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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第23話 取り調べの結果

「よく来たね。座ると良い」


 テーブルを挟んで向かい合う立派なソファに座った理事長が、対面のソファを勧めてくる。


「む、3人しか座れないのではないか?」


「大丈夫です! クレイさん、どうぞ!」


「ん? ああ、じゃあ座らせてもらうか」


 ティールが座るように促してくるので、お言葉に甘えることにする。流石に誰かを立たせて自分が座るのは気が引けるが……。


「で、カレンさんはこっちで、フォンさんがここに座って、あたしがこうです!」


 そして両隣にカレンとフォンが座り、


「いや、どうしてそうなった」


「むふー! これで解決です!」


 俺の上にティールが座った。


「ふふっ、君たちがそれで良いのなら構わないけれどね。一応一人分別に椅子を用意してあるんだが」


「だったら最初から出してくださいよ……」


「いや失敬失敬。どうするのか見てみたくなってしまったんだ」


 意外とお茶目な人らしい。結局ティールが満足そうにしているので、このままで話を聞くことにする。


「さて、結論から言おう。君たちが解決してくれた例の襲撃事件。捕縛した者への取り調べでは、ほとんど何も分からなかった」


「恐らく捕らえられたのは下っ端ばかりでしょうから、その可能性も考えてはいましたが、何も、ですか? 武器の入手ルートや詳しい組織図などはともかく、目的や侵入経路についても?」


「目的だけは聞くことが出来たよ。曰く、子供たちを戦わせて自分たちの安全を得る卑怯者共に天誅を下すためだ、と」


「何だそれは! 罪なき人々を傷つけ街を破壊した行為が、正義からの行いだったとでも言うのか!」


「落ち着けカレン。理事長に言っても仕方がないだろう」


「あ……申し訳ありません」


 しかし気持ちは分からなくもない。確かにあの事件の日、奴らの一人が学生を傷つけるつもりはないなどとふざけたことをぬかしていたが、まさか本気で言っていたとは。


「この学園やそれを中心に造られたこの都市は、言わば子供を鍛え前線に送り込む血塗られた城だと、連中はそう言っているんだろう。創設者としては決して認められない意見だ」


「ここに通う学生たちは皆、自分の意思で入学してきているはずです。少なくとも俺は親の意向もあったとはいえ、自分で希望してここに来ました。犯罪者の戯言に耳を貸す必要はないでしょう」


「ああ、その通りだ。ありがとう、クレイ君」


 ティールがブンブン首を縦に振るので、頭が顎に当たりそうで怖い。頭の上に手を置いて大人しくさせる。


「しかし、どこから都市に侵入したのか、どこから銃など手に入れたのか、何も分からないのが不気味だ。最悪、今回と同様の組織がまだ現れる可能性を否定出来ない訳だからね」


「銃に関しては武器メーカーを当たれば分かるのでは? 最新の武器なんですよね?」


「よく知っているね。確かにあれはつい最近完成した物だ。昔から懇意にしているメーカーが試供品を持ってきてくれたからね、間違いない。あのメーカーが悪事に加担しているなど考えたくもないが……」


 しかし、犯罪組織に武器を流そうとしているメーカーが、同様の品を学園に持ってくるだろうか。そんなもの、自分たちが犯罪に加担していますと宣言しているようなものだが。


「学園に新しい武器を持ってきたが、受け入れられなかった。そのせいで開発にかかったコストを回収出来ず、やむを得ず犯罪組織に売った。というのはどうでしょう」


「うーむ、絶対にあり得ないとは言えないが、そこまで金に困っているとは思えないな。今回は断ったけれど、普段から継続的に模擬戦用武器を納品してもらう契約をしているからね。それ以外にも、量産武器と言えばここ、と言うことが出来るくらい有力なメーカーなんだよ」


 量産武器と言えば、か。例えば騎士団なども契約していたりするのだろうか。だとしたら確かに、金には困っていなさそうだな。


「有益な話が出来なくてすまないね。君たちの活躍に報いるためにも、出来る限り希望には沿いたかったんだが」


「いえ、本来学生に聞かせるようなものではない、このようなお話を聞けただけでも充分ですよ」


「クレイはこの話を聞いてどうするの?」


「別にどうもしないが。もし今後同様の事件があったら動きやすくなるかもしれないと思っただけだ」


「ふーん」


 納得していなさそうだな。別にそれ以上でもそれ以下でもないんだが。


「クレイ君。さっき君は捕縛出来たのは下っ端ばかりだろうと言ったけれど、今回捕縛した中には幹部だという者もいたんだよ。だが、いつ間にか殺害されていたんだ。この学園の監視をすり抜け、誰にも気づかれることなく、ね。そのせいでほとんど情報が得られなかったんだ」


「……本当ですか?」


「ああ。もし君が今後似たような組織に出くわすことがあったとしても、迂闊に手を出さないようにして欲しい。もしかしたら思っている以上に強大な組織かもしれない」


「分かりました、気をつけます」


 この学園都市にあっさりと侵入して見せたんだ。不可能ではないだろう。方法は全く分からないが。武器の入手に関してもそうだが、下っ端のレベルからは想像もつかないくらい大きい組織なのかもしれないな。


「話は以上だ。立場上特定の学生に肩入れは出来ないが、まずは1年生の班対抗戦、良い戦いが見られることを期待しているよ」


「ありがとうございます。失礼します」


 ソファから立ち上がり、一礼して理事長室を後にした。





「どう思う?」


「どうかな。半々ってところか」


 廊下を歩きながら、フォンの質問に答える。周りに人はいない。もう寮に帰ったか、トレーニングをしているか、ともかく廊下には俺たちしかいない。


「何の話だ?」


「さっきの理事長の話だ」


「半々って何がですか?」


「信憑性」


「何? 嘘を吐いているかもしれないということか?」


 そもそもおかしいのは、捕らえた人間の中に幹部がいたのに話を聞けなかったということだ。殺されたということだったが、捕らえた瞬間殺された訳ではないだろう。学園の監視をすり抜け、と言っていたからには、捕縛後しばらくしてから、捕らえている牢なのか部屋なのかは知らないが、そこに侵入されたということだ。

 何故捕らえてすぐに話を聞いていない? 真っ先に聞くだろう。簡単に口を割らなかったとしても、自白剤なり魔法なり拷問なりで、情報を吐かせるくらい出来るはずだ。特にこの学園は国が深く関わっているのだから、その程度躊躇なく実行するだろう。

 だというのに、何の情報も得られなかったと言う。これには違和感がある。


 他にも、侵入経路が分からないということ。これは下っ端でも答えられるはずだ。何故この程度の情報すら得られない?


「ほえー……」


「つまり学園が例の事件に加担しているということか!?」


「いや、要するに理事長が知っていることを教えてくれなかったんじゃないかってことだ。本当は情報を得ることは出来た。だが学生には聞かせられないということで教えてはくれなかった。例えば、侵入経路は隠し通路を利用されたとかな」


「隠し通路なんてあるのか?」


「例えばって言ってるだろ。そんなものがあるのかどうかすら知らん。だが、もしあるとして、それを利用されたとするなら、学生には伝えられないだろう」


「学園の不手際だからか?」


「それもあるが、そもそも隠し通路なんて物があるなら、学生に存在を知られるのがマズイ。一度広まればもう隠すことは出来ないからな。今回利用された通路は使えないから潰すとしても、必要なら新しく作るだろう。それなのに学生に通路の存在が広まってみろ、絶対工事なんて出来なくなるぞ」


「なるほどな。はっ、つまりこうして話しているのも良くないのか?」


「一応もう一度言っておくぞ? 隠し通路なんてものがあったとして、の話だ。ただの予想だ。本当にあるのかすら分からない物について気を揉んでも仕方がないだろ」


「ほええぇぇー……」


 ティールの頭がパンクしそうだ。思考速度が全く追いついていないな。逆に日頃からこの状態になるくらい頭を使わせたら、思考速度が上がって試験の点数も良くなったりしないだろうか。

 ……いや、知恵熱でぶっ倒れそうだな。流石に止めておくか。


「つまりは、さっきの理事長の話は、連中の目的以外信憑性が薄いってことだ。情報を得られなかったってところも含めてな」


「目的は信憑性があるのか?」


「俺自身の耳で下っ端から聞いているからな。学生を傷つけるつもりはない、と。だが、これもあくまで下っ端の話だ。組織全体では裏の目的があるかもしれんな」


 親玉は躊躇なく殺せと命令していたしな。たとえ学生だろうと、目的の邪魔をするのなら天誅とやらの対象になるということである可能性もあるが。結局は何も分からない。


「さて、今日もトレーニングをするぞ。理事長に話を聞いて時間を使ったし、軽くにしておくか」


 それなら学園施設を破壊する心配もないだろう。久しぶりに訓練場を使うか。

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