第26話 吹雪の中で
フィールドに出る。相手の2班はどちらも6人。そして全員男子か。なるほど。
「恐らく12人全員がこちらを狙ってくる。そのつもりでいろ」
「何? どうしてそう言い切れる」
「こっちを睨んでいるからだ」
現在の俺への印象は、女子ばかり集めるいけ好かない奴、事件を解決した手柄を横取りした卑怯者、王女の誘いを断った身の程知らず、特に興味なし、の4種だろう。
最初に落ちこぼれだという情報が出回ったせいで、良い印象を持っている奴がほとんどいない状態だ。では今回の相手がどう思っているのかといえば、
「嫉妬」
「そういうことだ」
実にくだらないことだが、これはありがたくもある。睨み合いになって迂闊に動けなくなるよりはよほどやりやすい。
「だ、大丈夫ですかね……?」
「大丈夫だ。作戦通りやれば問題なく勝てる」
この程度の状況は想定済みだ。この場合の動きもあらかじめ考え、班員に伝えてある。
「準備は良いか?」
審判をしている実技担当のフィガル先生が尋ねてくるので、問題ないと返事をする。他班も準備が完了しているようだ。
「では、試合開始!」
合図の瞬間、敵全員がこちらへ向けて走り出す。ちらりと班同士で顔を見合わせていたことから、他班のくせに一瞬でまずは俺たちを潰すことを決定したらしい。
ある程度近づいて、前衛はそのまま前進、後衛は魔法の準備を始める。前に出てくるのはそれぞれの班から3人ずつか。
「猛吹雪」
視界が白に染まる。何も見えないほどの吹雪が吹き荒れ、相手はおろか足元の床を見るのすらギリギリなほどに視界が悪くなる。
「カレン、そのまま前方に撃ち込め」
「剛剣・竜牙炎!」
白に飛び込み見えなくなる赤。爆発音。そして吹雪の中から悲鳴が聞こえる。命中。だが、まだだ。
「カレンは精神統一していろ。ティール、右斜め前20度、打ち込め」
ティールが木で出来たボールをハンマーで打つ。吹雪の中へ消えていき、再び悲鳴。これも命中。
「全員左方へ5メートル移動」
少し移動するだけで相手はこちらの居場所が分からなくなる。つい先ほどまでいた場所を魔法が通り抜けていく気配。ギリギリの回避だが、当たらなかったという事実が重要だ。これで相手はどこを狙えば良いのか分からなくなる。
吹雪の効果時間はもう少ししかないだろうが、充分だ。
「カレン」
「ああ、行ける」
「左をやれ」
「承知!」
カレンが心眼により敵の位置を捕捉。片方の班の殲滅を任せる。さて、そろそろ行動予測で攻撃を命中させるのも限界か。
「ティール、右斜め前5度、打ち込め」
一応ティールにもう一発打ち込ませてみるが、手ごたえなし。恐らく外したな。
吹雪が晴れていく。片方の班はカレンによってほぼ殲滅が完了しているが、まだ1人残っている。もう片方はあと4人。
「撃てええぇぇぇぇ!!」
そして4人側から放たれる魔法。巨大な岩石球が迫る。恐らく吹雪の中で無駄に動かず溜めていたのだろう。
「予想通りだ」
吹雪の中で周囲の床に紙をばら撒いていた。そこに描かれた魔法陣は、全て防御系魔法だ。それらに魔力を飛ばし、起動。
目の前に氷の壁が立ち、石の鎖が伸びて岩石球を縛り、風が岩石球を押し戻そうと吹き出す。勢いを削がれた岩石球は、氷の壁に当たって動きを止めた。
「焦焔・破断剣!」
殲滅を終えたカレンが炎を飛ばす。それは相手の魔法使いが作り出した石壁に阻まれるが、重要なのはカレンの手が空いたという事実だ。
「はあああぁぁぁ!!」
ティールが氷壁を回り込んで接近、床にハンマーを叩き付ける。轟音を響かせながら魔法強化されているはずの床にヒビを入れる怪力に驚愕する相手。その一瞬の隙に間合いを詰めたカレンに対応せざるを得なくなる。
流石のカレンも4人相手は無理だ。時間を稼ぐので精一杯。だが、注意を引くには充分過ぎる。
視線が切れた。気配を消して回り込む。背後から一人意識を奪い、二人目を落としたところで気づかれたが、もう遅い。
「炎剣・一文字!」
残りの2人をまとめて薙ぎ払うカレンの一閃。その炎は逃さず意識を刈り取り、終わり。
「そこまで! 勝者クレイ班!」
完勝だ。とはいえ、そこまで余裕がある勝利でもなかった。カレンに頼り過ぎだ。カレンと同格、もしくは挌上が出てきた場合、何も出来ずに敗北しかねない。
まだ練ることが出来るはずだ。戦力は今のままでも、もっと余裕を持った戦い方があるはずだ。ここで止まっていては、あの王子は倒せない。
「流石クレイだ! 完勝だったな!」
「やりましたー! 12人もいたのに勝っちゃうなんて、やっぱりスゴイです!」
無邪気に喜ぶ2人。それで良い。この2人は伸び伸び動かした方が力を発揮する。
「ああ、よくやった」
そうやって何も心配事などなく喜ばせるのが俺の仕事だ。実戦では頼り切りなのだから、自分の仕事くらいはこなさなければ。
「お疲れ。大丈夫?」
「お疲れ。何がだ? フォンもよくやったな」
「ううん、大丈夫なら良い」
さて、観客席に戻ろう。残りの試合も観戦して、明日以降に備えなければ。
『これにて本日の16試合全てが終了しました! 皆さん、お疲れ様でした! 人数が少ない班の勝ち残りもあり、なかなか見ごたえがあったのではないでしょうか。いかがでしたか、フルーム副会長』
『今日は素直に戦い過ぎてる班が多くて、印象に残ってるのは数班だけかなぁ。明日からはきっと勝ち残った班同士の死闘が見られると期待してまーす』
『何というか、素直に戦う班のことがずいぶん嫌いですね?』
『……えー、そんなことなーいヨ♪ 授業で習ったことキチンと実践出来てる素晴らしい子たちだと思います! フルーム拍手しちゃう! パチパチパチ!』
『はい、ありがとうございました。明日の対戦表は、くじ引きにて決められます。明日の試合開始も本日と同じ時間となりますので、勝ち残っている班の皆さんは遅れないようにご注意ください。試合開始に遅れた場合、不戦敗となってしまいます。参加者以外の観戦も本日同様自由となっています。お疲れ様でした』
終わりか。今日の試合では明らかに底を見せていない班も多い。対策はするが、それで全ての状況に対応出来るかといえば、難しいな。あらかじめ決めた作戦だけでなく、臨機応変にその場で指示を出すことも必要になってくるか。
今日の試合も、俺の読みがもっと鋭ければ、吹雪の中で敵を全滅させることも可能だった。まだ成長の余地がある。気を抜いている場合ではない。
成長がなければ、俺に待っているのは、死、のみなのだから。




