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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第30話 3日目

 スーラン・ハミー班は、ここまでの試合を見る限りではやや前衛よりのバランス型といったところか。前衛4人、後衛2人。剣3人、槍1人、炎メインの魔法1人、水メインの魔法1人。

 問題になるのは、相手班長スーラン・ハミーだ。片手用の両刃の剣を使う彼は、カレン並とは言わないが、相当の実力者。カレンと一対一でぶつけた場合、勝つのは確実にカレンだが、しばらく打ち合いになるだろうほどの実力がある。

 もしスーランにカレンを向かわせると、残りの5人を俺とティールとフォンでやらなければならない。しかし、スーランを自由にさせれば、カレン以外が瞬く間に落とされる可能性がある。


「準備は良いか?」


「大丈夫です」


 フィガル先生に返事をする。相手も準備が出来ているようだ。

 さて、先手必勝で行こう。相手はどう反応してくるだろうか。スーランが慌てて突撃してきてくれれば楽で良いんだが。


「では、試合開始!」


「ティール」


「はい!」


 取り出すのはこの大会中何度も使っている木の球体。この球体、実はただの球ではない。装備品店フィーリィに頼んで作ってもらった、魔法強化された特注品だ。



「全力で打ち込め」



 ティールが球体を軽く上に投げ、ハンマーを振り抜く。



 鳴り響く轟音



 広いフィールドを目で追うことすら難しい速度で飛んでいく球体は、しかし、重なるように作られた炎と水の壁によって阻まれる。

 魔法使いも優秀だな。今の一発で壁が壊れかけているが、それでもティールの攻撃を防いで見せた。


「後は全力じゃなくて良いから、連続して打ち込め」


 ティールはそこまで器用ではない。全力で球を打った場合、狙い通りに飛ばないこともある。もう充分にその威力は見せつけた。これからは、全力でなくとも何度も打ち込ませれば、相手は魔法の壁の後ろから出てこられない。

 これでスーランが慌てて一人飛び出して来てくれるのが最高のパターンだったが、流石にそこまで楽させてはくれないな。


 だが、問題ない


「フォン」


 カレンに横抱きにされて、既にフォンが壁の横まで回り込んでいる。

 足から炎を噴き出し高速で駆け抜けたカレンに抱えられ、壁が見えた瞬間には動き出していたフォンが魔法を発動する。



「氷柱落とし」



 フォンの手から放たれるのは、巨大な氷の槍。壁で前が見えていなかった相手は不意を突かれている。もはや回避は間に合わない。魔法使いもティールの攻撃を弾くのに力を使っているため、魔法でも防げない。つまり、



「お、お、おおおおおぉぉぉぉ!!」 



 武器で弾くしかない。

 咄嗟にその手の剣を氷の槍に叩き付けるスーラン。流石の反応、力だ。フォンの全魔力を注ぎ込まれた氷の槍を止めて見せた。


 だが、その魔法は、貫くことを目的としていない。


「隙あり、だ」


「っ!!?」


 氷の下、床を這うように接近していたカレンが、魔法を弾くのに手いっぱいのスーランの目の前まで来ている。


「させるかよっ!」


「ほう」


 だが、相手とてここまで勝ち上がってきたのだ。その班員がただ見ているだけである訳もなく、カレンの剣を弾こうと前に出る。

 カレンを相手の槍使いが止めている間に、他の2人の剣使いがスーランの助けに入る。


「だらあああぁぁぁぁぁ!!」


 3人の力を結集し、フォンの魔法をギリギリ受け流すことに成功する。相手頭上を通りあらぬ方向へ飛んでいく巨大な槍。あれを本当に誰一人落とすことなくやり過ごすとは。



 まず1人



 背後から忍び寄り、スーランの首にナイフを当てて落とす。1人でカレンとやり合える実力はない槍使いがカレンに負け、これで2人。


「てめぇ!!」


 すぐ隣で班長が倒れれば流石に気づく。剣使い2人が俺に斬りかかり、



「わたしに背を向けるとは、良い度胸だ」



 カレンが2人まとめて吹き飛ばす。4人。

 それと同時、残りの2人から放たれる魔法。俺がスーランの背後に着いた時点で魔法使い2人からは見えるからな。壁の維持よりも、近づいてきた敵を落とす方が必要だと判断したんだろう。

 それは間違ってはいない。スーランに警告しても氷の槍を受け流すことに全力を使った後では助からないと判断し、魔法の準備を優先、最速で発動してきた。決断が早く、魔法の腕も良い優秀な班員だな。



 だが、悪手だ。この状況、やるべきなのは全力の逃走だった。



 壁の維持がなくなった瞬間、突き破って球体が飛来する。それは1人の胴に突き刺さり、これで5人。

 俺に迫ってくる魔法は、あらかじめ床に置いていた魔法陣から生えてきた氷の壁が防ぐ。この状況は予想出来ていた。スーランを落としながら、足元の魔法陣に魔力を飛ばして起動していた。当たったとしても俺が倒れる可能性があるだけでまず負けはしないが、わざわざ痛い思いはしたくないからな。


「終わりだ」


 カレンの剣が魔法使いの首に当てられ、6人。クリアだ。


「そこまで! 勝者クレイ班だ!」






『決まりました! クレイ班準決勝進出です! 鮮やかに勝ちを決めましたね。フルーム副会長、勝因は何だったのでしょうか』


『えー、頭』


『真面目にお願いしますね』


『いや、真面目に頭の出来が勝因な気もするけどー。まあそもそも最初のティールさんの球体を魔法で防いじゃった時点で終わってたんじゃないかな』


『ふむふむ、確かにそこから動きを封じられてあっという間に詰められてしまった印象ですね』


『あとはね、やっぱり安定思考過ぎるんだよね。例えば壁の後ろに釘付けにされたって思ってるかもしれないけど、あそこからだっていくらでも巻き返しのチャンスはあったんだよ。壁から出たらティールさんに撃ち抜かれると思ったなら2方向から同時に出れば少なくとも片方は狙われないし、狙われたとしても球を叩き落とすのを狙ったって良い訳だし』


『待機したのが良くなかったということですか』


『ま、そうさせるために最初の一撃は重くしたんだろうけどね。あんな重い攻撃は受けられない。壁の後ろから出ることは出来ない。そういう思考に誘導するのが作戦だったってこと。で、そうやって動くのを躊躇したわずかな時間でカレンさんたちが詰めてきている、と』


『だから頭が勝因だと、そういうことですか』


『そ。そして、だから安定思考過ぎるって言ってるの。何のリスクも負わないで勝とうなんて甘すぎ。少しくらい危険な賭けをしてでも勝ってやろうっていう、そういうのが欲しいのよね』


『ははぁ、なるほど。何だか不機嫌なことが多いのはそういうことだったんですね。勝つ気が感じられなくてイライラすると』


『え、全然違うけど』


『ええ……』


『安定したキレイな戦い方を見てるとアイツを思い出してムカつくのよ……!』


『それもしかして会長のことですか? ただの私怨じゃないですか。後輩に八つ当たりしないでください。1年生の皆さん、こんな先輩になってはダメですよー』


『違いますぅ。ダイム君は安定した戦い方の上にあの個人技を積み重ねてくるからウザいんですぅ。1年生たちは遠く及ばないわね』


『いや、会長の話はいいですから。本日の試合は全て終了しました。明日はいよいよ準決勝! 勝ち残っているのは相応の実力がある班ばかりですよ。明日の試合もお楽しみに。勝ち残っている4班の皆さんは遅刻しないように気をつけてくださいね。遅刻は問答無用で不戦敗ですよ』


『楽しみな班が勝ち残ってくれて、いよいよ盛り上がってくるわね。教科書通りの戦い方なんかしたらぶっ飛ばすわよー!』


『……大丈夫なんですかね。ここ、その教科書通りの戦い方を教えている学園だと思うんですけど』






「確かに。大丈夫なんでしょうか?」


「副会長が言っているのは、教科書通りなだけの戦い方をするな、が正しいだろう。要するに誰でも知っている作戦だけで勝てるほど甘くはない、基礎の上に自分の考えを積み上げろと言っているだけだ。何も問題はないと思うぞ」


「え、そうなのか? 生徒会の副会長なのにずいぶん学園を否定するなぁと思っていた。違ったのか」


「……こいつみたいなのが多くいたら、大丈夫じゃないかもしれんな」


 試合を終えてドームの出口に向かう。観客席は人が多くてドームから出るだけでも苦労するからな。最終戦だとフィールドから外へ直接出られる通路が使えるのがありがたい。

 その通路の途中、立ちふさがるように待っている人影が2つ見える。


「褒めてあげるわ。その調子で優勝するのよ」


「お疲れ様です。見事な勝利でしたね」


 待っていたのはアイリス、クルの主従だ。そろそろ本題を話す気になっただろうか。


「言われずとも優勝するのはわたしたちだ。せいぜいわたしたちの班に入らなかったことを後悔すると良い」


「カレン……お前はどうしてそう残念なんだ……」


「えっ!? な、何か間違ったことを言ったか!?」


 キリッとしていれば格好良いのに、言うことがいちいち小物っぽいんだよなぁ。

 オロオロするカレン、俺の背に隠れてチラッと顔を覗かせるティール、無反応なフォン、そして俺の顔を見渡しながら、アイリスの口からついに本題が、



「それじゃ、わたしは帰るわ。明日も応援してあげるから、ちゃんと勝つのよ」



 出てこなかった。


「はぁ……すいませんね。しばらくお付き合いください」


「クル、行くわよ」


 本当に背を向けて去っていく2人。


「ほんの二言三言を伝えるためだけにわざわざ通路で待っていた状態になっているが、大丈夫か?」


「うっ」


 去っていこうとしていた足が止まる。背を向けたまま、あーうーとうなっていたかと思うと、


「うるさいわね! わざわざ姫様が褒めるために待っていてあげたのよ! 感謝しなさいよね!」


 それだけ叫んで走っていってしまう。振り返ったクルがペコリと一つお辞儀をして、その背を追っていった。


「ふん、相変わらず上から物を言う。クレイ、これは絶対に優勝して見返してやらねばならんぞ!」


「お前はもう少し相手の気持ちを読んでやれよ……。どう見たってただの照れ隠しだろうが」


「何? そうか……。ティールもわたしと同じように思ったよな?」


「え!? あー、す、すいません……」


「そうか……そうか…………ん? ということは、彼女たちは我々を応援しているのでは?」


「え、そこからか? そこからなのか? 流石に可哀想だろ……」


「何だ、可愛げがあるではないか! よし、気合いが乗ってきたぞ! これからトレーニングだ!」


「おい待て馬鹿! 明日に備えて休め!」


「あ、あたしが追いかけます!」


 全力で走っていくカレン、それを追いかけるティール、それを追いかけるが置いて行かれる俺。


「ふふ、楽しいね」


 フォンの静かな笑いが通路に響いた。

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