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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第10章 反逆の強襲
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第260話 さようなら

 パチンと一つ、指を鳴らす。



 瞬間



 仲間たちが反転、反王家に与する者たちへ攻撃を始めた。



「これは……一体……」


「申し訳ありません王子。詳しい説明は後ほど」


 剣を鞘に収め、戦意がないことを示してから王子に背を向ける。


「ハイラス、フォグル、フォン、ティール、ルー、城内の制圧に向かってくれ。相手が逃げ出す心配はないから、見逃しがないようにだけ注意しろ」


「茶番は終わりか?」


「分かっていたのか」


「息子の考えることくらい、わたしに分からない訳があるまい。わたしの部下も城内の制圧に向かわせよう。門は閉まっているんだな?」


「ああ、先ほど閉めた。というか、分かっていたのならもう少し手加減しろ。カレンとマーチの消耗が激し過ぎるぞ」


「演技と分かるような下手を打つ訳にはいくまい。わたしを前にして無傷でいられるなどと思い上がられては困る」


「チッ、自分で言うかよ」


 まあ実際には、カレンの精霊化もマーチの妖精化も使用していないので、本当に手加減抜きで全力でぶつかり合った時にどちらが上かは分からんがな。この場で全力を出すと周囲への被害が予想出来ないので、そこまでの全力はなかなか出すことが出来なかった。


 それでも息も絶え絶えといった様子のカレンとマーチを見るに、父の相手は相当キツかったようではあるが。


 父と話をしつつ、驚愕の表情で辺りを見回している公爵の方へと向かう。


「何だこれは……どういうことだ、クレイ・ティクライズ! 分かっているのか、貴様!」


「人質ならもういませんが、何が分かっているのか、なのでしょう」


「な、何故……!?」


「あなたからの手紙の文面を見た時から、人質の存在は予想出来ていました」


 公爵からの手紙には、『仲間を連れ、我が館まで来られたし』とあった。この文言は一見して、戦力を集めたいから出来るだけ多くの仲間を連れて来いと言っているように思えるが、別の角度から見ると、一ヶ所に仲間を集めろと言っているようにも取ることが出来る。

 これはつまり、作戦行動中に別動隊がいては困るということを示している。公爵が城にいる間に人質を救出されては作戦の全てが根底から覆るため、俺の仲間は全員今回の作戦に組み込みたかった訳だ。


「そうだ! 貴様の仲間がこれで全員であるのは調べがついている! 人質が既にいないなどと戯言を……!」


 通信機を取り出しどこかへ連絡を取ろうとする公爵。だが、繋がらない。


「何故こんな簡単な結論にたどり着けないのか、不思議で仕方がないのですがね」



 アネミカにも、仲間はいるのですよ?



「なっ……馬鹿な……アレには外部に連絡出来るような端末を持たせてはいないはず……」


「面白い奴なんですよ。可能性の欠片をいくつか見せてやるだけで、直感的に正解にたどり着き、それに躊躇なく従えるんです。こちらに来る前に少しだけヒントを渡しておきました。そしたらこの通り」




「オラァ!! 世界最強のお通りじゃあ!!」



「ちょ、コート!? ここ、マジで世界最強候補が何人かいるから、迂闊なこと言わないで!?」




 ドタドタと騒がしく謁見の間に飛び込んでくるコートとアネミカ。門を閉めろとしか指示を出していなかったが、どうやら戦場と化した城内を駆け抜けここまで来たらしい。


「ご苦労だったな、お前たち」


「あ、先輩。あの訳分かんねーメモ何だったんスか?」


「反逆者を一網打尽にするための一手だ。お前たちの手柄だぞ、誇って良い」


「え、マジすか!? いやー、まいっちゃうなー」


 素直に照れるコートと対照的に、こわばった表情で公爵を見るアネミカ。


 が、意を決したように一歩前に出て、口を開く。


「お父様」


「アネミカ、何をしている! 許可するまで部屋を出るなと言っておいただろう!」




「わたしは、あなたの道具ではありません」




「…………? な、何を当然のことを」


「本当に理解出来ないのですか? だとしたら、お父様」




 あなたはもう、救いようがない




 混乱したように頭を抱える公爵。この人……自分がまるで道具のようにアネミカを使っているという自覚がないのか。まさかここまで終わっている人間だったとはな。

 自分の目的、娘を取り戻す、という一点に集中し過ぎて、その他がまるで目に入っていないのだろう。


「弟よ、お前、理解しているか?」


「な、何をだ」



「自分が憎む貴族たちと、同じことをしているという事実を、だ」



「な、何だと!?」


「愛した妻を追い詰めた者共が憎いのだろう? 平民だからというだけの、彼女自身には何の罪もない理由で攻撃した者共が憎いのだろう? それを知っていて救いの手を差し伸べなかった周囲が憎いのだろう?」


「そうだ! 奴らは妻を死へ追いやった悪魔だ! 必ずその報いを」




「お前が現在妻や娘にしていることと何が違う」




「な……に……?」


「確かに弱ったお前に付け込んだ婚姻だったかもしれないが、それが今のお前の妻自身の罪か? 彼女はお前に何か悪意を持って接したのか? 彼女や娘を冷遇するお前は、お前が憎む貴族連中と何か違うのか?」


 陛下の言葉一つ一つが、公爵を貫く矛のようで。陛下が一言発する度に、公爵の顔が苦痛に歪む。


「い、や……わたしは、ただ、娘を取り戻そうと……そう、亡くした妻のためにも……」


「お前がまるで道具のように接するそこの少女は、お前の娘ではないのか?」


「…………」


 完全に口を止め、ただ茫然とその顔をアネミカへと向ける公爵。


 やっと真っすぐ娘のことを見たその目を迎えたのは、



 自身を睨みつける、敵意だった



「あ……」


「初めて。生まれて初めてきちんとわたしを見てくれましたね、お父様」


「わたしは……そんなつもりでは……!」




「さようなら」




 熱断の光線(レイ・セイバー)




 アネミカの手から放たれる熱線が公爵を貫き吹き飛ばす。床に倒れた公爵は起き上がってこない。


「治療し、拘束しておけ」


 陛下の命令で別室へと運ばれていく公爵。その処遇はこれから決定されるのだろうが、処刑は免れないだろうな。


 さて、やっと解決か、とのんびりしている訳にもいかない。陛下の前へと進み出て膝を突く。


「陛下、此度の騒動に加担した学生たちの行動は、全てわたしの指示で動いた物であります。ゆえに、どうかここはわたしの首一つで、温情を賜りたく」


「はぁ……結論を急くな。我も疲れているのだ。端的に述べるなら、お前たちは無罪とする。落ち着いて、今は騒動の収束まで待て」


「ありがたきお言葉。では、わたしも城内にて未だ暴れている反逆者らを拘束しに参ります」


 謁見の間を軽く見渡し、この場は問題ないことを確認する。父や団長もいるし、簡単に治療を受けた第一王子も、アイリスやレオン、クルだっている。この場は何も心配いらないだろう。

 疲労であまり動けないカレンやマーチはここで休ませ、俺も城内の制圧に向かう。


「お前の息子は、お前によく似て真面目だな、レイドよ」


「恐縮です、陛下」


「褒めてないよ、皮肉だよ、レイド。無駄に真面目で見てて疲れるなーって言ってんの」


「黙れ、シュデロ。お前は逆に娘のひた向きさを少しは学んでみればどうだ」


「俺は常にカレンちゃんからあらゆる要素を学んでるから大丈夫ですー」


 謁見の間を出る前に、そんな会話が背後から聞こえた気がした。

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