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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第29話 無駄に高いプライド

『さあ1年生限定班対抗戦、3日目です。現在残っているのはたったの8班! 今日はこれが更に半分に絞られます』


『面白い戦い方が見られるようになってきて、フルーム嬉しい! みんなー! 頑張ってねー!』


『えー、はい。どうでしょうフルーム副会長。ここまで見て、この班は要注目などありますか?』


『一番目立ってるのはやっぱりレオン王子だよね。ここまでの試合時間を合計しても1分もないよ。あれは上級生にも通じる、紛れもない強者だねぇ』


『そうですね。ここまでの試合はどちらも、レオン・ヴォルスグランただ一人が相手を殲滅しています。その圧倒的実力は、ここからも要注目でしょう』


『あとねー、面白いのは彼らかな。えー、スイリー・マグバール班。全員が魔法使い。武器攻撃を完全に捨てて、ひたすら魔法で状況を打開していくのは見てて楽しいよね』


『えー、スイリー班は6人全員が魔法使い。それぞれに異なった得意魔法を持ち、それらを組み合わせて時には接近戦まで魔法でこなし勝ち上がっています。確かに、彼らは面白いという言い方が合っているように思えますね』


『ま、でも一番はやっぱり彼の班かな』


『彼、と言いますと?』


『クレイ・ティクライズ』


『クレイ班は、4人という少人数ながら勝ち上がっている班です。先の事件で私も取材をしましたが、確かに彼は注目するべきでしょう』


『君はさ、魔法陣って使ったことある?』


『え? 魔法陣ですか? あまり使いませんね。普通に魔法を使った方が早いですし』


『そう、魔法陣というのは普通に魔法を使うのに比べて少し遅くなる。加えて陣が少しでも隠れてしまうと発動出来ないから丸見えだ。魔法陣があるところへなんて敵は来てくれない。どの班にも基本的に魔法専門の班員が最低1人はいるものだから、わざわざ魔法陣なんて物は使わないんだよ』


『しかしクレイ班は、というよりクレイ・ティクライズは多用しているようですね』


『そう。魔法陣の強みを完全に活かしていると言って良い。例えば複数魔法の同時発動。例えば設置型の罠として。例えば相手の行動の誘導に。実に多彩だよね。あたしも真似してみたくなっちゃうよ』


『確かに。これからは魔法陣も見直されるのでしょうか』


『ところがそうはいかない。あれはねー、ちょっと異常だよ』


『異常、ですか』


『そう、異常。恐ろしくすら感じるね。一体彼の頭の中はどうなっているのか。未来が見えていると言われても納得しちゃいそうだよ。少なくともあたしには真似出来なさそうかなー』


『なるほど。確かに彼が仕掛けた魔法陣は、まるで未来を見ているかの如く常に成果を出しています。ここからの彼らの戦いにも要注目でしょう。といったところで、本日の第一試合、くじ引きの結果、スイリー・マグバール班とササ・トンス班となりました。両班は準備をお願いします』







「お、要注目と言われているぞ。王子さえも凌ぐ注目度ではないか。やったな」


「あんなの奇抜な戦い方が目を引いただけだろ」


「お前はどうしてそう斜に構えるんだ。褒められているのだから素直に喜べ」


 そんな無茶な。逆にこいつはよくここまでまっすぐに育ったものだ。この単純さは弱点であると同時に、美点でもあるな。



「あら、奇遇ね。隣、良いかしら」



 そんなどうでも良い話をしていると、王女とその従者がやってきた。奇遇、ね。明らかにこちらを見つけて近づいてきたように見えたが、まあわざわざ指摘しなくても良いか。

 フォン、ティール、俺、カレンの順で座っているが、カレンの隣にアイリス王女、その隣にクル・サーヴが座る。


「改めて、勝ち上がりおめでとう。悔しいけれど完敗だったわ」


「ありがとうございます」


「止めてよ。確かに私は王女ではあるけれど、それ以前に今は同じ学生でしょう? そんな畏まらないで」


 以前本屋で会った時にも言われたな。逆に学生である以前に王族なのだから、相応の態度を取るのは当然だと思っていたが……本人が望むなら良いか。進んで畏まった態度を取りたい訳でもないしな。


「どやぁ」


「え、ウッザ……。何その顔。殴って良い?」


「な!? 負けたくせに何という態度か!」


「逆に試合に勝っただけでよくそこまで上から見られるわね。ある意味感心するわ。畏まらなくて良いとは言ったけれど、わたしは王女なのよ?」


「ふふん。勝ったのだから思い切り喜ぶのは当然というものだ。そちらもその悔しさをバネに上を目指すといったぁ!? 何をする!?」


「やかましい。話が進まん、黙ってろ」


 ギャーギャー騒ぐカレンを黙らせ、王女へと向き直る。


「それで、用件は?」


「よ、用件? 偶然空いている席があったから座っただけで、別に用なんてものは特に、ないわよ?」


「アイリス様……」


「止めなさいクル。そんな可哀想な物を見る目をしないで。分かったわよ、ちゃんと言うから……」


 あーうーえーと意味のないうめき声を発する王女。そして意を決したようにこちらを向き、


「あ! 試合が始まるみたいよ! 観戦しなきゃ! 話は後にしましょう!」


「えー……」


 更に呆れた目をするクル。カレンが余計なことを言ってうるさくなりそうだったのでもう一度頭を叩く。


「気長に見よう」


 フォンのつぶやきが長期戦を予感させた。




「アイリス様」


「へえ、全員魔法を使うのね。面白いわねー」




「アイリス様?」


「次の試合が始まるまでに飲み物取ってくるわね」




「アイリス様!」


「あ、そういえばあなた、路地の本屋で会わなかった? そうよ、思い出した! 良い趣味だなって思ったのよ! あの時買った本は読んだ?」


 忘れていた記憶を呼び起こしてまで、本題から逃げたいのか。


「一応読んだが、あれはフォンに勧められて買った物だ。俺は基本的に物語は読まない。そういう話がしたいならフォンと話すと良いと思うぞ」


「へぇ! ちょっと席替わってよ!」


 アイリスが席を移動して、ティールとフォンの間に入った。自由だな。


「好きな本は?」


「山登りのマル」


「面白いところから来るわね。わたしはやっぱり白黒かなー。勧めるってことは白黒も好きなんでしょ? わたしは2巻が一番だと思うんだけれど、どう思う?」


「6巻」


「え、6巻なんてあるの!?」


「一昨日発売」


「うっそ、久しぶりの新刊とはいえわたしが気付かないなんて……。今日の試合が全部終わったら買いに行かなきゃ」


 ずいぶん盛り上がっているが、一応今は試合の最中なんだがな。今やっているのが第三試合、今日は全部で4試合だから、必然的に次は俺たちの試合ということになる。平常心だと言えば聞こえは良いが……フォンなら大丈夫か。


「もう、本題はどうするんですか……。でも楽しそうですね、良かった」


「楽しそうというか、物凄く生き生きしているな。わたしと話していた時はあんなに攻撃的だったのに」


「あれはあれで楽しそうでしたけどね。でも、仕方ないんですよ。アイリス様は物語が大好きなのに、今までああして語れる相手がいませんでしたから」


「ふむ、友達がいないのか」


「いや、失礼なこと言わないでくださいよ。話が出来る友人くらいいますよ。でも、アイリス様はなんというか、意味もなくプライドが高いというか、認めた相手しか同等の目線で話せないというか……」


「上から目線で話して友達を失ったのだな」


「だから友達くらいいますってば! アイリス様が意図してそうしているのか、無意識なのかは分からないですけど、あまり趣味の話とか一緒に遊ぶとか、そういうことをしないんですよ。でもきっとあなたたちのことは認めているから、ああして素直に好きな物の話が出来るんだと思います」


「よく分からん。難儀なものだな。話したいことを話せば良いだろうに」


「はは……人生楽しそうですね」


「ん? 当たり前だ! 今、わたしは常に前進しているのだからな! はっはっはっ!」


「クレイさん、大変そうですね。本当に。お疲れ様です」


 何だか物凄く慈しみを感じる目を向けられている。馬鹿のせいで俺が可哀想な子みたいになっているな。

 ん? 左隣から服を引っ張られる感覚。見てみると、ティールが裾を掴んでいる。


「どうした?」


「いえ……別に……」


 これは、人見知りかな。よく知らない奴らが仲間たちと話していて、自分の話し相手がいないから、孤立している気分になっているのだろう。


「怖いか?」


「そんなことないです。お二人とも良い人そうです」


「そうだな。せっかく良い人と知り合えたのだから、友人を増やせると良いな」


「そ、そうですよね。が、頑張ります!」


 フンスと気合いを入れるティール。友人が増えることで、もっと自信を持てるようになったりしないだろうか。カレンの影響で、班で行動している時は割とやかましいくらい元気になってきたんだがな。それを外へ向けられれば……いや、カレンのようになられても困るが。



『それでは本日の最終戦、第四試合は、クレイ・ティクライズ班とスーラン・ハミー班です。準備をお願いします』



「出番か。よし行くぞ!」


「はい!」


 勢い良く立ち上がるカレン。つられて立ち上がるティール。相変わらずの自然体なフォン。いつも通りってところだろう。


「応援してあげるから、負けないでよ。わたしたちに勝ったんだから」


「いってらっしゃいませ。ご武運をお祈りしています」


 いつも通りではない応援を背に受け、試合へ向かう。

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