表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
最終章
270/295

第269話 決戦への決意

 植物を操るカルズソーン部隊を、先読みにより完璧に援護するアインミークの機械兵たち。それらの活躍により、ほどなくしてモンスターは殲滅された。

 獣王がいなくなったことで烏合の衆と化し、通常のモンスターと変わらなくなったこと。そして何より、無限に思えるほどの追加が来なくなったことが大きいだろう。


 既に国内に入り込んでいるモンスターはバラバラに暴れ回るようになっている可能性が高いが、それらは騎士団や学園に残っている頼りになる人たちがどうにかしてくれる。


 今後のことを考えなくては。


「お兄ちゃ」


「ゴホン! 姫様」


「はっ! んんっ、皆様、ご無事ですか? 救援が遅くなり、申し訳ありませんでした」


 ついてきていた教育係のニストフェン・ジェラフィルズ元侯爵の咳払いを聞いて、慌てて姿勢を正して挨拶をするミュア。


「お初にお目にかかる方もいらっしゃいますね。私はアインミーク第三王女、ミュアーナ・アインミークです」


「ヴォルスグラン第二王子、レオン・ヴォルスグランです。王女自らが救援に駆けつけてくださるとは。ヴォルスグランを代表して、感謝を申し上げます」


「いえ、私たちは以前、そちらのクレイさんに救っていただいたご恩を返しに参ったのです。クレイさん、父より『契約を果たそう』と、伝言を」


 契約か。俺の名を覚えておいてくれるという、たったそれだけの契約。そのために、自分たちの国だってモンスターに襲われているというのに、最新の機械兵部隊を送ってくれたのか。


「あと『遠慮せず通信してきても構わない』とも」


「は、はは、覚えておきます」


 そういえば、自由に通信しても良いと許可をもらっていたな。そんなことを言われても、雑談するために通信する訳にもいかないだろうに。



「クレイ様!!」



「うおっ!? ビックリした……どうしたアイビー、急に大声を出して」


「私も……私も救援に来たのですけれど!?」


 頬を膨らませて、私不機嫌です! と表情で伝えてきているアイビー。どうやら俺がミュアとばかり話しているので嫉妬しているようだ。


「お父様を説得して、陛下を説得して、精霊様への報告のためのお目通りの許可をもらって、どれだけ大変だったと思っているんです!?」


 カルズソーンという国は、どうやら王の上に精霊がいるらしく、国全体に関わることには精霊の許可が必要になるらしい。フォンの正体を知るまではおとぎ話の類だと思っていたが、今となっては本当のことなのだろうと信じられる。

 この精霊というのが樹木の精霊で、精霊信仰から興った国であることから、カルズソーンという国は植物を愛し敬う国民性を持っている。


 現在国中を覆っている樹木の壁も、恐らくは精霊の力を借りて作ったものなのだろう。流石に人の力のみであれをやろうと思ったらどれだけの人手が必要になるか検討もつかないからな。


 で、そんな精霊への報告も含めて、アイビーはとても苦労してこの部隊を率いてきてくれた訳だ。それを放置して別の相手とばかり話をしていれば、それは不機嫌にもなるだろう。


「ありがとう、感謝している。流石に今すぐにとはいかないが、落ち着いたら何か言ってくれ。出来る限り希望に沿う」


「え!? 何でも良いんですの!?」


「……出来る限り、な」


 さて


 こんな談笑をしている場合ではない。モンスターの殲滅が完了してすぐ、カルズソーン部隊の治療師にクルを診てもらっていた。まずはクルの容体を確認しなければ。


「クルの治療はどうだ?」


「問題ないようですわ。クル様はとてもお強い方ですから。とりあえず傷は既に塞がり、意識の方もいつ戻ってもおかしくない、とのことです」


 解析で確認してはいたが、本職の治療師の意見も同様であると聞き、やっと安心出来た。目覚めたら謝って、感謝を伝えないとな。



 次に考えるのは、今後のこと。



 獣王の撃退には成功した。これでモンスターの侵攻は止まり、しばらくすれば国内も安定を取り戻すだろう。


 が、それは一時的なもの。


 ヴィルが復活した今、世界中にモンスターが溢れていて、今までと同様の前線維持はまず不可能と考えて良い。国内の警備等の戦力も全て前線維持に送り込んで、ギリギリ耐えられるかどうか。安定には程遠い、これまでとは比較にならない更なる地獄の戦場と化すだろう。



 平和を取り戻すのなら、悪の精霊ヴィルを討伐する以外にない。



 奴は恐らく、かつてディルガドールと呼ばれていた国。そこから北へと進んだ先。遥か昔、雷の精霊ヴォルとの決戦に敗れ散ったその地にいる。



 そして、理事長の予想では、俺とレオン以外との対面を拒否する可能性がある、とのことだった。過去の話を聞いて、俺がやるべきことだと覚悟も決まっている。



 放置は出来ない。



 奴の存在は、この世界を、ひいては俺の大切な仲間たちを害する脅威となる。



「レオン」



「ああ、分かっているよ」



 行くしかないだろう。



 俺の、そして仲間たちの自由を守るために。



「なーにを二人だけで決意を固めたような顔してるのよ」



「アイリス?」


「あなたたち二人だけでどうにかなる訳ないじゃないの。わたしも行くわよ」


「あたしも行きますよ! あたしの力、必要になりますよね?」


「ティール……」


 以前からは考えられないほど自信がついたティール。自分の力が必ず必要になるのだと、だからついていくと、恐怖がない訳でもないだろうに、躊躇なく言ってくれる。


「ん」


 当然という顔でこちらを見てくるフォン。最も強力な物理攻撃がティールだとすれば、最も強力な魔法攻撃がフォンだ。ティール同様、その力は必ず必要になる。


「そもそも道中だってモンスターがいっぱいのはずですからね。わたしも、露払いくらいは出来ますよ」


「ていうか、そろそろ言葉にしなくても理解しなさいよ。何も言わなくたって、ここでわたしたちが残るなんて選択する訳ないじゃないの」


 ルー、マーチも同じ。危険は承知の上で、先ほど圧倒的な暴力に晒されたばかりで、それでも、と。


「……俺は俺の目的がある。仮にお前が行かなくたって、俺は行くぞ」


 ギラギラした目で獣王が逃げ去った方向を見遣るハイラス。


「目的?」


「お前には関係ない」


 こいつは本当に自分の過去を語らないな。モンスターに恨みを持つ何らかの過去があるのだろうというのは予想出来ているが……だから、モンスターの親玉とも言える今回の敵には個人的にも用がある、というところか。


「姉ちゃんたちを、守らないとな」


 ミュアの隣で周辺警戒をしている姉、カンナさんを見つめるフォグル。こいつにも守るべきものがある。故郷を、家族を守るためなら、どんな危険も怖くはないのだろう。


「行くぞ! 全ての敵を薙ぎ倒し、人々の平和な暮らしを取り戻す!」


「おい待て馬鹿。まだ何の準備も出来てねーよ」


 獣王との戦闘での疲労もあるだろうに、そのまま魔域へと突撃しようとするカレンを止める。こいつは放っておいたら本当に行きかねないからな。

 今、カレンは世界という何よりも大きい物を背負っている。守るべきものがある時に何より強くなるカレンなら、きっと今こそが最強なのだろう。


 何も、心配はいらないな。


「クレイ様、皆様、こちらを」


「これは?」


 アイビーからそれなりの大きさの背負いかばんを受け取る。重さも結構なものだが、何が入ってるんだ、これは?


「部隊の補給用物資です。これから何日もかけて敵地に乗り込むのですから、必要でしょう?」


「いや、それだとカルズソーン部隊の物資がなくなるんじゃないのか」


「彼らはここでヴォルスグランの部隊と共に防衛に当たってもらいますから、物資はヴォルスグランの街で補給させていただきます。遠慮なく使ってくださいな。あ、もちろん私もついて行きますからね」


 準備は万端、ということか。後は、クルの回復を待ちながら全員の疲労を抜けば、いつでも出発出来る。


「クレイさん……わたしも、ついて行きます……から」


「クル!? 大丈夫なのか?」


 目を覚ましたクルが、まだ回復し切っていないのか苦しそうに同行を申し出る。


「問題、ありません。今すぐにでも、お供いたします」


「落ち着け。俺たちも疲労が取れるまでは流石に出発出来ない。今は休め」


「はい。出発の際には、必ずお声がけを」


 それだけ言葉にして、再び眠りに就くクル。目を開けるだけでも辛いような体で、それでも這ってでもついてくるのだと言い張る。それほどまでに、俺たちのことを想っている。



 全員の意思は確認出来た。



 決戦は、近い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ