第37話 学科試験に向けて
最近は待っていたり待っていなかったりするティールだが、今日は部屋の前で待っていたので一緒に学園に向かう。
学園に着くと、分かっていたが多くの視線がこちらに向く。寮でも思ったが、以前とは向けられる視線の種類が異なっているな。
憧れと嫉妬
分かりやすく二つに分かれた。つまり、大会優勝の高い実力への憧れか、女に囲まれている俺への嫉妬か、その二つだ。
マイナスの感情は以前から向けられていたが、以前と異なるのは、これが現実に基づくということだ。つまりひっくり返す必要のない正当な評価だ。甘んじて受け入れる他ない。
「チッ、ついに班を女子ばかりで埋めちまいやがってよー。ムカつくぜ、この野郎」
教室に入るなり堂々と言ってきたのは、いつも通りのハイラスだ。こいつは良くも悪くも変わらんな。
「最初の頃に言っただろうに。お前は俺の班に入る気はないのか、と。断ったのはお前自身だぞ?」
まあ本当にハイラスが班に入っていたらアイリスたちは入ってくれなかった訳で、今とは状況も違ったかもしれないが。
「あの頃はこんな風になるとは思ってなかったんだから仕方ないだろ? ま、優勝おめでとさん」
「ああ」
「ティールちゃんもな」
「ありがとうございます!」
そんな雑談で時間をつぶしていると、先生が入ってくる。
「はーい、みんな班対抗戦お疲れ様ー。特にクレイ君、ティールさん、カレンさんは優勝おめでとう。でも、気を抜いちゃダメだよ。あと半月ちょっとで学科試験だからね。という訳で、今日は小テストをしまーす。すぐに採点して返すから、今の実力の参考にしてね」
昼。今日はフォンたち6組の3人とも昼食を共にする約束をしている。なので教室でしばらく待機だ。
「あれ、食堂行かねーの?」
「ああ、班員と約束しているからな」
「あっそッスか。んじゃ、俺は行くわー」
おや、自分も一緒に行きたいとか言い出すかと思ったが、素直に1人で昼食に向かったな。
そんなハイラスと入れ替わるように、6組の3人が来る。
「……今の、友達なの?」
「ん? ハイラスか? まあ友人と言って良いと思うが」
「そう……。あまり交友関係に口を出すのはどうかと思うけれど、友達は選んだ方が良いと思うわよ」
そういえばハイラスは、アイリスの班に入れてもらうために話しかけに行ったことがあるはずだな。カレンも言いよどんでいたが、あいつ、そんなに気持ち悪い言動をしたのだろうか。
「まああれで気の良い奴だ。そう心配するようなこともないだろう」
「……まあ、クレイが大丈夫だって言うなら良いわ。それよりカレンはどうしたのよ。一緒に食べないの?」
「ああ、何やら先生に呼ばれたと言って教室を出て行った。先に食べていて欲しいと言っていたし、食堂に行こう」
相変わらず山盛りのティールの食事にやや引きつつ、食べ始める。
「で、話って?」
「クルの弱点についてもあるし、班員が増えたのだから連携確認も兼ねて模擬戦をしようかと思ってな。その作戦についてだ」
「なるほどね。良いと思うわ」
基本はカレン、クルが前衛、ティールが後衛に抜けられないように牽制、アイリスが後衛、俺が遊撃となるだろう。フォンは場を整える役目だ。
「あの、良いですか?」
「ああ、遠慮しなくて良い。思ったことはどんどん発言してくれ」
「ではお言葉に甘えて。何故クレイさんはフォンさんを常に補助として使うのでしょうか。彼女の魔法で広範囲の相手を殲滅することは出来ないのですか?」
俺はほぼ常にフォンの魔法を初手に使っている。それで場を有利にして、カレンの火力で一気に押し切ることが多い。
だが、フォンの魔法は強力だ。それをフィールド全体ではなく、相手に集中して使用すれば相応の威力が期待出来る。上手くいけば殲滅も可能かもしれない。それは間違いない。
では何故そうしないのか。
「上手くいけば、という楽観で行動しないようにしているからだな」
「? すいません、もう少し詳しくお願いできますか?」
上手くいけば殲滅も可能かもしれない。逆に言えば、上手くいかなければ殲滅は出来ないということだ。仮にフォンの魔法で相手を1人落としたとして、フォンも動けなくなるのだからこちらが有利にはならない。むしろ人数が多い相手の方が有利になる。
だから確実に効果を発揮する補助として使う。例えば吹雪を発生させる魔法を使ったとして、それを相手が防ぐことはほぼ不可能だ。あまりにも規模が大きいフォンの魔法は、相殺するために人外レベルの魔法制御を要求するからな。場を塗り替えるような魔法はそう簡単に使えるものではない。
「でもこれからは別」
「そうだな。人数も揃った。これからはフォンと交換で相手を1人落とせば有利になる場面も出てくるだろう。何度か模擬戦を行って試す必要があるな」
相手の殲滅に使うのは変わらず難しい。が、1人に集中してフォンの魔法を使えば、その高魔力の全てを注ぎ込んだ恐ろしい魔法が確実に落としてくれるだろう。これからは相手の主力を削る目的での使用も視野に入る。
「わたしも一応剣を練習しているのよ?」
「それは前衛をやりたいということか?」
「やりたくはないけれど、一応前衛っぽい動きも出来なくはないって伝えておいた方が良いかなって」
実力の確認は必要か。班員が出来ることを正確に把握し、適切な指示を出すのが班長の役目だ。これも試しておくべきだろう。
「では一度カレンに後衛をやらせてみるか。あの魔法の実力なら出来ないことはあるまい」
どちらかというと、剣や身に炎を纏って戦う方が得意なカレンだが、その炎魔法の実力は高い。後衛をやらせて出来ないということはないはずだ。
「うむ、幅が広がるな。良いことだ。取れる戦法は多ければ多いほど良い」
「機嫌良さそうですね。クレイさんがそんなニコニコしてるの初めて見ましたよ」
「普通取れる戦法が多ければ多いほど悩みが増えると思うんだけれど。それが楽しそうになるあたりクレイも大概よね」
「常に勝つために最善を尽くすなら、戦法は多いほど良いです。これで嬉しそうなのは本気の証です」
「アイス美味しい」
カレンはまだだろうか。作戦の共有をして、今日の模擬戦に備えたいんだが。
「すまない、遅くなった」
ちょうどカレンのことを考えていたら、カレンが来た。良いタイミングだ。
「遅かったな。何の用だったんだ?」
「ああ、今日の小テストのことで少しな」
ん? ふむ……カレンが、小テストについて、先生に、呼ばれた、と。なるほど……?
「カレン、今日の小テスト、何点だった?」
「どうした急に。35点だったぞ」
今日の小テストは100点満点だ。平均は70点だと先生が言っていた。俺は100点だ。ティールは65点だったらしい。
「……なあ、カレン。今まで毎週皆で集まって勉強をしたよな。お前は確かに勉強が苦手だが、俺がとても、とっても、とーてーも大変な思いをして勉強を見てやったから、最近は多少良くなってきていた。そのはずだ。なあ、そのはずだろう? 何だその点は」
「……いやー、ははは」
「笑って誤魔化すな、馬鹿が! 何だその点は!? なあ、どうしてそうなった!?」
「すまない! ごめんなさい!! テストを前にするとどうしても慌ててしまって、覚えたはずの内容が出てこなくなってしまうんだ!」
「そういうことは先に言え、この馬鹿!」
「ごめんなさいいいぃぃぃぃ!!」
勉強だけでなく、テストへの気持ちまでフォローが必要だったのか。戦闘ではあんなに頼りになるのに、何故テストに対してはそんな気弱なんだ。
「はぁ……。とりあえず今日の模擬戦はカレン抜きでやる。クルとアイリスの前衛を試そう」
「えっ!? わたしは模擬戦出来ないのか!?」
「お前には俺がテスト作ってやるから、それを解け。そうだな、そのテストの点数によって模擬戦への参加権をどうするか考えよう。だから本番さながらの緊張感を持って臨めよ?」
カレンをテストに慣れさせなければ。学科試験までそう時間がない。どこまで改善出来るか、やれるだけやるしかないな。
「えっと、それはどれだけ解けたら模擬戦に参加出来るんだ?」
「さあな。お前の出来次第だ。俺の気分次第とも言う。だから出来る限りを尽くせよ」
「そんなっ!?」
今まで勉強を見てきた感じ、カレンの物覚えはそこまで悪くない。いや、あまり良くもないんだが、少なくともこんな点数を取るほど悪くはないはずだ。慌てるのさえ治せれば何とかなるはず。
「頑張れよ」
「くぬぅ……はい、頑張ります……」




