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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第25話 学年の頂点の実力

 ヴォルスグラン王家は雷魔法が得意。これはそれなりに知られている情報であり、王女への対策を怠った2班が負けるのは必然だった。とは言い切れない。

 まずクル・サーヴの圧倒的身体能力。見ている限りではカレンに匹敵しそうなレベルだった。速度だけならカレンより上だろう。これを放置は出来ないと思い、1人なのだから素早く片付けて他に集中しようとするのは間違ってはいない。

 問題だったのは、逃げに徹する相手を追いかけたことだ。身体能力に勝る敵に追いつける訳がなく、これは一目で放置を選択しなければならなかった。


 そして、仮に追いかけるにしても全戦力を向けたのも問題だ。瞬殺のために行ったのだろうが、せめて1人、出来れば2人の後衛をアイリス王女への牽制に向け、悠々と魔法の準備などさせてはいけなかった。


「流石ヴォルスグラン王家。素晴らしい雷魔法だな」


「上から目線で相応の力を持っているのか確認してやろうみたいなことを言ってなかったか?」


「う、うるさい! 素晴らしい物を褒めて何がいけないんだ!」


「いや、何もいけなくはないが」


 そう、実際アイリス王女の魔法は素晴らしい。凄まじいと言っても良い。雷魔法は使いこなせば確かに強いが、逆に使いこなせなければ最弱になり下がる魔法だ。

 速さだけ優れていて指先が軽く痺れるだけの威力になったり、威力を追及して射程が1メートルしかなくなったり。そんなことが当たり前のように起こるのが雷魔法だからな。

 100メートル以上を一瞬で貫き、一撃で気絶するほどの威力を持つアイリス王女の魔法は、初見での対応が非常に難しい。成すすべなく敗北した2班を攻めることは出来ないだろう。


「対策出来た?」


「相手が2人なら対策するほどのこともないがな。アイリス王女の魔法は同等の魔法使いがいればどうにでも出来る」


「いなかったら?」


「難しいことを聞くな。雷魔法は直線にしか飛ばせないという欠点がある。アイリス王女の魔法発射タイミングを予測すれば避けられるんじゃないか?」


 そう簡単でもなさそうだが。それを見てタイミングをずらすくらいはしてきそうだ。



「じゃあ王女の班と当たったらわたしは手を出さないから」



「……は?」


「ちゃんと勝ってね」


「おい、待て待て!? どういう意味だ!?」


「フォンさん? 何を……」


「何を騒いでいる。次の試合が始まるぞ」


 手を出さない? 3人でやれということか? 何のために。班が負ければフォンの評価にだって響くんだぞ。そうでなくても、それぞれがどんな動きをしていたかは教師も見ている。ただ突っ立っているだけで勝利しても高い評価は望めない。

 それを理解していない、などということはフォンに限ってあり得ないだろう。何か考えがあるのは分かるが……。


(歩み寄りは大切)


 これが歩み寄りだとでも言うのか。いや、今は置いておく。ここまではっきり宣言されてしまった以上フォンは戦力として数えられない。王女と当たらないならそれで良いが、当たった場合の作戦を考えなければ。






『さて、第八試合まで終了しました。これで半分が終わった訳ですが、どうですか、フルーム副会長』


『うーん、あんまり工夫された試合がない印象かなぁ。みんな優秀なのは分かるんだけど、教科書通りでつまんなーい。もっとあたしが思いもよらないような作戦で戦って欲しー』


『そんな無茶な。奇策なんてそうそう使われないから奇策というのでしょうに』


『実力差や不利な局面をひっくり返すために使うのが奇策だよ。つまり奇策も使えずに負けるような班はもっと頭を使ってネ♪ ってこと』


『さてさて厳しいお言葉が飛び出しました1年生限定班対抗戦! では後半に参りましょう! 第九試合の参加班は、コイル・カネーライ班、バルン・ドルシャ班、そしてレオン・ヴォルスグラン班です。準備をお願いします』


『ついに登場だね、レオン・ヴォルスグラン第二王子。アイリス王女も凄かったけど、それ以上だという噂は聞いてるよー』


『学年トップらしいですね。私はそれ以上は知りませんが、やはりお強いのでしょうか』


『アイリス王女の魔法能力にプラスして剣も使えるって言えばその凄さが分かるんじゃないかな? 弱点はどこにあるのか、いやー、怖いねぇ』


『フィールドに参加班の皆さんが出てきました。おっと、ドーム全体に響く黄色い歓声! 凄まじい人気ですレオン王子!』


『まだ何の活躍もないはずなんだけど、やっぱり立場と顔を兼ね備えた人は人気だよねー』


『……面白くなさそうですね?』


『べっつにー』


『試合開始前からレオン班以外はやりづらくなりましたね。観客のことは気にせず力を発揮してもらいましょう! 今、試合開始の合図が……されました!』



「閃脚! 雷神衝!!」



『一瞬!! 残光を引き連れフィールドを駆け抜けたレオン・ヴォルスグラン! コイル班の中央まで入り込み剣を振り抜くと、輪状に雷が広がります! 何とそれだけでコイル班全滅! その間、レオン班の班員が魔法でバルン班を牽制します!』


『ああー、こりゃ駄目だ。実力差があり過ぎるね』


『そして再びの高速移動! 誰もレオン・ヴォルスグランを止められない! 試合終了ーっ! 勝者レオン班です! 何と1分もかからず試合が終わってしまいました!』





「……ほえー」


「まさか、これほどとは」


 考えが甘かったか。いくら王子が強かろうと、カレンなら互角にやれると思っていた。カレンが王子を引き受けてくれている間に、連携が取れていないであろう班員を殲滅し、全員で王子にかかれば問題なく勝てる。そう思っていた。

 実際、カレンなら今の試合のように瞬殺されたりはしないはずだ。ある程度戦えるのは間違いない。だが、互角とは程遠い時間稼ぎになりそうだ。


 甘かった。想定が。楽観が過ぎた。カレンの実力はトップクラスで、ティール、フォンも得意の一芸に限れば最上位。それが俺の指示で動くのだから、どうとでもなる。そう思っていた。

 だが、本物のトップは俺の想像を容易く超えている。実技授業では全く見えていなかった頂点。


 俺が見誤ったら終わりなんだ。相手の実力を過小評価し、楽観で作戦を組み立て試合に臨めば、その瞬間負けが決定する。カレンを班に引き込めたことで気が大きくなっていたか。常に最悪を想定する思考を忘れていた。


『第十試合の参加班は、ゴール・ヴォース班、ラス・コンス班、クレイ・ティクライズ班です。準備をお願いします』


 研ぎ澄ませ。先を見ろ。楽をするな。思考しろ。全てを読み切り、勝利のみを手に入れる。


「クレイ、呼ばれたよ」


「クレイさん? 行きましょう」


「行くぞクレイ! 初戦だ、華々しく勝利しよう!」


 目を開く。立ち上がり、歩き出す。



「ああ、行こうか」

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