第2話 勧誘
「皆、聞いてくれ! わたしはカレン・ファレイオルだ! 入試の実技は960点! わたしを班長として、共に戦ってくれる班員を募集する!」
突然、教室の前に立ち宣言したのは、燃えるような赤髪を後ろで一つ結んだ女子生徒だ。身長160を少し超えるくらい。強気に燃える目が、意思の強さを語っている。
ファレイオル、か。
ファレイオルはティクライズと並ぶ騎士の家系だ。力のファレイオル、技のティクライズと言われ、両手剣を用いた豪快な戦い方が特徴だ。
どうやら先ほどの俺と王子のやり取りから、入試の点数がアピールポイントになると思い、教室中に宣言したらしい。
「960点!?」
「凄いな。それにファレイオルか、良いかもしれない」
「美人だぁ……」
その成績と、その容姿に惹かれてクラスメイトたちが集まっていく。
「悪いな、クレイ。俺も行ってくる!」
隣の席から、ハイラスも勢いよく飛び出して行った。まあ、あいつはそうだろうな。可愛い子目的で来たような発言をしていたし、カレン・ファレイオルはとても美人だ。
さて、ファレイオル以外にも、自分の成績をアピールして班員を集めようという者が何人か。そういう者のところにも人が集まり、俺は教室の中で孤立してしまった。
こうなってくると、クラス内で班員を集めるのは諦めた方が良いかもしれない。別に班長にこだわりがある訳じゃないが、俺の実力では班員で力を発揮出来るとは思えない。出来れば指示出しする側の人間でいたい。
他クラスでも見に行くか。
そう思い、教室を出ていこうとしていると、
「ほわぁ、みんなスゴイなぁ」
何かちっさいのがいた。身長150もなさそうな、肩くらいの白髪の女子生徒。まるで隠れるように、教室の後ろの方で周囲を見回している。
確か名前は、ティール・ロウリューゼだったな。俺と同じように孤立しているし、試しに勧誘してみるか。
「なあ、少し良いか?」
「ひゃっ、ひゃわいはいやぁ!?」
「お、おう、落ち着け?」
物凄く驚かせてしまったようだ。文字通り飛び上がって驚く人間を初めて見た。
「な、な、な、何でしょうか?」
「いや、お互い孤立しているようだし、良かったら班を組むのも良いんじゃないかと思ったんだが」
「そ、そんなそんな、あたしなんかと組んでも良いことないです。他の方と組んだ方が良いと思います……」
自信のなさがにじみ出ているな。よくこの学園の入試を受けようと思えたものだ。
「さっきのやり取りで俺の成績はわかるだろ? 組んでくれる相手がいなさそうなんだ」
「あ、確か530点の人……。い、いえいえ、でもきっと学科の成績が良いんですよね? な、何点ですか…?」
「学科は満点だったな」
「ま、満点!? やっぱりあたしなんかとは釣り合わないです……」
更に小さくなってしまった。そんなに試験結果が悪かったのだろうか。こうして合格しているんだから、そう卑下したものでもないはずだが。
「これ、どうぞ」
渡されたのは小さな紙。試験結果が簡単に記された、結果通知書だ。わざわざ持ち歩いているのか。
ティール・ロウリューゼ
学科 520/1000
実技 550/1000
計 1070/2000
順位 322位/322人
これはなかなか。見事に最下位だ。最低クラスの俺とほぼ変わらない実技に加え、それ以下の学科。実際にはこれ以下の不合格者も大勢いるが、少なくともこの学年322人の中では最も成績が悪いらしい。
いわゆる落ちこぼれ。このまま放っておけば、最悪班を組むことすら出来ずに退学、この学園から姿を消しているだろう。
別に助けてやる義理はない。これからの班行動の重要性はよく理解出来ている。足手まといを抱えられるほど俺は強くないし、こんな自信がない奴をいちいち励ましながらなんてやっていられない。
「大丈夫だ。良ければ、俺の班に入ってくれないか?」
だったら、この子を足手まといではなく戦力にしてやれば良いだけだ。
「え?」
「一度試しに一緒にトレーニングをしてみないか? もしかしたらアドバイス出来ることがあるかもしれない。班に入るかどうかはそれから決めてくれて良い」
「……じゃ、じゃあ、試しに、お願いします」
この子、ティールだって何かやりたいことがあってこの学園に来たはずだ。断ってはいるが、本当は自分だって班を組んでこの学園で授業を受けたいと思っているだろう。だから、こうして勧誘に乗ってくる。
あとはその希望を叶えてやるだけだ。
学園内にある訓練場。班単位での訓練が出来るように相応に広く造られているこの建物には、今は俺たち二人以外に誰もいない。
班決めは夏休み前まで、つまり4ヶ月くらい期間があるが、早く決められるならそれに越したことはない。良い人材を他班に取られてしまうかもしれないし、今訓練なんてやっている場合ではないんだろう。
「とりあえず、何が得意で何が苦手なのか教えてくれるか?」
「えっと、力はスゴイってよく言われます。苦手なのは、魔法、です。全く発動出来なくて、多分魔力がないんじゃないかって言われてます……」
魔力がない? そんなことあるだろうか。聞いたことないが……。
指を一本立て、そこに魔力を集中、小さい火の玉を作る。
「これ、出来るか?」
「出来ないです……。ちょっと見ててくださいね」
俺と同じように指を一本立て、念じる。その姿をじっと観察。
「ふぬぬぬぬぬっ! ぷはぁ! やっぱり出来ないです……」
確かに魔法の発動は全く出来ないようだ。だが、それと魔力が全くないことは等しくない。試してみるか。
「これ、耳に着けてみな」
「何ですか、これ?」
「通信装置だ。学園の生徒なら自由に借りられる道具だな。離れたところにいる相手と話すことが出来る」
どんな訓練がティールに必要なのかわからなかったから、一応借りてきた物だ。俺も同様に小型の通信装置を耳に着け、訓練場の端までティールから距離を取る。
「聞こえるか?」
「ひゃわっ!? き、聞こえます……」
「やはりな。この通信装置は装着者の魔力を自動で使って通信を行う。つまり魔力が全くなければ通信は出来ないんだ。少なくとも魔力はあるはずだぞ」
「ほえー……」
理解出来ているのかいないのか。まあ魔力があることを証明したところで、結局魔法は使えない。これくらいにして、次に行くか。
「じゃあ次は武器を使ってみようか。一通り借りてきたから、一度見せてくれるか?」
「あ、はい。でも、あたし武器の扱いもへたっぴで……」
「大丈夫だ。現状どれだけ扱えるのかを見て、そこから改善していくのが目的だからな。好きなように振ってみてくれ」
模擬戦用の剣、短剣、両手剣、槍、短槍、ハンマー、メイス、棒、弓矢を並べる。
「どれを使う?」
「特に得意武器はないので……じゃ、じゃあ剣で」
剣を持ち、振り上げ、振り下ろす。なるほど、確かに力は強そうだ。力任せに振り回している感じだな。これならハンマーとかの方が良いんじゃないか?
「ハンマーはどうだ?」
「ハンマーは……もっと苦手なんですよね、アハハ。試してみましょうか」
剣を置き、ハンマーを持ち上げるティール。模擬戦用とはいえ、相応に重さのある打撃武器を軽々と持ち上げている。相当力が強いな。俺とは比較にならない。
「やあっ! っと、わわわっ!?」
手に持ったハンマーを横薙ぎに振るおうとして、よろめく。力は充分にある。だが、根本的に体重が全く足りていない。ハンマーの重さに振り回されて、力以前の問題として扱えていないようだ。
無理もない。身長150もないだろうティールは、明らかに軽い。こんな体のどこにここまでの力があるのか不思議だが……ふむ。
「ハンマーを持ってみて、どうだ? 重くて長時間の行動は辛そうとかあるか?」
「い、いえ、重さは全く問題ないんですけど、やっぱりハンマーは苦手です。力は強いんだから使えるかも、と思って昔練習してみたこともあるんですけど、その時もやっぱり振り回されちゃう感じで……」
重さは余裕か。それなら、
「体に重りを着けてみるか」