第47話 学科試験
学科試験まで残りちょうど1週間。来週の頭から3日間を使って学科試験は行われる。1日目4科目、2日目3科目、3日目3科目で計10科目。各100点の計1000点だ。
班での勉強の様子を見る限り、ティールは700点、フォンは920点、クルは750点、アイリスは900点程度になるだろうか。問題の全てが予想出来る訳ではないので想像にしかならないが、そう大きく間違ってはいないと思う。
で、問題のカレンだが……
「これも正解。ふむ、70点か。なかなか良い感じだな」
「よしっ! どうだ、これがわたしの実力ということだ」
「いや、ここまで来るのにどれだけ苦労したと思ってるんだ……」
放課後にまた俺の部屋でカレンにやらせたテストの採点を行ったところ、悪くない点数になった。
この調子なら、10科目で630点ほどだろうか。平均には及ばないだろうが、赤点追試などと言われることは避けられるだろう。赤点は各科目30点以下だからな。何とも感慨深いものがある。
「お疲れ様です!」
「カレンも及第点にはなったのね。お疲れ様、クレイ」
「クレイさん自身の勉強は大丈夫なのですか?」
「ああ、問題ない。授業で聞いたことは全て記憶しているし、教科書の内容も暗記している。教師ごとの性格や嗜好からの出題傾向も予測出来ているし、満点はほぼ確実だろう」
「さらっと恐ろしいことを言っているわね……」
当日の記入ミス等に気をつける必要はあるが、それも見直しを行えば確実に近い確率で防ぐことが出来る。生徒への嫌がらせで範囲外の高難度問題を混ぜてくるような性格の悪い教師はいないし、抜かりはない。
唯一不安があるとすれば、実践問題だろうか。本当に戦場に出た時を想定しているのだろう応用的な実践問題が、大抵1、2問は出題されるらしい。入試もそうだった。これが満点を取り辛くする原因だな。この問題は、戦場を具体的に想像出来るくらいの知識量を持つか、本当に戦場に出たことがあるかという人間以外には恐らく解けない。出題内容自体はこれまでの授業で学んだ範囲だから恐らくは正解出来るはずだが、これに関しては確実とは言い切れない部分があるな。
「さあ、合格点も取れたことだし、明日からはわたしも模擬戦に参加するぞ!」
「いや、試験1週間前、つまり今日からは模擬戦禁止期間だが」
「なんだと!?」
「それに残り1週間で気を抜いたら、当日までに勉強した内容が頭から抜け落ちるでしょう、あなたの場合」
流石にそこまでではないだろうが、気を抜けるほど完璧に仕上がっている訳でもない。毎日テストをする必要はないかもしれないが、勉強は続けるべきだろう。
そもそもテストで点を取るために勉強してもあまり意味はないんだがな。教師の嗜好から出題予測している俺が言えたことではないが。
「そろそろ風紀委員の当番の時間だな。じゃあ解散ってことで」
夜の見回りはなくなったが、当番はなくならないので、仕事はしなければならない。アイリスと一緒に寮の玄関へ向かった。
あっという間に1週間。
「どう?」
「全然勉強出来てないよー」
「あー、やべ。眠い……」
「あの問題だけは出ませんように……」
ざわざわとしゃべっている奴らはまだ余裕がありそうな部類。本当にヤバそうなのは鬼気迫る表情で教科書をめくっている奴らだろう。この学園は実技だけ出来ていれば良い他の学校とは違う。この学科試験も成績に大きく影響する。そんなことは分かっているだろうに、コツコツ勉強してこなかったのは怠慢だな。
「ふぅー……すぅー……」
「あわわわ、大丈夫でしょうか……」
深呼吸して心を静めようとするカレン、不安そうにしているティール。全く落ち着けていない。このままでは点にも影響しそうだな。
「落ち着け。どれだけ勉強してきたと思ってる。恐らく最も早く試験に向けて勉強し始めたのは俺たちだぞ? いつも通りゆっくり取り組めば大丈夫だ」
カレンを放置しておくのはマズそうだという理由で始めた勉強会だったが、その効果は班全体に現れている。数日だけ何時間も勉強するより、毎日少しずつ勉強していった方がキチンと内容を記憶出来ているものだ。焦らず実力を発揮出来れば何の心配もいらないはずだ。
「クレイさんはやはり満点確実ですか?」
ルーとレオンが来た。レオンは恐らく今回も優秀な成績を収めるだろう。ルーはどうなのか分からないな。
「ルーか。そうだな。恐らく満点が取れるだろう。そっちはどうだ?」
「流石ですね。わたしは、んー、満点は難しいでしょうね。入学から最近まであまり勉強も出来ていませんでしたし……。850点くらいは取りたいですねぇ」
850点くらいは、か。しっかり勉強出来ていれば900点は余裕で取れそうな発言だな。実技の能力がどの程度なのかはいまいち把握できていないが、学科の成績は優秀なようだ。
「今度は学科で勝負だ、と言いたいけど、クレイに学科では勝てなさそうだ。学期末の対抗戦まで待つことにするよ」
「分からんぞ? 案外勝負したらレオンが勝つかもしれん」
「いやいや、満点確実という雰囲気を出しながら何を言ってるんだよ。仮に僕も満点を取れたって引き分けじゃないか。クレイがミスをすることに賭けて勝負なんて出来る訳がない」
俺だってミスをすることくらいはあるが。まあ相手のミスに期待するのは良くないのは確かだな。
「次の対抗戦。今度こそ君と勝負をして見せる。だから、待っていてくれ」
そう告げて去っていくレオン。以前の対抗戦は勝負ですらなかったと思っているようだ。こちらは人数不足、あちらは連携不能、確かにまともな勝負とは言い難いかもな。
全学年合同の対抗戦だ。俺たちとレオンの班が対戦することになるとは限らない。いや、むしろその可能性は低いだろう。だが、
「ああ、待ってる」
そう返した。
「ふぉおおぉぉ!! 今のやり取り良いですねぇ!」
何やらルーが盛り上がっている。何事だ? こいつ、こんな性格だっただろうか。
「はーい、みんな、準備は出来てるかな? 学科試験を始めますよー」
キャロル先生が教室に入ってきた。いよいよ試験の始まりだ。
1日目
「ふぅ……何とか乗り切ったぞ! まあわたしの実力ならこれくらいはな」
2日目
「はぁ……まだ残っているのか……」
3日目
「ぷしゅー……」
学科試験が進むにつれて、カレンのテンションが下がっていった。だがもう終わりだ。これからはカレンの好きな模擬戦も解禁されるし、詰め込んで勉強する必要もないし、さっさと復活してもらいたいものだ。
「ほらカレン、模擬戦登録しに行くぞ」
そう告げると、机に伏せてダレていたカレンがガバッと起き上がる。そしてキラキラした瞳でこちらを振り向く。
「模擬戦!」
「ああ、今日からは模擬戦が出来る。学期末の対抗戦に向けて調整していかないとな」
「うおおおぉぉぉ!! やるぞ、クレイ!」
そう言って駆けていくカレン。
「おい待て! まだ班員が集まってないだろうが!」
「あ、あたし追いかけます!」
ティールがカレンを捕まえに走っていったが、あの勢いのカレンに追いつけるだろうか。というか廊下を走るなと自分で言っていたくせに……。
「ふふ、元気ですね」
試験が終わり、こちらも一息ついた様子のルーが話しかけてきた。微笑んでいる余裕があるということは、結果は悪くなかったのだろう。
「まあ元気だけが取り柄みたいなところがある奴だからな。どうだった、試験は」
「思ったより出来ました。勉強出来ていないと思っていたんですけど、案外頭に入っていてくれたみたいです」
「それは何よりだ。レオンも気合いが入っているみたいだし、対抗戦に向けて頑張れよ」
「はい。今度はわたしも頑張りますから、以前と同じ結果にはさせませんよ」
「期待はしよう。勝つのはこちらだがな」
さて、6組の3人と合流して模擬戦に向かうとするか。
翌日。ティールと共に教室に入り、クラスメイトたちの挨拶に返事をしながらいつもの席に座る。聞こえてくる話題は学科試験がどうだったかというものばかり、という訳でもない。むしろその話題は少ないくらいだ。ならどんな話題が主かというと、
「ようクレイ。お前さんは気楽で良いよな。学期末の対抗戦に出場出来ることが決まってるんだからよ」
隣の席のハイラスから話しかけられる。そう、対抗戦についてだ。この学期末の全学年合同対抗戦、誰でも出場出来るという訳ではなく、1年生から2班、2年生は5班、3年生は9班の計16班しか出場出来ない。
2、3年生はこれまでの成績で出場班が決定されるのだが、1年生はまだ入学間もない。成績に影響する行事は俺たちが優勝した対抗戦のみと言って良い。それでは見極めきれない部分もあるという判断から、1年生はもう一度班対抗戦が行われることになっている。
前回の大会の優勝班と、この代表決定戦の優勝班の2班が、全学年対抗戦への出場権を得られるという訳だ。
「そう言うってことは班は決まったのか?」
「まあな」
やっと決まったのか。どこの女子の班に入ったのやら。
「再来週1週間はずっと大会だ。その間お前さんたちは自由時間って訳だ」
「いや、自由時間って言っても観戦はするぞ。試合がないだけで拘束時間は変わらんよ」
「そう言うけどよ、もう観戦の必要なんてねーんじゃねーの? あの王子にも勝っちまった訳だし、同学年にお前らの敵はもういないだろ」
「いや、俺のスタイル的に相手の情報は多ければ多いほど良い。それにレオンに勝ったと言うが、もう一度同じ戦い方をしたら間違いなく負けるぞ。観戦は必要だ」
「ふーん、そういうもんかねぇ。クレイ班も6人揃ったんだし、そう心配しなくて良い気もするけどな」
「観戦して欲しくなさそうだな?」
「……いや、別にそんなことはねーけど」
こいつ、勝ち上がって学期末の対抗戦に出場する気満々だな。レオンにも勝てる気でいるのか。それほど有力な班はあっただろうか。女子が班長の有力班といえばアーサ・ナインフェールを思い出すが、あの班は班員の入れ替えをするとは思えない。となると、前回の大会では活躍しなかった班だろうか。
「ならば友人として応援に行ってやろう」
「そうかい。んじゃ、無様晒さないように頑張りますかね」
いつものように飄々とした態度のハイラスだが、その中に一瞬、何か暗いものを見た気がした。




