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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第10章 反逆の強襲
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第251話 一時帰宅

 何故か全くカレンが勉強を教えて欲しいと言いに来なかった試験前の期間が過ぎ去り、あっという間に学科試験を終えた。少し寂しいような、カレンも成長したものだと嬉しくなるような複雑な気分だ。


 そしてそんな学科試験の結果が掲示される日。



 2年生の教室が並ぶ3階の廊下が尋常でない混み方をしている。



「何だこれは」


 明らかに同級生でない人間が多数いることが確認出来る。そもそも廊下の掲示板のみに結果を貼り出すのは止めたはずなので、各教室でも試験結果は確認出来る。

 つまりここに集まっている多くは同じ2年生ではなく、他学年、というか見れば分かる。あの人だかりの多くは後輩だ。


 今までの癖で廊下の掲示板を確認しようとしている2年生と、何故か集まっている1年生、あとはその様子を面白そうに見ている少数の3年生によって、廊下の人口密度が今まで見たことがないほどになっているようだ。


「あ、クレイ先輩!」


「え、クレイ先輩来たの?」


「ホントだ!」


 集団の後方にいた1年生が、俺の存在に気が付き声を上げた。その瞬間、集まっている後輩たちが一斉にこちらを振り返る。


 そして、あっという間に取り囲まれた。口々にわーわーと騒ぎ何を言っているのかよく聞き取れないが、どうやらこの後輩らは俺のテスト結果を見に来たらしい。

 慕ってくれるのは良いのだが、これはどうしたものかな。さっさと教室に行きたいのだが。



「はいはーい、落ち着きなさーい」



 パンパンと、手を打つ音が鳴る。その音は何かで増幅されているかのように良く響き、騒ぐ後輩たちをあっさりと静かにしてくれた。

 そして、人垣を通り抜けてアネミカ・コルトネルスが俺の前までやってくる。


「どもども、すいませんね、騒がしくて。みんな学園に入る前から先輩の学科が常に満点だっていう噂は聞いてたものですから、気になっちゃって仕方がないんですよ」


「そんなに気になるものか? どちらかと言うと、俺としてはコートの点数の方が気になるが。あいつ、本当に成績が良いのか?」


「みたいですよ。今回は950点でした」


 本当に高いな。実技はあくまで予想だが恐らく同様に950点程度。合計1900点は、首席というのも納得出来る点数だ。レオンの奴は入試で970点、970点だったらしいので、もしコートが俺たちと同学年だったら首席にはなれていないが。


「で、これは何の集まりだ?」


「気になるんですよ、先輩のことが。噂では聞いてますけど、毎回満点なんて、そんなことがあり得るのか? 流石に誇張されてる情報じゃないか? そう考えて、じゃあ結果を見てみよう、という」


 周囲を見れば、その通りだと頷く後輩たち。そんなくだらないことでここまでの人数が集まったのか。暇なのか?


「ならもう確認は出来ただろう。さっさと解散しろ」


「いやいや、事実だったら事実だったで、じゃあ気になるじゃないですか。どうやって満点なんて取れているのか」


「さあな。俺にお前らを育ててやる義務はない」


「うわー、とっても塩対応。でもそこを何とか……」


「はぁ……勉強しろ、授業を聞け、見直しをしろ、覚えたことを忘れるな。鍵は継続的な勉強だ。これを面倒だと思ってやれないなら点は上がらん。以上、解散」


 俺のように一度見たものは完全に記憶出来るのなら多少話は変わってくるが、そうでないなら継続的に勉強を続け、何度も繰り返すことで記憶に刻み込んで忘れないようにするしかない。

 別に冷たくしている訳ではなく、本当にこれ以上言えることがない。満点を取る裏ワザなど存在しないのだから。


「要するに、やるべきことをコツコツやれってことですね。じゃあそういうことで、君たちかいさーん」


 アネミカの号令でやっと移動を始める後輩たち、朝から元気なもんだな。


「で? 実は何かコツがあったり」


「しない。お前も教室に戻れ」


「じゃあじゃあ、一日にどれくらい勉強してるかだけでも教えてくださいよ」


「普段は授業くらいだ。休みには1、2時間くらいか。気分次第だから、決まってはない」


「それだけで満点なんて、世の理不尽さを感じますね」


「理不尽ってのは努力ではどうにも出来ん部分のことを言うんだ。勉強すればどうにかなる可能性があるこんなものを理不尽とは言わん」


「……なるほど、確かに」


 これで納得出来るあたり、こいつやはり……。


「で、お前の悩みは何だ? 勉強のことが聞きたかった訳ではないんだろう?」


「…………何のことです?」


「ふん、まあ良い。どうしても聞き出して解決してやりたい訳でもない。誤魔化すのなら、そういうことにしておく」


 最近どうも俺たちの周囲をうろちょろしているようなので、何か相談したいのかと思ったがそうでもないようだ。悩みがあるのは間違いないはずだが。

 相談以外で目的があるとすると、何だろうな。流石にこの場でパッと即座に思いつけるほど簡単ではない。


「俺にとってはお前の悩みなどどうでも良いことだ。だから無理矢理聞き出したりはしない。だが、一つ覚えておけ」


「何ですか?」




「コートにとっては、お前の悩みはどうでも良くないという紛れもない事実を、だ」




「……!」


 あの馬鹿は素直じゃないから、絶対に面と向かってアネミカに感謝を伝えたりはしないだろうが、実際にはどれだけ感謝しているかなど容易に想像出来る。

 学力は高くとも頭は大して良くないコートにとって、気持ち良く突撃出来るように支えてくれる後衛の何とありがたいことだろうか。


 そうでなくとも、日常生活で色々と世話になっているだろう。態度の悪いコートが周囲とぶつからないようにフォローしているのはアネミカなのだから。


「あいつにとって、お前は大切な仲間で、唯一無二の相棒だ。心配させるようなことは慎むんだな」


「…………そうですね」


「分かったらさっさと教室に戻れ」


「はい。では、失礼いたします」








「クレイ、少し良いかい?」


 アネミカとの会話を切り上げ教室に入ると、レオンが話しかけてきた。今日は忙しいな、と思いつつその顔を見れば、何やら嬉しそうだ。


「どうした?」


「実は、兄上が久しぶりに帰ってくるそうでね。少し学園を休んで城に戻ることになった」


 ほう、前線を支え続けているというあの英雄フルズ・ヴォルスグラン第一王子が帰ってくるのか。


「ということは、もしや」


「ああ。アイリスも同じだね」


 だろうな。レオンだけ帰ってアイリスが学園に残る意味が分からない。二人とも城に帰ることになるのだろう。アイリスが帰るということは、クルも一緒か。


「だから、大丈夫だとは思うんだけど、僕の班員を少しの間よろしく頼むよ。僕よりよっぽどしっかりしているし、何もないとは思うんだけどね」


「今はアイビーもいないしな。一応、少し気にかけるくらいはしておこう」


「悪いね。共同トレーニングでもして鍛えておいてくれるとありがたい」


「俺が鍛えてやれるメンバーなど、せいぜいルーくらいのものだと思うが。というかわざわざ特別なトレーニングをしてやったりはしないぞ」


 何故俺が自らライバルを育ててやらねばならないのか。そういうのは自分たちでやってくれ。


「そんなこと言って、僕たちが何度クレイにメンタルケアをしてもらったか分かったものじゃないだろ? 特に最近ハイラスが情緒不安定気味だからさ、よろしく頼むよ」


「あー、そうだな。最近あいつ何かおかしい時があるよな。妙に元気というか、盛り上がっているというか」


 ハイラスに関しては、正直俺にもあまり分からんのだがな。何なんだろうか。モンスターに恨みがありそうなのは何となく察せるところだし、これからの戦いに向けて気合いが入り過ぎているとかだろうか。

 今すぐ戦いが始まる訳でもないのだから、あんな精神状態ではいつか駄目になりそうな気もする。確かに少し気にしてやった方が良いかもしれない。


「クレイが引き受けてくれるなら、僕は安心して帰ることが出来るからね」


「本来なら班長としてお前がやることなんだぞ?」


「そうなんだけど……僕がメンタルケア? 流石に怖い。余計なことを言って悪化させかねないよ」


 否定出来ないのがこいつの悲しいところだ。


「まあ良い。さっきも言ったが、気にかけるくらいはしてやる。安心して行ってこい」


「ありがとう。出来るだけ早く戻ってくるようにするから、よろしくね」

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