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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第10章 反逆の強襲
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第240話 一旦の別れ

『皆さんおはようございまーす! 実況の3年新聞部部長ニーリス・カレッジですよ! そして、本日も解説はこの方!』


『2年生徒会書記、ルー・ミラーロです。今更ですけど、どうして解説がわたしなんですか? もっと相応しい人がいると思うんですけど。レオンさんとか、ダイム先輩とか』


『カワイイ女の子の方が受けが良いからです! トレールさんには断られました』


『ええ……』


『本日はついに決勝戦! 勝ち残った2班について、ルーさんに解説していただきましょう!』


『あ、はい。まずコート・ワードスカーク班。こちらは班長コートを中心とした押せ押せチームです。4人の前衛が各々優れた個人技で暴れ、後衛2人は的確にそのサポートをします』


『ここまで誰一人倒れることなく勝ち上がってきた強者たちです!』


『前衛の中心コート・ワードスカークは学年首席。他とは一線を画す実力を誇ります。後衛の中心アネミカ・コルトネルスは速度に優れた魔法使い。息もつかせぬ連続攻撃で前衛の隙を埋め、守り意識の低い前衛を支えます』


『アネミカ・コルトネルスがいつでも苦労しているように見えると話題のチームですね。では、対するもう1班は?』


『はい。リーミス・カレッジ班は何と前衛がたった1人。班長リーミスのみです。ニーリス先輩を彷彿とさせる高速移動で敵を翻弄、その間に多種多様な魔法で後衛が敵全体を粉砕します』


『リーミスちゃんはわたしよりも速いんですよー』


『速度だけならそうですね。その速度に誰もついていくことが出来ず、たった1人で敵に突撃しているというのに無傷でここまで進出しています』


『それを踏まえまして、この試合、どちらが勝つと思いますか?』



『確定しています。コート班です。考える余地もありません』




 風紀委員としてアイリスと共に会場警備をしながら実況解説の放送を聞いているが、ルーもなかなかはっきり言葉にするな。


「ま、可哀想だけれど、当然の予想よね」


「ああ。前衛がリーミスしかいないのに、そのリーミスは恐らくコートにかかり切りになる。後衛ががら空きだ。勝ち目などない」


 これは工夫の問題ではなく、相性の問題だ。俺がリーミスの代わりに入ったとしても、勝てるかは微妙なところだろう。

 コート班のメンバーが昨年のレオン班のようにやる気がない奴らならどうとでもなるが、むしろ全くの逆。コート班は全員がやる気に満ち満ちているからな。


 やる気というか殺る気というか。コートが気に入った奴を集めたんだろうな、という感じの暴れん坊が揃っている。




『さあ試合開始です! コート班の前衛がいつも通りに全速力で突撃していきます! 対するリーミス・カレッジはその圧倒的速度で相手前衛に接近し、おおっと!?』


『そのまま通り抜けましたね。まあそうなるでしょう。速攻で相手後衛2人を倒し、味方後衛が無事な内に戻る。そして前衛を1人で受け持つ。それしか勝ち筋はありません。が』


『コート班の前衛は戻りません! 相手班長リーミス・カレッジを後衛に任せるようです!』


『アネミカ・コルトネルスを舐め過ぎなんですよ。いや、分かっていて、それでもやるしかないからやっているのか』


『貫く熱線! あれは……炎魔法、で良いんでしょうか? アネミカ・コルトネルスの手から放たれる光線のごとき魔法が高速で何本もリーミス・カレッジを襲います!』


『炎魔法、ですか。まあ本人がそう言うならそれで良いですけど。あれを何度も回避出来るリーミス・カレッジは流石の一言。むしろ回避しつつ接近しているほどなので、時間をかければ後衛の撃破は可能でしょう。でも、分かりますよね』


『ええ、こうして後衛の撃破に時間を取られてしまっている以上……』




 審判による決着が宣言され、コート班の優勝が決定した。


「予想よりは善戦した方だろうな、あれでも」


「ええ。始まる前から結果は分かっていた。あとは、これ以降の努力でどうなるか、ね。それよりも、気になっていることが」


「アネミカの魔法だろ? 本人が炎魔法と言っているのだから、関係ない俺たちが突っ込むことではないだろう」


「そう、ね。確かに、普段から交流している友人という訳でもないのだし、口出しすることじゃないか」


 普段は模擬戦で暴れ回っている後輩たちだが、大会中は大人しくしていてくれて助かった。やはりこの大会に向けての鍛練で燃えていただけなのだろう。これからは落ち着いてくれるとありがたい。


 あとは閉会式で表彰があって、大会は終了だ。今年も何事もなく終わって良かった。








 寮の自室へと戻ってきた。夕食まではもう少し時間がある。何をして時間を潰そうか。


 扉の前に気配。ノックをするのに躊躇っているのか、しばらくそこで立ち尽くしていたので、こちらから開けてやる。


「用があるなら入ったらどうだ、アイビー」


「あら、大胆ですわね。さっさと部屋に入れだなんて。これは私とクレイ様との仲が噂されるのも時間の問題でしょうか」


「そこにずっと突っ立っていられる方がいらん噂が立つわ。良いからさっさと入れ」


 アイビーを部屋へと引き入れ扉を閉じる。まあ噂がどうこうというのは最早手遅れではあるんだがな。どうやら学外にまで広まっているようだし。


「で、何の用だ」


「最近、マーチ様の様子が何だかおかしくて。クレイ様なら何かご存知なのではないかと」


 ここ2週間ほどか。マーチがやけに大人しい。何をしていてもどこか上の空に見えるというか、アイビーの言う通り、何か様子がおかしいのは間違いない。


 が、俺は何も知らない。


「知らんな。例の件についてじゃないか。マーチは気が強いようで微妙に臆病というか、実は強がっているだけだったりするところがあるしな」


 とは言ってみたが、恐らく別件だろうと思っている。マーチの様子がおかしくなったのと俺が歴史の真実を語ったのには少しズレがあった。恐怖を抑え込むのに限界がきたのだとしたら様子がおかしくなるのが急すぎるし、別の問題が発生したのだと考えるのが妥当だ。

 別件だとするなら、俺には全く関係ないことである可能性も高いし、相談されるまではそっとしておこうと思って今は何も行動していないという状況だ。


「そうですか……」


「ルーには聞いてみたのか? マーチのことなら俺よりも詳しいと思うが」


「ええ、少し。ですが、ルー様にマーチ様の様子について尋ねると、露骨に話題を逸らされるのです。絶対に何かご存知のはずですが、恐らく教えてはもらえないでしょう」


「だったらあいつら2人だけの問題なんだろう。そっとしておいてやったらどうだ」


 自分たちで解決出来ない問題に延々と悩み続けるほど、あいつらは愚かではないだろう。どうしようもないなら相談してくるはずだ。

 特に俺はルーがどうしようもなかった問題をさっさと解決してやった実績もある。それなりに頼りにされている自覚もあるし、俺に相談がないのなら自分たちでどうにか出来るのだろう。


「んー、そうですかね……」




「で、本題は?」




「…………何のことでしょう」


「ここまで来て誤魔化すなよ。何か俺に相談したいことがあるんだろう?」


 何か問題が起きていないか、アイビーはルーやマーチに直接尋ねているらしい。ならば、あの2人はアイビーが気にしていることを知っている訳で、こんな隠れるように俺にマーチの様子について聞きに来る必要は全くない。

 むしろあえてルーやマーチがいる場所で俺に尋ねることで逃げ道をなくすように動き、相談せざるを得ない状況に持ち込むくらいはするのがアイビーだ。


 つまり、アイビーは本気であの2人から聞き出す気はないということ。こうして俺を訪ねてきたのは別の目的がある。


「やはり不安か?」


 歴史の話をした後、放置しておくとマズそうだと思ったのがクルとルーの2人だ。ただ、表面上取り繕うことは出来ているが気にはしていそうという奴が他にもいた。


 それが、アイリス、マーチ、アイビーの3人だ。


 アイリスは放置しても大丈夫だと判断している。以前から未来予知について共有していたこともあり、受け入れるだけの時間があった。今回の話もしばらくすれば受け止めることが出来るだろう。


 マーチとアイビーの2人は、表面上はほぼ完璧に気にしてないように装っていたので、その仮面を被っていられる間は大丈夫だと判断し様子を見ることにしていた。

 マーチは別に問題が発生したようで、そちらに気を取られて今はこれからの戦いについて考えている余裕はなさそうだ。それはそれでとりあえず様子見で問題ない。


 ということで、残るアイビーは1人で考えるのが限界を迎え、俺に相談に来たのかと思った訳だが。


「もう内心を読み取られていることに関しては置いておきますが、それとは別件ですわ」


「ということは、実家から帰ってこいとでも言われたか」


「はぁ……どこまで読まれているのですか……」


 単純な話だ。歴史の真実について、アイビーからカルズソーンの実家に連絡が行けば、今後についての話し合いのためにも一度帰ってこいという話になるだろうという常識的予想をしただけ。


「そうなんです。これを無視する訳にもいきませんから、帰る必要はあるのですが、いつこちらに戻ってこられるのかが分からなくて。その間、レオン班は1人足りない状況となります」


「先に言っておくが、その戦力低下をどうにかするのは不可能だぞ」


「やはりそうでしょうか……」


 2年生に班に所属していない学生は存在しない。代わりに誰かに入ってもらうというのは不可能だ。仮に可能であったとしても、レオンたちがそれを許容するとは思えないしな。

 人の補充なしで戦力低下を避けることは出来ない。人を補充することも出来ない。どう足掻いてもレオン班はアイビーが抜けた分、戦力が低下することになる。


「極力早く帰ってきてやれ。それくらいだな」


「仕方ありませんか。では、次いつ会うことが出来るか分かりませんから、お別れの口づけを……」


 そう言って顔を近づけてくるアイビー。いつもの半分本気で半分冗談の言動だろう。恐らく、回避されるか無理矢理部屋から叩き出されることを予想しながらやっていると思われる。


 が、何となくいつもよりも本気に見える。次いつ会えるか分からないというのは事実だしな。本当は寂しいのを隠して、いつも通りにふざけて見せているのだろう。


 仕方がない。たまには少しくらい受け入れてやるか。



 顔を少し逸らし、頬でアイビーの口を受け止める



 驚いた表情で一歩後ずさるアイビー。真っ赤に染まった顔が新鮮で、思わず笑ってしまった。


「あ、あら……? てっきり避けられるものかと……」


「早く帰ってこいよ。俺も、待っている」


「っ!? は、はいっ!! 全速力で行って帰ってきますわ!!」


 真っ赤な顔のままで駆け出し、物凄い勢いで部屋から飛び出そうとして扉に激突。その後、痛みを感じていないかのような機敏な動きで扉を開け、今度こそ部屋を飛び出して行くアイビー。


 いつになるかは分からないが、本当に全力で話し合いを終わらせて帰ってきそうだな。

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