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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第10章 反逆の強襲
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第259話 思考を現実に

 解析魔法によって脳内に描かれた周辺地図に魔法陣を描き込み、転写魔法によってそれを現実に呼び出す。


 俺が普段から用いている解析転写は、よく考えなくても異常だ。


 何となく出来そうだからというだけの理由で習得した転写魔法だが、脳内に描いた魔法陣を現実に転写? 何だそれは。理屈に合わない。



 だが、出来る



 学園の図書室で転写魔法の本を見た瞬間、直感的に出来ると思った。だから練習して、習得した。


 そうなると、次に来るのはもちろん、更に出来ることがあるのではないか、という思考だ。




 王子の持つ剣の先が、剣身の半ばから折れたように飛んでいく




「…………え?」


 何度も何度も剣がぶつかり合う瞬間に、魔力を流し込んでいた。


 俺の魔力量では、人間に直接影響を及ぼすほどの魔法は使えないが、剣なら。更に付け加えるなら、剣全体ではなく、剣身の一部分だけなら。



 解析転写と同様のやり方で、この世界から削除することが出来る



 その結果、王子が剣を振る勢いで削除された部分より先の剣が飛んで行き、その攻撃が空振りに終わる。



 何が起きたのか分からない王子は、混乱から思考を止める。動きが完全に停止し、呆然と先のなくなった剣を見つめる最強王子。



 踏み込み、全力で剣を振り下ろす



「っ!?」


 それだけの隙があってなお、戦場で鍛え抜かれた生存本能が体を動かす。俺の剣を回避するべく足が動く。



 だろうな



隠形魔法陣(ハイド・マジック)



「くっ!?」



 それも読んでいた。咄嗟に動かした足がつまづくように、床に隠していた魔法陣から出っ張りを設置。これにつまづかないように回避するなど、今の王子には不可能。



 体勢が、崩れる



 振り下ろしから、横薙ぎへ




 これで決める




「おおおおおおおぉぉぉぉぁぁぁッ!!」




 身の底から力を絞り出すように、気合いの咆哮と共に振り抜いた剣が、遂に、届く。



 俺の剣によって吹き飛ばされた王子は、何度も床を跳ねながら転がり、やがてその身を横たえた。



「はぁ……はぁ……」


 流石に削除は魔力消費が多い。戦闘での疲労も相まって、体が重い。



 だが、勝っ



「ふふふ……はっはっはっ!!」



 ぽたり、ぽたりと血を落としながら、その身にはっきりと大きな傷を負いながら、




 それでも、立ち上がる




「まさか、直撃をもらうとはね……くっ、ててて」


「……剣が直撃して、いててで済ませてもらっては困るんですが。本当に人間ですか」


「分かるだろう? 念のための備え、というやつさ」


 ああ、もちろん分かるさ。雷を身に纏っていたんだろう。だから、俺の攻撃が想定より浅く入った。


「とはいえ、流石に直撃は痛い。この傷も放置すれば命に関わるだろう。誇って良いよ。俺にこれだけの傷を負わせられるなら、君は人間最強格だ」



 だが、最強は俺だ



 その場に立っているだけで、床にヒビが入っていく。雷がその身から溢れ出し、向かい合うだけで膝を突きたくなる威圧感が襲う。


「本当は、あまり本気を出す気はなかった。周囲への被害もあるし、君を倒した後にもまだまだ敵はいるからね。消耗は最小限に抑えたかった。でも、駄目だな。謝ろう。俺は君を侮った。ここからは、その実力に敬意を表し」




 正真正銘、全力で叩き潰す




 王子が一歩を踏み出そうとした、まさにその時、




 城の門が、閉まる音が聞こえた。




 来たか




「いえ、もう終わりです」


「何?」








 自分の家なのに、全く気が休まらない。当然か。だって、わたしがここに囚われているせいで、城では今まさに国をひっくり返すような戦いが起こっているんだから。



 わたしは何をやっているんだろう。



 昔から、思っていた。父は、きっとわたしにもお母様にも愛情なんて持っていないんだろうなって。それも仕方がないのかもしれない。だって、お母様は無理矢理この家に入り込んだ、父からしてみれば異物でしかないから。

 父が妻を亡くして塞ぎ込んでいた時、ろくに意思表示も出来ないのを良いことに、王弟の権力を欲しがったお母様の父、つまりわたしの祖父が、無理矢理決めた婚姻だったそうだ。


 わたしは、貴族が嫌いだ。国が、家系が、そして何よりも、権力が嫌いだ。


 もちろん、権力を持つ人間がいるからこそ上手く動くことだってあるんだろう。そんなことは貴族としての教育を受けてきたのだから当然知っている。

 それでも、わたしにとって権力とは、人を不幸にする最悪の病魔でしかない。権力に触れると人はおかしくなる。貴族なんていう特権階級があるから、わたしたちはこんなに辛い。



 こんな家、壊れてしまえば良いのに



 そんなわたしの意思が現実になったかのように、



 どおおぉぉぉん



 建物が、揺れた



 どおおおおぉぉぉぉぉん!



「な、何……?」




 どごおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!!




 わたしを閉じ込めている部屋の扉が、轟音と共に爆散する。


「お、いた」


 そして、その壊れた扉を通って現れたのは、真っ赤な髪をなびかせた、ガッシリした体の男。わたしがよく知っている男。


「コート……?」



「おう、俺だ。久しぶりだな、アネミカ」



 コート・ワードスカークがそこにいた。


「な、何を……何をやってるの、君は!?」


「いやー、クレイ先輩にアネミカはいるかって聞かれてな。普通にしばらく休んでるって答えたんだが、なーんか、直感的にヤバいことに巻き込まれてるんじゃねーかって思って」


「直感的にって……そんな曖昧な感覚で公爵に喧嘩売ってるの!?」


「良いじゃねーか。俺の直感は強みらしいからな」


 そんなことを言って笑うコート。そんなのんきな。


「馬鹿じゃないの!? 自分が何をやってるか分かってる!? ここは公爵の屋敷なの! 公爵っていうのは、貴族の中でも最上位の位で、平民の命なんか呼吸するくらい簡単に消せるほどの権力があるの! それなのにこんな……」


「あー、分かってるってうるせーな」


「全然分かってない! 分かってるならこんなことする訳ないでしょ!?」




「何言ってんだ。お前のためならこれくらい何でもねーって言ってんだよ」




「んなっ! なっなっなっ……」


 何言ってるのかな!? コートはホントにもー!


「それに、お前が言ったんだろ」




 俺たちで、この国を変えるって




「っ!」


「公爵だろーが王族だろーが知ったことかよ。何を権力にビビってんだ。それを変えようって言ってんのに、ビビってたら何も始まらねーだろうが」


「……ホントにもー、君はさー」


「何だよ」


「ホントにバカだよもー」


「はあ!?」


 確かに、コートの言う通りだ。コートにはこういうところがあるって分かってて、いつかこうやって権力を覆すようなことをしてくれるんじゃないかって期待して。


 だからわたしは、コートと組むって決めたんだから。


「じゃ、行こうか」


「行くって、どこにだよ」


「あー、はいはい、ちゃんと一から説明してあげるから」


 今何が起きているのか、何故わたしはこんなところに閉じ込められていたのか、全てをコートに説明していく。

 改めて意味わかんないよもー。何でこういう事情を全く知らないのにこんなところに来てるんだろう、このおバカは。


「あー、なるほど。じゃあこの紙はそういうことか」


「ん? 何これ」


「クレイ先輩が渡してきたんだよ。アネミカと会ったら見ろって」


「え、どういうこと……? コートがここに来るって分かってたってこと……? それにこの内容……」




 そこには『門を閉じろ』と書かれていた

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