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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第31話 準決勝第一試合

『さあ大会も4日目、いよいよ準決勝です。勝ち残っているのは、クレイ・ティクライズ班、スイリー・マグバール班、アーサ・ナインフェール班、そしてレオン・ヴォルスグラン班です。それぞれの班の特徴をフルーム副会長に解説していただきましょう』


『クレイ班は班長クレイ・ティクライズの異常な先読み能力で優れた能力を持つ班員が動くことで、やりたいことを押し付ける班だね。ヤバい力を持ったティールさん、ヤバい魔法規模を持ったフォンさん、ヤバい戦闘能力を持ったカレンさんが大暴れ、相手は死ぬ』


『もっと語彙あるでしょ。はい、クレイ班と戦った相手はほとんど何も出来ずに負けている印象です。これが強さなのでしょう。では次の班について、お願いします』


『スイリー・マグバール班は全員が魔法使いの班。地2人、風、水、炎の基本4属性の5人に加えて、幻覚魔法の使い手がいるね。この幻覚魔法はその名の通り、幻覚を見せる魔法。これへの対処はなかなか難しいよー。あとは班長スイリーが使う地魔法は一味違うね。特に驚かされたのは、魔法で生み出した剣で接近戦を始めた時かな。あれは面白いよね。接近されて終わったかと思ったら、いつの間にか持ってた剣で戦い始めてて』


『はい、その剣の腕もなかなかの物でした。流石に普段からメインで剣を使っている人ほどではないものの、しっかりと時間を稼いで勝利に繋げていましたね。では次の班についてはどうでしょうか』


『アーサ・ナインフェール班はバランス型だね。剣2人、盾とメイスが1人、防御系魔法が豊富な地魔法使いが1人、攻撃力が高い炎魔法使いが1人、補助型の強化回復魔法使いが1人の構成。班長アーサの剣の腕はかなりの物で、その上強化魔法による補助が入るから、彼女1人でも止めるのは難しい。連携も上手いし、明確な隙はないんじゃないかな』


『ここまでの試合、アーサ班の前衛を抜けて後衛に攻撃出来た班は一つもありません。安定感は抜群です。では最後の班についてお願いします』


『レオン・ヴォルスグランが最強。以上』


『ちゃんと解説してください、と言いたいですが、まさにその通りとしか言い様がありません。ここまでの試合、班長レオンが相手に突撃、殲滅、勝利。それ以外のパターンが一度もありません』


『まあ合理的だよね、あれだけの戦力なら。それが一番勝率が高そうだし。でもなー、一人で暴れてはい優勝、じゃ面白くないでしょう? みんなー! そう思うよねー?』


『呼びかけないでください。1年生たちがどう反応すれば良いのか困っていますよ。上級生共はノリノリで叫ばない!』


『問題です。そんなレオン王子を止めるにはどうすれば良いでしょうか。はい、ニーリスさん!』


『えっ。えー、そうですね。接近される前に魔法で……』


『はいブッブー! 大ハズレー!』


『……で、正解は?』


『さぁ? 剣とかで受け止めれば良いんじゃない?』


『…………はい、ありがとうございました。本日の第一試合は、クレイ・ティクライズ班とスイリー・マグバール班になります。両班は準備をお願いします』







 正直なところ、当たりたくない相手だ。全員が魔法使い、つまり大量の魔法が飛んでくる。そんな物に対処出来るのはカレンしかいない。カレン1人で全てを片付けてもらわなければならなくなる。

 しかも幻覚使いがいる。これに対処可能なのもカレンだけだが、そのためには精神統一の時間を稼がなければならない。心眼さえ使えれば、カレンに幻覚は効かないだろうが、カレンなしで時間を稼ぐのはなかなか難しい。


「はぁ、結局カレンに頼りきりだな」


「それが何か問題なのか?」


「カレンが崩れた瞬間負けになるだろ。安定に欠ける」


「つまりわたしがお前の期待に応えられれば問題ないということだな」


 分からんぞ。俺が間違えるかもしれない。そう言いかけて、飲み込む。試合前に司令塔への不信を抱かせるようなことを言ってどうする。



「任せろ! お前の言う通りに動くだけで勝てるのだ。それくらいはやって見せる。信じるぞ、班長」



 信じるぞ、か。思えばカレンは、いや、ティールもフォンも、いつも俺の指示を信じて動いてくれる。本当にそれで勝てるのか、なんて一度も聞かれたことはない。

 家にいた頃、俺のことを信じてくれる人間など一人もいなかった。弱者だ、無能だ、親に褒められたことなど一度もない。


「はい! 頑張りますよー!」


「ん」


 班員に恵まれたな。家にいた頃に感じた不幸の分が押し寄せているのかと思うくらい、学園に来てからは運が上向いているらしい。


「ああ」


 フィールドへと踏み出す。





「準備は良いな? では、準決勝第一試合、クレイ・ティクライズ班対スイリー・マグバール班、試合開始!」


「フォン」


「ん」


 開幕、相手から大量の魔法が飛んでくる。あまりにも多い。恐らく幻覚が混ざっているな。それがこちらに到達する前に、目の前に巨大な氷の壁が造られた。

 本当はフォンの魔法は相手を一網打尽にするために使いたかったが、カレンの精神統一の時間を稼ぐ方法がこれしか思いつかなかった。

 氷の壁に魔法が連続して叩き付けられる。ガリガリと削れていく音が聞こえるが、砕けることはなさそうだ。


「ティール、カレン」


「はい!」


「行けるぞ」


 ティールの右手の上に立つカレン。身長差もあり、あまりにも異様な光景だが、ティールの力ならカレンくらい余裕で持ち上げられる。


「フォン、ティールの声に合わせて壁を消してくれ」


「ん」


 魔力切れで座り込むフォンだが、魔法を消すのに魔力は必要ない。カレンの精神統一も終わった。さあ、始めるぞ。



「行きます! せーのっ!」



 カレンが乗った右手を振りかぶるティール。優れたバランス感覚により、手の上でしっかりと立ち、足に力を込めるカレン。

 そして氷の壁が消えた瞬間、ティールの右手が振り抜かれる。それに完璧に合わせてカレンが跳ぶ。


「なっ、撃ち落とせ!」


 相手の魔法がカレンに向かう。剣で斬り裂き、体から炎を噴き出して弾き、幻覚は無視してカレンが突貫する。

 そのまま相手が集まっているところへ突っ込んだカレンが、剣に炎を纏って薙ぎ払おうとする、その瞬間、


「吹っ飛べ!」


 カレンの下から風が吹き出す。それはカレンを上へと弾き上げた。


「ティール、打ち込め」


「はい!」


 ティールのハンマーが木の球体を弾く。


「石壁!」


 それは石で出来た壁に当たり粉砕したが、ダメージにならない。


「爆!」


「はぁっ!」


 カレンに向かって放たれる炎を同じく炎で相殺するカレン。着地して斬りかかるが、相手の守りを抜けない。ここに来てついに人数差が誤魔化しきれなくなった。

 ティールが打つ球は石壁に弾かれ、カレンは風使い、水使い、炎使いの3人を突破出来ない。本来あそこまで接近出来れば魔法使いなどカレンの敵ではないんだが、流石に3人も相手となると魔法発動の隙を突くことが出来ない。交互に魔法を使われ、それを弾くために攻撃が出来ない状態だ。


 このままでは班長スイリーが自由になってしまう。


 だから俺がやる。


 カレンが突貫することでそこに注目を集め、気配を消して移動する俺に注意が向かないようにした。

 誰にも気づかれず接近し、スイリーの背後からその首にナイフを当て、いつも通りに落とす。



 ナイフがスイリーをすり抜けた。



「残念だったな。そいつは幻覚だ。来ると思ってたぜ」


 幻覚に攻撃した俺の背後から放たれる、俺の身長ほどもある岩石。俺が来ることを予想して準備していたらしい。こんな物を受けたらひとたまりもない。



「ああ、知ってるよ」



 俺に向かって石の鎖が伸びてくる。それは腹に巻き付き、俺の体を引っ張った。あらかじめ置いていた魔法陣だ。それを幻覚に攻撃すると同時に起動させていた。

 俺が見ているスイリーが幻覚であることは分かっていた。だが、俺では幻覚で隠れた相手を見つけられない。だから引っかかったふりをした。


 鎖によって岩石を避けながら、その発射位置にナイフを投げる。だが、石壁で弾かれた。巨大な岩を打った直後に更に魔法が使えるのか。良い腕だな。



 問題ない。本命は別だ。



 もう一本のナイフを、カレンとやり合っている水使いに投げる。カレンには幻覚が効かない。必然、カレンとやり合っている奴は幻覚ではない。

 ちょうど魔法を撃とうというタイミングでナイフが腕に刺さり、動きが止まる。それを見逃すカレンではない。止まった一瞬で水使いをしっかり落としてくれた。

 これでカレンが優勢になる。だが、流石に一瞬で残り2人落とせるほどにはならない。もう少し時間を稼ぐ必要があるな。


「やってくれたな!」


 班長スイリーが周囲に石つぶてを浮かべている。その数10はくだらない。


「追加だ」


 浮かぶ石が回っている。それが瞬きする間に倍に増えた。幻覚だ。だが、俺にはどれが幻覚なのか分からない。


「もう魔法陣もないみたいだし、落ちろ!」


 放たれる石つぶて。それは俺に向かって真っすぐに突き進み、



 しかし当たる直前で俺の姿が消える



「なにっ!?」


 さて、ここからだ。ここでスイリーを落とせなければ勝ち目が薄くなる。


「スイリー上だ!」


 少し離れていた幻覚使いには、俺が風を使った大ジャンプで跳び上がり回避したところがしっかり見えていた。その声を受けて、スイリーの目が俺を捉える。


「終わりだ!」


 放たれるのは頭ほどもある石。空中では避ける術がない。



 と、思っているだろう。



「な、にぃ!?」



 空中でもう一度跳ぶ。そして紙を取り出す。そこに描かれた魔法陣はスイリーが使ったのと同じ。岩石を飛ばす魔法だ。

 広げた紙から飛び出した岩石がスイリーを襲う。だが、ここで魔法陣の弱点が足を引っ張る。


「遅い!」


 発動が遅い。完全に不意を突いてなお、壁による防御が間に合ってしまう。


「今度こそ、俺の勝ちだ!」


 そして壁が消えて障害物がなくなり、上空の俺に向かって止めの魔法を放つ、その直前、



 スイリーの足元から炎が飛び出し、直撃。完全な意識外からの攻撃は、一切の防御行動を許さないままにその意識を奪った。



 着地したらカレンと戦っている炎使いを背後から落とし、1人になった風使いをカレンが倒す。残りはティールの攻撃を防ぎ続けていた地魔法使いと幻覚使いの2人だ。

 幻覚使いは個人では攻撃能力がないし、幻覚が効かないカレンを地魔法使い1人でどうにか出来る訳もなく、


「そこまで! クレイ班の勝利だ!」


 決勝進出だ。

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