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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第27話 少人数対決

 俺たちが参考にしている入試の成績、あれは所詮100点満点でつけられた評価でしかない。具体的にどのような評価がされているのかは流石に分からないが、例えばカレンなら、


 速力   100

 瞬発力  100

 持久力  100

 筋力   90

 筋持久力 90

 魔力   95

 魔法規模 95

 魔法速度 90

 武器   100

 感覚   100

 合計   960点/1000点


 のような評価がされていると予想が出来る。だが、これは各項目が100点満点だから100点になっているだけで、同じ100点でも人による差はある。

 実技700点が平均などと言われるが、この中でも全て70点の人間より、何かの項目が100点の人間の方が恐らく強い。何故なら満点というのは、もしかしたら120点くらいの実力がある可能性があるからだ。

 何が言いたいのかと言えば、


『完勝! 圧倒的! もはや敵なし! レオン・ヴォルスグラン、優勝へ向けて一直線!』


『相手の班長は学年3位の成績だったはずなんだけどねー。やっぱ成績なんて当てになんないよね』


 そう、成績なんて当てにならないということだ。今倒された学年3位だという生徒、確かに優秀ではあった。平均90点は超えているだろう。だが、恐らく100点を超えるような項目は一つもなかったのではないだろうか。器用貧乏さが見て取れた。カレンでも余裕で勝てる相手だ。

 対してレオン王子。成績がそもそも学年1位だという話だが、最低でも瞬発力、魔力、魔法速度、武器は100点だろう。そんな項目があるのかは知らんが。100点などという枠に収まるレベルではない。


 本当に、成績など当てにならない。





『盛り上がっています2日目! 次の第四試合はなんと少人数対決です。少人数を引き当てた運の良さか、少人数でも勝ち上がってきた猛者を引き寄せてしまった運の悪さか、クレイ・ティクライズ班、アイリス・ヴォルスグラン班は準備をお願いします』


『ありゃー、ここ当たっちゃったかー。どっちも面白そうだから勝ち上がって欲しかったんだけどなー』


『と言いますと?』


『少人数だからなのか、勝つための工夫が見えるよね。正面からぶつかって実力による勝利を目指すセオリー通りの戦いじゃなくてさ、翻弄し、隙を突き、不利な状況でもひっくり返して見せる、そんな反骨精神が好きなんだよねー』


『なるほど。確かに一見不利に見える少人数のこの2班ですが、昨日は鮮やかな勝利を収めています。それぞれの実力の高さも窺えますが、それを活かして勝利を掴む作戦が強みということなのでしょう』




「まさか当たるとは思わなかったわ。ちょうど良い、ここでわたしたちの方が優れていると教えてあげる。もし気が変わったらいつでも来なさい。わたしの班に入れてあげるわ」


「たとえ負けようとわたしの気が変わったりはしません。勝った負けた、優れているいないで班長を決めてはいませんので。しかし、それは置いておくとしても、我々は負けません」


「言うじゃない。試合が終わったら二度とそんな口が利けないように……」



「アイリス王女」



「してって、何?」


「わたしはこの試合、手を出しません」


「……何、それは。舐めているの?」


「いいえ。それが必要だと思うので。あと、クル・サーヴ」


「……何ですか」


「歩み寄りは、大切」


「また、それですか」


 この試合、たとえフォンがいなかったとしても、人数が多いこちらの方が一見有利に見える。だがそんなことはない。あちらは2人共が強者であるのに対し、こちらはまともに戦えるのはカレン1人。フォンによる目くらましや範囲攻撃がなく、その状態では俺が気配を消したところで相手の視界から逃れることは出来ない。

 カレンに片方やってもらうにしても、もう片方を俺とティールでやらなければならない。


 相手から距離を取り、試合開始の位置につく。


「おい、1人ずいぶん端に行ったが、準備は良いのか?」


「大丈夫です」


「問題ないわ」


「そうか。では、試合開始!」







「カレン、王女をやれ」


「承知!」


 試合開始の瞬間、カレン・ファレイオルがアイリス様に向けて突撃してくる。


「連鎖の紫電」


 アイリス様が放つのは小さい雷の矢。それを連続して放つことで接近を防ぐ。全て斬り落とし少しずつ近づいてくるという異常な動きをしているが、それでもアイリス様のこの魔法の速射力はかなりの物。そうそう接近を許したりはしない。


「クル、ティール・ロウリューゼを落としなさい。ただしクレイ・ティクライズの不意打ちを受けないこと」


「はっ」


 命令を受けた体が、思考する間もなく動き出す。踏み込む毎に体が加速していく。あっという間にティール・ロウリューゼに接近、そのまま拳を


「回避しなさい!」


 通信装置からアイリス様の声が聞こえた瞬間、思考より先に体が回避行動を取る。ティール・ロウリューゼの手から球体が飛んできていたようだ。命令はクレイ・ティクライズの不意打ちを受けないことだったため、それ以外からの不意打ちに体が動かなかったらしい。


「クル、攻撃を受けないこと。これは最優先命令よ。これを優先しつつ、ティール・ロウリューゼを落としなさい」


「はっ」


 ハンマーを構える小柄な体に高速接近、そのまま打ち抜く。


「ひゃああぁぁぁ!!」


 怯えているかのように慌てて跳び退いていく。体勢も崩れ、とても次に繋がる動きには見えない。このまま追撃する。


「ひええぇぇぇ!!」


 ……どういうことだ。背を向けて逃げ出した? まさか演技ではなく本当に怖がっているのか? それなりに足は速く、身体能力が高いのは見て取れるが、あまりにも無防備。このまま、その背中を、


「っ!?」


 体が勝手に停止した。何だ、何に警戒している?

 これか。足元に魔法陣が描かれた紙が落ちている。よく見ると周囲にばら撒かれているようだ。無防備な背に集中し過ぎて見えていなかった。命令によって不意打ちを体が避けたようだ。


 一度見えさえすれば、こんなものに引っかかったりはしない。相変わらず無防備に逃走する小さい背中を追いかける。

 それにしても、よくこんな臆病な性格で戦ってこられたものだ。今、その性格すら利用しているように、クレイ・ティクライズが作戦を考えて勝利を掴んできたのだろう。

 思えば、以前見た模擬戦でティール・ロウリューゼが一度も攻撃を当てていなかったのは、この性格のせいなのだろう。苦労していそうだな。


 苦労しているのは、アイリス様も同じか。


「クル!」


「え?」


 回避する間もなく背後から衝撃。熱い。これは……炎? 背中を炎に打たれた。そして押し込まれた先に、魔法陣。


 足元から風が噴き出す。10メートルほども打ち上げられ、落下する先にナイフを構えた男。


 マズイ。魔法は苦手だ。ここから回避出来るような魔法なんて


「クル!!」


 雷が飛んでくる。それに押されて落下地点がずれた。が、その代償に隙を晒したアイリス様にカレン・ファレイオルが接近しているのが見える。

 しかも雷によってずれた落下先にハンマーを構えた少女がいる。まさか、読まれたのか。こんな無理をしてまでわたしが助けられることまで。


「クル、吼えろ!」



「がああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」



「ひっ!?」


 怯えた少女のハンマーが止まる。これなら、落下の勢いも乗せてかかと落としで……



 いや、待て。何故そんなところにまで、



「予想通りだ」



 魔法陣があるんだ!?



 落下地点。ティール・ロウリューゼがハンマーを構えて待っていたはずの場所にまで魔法陣が置かれている。魔法陣から石の鎖が伸びてくる。それはわたしを拘束し、完全に動きを封じる。


「こんな、もの……!」


 力を込めて鎖を引き千切ろうとする。ピシピシとヒビが入る音が聞こえる。もう少しで……!


「終わりだ」


 首にナイフが突きつけられる。アイリス様もカレン・ファレイオルに負けてしまったようだ。


「そこまで! クレイ班の勝ちだ!」


 負け、か。戦闘終了の合図を聞いた瞬間、体の自由が戻ってくる。ひたすらに、足を引っ張り続けた。情けない。やはりわたしはただの足手まといでしかないのか……。


「聞いても良いですか」


「何だ?」


「何故、ここまで全てを先読み出来るのですか。あまりにも、全てを見通し過ぎている」


「別に全て読んでいた訳ではないさ。何事も最悪の想定は基本だ。落下地点をずらされるかもしれない、ティールが攻撃出来ないかもしれない、更に言うならカレンの援護を得られないかもしれないし、魔法陣を先に破壊されるかもしれない。あらゆる場合を想定して行動する。その結果、全てを見通しているかのように事態が動く。それだけだ」


「そう、ですか。ありがとうございました」


 これが、本物の天才というやつなのか。実際には使われなかったパターンもあるのだろう。確かに周囲にはまだいくつもの魔法陣がある。これらのそれぞれに考えがあるのか。一体何手先を見ているのか。


「お疲れ様、クル。ゴメンね、わたしがもっと具体的に命令してあげられれば、あなたはもっと強いはずなのに」


 アイリス様とカレン・ファレイオルが近づいてきた。カレンはクレイに駆け寄っていく。アイリス様は申し訳なさそうにわたしの前に立っている。そんな顔をしないで欲しい。わたしは何の助けにもなれなかったというのに。


「いえ、そんな。わたしが弱いのがいけないのです。アイリス様が自分の戦いに集中出来ていれば、あなたは決して負けなかった」


「ふふ、ありがとう。でもそれは買いかぶりよ。カレン・ファレイオルは強い。一瞬レオンを思い出したわ。どうあっても、一対一で勝てる相手ではなかった」


「それほどですか」


「レオンの方が強いのは間違いない。けれど、何ていうのかしら。まっすぐさ? 爆発力? そんな感じの物が、あるような気がする」


 よく分からない。でもアイリス様が言うのだから、カレン・ファレイオルは強いのだろう。



「クル・サーヴ。分かった?」



 フォン・リークライトの問いかけ。分かった? 何がだろうか。


「あなたが歩み寄ってくるのなら、きっと悪いようにはならない」


 それだけ言って自分の班の下に戻っていくフォン。結局彼女の真意は分からないままだ。ずっと同じことを言っている。歩み寄れ。何をだろう。もっと具体的に言ってくれても良いのに。


「アイリス様は分かりますか?」


「いえ……流石に何が言いたいのか分からないわね。分からないことを考えていても答えは出ないわ。今は観客席に戻りましょう」


「分かりました」

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