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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第10章 反逆の強襲
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第249話 新風紀委員

 学園の2階、1年生の教室が並ぶ廊下を歩く。休み時間を満喫する後輩たちが、俺の姿を見るなり端に寄って通り道を開けていく。

 その視線は憧れと畏れが半々という様子。そんな偉い人が来たかのような反応をしなくても、普通にしていてくれて良いんだがな。


 数多の視線を向けられながら、一つの教室の扉を開く。


「リーミス・カレッジはいるか」


 教室内にいた後輩たちの目が一斉にこちらに向けられる中、ひょこひょこと跳ねるように近づいてくるリーミス。


「は~い、何ですか先輩。昼食のお誘いですか~?」


「お前、そのあざとい演技、止めたんじゃないのか?」


「憧れの先輩の前だと、素の自分を出すのが恥ずかしくて自然と演技になってしまうんです~」


「嘘吐け……まあ良い。今日の放課後、時間はあるか?」


「え……? ちょ、ちょっと待ってくださいね」


 教室の内外問わず、俺の声が届く範囲にざわめきが広がっていく。いや、早とちりが過ぎるだろ。ただ呼び出しただけだぞ。


「ありますって言ったら……?」


「風紀委員室に来てくれ」


「……あ~、そういう。何でしょうね、このガッカリ感。仮に想像した通りのことが実際に起きても困るのに」


「知らんが」


「とりあえず了解です。でも、わたしで良いんですか? コート班から選んだ方が良いんじゃ」


「アネミカはともかく、コートに風紀委員が務まる訳ないだろ」


「ん~、そうとも限らないと思いますけどね。わたし的には、アネミカちゃんの方が向いてない気がします」


 そんなことがあるだろうか。あの好き勝手に暴れているコートと、その世話をしているアネミカだぞ? どう考えてもアネミカの方が風紀委員向きだろう。


「コート君は最近そこそこ落ち着いてきましたよ。ほら、先輩にもあんまり仕掛けていかなくなってるじゃないですか」


「それはそうだな」


 以前の印象が強いが、1年生の大会が終わってからはあまり模擬戦模擬戦と騒がなくなった。それでも風紀委員に向いているとは流石に言えないが。


「アネミカちゃんは何というか……あんまり周囲を見てないんですよね。何かあったらまずコート君が飛び出して行って、それについていくだけ、みたいな」


 以前から不思議ではあったんだよな。アネミカはコートの何がそれほど気に入っているのだろうか、と。


 班を組むのは分かる。コートは学年最強だ。コート班が最も勝率が高く、選べる立場ならば誰でもコート班に入るだろう。

 だが、日常生活は別。今では多少落ち着いたとはいえ、コートは当たり前のように先輩に喧嘩を売ってくる暴れん坊だ。あまり普段から行動を共にしたいとは思わないだろう。


 だというのに、アネミカは常にコートの模擬戦についてきていたし、リーミスの話ではどうやらいつでもコートについていっているようだ。


 あの2人、学園で初めて会ったと聞いているが、嘘なのだろうか。実は以前から交流があって、それなりに深い仲だとか?


「完全にわたしの印象だけになりますけど、アネミカちゃん、何だか余裕がないような……」


「周囲に構っているだけの余裕がない、と? あいつ、何かあったのか?」


「何かあったというか、最初からああなんですよね。何か抱えてる物があるんじゃないですかね」


 魔法のことがあったので、何か抱えている物があるのは分かっていることだが、それは意外と大きな物なのかもしれない。


「まあ良い、というとアレだが、どうしようもないからな。とりあえず、放課後な」


「分かりました」








「失礼します」


「という訳で、新風紀委員のリーミス・カレッジだ」


 風紀委員室にリーミスが入ってきた瞬間、そう紹介する。風紀委員メンバーには既に伝えてあるので、特に意見は出ない。


「え、いきなりですか!?」


「用件は分かっていただろう? もし風紀委員に入る気がないのなら、その場で断っていたはずだ」


「それはそうなんですけど……もう少し間が」


「リーミスなら知っているだろうが、一応紹介しておくか。そちらから」


「はーい、ウェルシー・ノルズだよ! よろしくね、リーミスちゃん!」


「初めまして、クロンス・ヴァンドルです」


「アイリス・ヴォルスグランよ。この紹介いる?」


「で、俺が委員長のクレイ・ティクライズだ」


 ディアン先輩とサラフ先輩が卒業していなくなり、ウェルシー先輩とクロンス先輩が委員長なんて柄じゃないと断り、何故か2年生にして委員長になってしまった。

 生徒会の方もダイム先輩の意向でレオンが会長をしていることもあり、今年からはそういうものなんだろう、と学園全体に受け入れられているのが幸いだ。


「よろしくお願いします」


「リーミスは新聞部にも所属しているが、まあ問題はないな」


「……それってわたしが言うことなのでは?」


「リーミスはもう1人、風紀委員を同学年から選出すること。条件は相応の実力と協調性だ」


「聞いてます? じゃあ班員の子を1人連れてきます」


「任せる。来年は恐らくお前が委員長をすることになるだろうから、よく見ておけよ」


 流れ的にそうなるだろう。2年生が長に就いた方が運営しやすいというダイム先輩の意見には賛成だし、あえて流れから外す意味もない。


「えっ、嫌です」


 が、ここで今までずっと素直に従っていたリーミスが明確な拒否の姿勢を示した。珍しく表情まで物凄く嫌そうで、本当に拒否したいのが伝わってくる。


「だって来年ってまだクレイ先輩がいるじゃないですか。クレイ先輩を率いるとか、恐れ多過ぎて無理なんですけど」


「そんなに重く考えなくて良い。委員長といっても、大した仕事はないからな」


「…………」


 黙って考え込むリーミス。そんなに嫌か。まあ今すぐ次の委員長を決めなければならない訳でもないし、この件は置いておくか。


 と、思っていると、



「わたし~、先輩に命令して欲しいな~。何でも言うこと聞くから~、ね? お願いします~」



 リーミスが演技モードで寄ってきて、腕を抱きしめるように引っ付いた。アイリスのイラついた視線と、ウェルシー先輩のまた増えたの? と言いたげな呆れた視線が痛い。クロンス先輩は逆に目を逸らしているが。


「そんなことをしなくても、今はとりあえずこの件は置いておこうかと思っていたんだが」


 そう言うと、頬を赤くするリーミス。そして、その頬がプクーっと膨らんでいく。


「……いじわる」


「いや、お前が勝手に」


「あ~あ~きこえな~い。じゃあわたしはこれで帰ります。明日にでもメンバー連れてきますからご機嫌ようまた明日!」


 その足を活かして風紀委員室から全速力で逃げ出すリーミス。珍しく演技ではない素の状態で賑やかだったな。








 恥ずかしくなって思わず逃げてきてしまった。でも仕方がない。わたしだって別にやりたくて演技している訳じゃないんだから。


「もう、クレイ先輩って意外と意地悪」


 もう5階に用はない。教室で待っているだろう班員と合流して、トレーニングを始めよう。


 そう思って階段に向かうと、正面からアネミカちゃんが歩いてきた。


「あ、リーミスちゃん」


「え、あ、うん」


「そんなに慌ててどうしたの? 顔真っ赤だけど」


「な、何でもない何でもない! じゃ~ね~!」


「う、うん、じゃあね」


 まさかこんなところでアネミカちゃんに会うとは思わなかった。逃げるように階段を駆け下りていく。


「……あれ? 本当に何で5階にアネミカちゃんがいたんだろう?」


 5階にあるのは、生徒会室とか風紀委員室とか、そういう特別な部屋だけだ。そうそう人と会うものではない。


「ま、良いか。きっと誰かに用があっただけでしょ」

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