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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第10章 反逆の強襲
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第258話 削除

「そ、んな……!」


 動きを止めるアイリス。その動揺が魔法に影響し、雷のドームに綻びが出来る。


 うーん、一応壊した方が良いかな。


 崩れかけた部分に氷の飛礫を撃ち込んで穴を開ける。一部が破壊されたドームが、その穴が広がるように崩壊を始めた。


「待ってください。双子の僕でさえそんな話は聞いたことがない」


「当然だな。我がこの手で奴から直接奪い取り、自身の子であるとしてその真実を誰にも話していないのだから」


 流石にアイリスやレオンの出産に立ち会った医師は知ってそうだけど、それくらいかな。よくこれまで隠し通してきたものだ。


「何故……何故そんなことを……?」


「…………」


 王は答えない。……そっか。答えないんだ。こんなのでも、弟だからってことなのかな。


「今ここで! 貴様を打倒し、娘を取り戻す!! 覚悟しろ、ガルゾッ!!」


「……そうか」


「どのような理由があろうとも、自分の息子を前線に送るような人間に娘を預けてはおけん!!」


 そこで。その公爵の言葉を受けて、



 これまで静けさを保っていた王の目が



 見開かれた。




「俺が、自ら望んで息子を戦場に送ったとでも言うつもりかッ!!」




 それは、怒りだった。常に冷静に、たとえ犠牲を払おうとも国を、人々を守ると誓い、ただ前進してきた王が初めて見せた、人としての怒りだった。


「そんなことをする気はなかった! そうとも、お前の言う通りだ! どのような理由があろうとも、息子を前線送りになどするものか!!」


「では現状をどう説明するつもりだ!」


「息子が! フルズが自ら前線に向かったのだ! 俺の王としての評価を気にして、自分が前線に行きさえすれば人々の支持を得られると言って!! 俺は評判などどうでも良かったというのに!!」


 そっか、そうだったんだ。確かに、この王はアイリスやレオンのことを愛しているように見えたから、どうして息子を前線に送ったのか不思議だった。


「お父様……」


「アイリス、確かにお前は俺の実の子ではない。だが、それでもお前は俺の娘だ」


「……はい!」


 アイリスに笑みが戻る。それを見るレオンとクルもまた、笑顔だった。


 まるで問題解決のような雰囲気。だが、当然そんなことはない。



「ふざけるなあああぁぁぁぁッ!!!」



 公爵の手から放たれる魔法。一直線に、最速で王を撃ち抜かんと迫るその一撃は



「ふっ!」



 前に出たレオンの剣によって斬り裂かれ、消滅していく。


「アイリスはわたしの娘だ! 盗人がまるで家族のように笑っているんじゃない!!」


 激昂する公爵。その目は視線だけで王を射殺そうとしているかのように鋭く睨みつけ、噛み締めた歯からギリギリと音が聞こえるほどに食いしばっている。


「お前は、本当にアイリスを愛しているというのか?」


「当然だ! 娘を取り戻すためにここまで準備をしてきたのだ!」




「ではあの日、今にも死んでしまいそうだったアイリスを放置していたのは何故だ」




「…………は?」


 確信した。やはり予想は当たってたんだ。


「妻を喪った悲しみに捕らわれ、生まれたばかりの赤子を放置した。自分のことしか考えられぬお前に、親たる資格はない!」


「な、何を……何を言っている!」


「記憶を封じたか。我が身可愛さに現実と向き合うことすら出来ぬお前が、何故子を愛しているなどと言える」


 公爵の以前の妻は、子を産んですぐ亡くなったという。恐らくその悲しみで、公爵は一時期周囲に構う余裕がなかったのだろう。

 その当時、アイリスは何も出来ない赤ん坊。世話をする人間がいなければすぐに死んでしまう。父親としての役割を放棄し自分の殻に籠った公爵には、何も出来なかった。


 使用人は何をしていたのかは不明だけど。もしかしたら、平民の出身だという夫人を使用人ですら見下していたのかも。うん、十中八九そうなんだろうな。でなければ、ストレスで弱っていく夫人を支える誰かがいたと思うし。


「ていうか、自分の娘を人質に取るような人間だし。アイリスを取り返したいのだって、自分の物を奪われるのが嫌だからなんじゃないの」


「黙れ! 伴侶も子もいない貴様のような子供に何が分かる!」


「分からない。お前みたいな奴の気持ちなんて、分かりたくもないよ」


「娘を人質に……? なるほど、だから皆は……」


「そういうことか。ようやく把握出来たぞ。ならば、早急に愚かなる弟を捕らえ、この無益な争いを治めねばならんな」


 こちらの事情を理解し、アイリス、クル、レオンもやる気を取り戻した。これはもう無理だね。勝てない。


「チィッ! おい、フォン・リークライト、分かっているだろうな」


「はいはい。ちゃんと守るから、好きに戦えば」


 ちゃんとって言っても、わたしが出来る限りって意味だけど。








「俺が、自ら望んで息子を戦場に送ったとでも言うつもりかッ!!」


 聞こえてきたその怒声に、王子が足を止めて振り返る。


「父上……」


 その顔は父親への親愛で満ちている。なるほどな、陛下が前線送りにした訳ではなく、この王子が自ら前線行きを希望した訳か。




 隙を見せたな




「シッ!!」


「うおっ!?」


 全力で間合いを詰め突き出した剣先を、僅かに顔を逸らすことで避けられる。別に良い。これで決まるなんて思っていない。


 この戦いが始まって、初めて先手を取った。俺が自由に攻撃出来る、これが最初で最後の機会。



 しがみ付け、この限りなく細い勝機に



 全力で振り抜いた剣を、掲げた剣に止められる。ギリギリの受け流しをしていた俺とは違い、体勢が崩れた状態でなおもわずかに押し込むことさえ出来ない圧倒的力の差。そのまま剣を弾かれ、引き戻す間もなく横薙ぎの剣が飛んでくる。


 読めている。


 その剣の間合いの更に内へ。剣を回避しつつ俺が突き出した拳は空を切る。


 それで良い。ただひたすら攻め続けろ。相手に主導権を与えたら、その瞬間に死が待っている。


 剣を振り抜く。弾かれる。俺が剣を引き戻すまでの間に放たれる剣を魔法陣からの石弾で止め、蹴りを回避させることで更に相手の動きを一手使わせる。

 そこまでしてやっと剣による次撃が放てるまで戻ってきたので、床を擦る勢いで斬り上げ。剣の柄で軽く止められ、弾き上げることさえ叶わない。


「いい加減諦めたらどうかな。分かっていると思うけど、君の剣は見てからでも止められるんだよ。拳も、脚も当然同じ。確かに君の攻撃は異常なほど見えづらいけど、どれだけ不意を突かれようが関係がないんだ」


 そんなことは分かっている。それだけではない。城内という上に周囲に騎士たちが多くいるこの環境が、彼の強大に過ぎる魔法を封じている。

 本当なら、こんな戦いは俺が回避も防御も出来ない魔法による一撃で終わっているんだ。相手に手加減を強制して、こちらはボロボロになるまで戦って、それでもかすり傷一つ付けられない。


 それが、俺と第一王子の実力差。



 だから、今必要なのは



 この王子の動きを完全に停止させる




 常識ではあり得ない、奇跡の如き一手




 再び剣と剣がぶつかる。俺がどれだけ悪あがきをしようが、いつまでもこちらの攻めが続くなどあり得ない。


 少しずつ、少しずつ、あちらへと主導権が動いていく。


 次、剣がぶつかり合って弾かれれば、完全に俺の攻撃は止まり、後手に回るだろう。


 そして、



「これで終わりだよ」



 再び剣と剣がぶつかり、先手が王子側へと移る



 その直前




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