第33話 決勝戦
『おはようございます。いよいよ最終日、決勝戦がやってまいりました。実況は変わらず私、2年新聞部部長ニーリス・カレッジが務めさせていただきます。そして解説も変わらずこの方!』
『はーい! 生徒会副会長、3年のフルーム・アクリレインでーす! みんなー! 盛り上がってるー?』
『盛り上がっていますね。1年生たちも段々ノリについてこられるようになってきたようで、あーあ、染まってしまったな……といった気分です』
『盛り上がるのは良いことだよ。みんな、楽しんでいこうねっ!』
『これからの人生にも関わってくるんですから、あまり娯楽にするのもどうかと思いますが。決勝を戦う2班がフィールドに出てきましたね。この試合、どこがポイントになるでしょうか』
『まず王子の突撃だけど、これはね、止まります。カレンさんはそれくらいはやってのける。ただ、一対一ではまずカレンさんに勝ち目はない』
『つまり王子には複数人で当たらなければならない、ということですか』
『そうだね。ただその場合クレイ班は、カレンさんと最低もう一人いない状態で他の5人と戦うことになる訳で。そこからどうなるのかはあたしには分からないなー』
『やはり人数が少ないのが響きそうですクレイ班! 恐らく純粋に強いのはレオン班でしょう。ですがクレイ班は何をするのか分からない恐ろしさがあります。強さのレオン班か、作戦のクレイ班か。試合開始までお待ちください』
レオン・ヴォルスグランについて分かっていることはそう多くない。
雷魔法を使うこと、両手剣を使うこと、その腕はカレン以上であること、そしてとにかく速いこと。
その速度はとても両手剣を使っているとは思えない。カレンの剣速も馬鹿げていると思っていたが、王子はそれを超えてくる。
ここまでの試合全てをほぼ一人で勝ち上がってきたことから分かるように、その実力に明確な隙は見られない。
そう思っていた。
だが、昨日の試合。
王子が放った自爆じみた魔法。それによって前衛を吹き飛ばしたとき、彼は真っ先に後衛を狙いに行った。
あの場面、敵後衛は自分の班員と膠着状態になっていたのだから、先に前衛を片付けてから後衛に行った方が安全だ。そんなことは王子も分かっていたはず。
では何故後衛を先に片付けたのか。
思えば、たった一人で突撃するその戦い方も妙だ。確かに彼の戦闘能力ならそれでも勝てる。むしろそれが一番安全確実であるようにすら見える。
その圧倒的強さのせいでそう錯覚するが、冷静に考えればそんな訳はない。班員と連携して戦った方が安全に決まっている。上手く連携出来ていない班員たちだって、王子が直々に指示を出せば従うだろう。
つまり、王子の弱点。それは、
班員に少しでも危険が迫ると、助けずにはいられないこと。
「準備は良いか?」
「はい、大丈夫です」
「こちらも、準備完了しています」
審判であるフィガル先生の問いかけに答えると、あちらも既に準備が出来ているようで、離れた位置で向かい合う。
あちらのポジションは変化なし。班員たちが集まっている一歩前に王子が立っている。恐らく、昨日までと同様に突撃してくるだろう。
舐めているな。本人にそのつもりはないだろうが、無意識に自分ならやれると思っている。これまでと同じ流れで勝てると。
「カレン」
「ああ」
「ティール」
「はい」
「フォン」
「ん」
その慢心、後悔させてやる。
「試合、開始!」
「閃脚!」
予想通り、雷を纏った王子が突っ込んでくる。その速度は正面から見ているのに捉えきれないほど。並の人間なら、いつの間に接近されたのか、自分が何をされたのか、それすら分からない間に倒れているだろう。
並の人間なら、だ。
「破邪・雷鳴!!」
「炎剣・一文字!!」
振り下ろされる雷を纏った一太刀に対し、正面から横薙ぎにぶつけられる炎剣。爆発したのかと錯覚する轟音を発しているその激突は、雷を、そして炎を周囲に飛び散らせ、拮抗する。
「ティール、突っ込め!」
「はいっ!」
カレンが王子を止めたその瞬間、ティールが走り出す。王子へ向かって、ではない。完全に王子に置いてかれている敵班員たちへだ。
「フォン!」
そして床からせり上がる巨大な氷壁。それはこちら側と敵後衛を分断し、ティールと敵班員5人が壁の向こうに見えなくなる。
「くっ!」
カレンと打ち合う王子に焦りが生まれる。それでも押されているのはカレンだ。打ち合えているとはいっても、攻撃を捨て全力で防御しているから辛うじて受け止められているというだけ。一つでもミスをすればその瞬間に負けるし、そうでなくともこのままでは一生攻撃することは出来ない。
だが、逆に言えば王子側にはまだ余裕がある。カレンは一瞬も気を抜くことが出来ないから後退することすら出来ないが、王子は仲間を気にすることが出来るだけの余地が残っている。
だから、仲間が心配になった王子が取る行動は、
「はぁっ!!」
「ぐっ!?」
力を込めた一撃により、カレンの剣が弾かれる。そして、
「閃脚!」
雷を纏った高速移動により、一瞬で氷壁に接近、
「破邪……っ!?」
輝く一閃で以て氷壁を破壊しようとした、その瞬間、
氷壁が轟音と衝撃をまき散らして爆発した。
王子にはある程度の余裕がある。だから、俺を常に視界に捉えている。アイリスやカレンは馬鹿だ愚かだと言うが、王子は決して頭が悪い訳ではない。昨日までの試合で、俺から目を逸らすと何をされるか分からないということを理解している。
だから俺は魔法陣を仕掛けることが出来ないし、カレンと戦っている隙に背後に回り込んで落とすことも出来ない。
それが逆に油断に繋がる。
俺は魔法陣を仕掛けていない。だから今なら不意打ちを受ける心配はない。そう思い込み、迂闊な行動を取る。
最初から氷壁に刻まれていた魔法陣を見逃す。
魔法陣が爆発する。氷壁が崩れるほどの威力ではないが、完全に王子の不意を突いた。自ら魔法陣に向かって突撃していた王子は、ほとんど触れるくらいの至近距離でその爆発を受けることになる。
だというのに、
「雷鳴っ!!」
氷壁を破壊するために振り上げていた剣を、超反応で爆発に叩き付ける。それによって、王子は軽く吹き飛ばされるに止まり、大したダメージを与えられない。
本当に馬鹿げた能力だ。完全に不意を突いたというのに、魔法陣の発動の寸前にそれに気がつき、一瞬で最適解を手繰り寄せる。
「烈火・爆炎脚!」
だが、無理に爆発に対応した王子には隙が出来ている。そこを見逃すカレンではない。足に集めた魔力を爆発させた高速移動。一瞬で王子に接近、そのまま斬りかかる。
「開花・千輪花火!!」
剣が炎を噴き加速する。王子は崩れた体勢でそれを受けるが、その加速は一振りで終わらない。幾度も爆発し、その度に加速していく。
「雷帝の剣」
不意に、王子が両手剣から片手を離す。次の瞬間には、その空いた手に雷の剣が握られていた。
その雷の剣でカレンの剣を弾きながら、もう片方の手も剣から離す。手放された両手剣が床に落ち、しかし落ちる前には既にもう一方の手にも雷の剣が生み出されていた。
「豪炎の型」
その両手の剣から繰り出されるのは、燃え盛る炎のように苛烈な攻め。相手の剣を防ぐのではなく、弾き飛ばして無理矢理隙を作り攻撃を加えようとする攻勢の型。振り下ろされる剣に対して、片手で勢いを殺し、もう片手も合わせた双剣で弾き飛ばしに行く烈火の剣だ。崩れた体勢で受けに回っていたはずの王子が、少しずつ攻撃へと転じ始める。
あの型は……いや、今考えることではない。王子の手数が増えたことで、カレンの加速が追いつかなくなってきている。しかし、王子も攻めに全力を込めている。決めるならここだ。
気配を消し、背後に忍び寄る。
高速で打ち合うその背から、首に向かってナイフを振るう。
瞬間、宙を舞う。
吹き飛び、氷壁に叩き付けられる。体が痺れて力が入らない。雷を受けた、のか? 何故気配を消していた俺に気付くことが出来たのか。全く見えなかった。どのようにして弾かれたのか、それすら不明。
だが、俺の攻撃は無駄にはならない。俺に攻撃を加えたということは、それだけカレンへの対応が遅れるということだ。たった一手の遅れ、強者同士の戦いでは、それが命取りになる。
「ハァッ!!」
「ぐっ!?」
ついに、カレンの剣が王子の体を捉える。振り下ろされた炎剣は、確実に王子の体を斬り裂き、鮮血が舞う。最悪死んでもおかしくない一撃。流石の王子でも、これは落ちたはず。
「流石レオン王子! あのフルズ王子の弟君ですね!」
「素晴らしいですわ、レオン様。フルズ様もきっとあなたのような弟がいて誇りに思うことでしょう」
「その調子です、レオン様。このまま努力を続ければ、きっとフルズ様にも追いつくことが出来ますよ」
昔から言われ続けた。優秀な兄がいて幸せだと。兄を目指して頑張れと。きっと兄も誇りに思っているだろうと。
兄上は本当に優秀で。そんな方と比べられる自分の能力は素晴らしい物なのだろう。未だに追いつくことが叶わないその背は、確かに僕の憧れだ。
だが、同時にこうも思う。僕は何者なのだろうか。
兄上は優秀で。その背を追って努力を重ねるのは正しいのだろう。これまで教師に怒られたことなど一度もなく、自分のしていることは正しいのだと言われ続けた。
素晴らしい功績を残す兄上の背を追って、追って、追って。ただその後に続くだけ。
その先でたどり着く場所に、果たして自分はいるのだろうか。
一度、そんな悩みを相談したことがある。僕が知る中で最強の人物に。その人ならきっと、揺るぎない答えを持っていると思ったから。
「あなたが何者で、その努力の果てにどうなるのかなど、わたしには分かりません」
「あなたでも……分からないのですか……」
「一つ、確実であるのは。あなたが兄君を超えることが出来るのなら、そのような悩みはなくなるでしょう、ということです」
「兄上を、超える……」
「では、鍛練の続きに戻りましょう。そろそろ型を教えても良い頃かもしれません」
「はいっ!」
追いつくのではない。超えるのだ。ただ追うだけだから自分を見失う。ついて行くだけでは、たどり着く場所は同じ。僕は兄上と同じになる。
超える。飛び越す。先に行く。ここにいてなお聞こえてくる兄の功績に負けないように、強く。
強く!
強く!!
「雷帝の鎧」
「なっ!?」
全身に雷を纏う。傷を無理矢理押さえて塞ぎ、出血を止める。負けられない。こんなところで倒れてなどいられない!
「疾風の型」
速度を重視した、吹き抜ける風のような怒涛の攻め。敵の攻撃は避けるか受け流し、一瞬でも早く、一撃でも多くの攻撃を叩き込む連撃の型。教わったこの両の剣で、勝利をもぎ取る!
「う、おおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
「はあああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
相手の剣も更に加速する。炎が軌跡を描くその剣は、一つ振るう毎に爆発の後押しを受けて加速し、とても両手剣とは思えない高速の連撃を形作る。だが、
「くっ、そ……速っ過ぎる……っ!」
雷帝の鎧は、僕の剣に自動で雷が追撃を加える上に、僕自身の身体能力も向上する。更に今僕が使っている型は速度重視の疾風の型。クレイ君に作られた遅れも、斬り裂かれたことによる遅れも関係ない。相手の剣を飲み込む怒涛の連撃。
「終わりだ」
カレンさんの剣を置き去りにして、僕の剣が届く。瞬間、雷帝の剣から走る雷が体の自由を奪う。これで一人。
仲間たちが心配だ。まだ意識があるクレイ君を落とし、早く皆のところへ駆けつけなければ。
氷壁に背を預けこちらを見ているクレイ君へ駆け寄り、剣を振り下ろす。




