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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第2章 頂点を取りに
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第38話 判明する弱点

 という訳で放課後、カレンには自作のテストを渡して帰らせた。不正を嫌うカレンのことだ、監視していなくても教科書を見ながらテストを解いたりはしないだろう。

 で、他の5人で模擬戦を行う。アイリスの前衛能力を見極めたり、クルへの命令の出し方を覚えたり、今回は負けても良いから、今後に活かせる模擬戦にしないとな。


「試合、開始!」


 審判の先生の合図で試合が始まる。今回はフォンの魔法で場を整えるのもなしだ。という訳で前衛に指示を出す。


「クル、50前進、跳んで木に乗れ。アイリスは右から大回りで前進、ティールはしばらく待機」


 その指示が出し終わる頃には既にクルが跳ぶところまで行っている。速いな。スピードならカレンを超えていそうだ。


「クル、左前3の枝、前方5の枝、右前3の幹、一度地面に降りすぐに2番目に近い木の上へ」


 記憶しているフィールドの地形とクルの現在位置を照らし合わせて、極限まで細かく指示を出す。同時に俺は高所へ移動。やっと目視で指示を出せるな。どうやら問題なく指示通りに行動出来ているようだ。


「アイリスはそこで待機。ティール、ゆっくり前進。クル、そのまま前方の木へ跳び、敵頭上を通ったら地面へ降りろ」


 これでクルが敵に見つかる。クルの能力なら、今回の相手にはそのまま突撃しても問題ないかもしれないが、相手の実力が低いからと簡単な対応をしていては練習にならない。


「そのまま前方100前進だ。速度は半分」


 最初は罠を警戒していた相手が、何もせずに逃げていくクルを追う。速度を落としているから、余裕を持って追うことが出来る。すると万全の体勢を整えて攻撃しようと考え、クルを囲むように移動していく。もう少し引き付けて……



「クル!!」



 アイリスの雷魔法が敵を襲う。まだ早い。これではクルとの連携も出来ないし、ティールが想定位置に着いていない。クルへの攻撃に移っていない敵はまだ体勢を崩していないし、フォンだってまだ……


「クレイ、いけるよ」


「チッ、仕方ないか。フォン、クルの周囲を薙ぎ払え」


 上空から氷の針が降り注ぐ。クルを囲うように降ってくるそれは、雷魔法に対応していた相手の不意を突いて2人落とす。


「クル、ティール」


「はい!」


 魔法へ気を取られた隙をクルに突かせる。アイリスも勝手に突撃してきているし、ティールが撃ち込む木球もあり、ほどなく相手の班は全滅した。





「さて、今の模擬戦だが……」


 3組の教室に戻ってきて、反省会を行う。相手が格下だったこともあり、危なげなく勝つことは出来たが、反省点は明らかだ。クルへの命令を細かく出し過ぎたというのもある。これはもう少し回数をこなして慣れていくしかない。最適な指示の出し方はすぐに学ぶことが出来るだろう。だが、


「クルが相手に囲まれ、相手が一斉に攻撃を仕掛けようとした瞬間、その隙を突いて逆にこちらが一斉攻撃することで一網打尽にしようとした。それが今回の作戦だ。では何故その作戦通りに進まなかったか。クル」


「はい。えーと……その、アイリス様が……」


「アイリスが?」


「アイリス様が、作戦を無視してわたしを助けに来てしまったこと、が、原因だと、思います」


「その通りだ」


 あのタイミング、指示を出していなかったからクルはアイリスと連携出来ない。ティールも球を撃ち込むのに良い位置にまだ着いていなかった。フォンは細かい位置取りに左右されない魔法規模があるので、予定より早く魔法を使って相手の足を止めたが、本来は全員が同時に攻撃出来る予定だった。


「さて、申し開きを聞こう」


「だって……クルが危ないと思って……」


「確かに具体的な作戦は伝えていなかったが、クルは常に指示を受けて行動する。それはアイリスが一番良く理解しているはずだ。つまりああして敵に囲まれたのも俺の指示によるものだということは明らかだな。クルが速度を落としてわざわざ敵を引き付けていたのも見えていたはずだ」


「でも……クレイがクルを捨てるかもしれないじゃない! クルが攻撃を受けている隙に他の班員で敵を殲滅する作戦かもしれない! そんなのわたしは許容出来ないわ!」


「この短期間では充分な信頼関係を築くことが出来ているとは言い難いのは間違いないが、流石にもう少し信じてくれても良いんじゃないか? そんなに酷い作戦を使ったことはないはずだぞ」


「うう……」


 こればかりは気持ちの問題もあるから難しいのかもしれないが、指示に逆らわれるのは流石に困る。相手が予想外のことをしてきたならともかく、班員の行動で作戦が崩れることまで想定していては、いつまで経っても作戦が定まらない。



「待ってください! アイリス様は悪くないんです!」



 アイリスへの追及に、クルが口を挟む。従者として黙っていられなかったのかもしれないが、これを仕方がないで終わらせては今後に響く。


「悪くないと言われてもな。作戦無視は流石に擁護出来ない」


「そうではなく……あの、アイリス様は、わたしをとても大切にしてくださっているんです。わたしが危ないと思ったら反射的に体が動いてしまうって、そう仰っていました」


 それはつまり、俺への信頼がどうとか、作戦がどうとかは関係なく、クルが危ないと思ったら行動してしまうということか?

 そういえば、大会で俺たちと戦った時も、クルの危機を魔法で助けようとしていたな。そのせいで自分がカレンに距離を詰められるのも気にせず助けていた。あれは単なる判断ミスだと思っていたが、アイリスの特性のようなものだったのか。


「つまり、クルが危険に見える作戦を使うな、と。いや待て、大会の初戦ではアイリスもクルを囮のように使っていただろう」


「あれはすぐに逃げるように指示してたし、わたしが助けられる自信があったし……」


 ここは信頼の無さか。俺の作戦に対して絶対の信頼があれば、クルが危ないなどと思わない。だがそんな信頼など班を組んで数日である訳もなく、俺の指示で動くクルが本当に大丈夫なのか不安がある。だから、少し危ないように見えたら反射的に助けようとしてしまう。

 アイリス自身の意思で作戦を無視している訳ではないのは理解した。とはいえ、信頼関係を築くにはそれなりに長い期間が必要だ。しばらくはクルが危険に見える作戦は避けるべきだろう。


「模擬戦をしておいて良かったな」


「本当に、ご迷惑をおかけします……」


「えっと、ごめんなさい。これは、素直にわたしが悪いわ」


「悪いとは言わない。それぞれに何らかの欠点はあるものだ。完璧な人間などいないからな。だが、そういう弱点を持っているなら、あらかじめ伝えておいて欲しかったのは確かだ」


 結局アイリスの剣の能力はほとんど見られなかったし、しばらくは模擬戦を繰り返して俺の作戦を信頼してもらえるようにするしかないな。





 全員で寮に帰ってきた。建物内に入ると、高速で接近する赤い影。


「クレイ! やっと帰ってきたな! さあ、採点してくれ!」


 カレンがニコニコ笑顔で渡しておいたテストの紙を差し出してくる。自信があるらしいな。


「まあ待て。荷物を部屋に置くくらいはさせてくれ」


「では部屋までついて行こう。模擬戦で疲れているのではないか? ほら、荷物も持ってやろう」


 そんな流れで、カレンの点数が気になった他の班員たちも俺の部屋までついてきて、何故か全員がそのまま集合することに。

 カレンが早く早くとうっとおしいことこの上ないので、さっさと採点を始める。


「……という訳で、アイリス様はクルさんを大事にしてるんです」


「ふむふむ」


「ねえ、ティール。そんなに詳細に言わなくても良いんじゃない? 恥ずかしいわ」


「いや、恥ずかしがることではない。わたしも守るべき者のためと思うと体が勝手に動くからな。その気持ちはよく分かる」


「……いや、そんな博愛と一緒にされても」


「何故アイリスはクルをそんなに大切にする?」


「昔からの付き合いだからね。一応立場的には主と従者だけど、もう姉妹みたいなものよ」


「ありがとうございます」


 採点中に周りでされている雑談が耳に入ってくる。王女と姉妹のように育つメイドが、自分の意思で体を動かせなくなるような出来事。一体過去に何があったのやら。アイリスがクルを溺愛するのも、過去に何かあったのだろうな。


「さて、採点が終了した訳だが……」


「お、どうだった? 満点とはいかずとも、80点くらいはあったのではないか?」


 カレンは自信満々の様子だ。確かにその自信も分かる。今回のテストの科目は小テストと同じ魔法理論。普段から強力な魔法を扱うカレンからしてみれば、実際の感覚をそのまま回答すれば良い訳で、その答えには絶対の自信があるだろう。


「なあカレン。魔法の発動に大切な三要素は?」


「ん? 魔力、目視、気合いだ!」


 ※魔力、地点、イメージ



「魔法の威力を上げるには?」


「とにかく魔力を注ぎ込む!」


 ※具体的にイメージする



「魔法の詠唱とは何のための物?」


「魔法を大きくするための物!」


 ※イメージを補助するための物



 ……カレンの中では正しいのだろう。きっといつも魔力を注ぎ、目視で照準を合わせ、気合いで発動しているのだろう。


「はぁ……40点だ。明日も模擬戦は不参加だな」


「なにぃ!?」


「あなた……よくそれで魔法を発動出来ているわね……」


「どうして魔法が苦手なティールより点が取れないんだ。というか、この辺りは今までの勉強でもちゃんと教えただろう」


「分からん! テストの緊張で覚えたことが出てこなかったから、自分の感覚を信じたらこうなった!」


 何故それで自信満々に出来るのか。


 気合いなんてのは論外だし、目視していなくても発動地点をしっかり認識出来ていれば魔法は発動出来る。

 魔力を注げば確かに威力は上がるが、それで自分の制御能力を超えてはまともに扱えない。より具体的なイメージを行うことで、少ない魔力でも高威力の魔法を発動出来る。

 詠唱とは、イメージを言葉として口にすることで補助し、魔法の発動を助ける物だ。確かに詠唱することでより大きな魔法を発動出来るかもしれないが、それは主な役割ではない。


 その他、テストで間違えている部分を一通り教え直す。全て勉強でもやった範囲だ。まあ授業でやったことを復習しているのだから当然なんだが。


「分かったか?」


「うむ、分かった!」


 ちなみに魔法陣は、模様がイメージを、模様を描く場所が地点を自動で決定してくれるので、魔力だけあれば魔法が発動出来る。今回の小テストには出なかったが、本番のテストでは出る可能性もある。ついでにいくつか重要な内容を復習する。


「ふむぅ……」


「ほえー……」


「えーっと、あ、なるほど……」


「クレイ、そろそろ夕飯の時間よ。勉強はここまでで良いんじゃない?」


「もうそんな時間か」


「ごはん!」


「よし、夕飯だ! 皆で食堂へ行こう!」


 真っ先に駆け出すティールとカレン。1日に詰め込んでも覚えられないだろうし、今日はこれくらいで良いか。


「ありがとうございました。勉強になりました」


「ん。クレイは頭が良い」


「頭は良いかもしれないけれど、教え方は教師の方が上手いんじゃない?」


「いや、当たり前だろ。ディルガドールで教師をしているほどの人間に勝てるか」


 2人を追って食堂へ行き、そのまま班の全員で夕飯となった。

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