ。


 もちろん相手は試合開始と同時に強化魔法を使用してくる。充分な間合いがあるのだから当然だな。


 だから、こちらの初手は……






『試合開始』


 理事長の合図と同時、サラフが強化魔法を発動しようと集中を始める。サラフの強化魔法は、補助魔法使いの中でも最高クラスの強化を誇るが、その分準備にやや時間を取られるのが弱点といえば弱点だな。


「てめぇら、サラフの魔法が完成すると同時に突撃だ。いつも通り、ブッチギるぞ」


「おう!」


 班員の威勢の良い返事が響くと同時、



 空から巨大な氷柱が降ってくる



「サラフっ!!」


 それはサラフ目がけて落下してきて、


「させるかよォ!!」


 ギリギリで氷柱の下に入り込み、思い切りぶん殴るっ!!


「ディアン君!!」


「ぐ、が、ぎぎぎぎぎ……怯むなっ! やれっ! サラフっ!!」


「っ! み、みんな、頑張って!!」


 いつ聞いてもふざけた魔法発動キーの発声が響くと同時、体に力が漲っていく。その力を迸らせ、足に力を込めて地を踏みしめ、氷柱を受け止める右腕に更なる力を込めていく。



「お、お、おおおおぉぉぉぁぁっ!!」



 力を込めた右腕を振り抜き、氷柱をぶっ飛ばす。何とか凌いで右腕から力を抜くと、ダランと垂れ下がり動かせなくなった。どうやら折れたようだ。


「チッ、やってくれんじゃねぇか、クレイ」


「ディアン君!? すぐに治すから……」


「その時間はねぇっ!! 散開っ!!」


 まだ試合開始から30秒も経っていないというのに、もうカレンとクルが詰めて来てやがる。俺並の速度だ。開幕、見えてすらいねぇのに座標指定だけで正確にサラフを狙ってきたことといい、とにかくこっちが嫌がることをガンガンしてきやがるな。

 サラフを左腕に抱えて跳び退く。そこにカレンの炎を纏った剣が振り下ろされる。


 どうするか。元々の作戦では、カレンは俺がやる予定だった。他のメンツじゃあキツイだろうからな。俺がやるしかねぇ。

 だが、流石に片腕潰れてちゃあ無理だ。そんな状態でやれるような相手じゃねぇ。ならここは……


「カレンに2! あとは後衛狙いだ! クルは俺がやる!」


 向こうの後衛は、フォンが魔力切れだから3人のはず。クレイ、ティールは罠に嵌りさえしなきゃ1人でも余裕を持って対処出来るし、王女の魔法も俺たちの機動力なら避けられる。2人いれば後衛への対処は充分なはずだ。

 カレンは2人つけりゃあ互角には戦えるはず。ならあとは、


「俺が片腕潰れた状態でテメェを落としゃあ勝ちってこった」


 サラフを降ろし、クルと対峙する。サラフの回復魔法はそう大した腕じゃねぇ。さっきはすぐに治すなんて言ってはいたが、どれだけ時間があっても、ここまで完全に折れた腕の治療は無理だろうな。

 良いさ、問題ねぇ。強化は入ってんだ。片腕が使えねぇくらい、ちょうど良いハンデだってんだよ。


「んじゃ、やるか」


 右腕が垂れ下がったまま、構えを取った。






 初手の魔法でサラフ先輩を落とし損ねた。まさかあの巨大な魔法を弾き飛ばすとはな。カレン、クルから通信で報告が入る。どうやらサラフ先輩への追撃は難しそうだ。

 後衛へ抜けてきた敵は2。どちらもこの班らしく、高速で接近してきているだろう。この相手に、森の中での戦闘は不利だな。


「ティール、アイリス、前進だ。平原で迎え撃つ」


 ティールを平原内に入らせ、アイリスはその周囲の森の中で待機。この相手にティールで時間稼ぎが出来るか、だな。


 相手が躊躇なく平原に入ってくる。そのままの勢いで接近して来ようとするので、ティールにいつのも球体を打ち込ませる。


 まあ当たる訳がないな。あっさり回避される。


「消滅の魔弾」


 アイリスから放たれる雷魔法。一瞬で平原を横断する高速の一閃だが、これも回避される。まともにやって攻撃を当てるのは不可能だな。

 足止めに失敗したので、敵2名はティールに接近している。何とか逃げ出さずに耐えているティールだが、駄目だな。完全に腰が引けているのが伝わってくる。


「退避して良いぞ」


「はいいいぃぃぃぃ!!」


 そう言った瞬間全速力で背を向けて逃走を開始するティール。良い走りだ。速度で相手に負けていない。やはり身体能力は良いものを持っているな。

 こんなあからさまな逃げをすれば、罠があるのはバレるだろう。そのまま森へ入っていくティールを見て、相手が少し足を止める。


 だがそれもほんの一瞬。すぐにティールを追ってくる。罠があるとしたら魔法陣だということは分かっているだろうからな。見落とさないように注意しながら進むことにしたのだろう。


 さあアイリス、出番だ



「破滅の閃光」



 森へ入ってきた敵周辺に、雷が雨のごとく降り注ぐ。幾条にも落ちる光は、轟音と共に敵を撃ち抜かんと落ちてくる。その雷すら避けて見せる動きは流石の一言だが、この魔法は直撃だけが狙いではない。

 木に落ちた雷が、人間に引き寄せられていく。避けたはずの雷が追尾してくる。これは流石に避けられないだろう。



「舐、め、るなァ! 一年坊がァ!!」



「は、はぁ!? ちょっと、雷を叩き落とされたんだけれど! そんなことある!?」


 ……いや、流石に無理だろう。恐らくサラフ先輩の強化の効果だな。体表に何らかの防御膜でも張る効果でも持っているんだろう。


「王女見っけたァ! ぶっ飛ばしたらァ!!」


「ちょっ、ヤバいヤバいヤバい! 来てるわよ、クレイ! 来てるぅぅ!!」


 もうアイリスのところまで来たのか。まったく、どんな速度だ。


「アイリス、小さい魔弾で良い。乱射だ」


「連鎖の紫電っ!!」


「効かねェ!!」


「そのまま撃ちながら薙ぎ払え」


 アイリスが放った小さい雷が、木に刻まれていた魔法陣を撃つ。その魔力を受けて発動、石槍が飛び出す。


「見えてんだよォ!」


 木に刻まれていた魔法陣に気付かれていたらしく、その石槍はあっさり避けられる。


「今度こそ、ぶっ飛べやァァァ!!」


 そのまま接近する勢い全てを乗せて、右腕が振り抜かれる



 直前、どこからともなく飛来した石弾が、その頭を撃ち抜く



「アイリス、止めだ」


「っ! 落ちなさいっ!」


 それによって動きが止まった相手に、アイリスの魔法が直撃。気絶した。

 最初に発射した石槍は敵を狙ったものではない。別の魔法陣を撃ち抜くためのものだ。そこから魔法陣が起動、発射された魔法が更に別の魔法陣を起動、と連鎖していき、相手の意識外から石弾の魔法を撃ち込んだ。

 敵の行動予測をかなり正確に行う必要があるが、成功すればほぼ確実に相手の不意を突くことが出来る。ディアン班は真っすぐ突っ込んでぶん殴る傾向が強く、予測がしやすかったので何とか読み切ることに成功した。


 さて、次は、


「ティール、アイリスと合流、2人で残りをやれ」


「はいっ!」


 ずっと逃げ回っていたティールをアイリスと合流させれば、もう1人も落とせるだろう。これで2人。後はカレンとクルの方か。

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