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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第2章 頂点を取りに
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第39話 風紀委員

「おう、クレイはいるか?」


 昼休み。食堂へ向かおうと席を立つのとほぼ同時に、そんな声が教室内に響いた。

 身長175センチほど。くすんだ黄色髪をオールバックにし、制服を着崩した目つきの悪い男子生徒だ。こんな見るからにガラの悪い奴がこの学園にいるというだけでも驚きだが、実はこれで風紀委員長だというから更に驚きだ。


 教室内をギョロギョロと見回し、俺を発見すると近づいてきた。ティールが怯えて後ろに隠れてしまった。背中にプルプルと震えている感触が伝わってくる。


「いるじゃねぇか。お前、今時間あるか?」


「これから昼食に向かうところですが」


「ああ、そりゃそうだ。じゃあ放課後で良いわ。また来る」


 それだけ言ってあっさりと教室を出ていく風紀委員長。何か目を付けられるようなことをしただろうか。全く覚えがないが。


「クレイさん、知り合いですか?」


「風紀委員長の3年生、ディアン・プランズ先輩だ。見たことはあるが、直接話すのは初めてだな」


 ティールはあまり気にしていないかもしれないが、たまに寮の玄関や学園の門などに立っているのを見かけることがある。遅刻や寮の門限破りなどを監視しているのだろう。


「あれで風紀委員長なのか。むしろ風紀を乱す側にしか見えんが」


 いつの間にか近くに来ていたカレンも、思うことは同じだな。むしろ誰もが同じことを思っているだろう。確かにこの学園は、制服の着方や髪型などに細かい規則はないため、あれでも問題はないんだが、とはいえ一般的なイメージというものがある。オールバックはともかく、制服はキッチリ着ていた方が優等生に見えるのは間違いないだろう。


「で、何かしたのか? 風紀委員に怒られるようなことを」


「するか。お前じゃあるまいし」


「わたしは常に真面目に生きている。風紀委員に呼ばれることなどないぞ」


「どうだかな」


 真面目に生きているのは間違いないだろうが、それと風紀委員に怒られないのは別だ。カレンの場合、ちょっとしたうっかりで物を破壊して怒られる様が容易に想像出来る。


「まあ良い。ティールの腹が咆哮する前に昼飯に行こう」


「そんな大きな音出ませんよ!?」







「ちゃんと待ってたな。よし、行くぞ」


「どこへですか?」


「ああ? 風紀委員室だ」


 カレンにテストを渡してティールと一緒に帰らせ、6組にも俺が呼び出されたことは伝えたため、今日の班トレはなしだ。

 教室で1人待っていると、昼と同様にディアン先輩が来て、用件も告げずにさっさと歩きだしてしまう。


 風紀委員室は5階だ。

 保健室や職員室、理事長室などが1階、1年の教室が2階、2年が3階、3年が4階にあり、5階は生徒会室や新聞部室、風紀委員室がある。他にも音楽室などの特別な教室は5階に集まっている。

 とはいえこの学園は授業で音楽を取り扱っている訳ではないため、音楽室などほとんど入らないし、美術室などの他の教室も同様だ。これらは生徒が趣味で使うための部屋だからな。

 5階には生徒会などの一部を除き、ほぼ人が来ない。今も廊下を歩く俺たち以外に生徒はいないようだ。


「戻ったぞー」


 風紀委員室の扉をガラッと開けてズンズン入っていくディアン先輩に続いて入室する。中には長机が中央に二つくっつけて置かれており、その周りに椅子が並べられている。そこに、ディアン先輩の他に3人の生徒が座っていた。


「あら、おかえりディアン君。クレイ君来てくれたのね」


「ヒャッフー!! なっかまー! なっかまー! あったらしいなっかまー!」


「入ってくれると決まった訳ではないでしょう。落ち着きなさい」


 恐らく風紀委員のメンバーだと思うが、委員長のようなガラの悪そうな人が集まっている訳ではないらしい。委員長同様、何度か寮の玄関などで見た覚えがあるな。1名、風紀を守る側とは思えない騒がしいのがいるが。


「よろしくね、クレイ君。わたしは3年副委員長のサラフ・シンティー」


「あたしは2年のウェルシー・ノルズ!」


「私は同じく2年、クロンス・ヴァンドルと申します」


 サラフ先輩はクリーム色の髪がフワフワとウェーブした、身長160ほどの全体的に柔らかい雰囲気の女子だ。

 ウェルシー先輩は桃色の短髪。身長150ほどの、とにかく活発元気な女子。

 クロンス先輩は黄緑髪を短く切りそろえた、身長170くらいのいかにも真面目そうな男子だ。


「で、俺様が3年委員長のディアン・プランズ様だ」


「え、ディアン君、自己紹介もせずに連れてきちゃったの?」


「ああ? そうだが、まあ良いだろ。俺のことくらい知ってるって」


「もう。知ってても自己紹介くらいしなきゃダメでしょ?」


「あーはいはい、悪かった。次からは気をつけるよ母さん」


「誰が母さんよ。もう」


 申し訳ないが、俺もまるで母親のようだと思ってしまった。他の2人も慣れた様子だし、この人たちはいつもこうなのか。


「すいませんね、クレイさん。どうぞ、座ってください」


「失礼します」


 俺のことなど忘れられたのかと思った。勧められた椅子に座る。


「で? で? クレイ君は風紀委員に入ってくれるの?」


「ウェルシー先輩の様子から用件は何となく察してはいますが、まだ何も聞いていないので答えようがありませんよ」


「え? 用件すら伝えてないの? ディアン君、何て言ってついてきてもらったの?」


「んなもん、行くぞって」


「もう。そんなことしたらクレイ君が困るでしょ? ちゃんと自己紹介と用件を伝えて、都合が良い日をあらかじめ聞いてからお話しなきゃダメじゃない」


「わーったわーった! もうこうしてついて来てんだから良いだろうが! とりあえず話を進めさせろ」


 やっと話を始めてくれるらしい。なかなか愉快な先輩たちだな。


「さて、とりあえず、ウチの風紀委員ってのは各学年から2人ずつ、合計6人が基本だ。んで、大体は1年の対抗戦が終わったら、その結果を見て勧誘することが多い。ここまで言えば分かるな?」


「対抗戦優勝班の班長である俺を、風紀委員に勧誘するということですね」


「ああ、そうだ。話が早ぇ奴は嫌いじゃねぇぜ。で、どうだ? 入る気はあるか?」


 風紀委員は学園の風紀を守る。寮の門限を破る生徒や遅刻する生徒を注意したり、行事の警備をしたり、喧嘩の仲裁をしたりといった仕事内容だ。

 この学園は気性の荒い生徒が少ない。喧嘩などそうそう起こらないため、主な仕事は門限破りや遅刻の注意になるだろうか。それくらいならそう負担になる仕事でもないし、やっても構わないといえば構わない。だが、


「風紀委員をやることで、何かメリットはありますか?」


「ああ? 教師の覚えは良くなるが、そうじゃなくてか?」


「ええ。もっと即物的なメリットが欲しいですね」


 確か成績が良くなったりなどのメリットはなかったと記憶している。だとすれば、風紀委員に所属することは無駄に時間を取られるだけ。学科はともかく実技はまだまだ課題が多い。あまり時間を取られたくないのが本音だ。


「ククク、正直だな。一応他の生徒より心理的に上に立てるってのもなくはねぇが、これも即物的とは言い難いか」


「難しいわねぇ。生徒会も風紀委員も基本的にはただのボランティアだから……。新聞部ならそういうのが好きっていう人にはメリットかもしれないけど」


「ええー!? 入ってくれないのー!? ヤダヤダ! 新しい仲間欲しいー!」


 別に俺が入らなかったとしても誰か別の人間が入るのだから、新しい仲間は手に入るだろうに。そう駄々をこねられても困る。


「もう。ウェルちゃんダメでしょ、我がまま言っちゃ」


「むぅ……」


 特にメリットは出てこなさそうか。なら申し訳ないが、ここは断らせてもらおう。班の問題解決を目指したいからな。



「風紀委員に入ったら、我々が鍛練の相手を務める、というのはいかがでしょうか」



 はっきりと断る言葉を口にしようとした瞬間、クロンス先輩から提示された。風紀委員自体のメリットというよりは、俺が風紀委員に入る交換条件といったところか。


「これからすぐというのは難しいです。我々も学期末の対抗戦に向けて準備がありますから。しかし夏休み以降ならば余裕も出来るはず。いかがでしょうか。我々はこれでも学園トップクラスの実力を持っていると自負しておりますが」


「クロ君ナイス! あたしもやるやる! みんなでトレーニングしよーよ! だからお願いっ!」


 なるほど。彼らの実力は知らないが、1年の対抗戦の成績で勧誘しているのなら確かにトップクラスの実力者でもおかしくはない。そんな彼らにトレーニングの相手をしてもらえるのなら、実力向上の手助けになるかもしれないな。


「付け加えるなら、風紀委員は生徒会や新聞部との交流も持ちやすい。あちらもかなりの実力者揃いですよ。損はしないはずです」


 生徒会長が現在学園最強なのは知っているが、他も実力者なのか。確かにこれはメリットだ。大した負担にもならない仕事をするだけでこのメリットを得られるのなら、風紀委員には是非入れてもらうべきだろう。


「委員長や副委員長も、この条件で問題ないですか?」


「ああ、良いぜ。クロンスの言う通り、今はちっと忙しいが、夏休み以降ならいつでも呼びな。相手してやる」


「うん、大丈夫だよ。皆で頑張ろうね。あ、でももし生徒会の方が良いって言うなら、風紀委員には入らない方が良いかも。生徒会は夏休み明けにメンバーの補充をするからね。風紀委員で大丈夫?」


 夏休み以降はずいぶん時間的余裕があるらしい。正直に言うなら、本当は今こそ鍛練の手伝いをして欲しいところではあるんだが、流石にこれ以上我がままは言えないか。

 生徒会とどちらが良いかは判断材料が少ないが、恐らく拘束時間は風紀委員の方が少ないと予想出来る。こちらで問題ないだろう。


「ええ、大丈夫です。では風紀委員に入らせてもらいます」


「やったーー!!」


「うっし! 歓迎するぜ! で、だ。1年でもう1人欲しいんだが。クレイ、誰が良いと思う?」


「俺が決めて良いんですか?」


「ああ。実力なら王子が一番なのは分かっちゃいるが、あいつぁあんま風紀委員に向いてなさそうだ。人に注意とか苦手そうだからな。だから誰か良い奴見繕ってくれ」


「ならアイリスでしょうね」


 アイリスほど堂々としている人間もなかなかいない。カレンも堂々としてはいるが、あいつは風紀を乱す側だから駄目だ。


「王女か。良いんじゃねぇか?」


「うん、良いと思う」


「賛成ー!」


「異議ありません」


「んじゃ満場一致ってことで。クレイ、明日で良いから連れてきてくれ」


「分かりました」


 そういうことになった。

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