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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第2章 頂点を取りに
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第52話 先への不安

 野外フィールドは、俺たちが優勝した大会の会場となったドームよりも広い。そして見通しが悪い。一目で全体の状況を把握出来たあの大会とは別の戦術が必要になる。

 試合開始時点で分かっているのは、自分たちと相手の位置だ。そこからどう動くのかは予想することしか出来ないが、初期位置は固定されている。

 互いの初期位置からほぼ同距離の中間地点、その端の方に小さい山があり、そこから両方の初期位置に向かって川が流れ出している。山の麓、フィールドの中央は何もない円形の平原だ。

 つまり、左右対称、初期位置による有利不利はないように造られている。


『試合開始』


 理事長の合図が聞こえた瞬間、俺以外の全員をそのまま前進させる。俺は気配を消しながら山へ。

 川を越え、そのまま前進して行くと、平原が見えてくる。平原にはクルとカレンの2人だけが入り、他は森から出ないように指示している。さて、相手はどう動いているだろうか。


 基本の動きは三つ。

 一つ。俺たちと同様に、観測要員のみが山へ向かい、他は前進している。

 二つ。全員が前進している。

 三つ。全員が山へ向かっている。


 一つ目は臨機応変に動くのに向いた形だ。山へ向かった一人から班全体に通信を行い、随時状況を把握しながら試合を進めることが出来る。

 二つ目は、一つ目の作戦を取った相手に対して有効な作戦だ。1人が山へ向かっているということは必然、人数が少なくなる。平原で正面からやり合うなら、人数の差はそのまま戦力の差だ。

 三つめはとにかく有利な高所を確保する作戦だ。全員で高所を取り、そこから戦いを組み立てる。一番安定しているようにも思えるが、もし互いにこの作戦を採用していた場合、山という非常に戦いにくい場所での遭遇戦を強いられる。それに、相手の方が動きが速かった場合、山を登る途中で上から攻撃されることになり最悪だ。何も出来ずに壊滅しかねない。


 今回の相手が採用した作戦は、二つ目だ。全員が前進し、そのまま平原に入ってくるのを、高所から確認した。相手の構成は、剣2、槍1、メイスと盾1、魔法2か。前衛寄りだな。



 予想通りの動きだ。



 相手は恐らく俺たちの班の能力をほぼ知っているだろう。1年生大会で全校を前に披露しているからな。3年ともなれば、情報の大切さは理解しているはず。相手について無知なままで試合に臨んでくれると考えるのは楽観が過ぎる。

 そして、俺たちについて理解している相手が取るのは、正面からの実力勝負だ。フォンが一発しか魔法が使えないのは知られている。ティールや俺がほぼ正面から戦えないのも知られている。正面から突っ込み、初手のフォンの魔法さえ防げば、あとは実力でのごり押しが最も勝率が高い。


 だからこそ、平原に入ってきた相手は今、フォンの魔法を最警戒している。


 ならば警戒していても効果が変わらない作戦を使うまでだ。平原に霧が満ちる。前回大会で吹雪を起こして視界を奪ったように、濃い霧が平原に入った相手班と、クル、カレンを覆い尽くす。


「カレンは魔法使いを優先。クルはそのまま前進し、敵前衛と戦闘を開始。ただし最優先事項は攻撃を受けないことだ。回避を優先し、絶対の隙以外は攻撃をしないこと。状況は逐一報告」


 カレンは既に心眼を開いている。この霧の中でも相手の位置を正確に感じ取り、普段と遜色ない動きが出来る。クルは時間稼ぎをメインに命令する。カレンが魔法使いを倒すまで前衛を引き付けられれば最高だ。


「くっ、駄目だクレイ! 盾に止められた!」


「剣と槍と交戦中。回避で精一杯です」


 報告が入る。後衛には行かせてもらえなかったか。この霧でも前衛の仕事が出来ているな。流石3年生というべきか。


「ティール、そのまま正面。アイリスは平原のど真ん中で良い」


 俺からも霧で状況は見えないが、行動予測で相手の位置を割り出しティールとアイリスに攻撃させる。手応えはあり。だが落ちてはいないか。何かで防御されたな。


「取った! 盾を落とした。だが剣がフォローに入ってきている。後衛には行けんぞ」


 流石カレンだ。この霧でも動きが落ちない優位性を活かし、一人落としたな。クルは霧で視界が悪く、普段の機動力が発揮出来ていない。回避するだけで限界だな。


 少しずつ霧が晴れていく。


「よし、霧が晴れた! 一気に決めに行くぞ!」


 霧が晴れたことで、相手の動きが良くなる。2人を相手にしていたクルがあっという間に追い詰められていき、カレンもあと少しで剣士を落とせそうだったところを決め切ることが出来ない。

 そして防御に回っていた魔法2人が攻撃に回る。前衛は既にギリギリだ。霧が晴れた今、ティールとアイリスが援護しても時間稼ぎにしかならないだろう。



「フォン、潰せ」



 巨大な氷塊が、無警戒だった相手の後衛2人を押し潰す。


「馬鹿なっ!? 最初の霧で魔力切れを起こしているはずでは!?」


 フォンの魔法は、膨大な魔力量をたった一つの魔法に注ぎ込む最強の一撃だ。警戒していない相手を落とすことなど容易い。

 そしてその動揺を見逃すカレンではない。一瞬で目の前の剣士を落とし、前衛が2対2となる。こちらはティールとアイリスの援護もある。もはや勝ちは時間の問題だ。



『そこまで。勝者、クレイ・ティクライズ班だ』



 まずは1勝。やはりレベルが高い。今日勝利した各班の対策は必須だな。


 あの霧はフォンの魔法で生み出した物ではない。クルの機動力を活かし、誰よりも先に平原に到着、その周囲にいくつもの魔法陣を仕込ませた。それをアイリスが起動して発生させた物だ。

 相手は恐らく情報収集しているはず。つまり、前回大会で俺が使った作戦は見られている。フォンの魔法で吹雪を起こしたことがあったため、あの霧もフォンが発生させた物だと誤認させることが出来た。相手が全員で前進してくるだろうと分かっていたのに、あえてそれに対して不利な作戦を選んだのは、この試合での動きが今までの俺たちと変わらないと思わせるためだ。

 あとは霧が晴れていざ攻め時だ、となっている無防備なところをフォンの強力過ぎる魔法で叩き、そのまま押し切った形だ。


 一見余裕があるように見えるが、辛勝と言って良いだろう。

 霧の中で、カレンは心配いらないが、クルが落とされていたかもしれない。それだけで状況はひっくり返っていた。


 まだまだ作戦の練りが甘い。隙がある。ここから先は、そんな隙を見逃してくれる相手とは思えない。


 あまりやりたくはないが、やはり使うしかないか。


 無邪気に喜ぶ班員たちを眺めながら、先へと思考を巡らせる。





『これにて本日の全試合が終了した。勝ち上がった8班は、』



 1年クレイ・ティクライズ班


 1年レオン・ヴォルスグラン班


 2年ニーリス・カレッジ班


 2年ウェルシー・ノルズ班


 2年ダイム・レスドガルン班


 3年ディアン・プランズ班


 3年ピラル・チェアード班


 3年フルーム・アクリレイン班



『以上だ。1年が2班とも勝ち残っているね。2年も5班中3班が勝ち残っている。3年生諸君、油断したかな? この悔しさをバネに、更なる飛躍を願っているよ。上級生相手に勝って見せた班は素晴らしい活躍だ。遠慮はいらない。学年関係なく、切磋琢磨し強くなっていこう。では、本日は解散だ。明日の対戦相手はくじ引きで決定するから、楽しみにしていてくれ』

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