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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
最終章
275/295

第274話 四獄王

 門を通り抜けると、崖の上から見た廊下に繋がっていた。4本の塔を繋ぐ直線的な廊下だ。この廊下のどこかに中央の城へと繋がる通路があるのか、それともないのか。どちらにせよ、まずは進んでみなければ話にならない。


「とりあえず、右に行ってみるか」


 廊下を進むこと少し、突き当りに扉があった。恐らくは塔の一つに入る扉だろう。


「異様に大きい気配がある。恐らく四獄王だ。気をつけろ」


 そう仲間たちに警告し、扉を開ける。


 中は、何もない部屋だった。


 外観の通りの円形の部屋。階段等もなく、どうやらこの塔は上ることが出来る構造にはなっていないらしい。



 部屋の中央に立っていたのは、額から二本の角を生やした巨人だった。



 全体的に赤みがかった肌の、筋骨隆々の大男。その身長は獣王と近い5メートルにも届きそうなほど。



 腕を組み、両目を閉じて俺たちを待ち構えていたそれは、俺たちが部屋に入ってきた気配に目を開ける。




 瞬間、襲い掛かる圧し潰されそうなほどの重圧




 なるほど、確かにこいつはあの獣王と同格の存在だ。疑いようもなくそう思わせる、あまりにも強大な気配。



「来たのか。お前たちが神の言っていた者たちだな」


 それが口を開く。その何気ない呟き程度の言葉が、何かの重要事項であるかのように聞こえてくる、低く重い声。


「俺は、鬼。鬼の王だ」


 予想通りの鬼の王。予想通りの力強い存在感。


 そもそも鬼というモンスターは、その肉体強度が圧倒的であるため、魔法など一切持たないというのにモンスターの中でも最強に近い強さを持つとされている。その上、好戦的な性格をしているため、危険度は他のモンスターの比ではない。

 そんな奴らの親玉。これまでに確認されてきた鬼というモンスターとは存在そのものが違うとされる鬼の王。


 獣王よりも単純な戦闘能力で言えば上である可能性もある、四獄王の中でも特に危険と思われる存在。


 そんな鬼の王を前にして、



「こいつは俺にくれ」



 躊躇なく、前に出るハイラス。



「ハイラス?」


「俺には俺の目的があるって言っただろ。それがこいつなんだよ。こいつだけは俺がぶっ殺す。お前らは先に進みな」


 確かに、ここでこいつだけに時間を取られている場合ではない。この場は誰かに任せ、他のメンバーは先に進むべきだ。


 だが、ハイラス一人にこいつを任せるのか? それは遠回しにハイラスを殺しているも同義ではないのか?


「んじゃ、俺もここに残るぜ」


「ああ? 俺だけで充分だ。手助けなんかいらんぞ」


「そんな訳あるかよ。まさかお前が俺よりバカなこと言い出すなんてな」


 ハイラスと同じように、前に出てハイラスの横に並ぶフォグル。正直、この2人でも不安は拭えないが……。


「分かった。ここは任せる」


「ああ、さっさと行け」


「おうよ。心配すんな。そう簡単にくたばんねぇよ」


 どうやら鬼の王は先に進む俺たちを邪魔するつもりはないようで、その場にハイラスとフォグルを置いて、入ってきたのとは別の扉を開け、塔の部屋を出た。








 直線の廊下を400メートルほど進むと、また扉。別の塔に入る扉だ。恐らくはここにも、いるのだろう。


 扉を開け、中に入る。



「やあ、いらっしゃい」



 軽やかな少年の声に出迎えられた。



 その部屋の中央にいたのは、粘液の塊。



 青みがかった透明の粘性を感じる液体が、うねうねと部屋の中央で蠢いている。



 球形をしている訳ではないが、直径で表すなら2メートルほどだろうか。



 威圧感という意味では獣王や鬼の王に遠く及ばないが、何をしてくるのか分からない恐ろしさのある敵だ。



「初めまして、僕は粘王。よろしくね」



 まるで友人に挨拶するかのように、にこやかな表情が見えてくるような声色でそう声をかけてくる粘王。そんな態度が、逆に不気味さを増長している。


「それで、僕の相手は誰がしてくれるのかな?」


 この敵は恐らく妙な技を使ってくるはず。対応能力が高い誰かに任せるべきだ。


 そういう意味では、アイリスか、ルーか、



「では、ここは私が参りましょう」



 アイビーか、といったところだろう。


「直接戦闘能力が低い私がここに残るのが適切だと思いますわ」


 アイビーの言うことは正しい。しかし、アイビーだけでは決め手に欠ける。誰かもう一人、攻撃力の高い……



「あたしが行きます」



 俺の思考を読んだかのように前に出るティール。確かに、ティールが適任か。


「任せてください。この敵は必ず倒します。クレイさんたちは前へ」


「ああ、頼む」


 ティールの力強い言葉に背を押されるようにして、先へと進む。








 次の部屋。その扉を開ける前から感じる、覚えのある気配。


「いた、奴だ」


 扉を開き、突入する。その部屋の中央で、予想通りの姿が腕を組んで立っていた。



「来たな、英雄たちよ……!」



 睨むように、鋭い視線を向けてくる獣王。一切の油断なくこちらを見つめるその目は、もう以前のような敗北はないと言外に伝えてくる。


「貴様らにやられた腕が疼く……。覚悟せよ! 与えられた汚名返上の機会、この獣王、決して無駄にはせんぞ!」


 ヴィルの奴に何か言われたか。恐らく獣王にとってこれが最後の機会なのだろう。死に物狂いで殺しにくる姿が容易に想像出来る。


「行きます。一刻も早くこの敵を倒し、マーチさんを救うんです!」


 ルーが今にも攻撃を仕掛けそうな様子で前に出る。本当はここに俺とレオン以外のメンバーを全員置いていきたいのだが……。


「分かっています。この先にも何かいるんですよね? ここはわたしがやります」


 ルーの言う通り、霧の王は既に討伐したはずなのに、この先の塔にも何かの気配がある。獣王に戦力を投入し過ぎる訳にはいかない。


 だからと言って、当然ここにルーだけを置いていく訳にもいかない。前衛がいなければ、戦いにすらならないのだから。


「では、ここはわたしが。以前は早々に倒れる無様を晒しましたので、ここで挽回の機会をいただければ、と」


「クル……」


「アイリス様、ご心配なく。必ず生きて、あなたの下へ帰ります」


「…………分かった。絶対無事に……いえ、勝ちなさい! これは命令よ!」


「はっ!」


 ルーとクルを残して、先へ。








 最後の塔。そこにいたのは、あまりにも意外な顔だった。


「スロフ、お前、国だけでなく人間全てを裏切ったのか」


 ヴォルスグラン国内で起きた反逆騒動。その最後に陛下暗殺のために襲撃してきた、青っぽい髪のヘラヘラした背の高い男。ティクライズ分家に閉じ込められていたはずの、リヴォルゲリン元公爵に引き取られた男だ。


「だって、聞いちゃったからさ。ここの親玉ってティクライズのご先祖様なんだろ? 俺ももしかして仲間に入れてくれるんじゃないかなって思って」


 理事長から歴史の話を聞いた時か、俺が仲間たちに歴史を語った時か。どこかで盗み聞きされていたらしい。俺もこいつの気配は集中していないと気が付けない。どこかに潜んでいた可能性は否定出来ない。


「分かるかな? ほら、こんな力をもらったんだよ」


 明らかに気配が人間のそれではない。どちらかというと精霊に近いような、それともまた別のような、異質な気配。



 見ているだけで怖気がするような、悍ましい気配



「名乗ろう。俺は偽王。神の忠実なる僕、四獄王が一だ。……なんつってな」



 そんな飄々とした、以前と変わらない様子で言葉を発するスロフ。



 そして、もう一人。



「リヴォルゲリン公爵、いえ、ガブロ・リヴォルゲリン。何をしているのですか」



 アイリスの問いかけに対し、気まずそうに目を逸らすリヴォルゲリン元公爵。その姿は、反逆を起こした時とは比較にならないほどに弱々しく、まるで衰弱した病人であるかのように顔色が悪い。


「戦う気がないのなら大人しくしていなさい。あなたは後ほど、拘束して連れ帰ります」


 それだけ宣言し、スロフへと目を向けるアイリス。


「カレン、アイリス、ここは任せた」


「うむ、心得た」


「分かっているわ。あなたたちは確実に奴を討ちなさい」


「ああ」


 カレンとアイリスの2人を残し、レオンと共に更に先へ進む。








 この宮殿に入った門がある場所。そこまで戻ってくると、この宮殿の内側に、先ほどまではなかったはずの扉が出現していた。


「本当に、嫌がらせが得意な奴だ」


 俺とレオンだけになるのを待っていたのだろう。わざわざ四獄王が待つ各塔を回らせて、仲間たちをそこに置いてこさせた訳だ。


「まあ良い。最初から奴と戦うのは俺たちの予定だったんだ。行くぞ、レオン」


「ああ。必ず世界を救う。勝つよ、クレイ」


 扉を開け、宮殿の中庭に出る。


 その先に建つ漆黒の王城へ向けて、黒雨の中を歩きだした。

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