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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第10章 反逆の強襲
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第250話 勉強会?

 借りていた今日が返却期限の本を返しに図書室へ向かう。本当はもっと早く返すつもりだったのだが、クレイのせいで忘れていた。

 クルはお店の方へ行ったので、今は一人だ。あの子もドンドン自主性が増してきて、良い傾向だと思う。


 その分クルが一人で行動することも増えてちょっと心配なんだけれど……自分の意思で戦うことも出来るようになったし、あまり過保護過ぎるのも良くないわよね。


 図書室の扉を開け、中に入る。そこでは予想通り、フォンが本を読んでいた。


 が、そのフォンの対面に意外な顔が。


「カレン?」


「む、アイリスか。何か用か?」


「いえ、わたしはただ本を返しに来ただけ。あなたこそ何やって……勉強?」


 カレンの前にはノートと教科書が広げられていて、どう見ても勉強中という様子。まさかカレンが自主的に勉強しているなんて。


「ビックリね……明日は炎の雨でも降ってくるのかしら」


「うるさいぞ! 文句でもあるのか!?」


「ゴメンゴメン、文句なんかないわよ」


 フンと一つ息を吐いて、再びノートに向かうカレン。その手はあまり止まることなくスラスラと動いていて、スムーズに問題を解いていることが窺える。

 確かに最近は入学時とは比べ物にならないくらい学科の点数が上がっているカレンだが、それにしたって一人で勉強出来るほどとは。よく出来るようになってしまったものだ。


「もうすぐ学科試験だろう。お前も本ばかり読んでないで、勉強したらどうだ」


「やってない訳じゃないけれど……でもそうね。せっかくだし、一緒にやっていこうかしら」


 予定通りに本を返却し、カレンの隣に座る。本を返したらそのまま帰るつもりだったので、カバンも持ってきている。そこから教科書やノートを取り出し、勉強開始。


「今回はクレイに頼らないの?」


「2年になったし、わたしもいい加減クレイに頼らずとも勉強出来るようにならなくては、とな。今まで頼り切りだったのだから。クレイも迷惑だっただろう」


「良い心がけだと思うわ。でも……男子って意外と、女子に頼られると嬉しかったりするらしいけれど」


「なに? ……本当か?」


「いや、知らないわよ、わたしだって男子じゃないんだから。聞いたことがあるだけ」


 聞いたことがあるっていうのも、誰かの実体験とかじゃなくて本で読んだだけだし、実際は分からない。でも大抵はそうやって書いてあった。


「じゃ、じゃあ実はクレイもわたしに頼られて嬉しかったり……?」


「絶対ないとは言わないけれど……あなたの場合、元が元だからねぇ。最初は相当面倒くさがられてたんじゃない?」


 勉強が出来ないだけならともかく、出来ない上にやる気がない人間に教えるのは相当大変だっただろう。あの頃のカレンはまさにそんな感じだった。

 カレンのために模擬テストを作って採点して、ご褒美まで用意して。やっていることが同級生のそれではなかった。過保護な親レベルだ。


「元が元って……そんなまるでわたしが究極のバカだったみたいな」


「いや、まるでも何も、以前のあなたは紛れもなく馬鹿だったでしょ」


「…………否定する要素が見当たらない」


 当たり前じゃないの。380/1000点って何よ。10科目平均38点よ。得意な算術はきっと70点くらいはあっただろうから、他の9科目なら平均約34点よ。いくら実技の点が高いとは言っても、よく入学出来たなと驚くレベル。

 それが今では700点を超えてくるというのだから、今からでもクレイにお疲れ様と労いたいくらいだ。


「そもそも、あの頃のクレイはそこまでわたしたちを大切に想ってなかった」


 ボソリと呟くフォンの声。あー、確かに、あの頃は結構クレイの目が冷たかったっけ。もちろん他に向けるよりは班員に対しての方が優しかったのは間違いないけれど、今とは比べられない。

 明確にわたしたちのことを大切にするようになったのは、多分昨年の夏休み前。班対抗戦で準優勝した頃だ。


「え、じゃあ何故クレイはわたしにあそこまでしてくれたんだ?」


「班長の責務。それだけ」


「ということは……」


「物凄く、面倒だと思ってたはず」


 ガーンッという効果音が聞こえてきそうなカレンの顔。フォンももう少し遠回しに言ってあげれば良いのに。


「逆に考えてみれば良いんじゃない? 以前は面倒だと思われていたかもしれないけれど、今なら」


「ハッ!? た、確かに……!」


 今ではわたしたちの笑顔を守るために命を懸けてくれるくらい、わたしたちのことを大切にしてくれているクレイだ。調子に乗って利用するようなことにならないように気をつけなければならないが、ちょくちょく頼りにするのはきっと喜んでくれるはず。


 ……そうよね。クレイだって今ならきっと頼りにしたら嬉しく思ってくれるはず。何か、何か頼れる事はないかしら……?


「では早速クレイに勉強を」


「まあ待ちなさい」


 立ち上がろうとするカレンの肩をガシッと掴み、椅子に押さえつける。純粋な力でわたしがカレンに敵う訳がないのに、自分でも驚くほどの力が出た。


「ここは言い出しっぺのわたしが試しにクレイを頼ってみるから、あなたはその後にすると良いんじゃないかしら」


「いやいや、ここはわたしが。そもそもこの話はわたしの勉強をクレイに頼るか否かというところから始まったのだから、わたしが行くのが筋というもの」


 わたしの手を押し退け立ち上がろうとするカレン。それを更に力を込めて押さえる。


「案を出したのはわたしよ。わたしに優先権があると思わない?」


「その案はわたしのために出したものだろう? わたしが先に行く」


 視線がぶつかり合った。相手の考えていることが手に取るように分かる。何故なら自分と全く同じだから。


「…………」


「…………」




「わたしがっ!」




「図書室では静かに」


「…………はい、すいません」


 2人同時に立ち上がったわたしたちの頭を押さえつけるかのようなフォンの言葉に、静々と椅子に座り直す。確かに、図書室で騒ぐのはよろしくない。

 よく見たら周囲で本を読んだり勉強したりしている学生たちがチラチラとこちらを見ている。申し訳ない、もう騒がないから許して。


「ということで、間をとってわたしが行ってくる」


「なんでよっ!?」


「待てぃ!!」


 フォンがあんまりなことを言い出したので、思わず叫びながら再び立ち上がってしまった。周囲からの視線がとても痛い。流石にこれ以上騒ぐのは本当に良くないので、大人しく勉強しよう。



「おや、アネミカ? 何をしているんだ、そんなところで。図書室に用があるなら入れば良いじゃないか」


「アーサ先輩。いやー、ちょっとアイリス様たちに用事があったんですけど、何だかお三方で楽しそうに話していらっしゃったので、入りにくくて」



 と、静かに勉強を始めたところで、廊下の方からそんな声が聞こえてきた。見てみると、扉を少し開けてアネミカが覗き込んでいる。何をやっているんだ、あの子は。

 視線でカレンとフォンに確認してみるが、2人とも首を振った。どうやらアネミカが何の用で来たのか誰も分からないようだ。


 まあ、別に良いか。警戒する理由もないし。


 ちょいちょいと手招きして、アネミカを呼ぶ。


 何の用かと尋ねれば、先輩たちのことが知りたいなんて可愛いことを言うので、騒がしくならないように気をつけつつ、わたしたちがこれまで学園でどう過ごしてきたかを語りながら勉強を続けた。

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