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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第3話 力の証明

「……え? 重りを? 体に?」


 そんな、何言ってんだこいつ、と言いたげな目で見ないで欲しい。そこまでおかしなことを言っているつもりはないんだが。


「ハンマーを振るう力は充分。足りないのは体重だ。だったら増やせば良いだろ?」


 訓練場に置いてあるトレーニング用の重りを指さす。手足に着けると動きを阻害する可能性があるので、腰に巻く物が良いだろう。


「無理なく身に着けられる物の中で最も重い物が良い。選んでみてくれ」


 この重りは、魔法を使って身体強化した上で負荷をかける状況なども想定されているため、かなり幅広く用意されている。最高で150㎏だ。もはやそんな重りを誰が使うのかというレベルだな。

 ティールはどうだろう。20㎏くらい加重出来れば何とかなりそうにも思えるが……。


「あ、これはちょっと重いかも。じゃあこれくらいですかね?」


「……本当にその重りを着けても動きに支障はないんだな?」


「え? はい。これくらいなら問題ないです。これより少し重くても大丈夫そうですけど」


「いや、限界重量では長時間の行動に向かない。身に着けての活動にほぼ影響しない範囲で良い。で、その重さがそうなんだな?」


「は、はい、そうです。えっと、ダメでしたか?」


 ティールが現在身に着けている重りの重量は、100㎏だ。俺では持ち上げるだけで限界になってしまう重さ。それを身に着けて、全く動きに支障がない?


 こいつは、とんだ拾い物かもしれない


「いや、全く駄目じゃない。素晴らしいと言わざるを得ない。ティールの成績は明らかに誤りだ。君はもっと上を目指せる」


「え? え?」


「改めてお願いだ。どうか俺の班に入ってくれないか。きっと後悔はさせない」


 頭を下げる。こんな人材はなかなか見つからない。この学園で優秀な成績を収め、その後の選択肢を広げるためにも、ティールは絶対に逃したくない。


「……頭を上げてください。あの、上を目指せるって、本当ですか?」


「ああ、間違いない。その力は大きな武器だ。最上位を争うことが出来る素質がある」


「……あたしの故郷は貧しくて、あたしはお金を稼ぐためにここまで来ました。この学園はお金がなくても入学出来るからって、頑張って勉強して、何とか合格出来たんです」


 このディルガドール学園は生徒から全く金を取らない。全てを国が賄っていて、学費無料、全寮制で食事も無料、制服も教科書も支給、必要な物があれば申請して学園に購入してもらうことすら可能だ。

 その分、成績が悪ければ容赦なく退学にされる。退学者がいない年は今まで1度たりともなかったという話だ。


「でも、入試の成績は最下位で。入学初日の今日だけでもう理解出来ちゃいました。あたしはここではやっていけない。みんなスゴイ人ばっかりで、あたしみたいな田舎者はさっさと帰るべきなんだって」


 入試結果が届いたその時から、考えていたんだろう。退学者が多いこの学園で、最下位の成績で、果たしてやっていけるのか。


「あたしは故郷のみんなに楽させてあげたいんです。学園で良い成績を取って、良いお仕事でお金を稼いで、みんなを助けてあげたい」



 約束してくれますか? あたしを裏切らないって



 ……今日が初対面の人間に、随分と重い物を持たせてくれるものだ。これで俺が失敗したら、ティールだけでなくティールの故郷の人たちすら苦しめてしまう。


「証明しようか」


「え?」


「あの木人形、あれは武器や魔法を試すために置かれている物だ。だが、この学園は優秀な人材が多く集まる。あんな木人形程度では測れない能力の人間も多い。そのために」


 木人形の傍にあるスイッチを押す。すると、床が割れて木人形が吸い込まれていき、新しく別の人形が出てきた。


「鉄人形だ。その中でも最も強度が高い物。これを破壊できる人間は、この学園の生徒でもそう多くはない。何故なら、これは魔法強化までされている代物だからだ」


 一流魔法使いが強化した鉄人形。こんな物を破壊出来る人間は、その力のみで地面すら割り砕くレベルだ。


「もちろん学園最下位レベルの実力でどうにか出来る物じゃない。これを、しかも模擬戦用ハンマーで砕いてみろ」


「そ、そんなのあたしに出来るわけ……」



「出来る。それが証明だ」



 この自信のなさは、これからにおいて障害となる。この証明ついでに、自分の力がいかに優れているのか自覚してもらおう。


「わ、わかりました。やってみます」


 ハンマーを両手に持ち、鉄人形の前に立つティール。そのハンマーを思い切り振り上げ、振り下ろす。



 瞬間、建物全体が揺れた



 鉄人形を通り越して床まで砕いたその威力。紛れもなく、学園最高峰だ。


「わかったか? その力の価値が」


「あたしが、学園でも上位の力を……?」


 ひしゃげてしまった模擬戦用ハンマーを見下ろし、唖然とした様子で呟くティール。これで、証明完了だ。


「約束しよう。きっと俺たちは優秀な成績を収めることが出来る。その方法は、俺が考える。だから、信じてついてきてくれ」


「……はいっ!」


 良い返事だ。ずっと怯えたような表情だったが、初めて笑ったな。さて、これで一人目の班員獲得だ。この調子で仲間を集めていこう。


 その前に……


「じゃあ、ハンマーと床を砕いたこと、一緒に謝りに行こうか……」


「あ……」


 怒られる前に驚かれ、注意を受けるだけで済んだ。ティールにはもっと力の使い方を学んでもらわないとな……。

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