第24話 1年生限定班対抗戦開幕
クルの監視はなくなった。フォンに言われたことを考えているのか、王女に他を当たろうと言われて諦めたのか、ともかく1日で監視は止めたようだ。
俺も何度かフォンに尋ねてみたが、どうしても教えてくれない。あと2人集まれば班が揃うのだから、問題を解決出来る情報を持っているなら教えて欲しいんだがな。自分から歩み寄らないと意味ないから、ということらしい。
他を当たってみても、今は俺への印象が非常に悪い。残り2人の勧誘はなかなか成功しない。
そうしている間にも班対抗戦が近づき、仮でも良いからどこかの班に入らなければと、それぞれが班に所属してしまう。
一先ず4人班でやれるだけやるしかないだろう。放課後には班でトレーニング。週に2日ある休みも、1日は午前中勉強午後からトレーニングで、1日は完全に休み。そんなサイクルで日々を過ごし、
あっという間に一ヶ月が経った。
「はい、みんなおはようございます。ついに今日は1年生限定班対抗戦だね。準備は出来てるかな? 先輩たちも見に来るから、良いところ見せられるように頑張ろうね」
班は同学年でしか組めないのだから、上級生に良いところを見せても意味がないように思えるが、そうではない。何故ならこの学園を卒業すれば、相応の職場に入れる可能性が高いからだ。このご時世、どこも優秀な上に戦える人材は欲しいものだからな。
たとえ最優秀班に選ばれなかったとしても、ディルガドールを卒業するというのはそれだけでステータスだ。最優秀班特権はないから確実ではないが、希望の良職に就ける可能性は高い。
つまり、自分たちが卒業したとき、今学園の先輩である人が、職場の先輩にもなる可能性がある訳だ。ここで顔を覚えられ、良い印象を与えられるのはメリットだ。逆にあまりにも無様を晒した場合、悪い意味で顔を覚えられる可能性もあるが。
「1年生は今48班あるみたいだね。今日はこれが3班ずつ戦って16班まで絞られます。その後は毎日一対一で、2日目で8班、3日目で4班、4日目で2班になって、5日目が決勝になります。今週いっぱい使うことになるね。その間授業はお休みだけど、来月は学科試験もあるんだから勉強はちゃんとしなきゃ駄目だよ」
最初は3班ずつか。明日からは今日の映像で相手の確認が出来るが、今日は事前情報なしで戦わなければならない。こちらの戦法を無理矢理押し付けるのが良いだろうな。
「じゃあ今から1時間後、全員ドームに集合ね。席は自由。ドーム中央のモニターで試合の映像が見られるようになってるから。次の試合に参加する班の呼び出しは放送でされるから、聞き逃さないように。じゃあ解散!」
さて、行くか。
『さて、皆さん、準備は整っているでしょうか。1年生には初めましての人も多いでしょう、私、新聞部部長の2年、ニーリス・カレッジと申します。本大会では進行と実況を担当させていただきます。よろしくお願いいたします。そして!』
『はーい! みんな見てるー? 生徒会副会長、3年のフルーム・アクリレインでーす!』
『はい、解説と賑やかしとして副会長に来ていただきました』
『え、ひっどーい! そんなこと言うと、フルーム怒っちゃうゾ♪』
『何ですかそのキャラ。確かに盛り上げてくれることは期待してますけど、ちゃんと解説もしてくださいよ?』
『オッケーオッケー、分かってるって。あたしも真面目に仕事はするよん』
ドーム中央、天井から吊り下げられるようにして取り付けられたモニターに、肩ほどの橙髪の眼鏡女子と、煌めく長い青髪を揺らしてキャピキャピと騒ぐ女子が映し出されている。
以前取材に来たニーリス先輩と、もう一人は副会長らしい。初めて見たな。ニーリス先輩が部長なのも初めて知った。
『まずは簡単なルール説明。勝利条件は単純明快、相手の全滅です。相手を全員死亡判定にするか、相手が降参するか、それによって勝利となります』
『このルール、毎年同じだけどー、要するに誰かを犠牲にしてでも相手を倒せば良いってことだよ。キャー! フルームこわ―い! あたしわぁ、みんな仲良く頑張って欲しいナ♪』
『では早速第一試合に参加する3班をお呼びしましょう。ロス・ラーテ班、エンソル・ケール班、そしてアイリス・ヴォルスグラン班。以上3班は準備をお願いします』
『あら、無視……?』
第一試合からアイリス王女の班か。結局2人での参加のようだし、流石に勝ち上がるのは厳しいかもな。
「さて、お手並み拝見だな」
「何故お前がそんなに偉そうなんだ」
「姫とはいえ、いきなり自分の班に入れと言ってくるのだ。相応の力は持っていて欲しいものだと思ってな」
「思ったよりちゃんと理由があったな」
「お前はわたしをバカにし過ぎじゃないか?」
「そんなことはない」
右隣から本当か……? と言いたげな疑いの眼差しが向けられる。左隣ではティールが小声で「頑張れ……頑張れ……」と呟いている。その隣のフォンは何を考えているのか分からない無表情でドーム中央のフィールドを見ているな。
そのフィールドに3班が出てくる。直径250メートルにも及ぶ円形フィールドは、魔法強化された平らな床が広がっていて、障害物などは何もない。純粋な実力勝負となりやすいこのフィールドは俺たちにとっては不利だな。
映像が切り替わり、フィールドの各班の様子が映し出される。アイリス王女の班は2人なのに対し、他班はきちんと6人揃っているな。
『さあ各班の準備が整いまして……試合開始の合図がされました! じりじりと距離を詰めつつの睨み合い、大きな動きはありません。まずは様子をうかがっている状況でしょう』
『ロス班とエンソル班がお互いを牽制してる感じだねー。人数の少ないアイリス班に仕掛けたいけど、その隙にもう一方に攻撃されるのは不都合だから、様子見してる感じ』
『なるほど。そうなるとこの試合、時間がかかりそうっとぉ!? そう言っている間に仕掛けたのはなんとアイリス班! クル・サーヴが単身ロス班に突撃していく!』
『攻めるねぇ。流石王女様。作戦も一味違うのかしら』
『物凄い速度であっという間に距離を詰める! そして待ち構えるロス班へ攻撃……しない!? 直前で切り返してエンソル班へ向かいます! 流石に目の前で無防備に背中を晒している姿を見せられて黙ってはいられないロス班から、魔法が飛び出します! そして飛んでいく魔法を追うように班長ロス・ラーテ含む3名が駆け出す! まるで背中に目がついているかのように魔法を回避しながら駆け抜けるクル・サーヴ!』
『良い回避だねぇ。さて、状況が動いたね。走って場をかき乱すクルさん、それを追うロス班、そして陣形を整えつつ待ち構えるエンソル班。クルさんがどう動こうとロス班とエンソル班はぶつかることになる。これを狙った一手だろうね。こうなると気になるのはその司令塔アイリス王女の動きだけど……』
『クル・サーヴ、前からも後ろからも飛んでくる魔法を回避しながら、何とそのまま突撃! 前に出てきたエンソル班の前衛4名とぶつかります! 更に追って来たロス班の前衛3名も混ざって大混戦! いや!? 抜け出したクル・サーヴ! 何とエンソル班とぶつかったように見えたのはただ一瞬、すぐにその場を脱出して見せました!』
『クルさんを追おうにも前衛同士がぶつかっちゃってるからもう6人班同士でやり合うしかないねぇ。そして、』
「破滅の閃光」
『天井から降り注ぐ巨大な雷! 2班の魔法使いたちが張る防御壁をあっさり突破し、前衛たちを打ち貫く!』
『自由にし過ぎたね。あれだけ溜める時間があれば、そりゃあ恐ろしい魔法が完成しちゃうってなもんよ。ひゃー、怖い怖い』
『残る魔法使いたちの攻撃はクル・サーヴを捉えられない! そして接近されたエンソル班の後衛がクル・サーヴを相手にしている間に、ロス班はアイリス・ヴォルスグランに魔法を撃ち込みますが』
「消滅の魔弾」
『一瞬でフィールドを横切る圧倒的速度! 目では捉えきれません、この雷魔法です! これがアイリス・ヴォルスグランの力だあああぁぁぁ!!』
『キャー、フルームこわーい! あんな魔法、どうやって避ければ良いのー?』
『残るエンソル班もアイリス班2人の猛攻を凌げず、勝負あり! まさかの2人班が勝ち残り! 勝者アイリス班です! で、実際どうすれば良かったんです?』
『えー、そんな難しいことぉ、フルームわかんなーい』
『イラッとするんでそれ止めてもらって良いですか?』
『うわっ、マジでキレそうじゃん、こっわ。しょうがないなー。まあ見てれば分かると思うけど、アイリス王女を自由にしちゃダメだよ。ヴォルスグラン王家は雷魔法が大得意。速度、威力共に申し分ないあの魔法は、基本的に打たせたら負けなの。同格の魔法使いがいない限りはね』
『でもクルさんを放置するのは怖くないですか? 物凄い速度で動いてましたし』
『相手は一人なんだからさっさと片付けてしまおう、そう思って人数をかけたのがそもそも間違い。それで瞬殺出来るなら良いけど、明らかにクルさんも強いんだから、逆に一人当てて時間を稼ぐんだよ。逃げていくなら追っちゃダメ。アイリス王女の対策が出来てない内はね。具体的に王女をどうやって対策するかは、自分たちで考えてちょーだい! そこまで解説しちゃったら彼女たちの次の試合勝ち目なくなっちゃうからねー』
『はい、これにて第一試合を終わります。お疲れ様でしたー! では第二試合に参加する3班をお呼びします』




