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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第9章 過去の傷痕
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第221話 前線到着

 リレポステで一泊。その後、ぞろぞろと歩いて前線まで移動する。

 その進行速度は遅い。人数が多いというのももちろんだが、全体的に足取りが重い。レオンと並んで教師の後ろ、学生たちの先頭を進んでいるが、普段通りに歩くと引き離してしまうので度々後ろを確認して速度を調整する必要があるほどだ。


 無理もない。これから命を懸けた戦いに赴くというのに、誰が陽気に足取り軽く進めるというのか。



 それほど重く考える必要はないと思うんだがな。



 理事長の目は明らかに俺たちに向いている。他が前線に行かされるのは完全についでだろう。

 ここで死人が出たとあっては、理事長にとっても損だ。ただのついでで学園の入学希望者が減るようなことは避けたいはず。


 つまり、俺たちクレイ班とレオン班以外からは死者が出ないように気を配っているということだ。

 体験する騎士団の仕事は、かなり安全性が高いところに割り振られると予想している。


 ダイム先輩の班が特別な内容になっているというのは、恐らく彼らだけそれなりに危険な現場に送られるということだろう。そうしても問題ないだけの実力があると判断された班だけが危険な仕事を行うことになる。


 と、俺は理解しているが、それは様々な裏事情を把握しているから。他の学生たちに理解しろというのは難しい。

 このような気落ちした状態ではまともに実力も発揮出来ない。逆に危険だ。流石に死なれては寝覚めも悪いし、どうにかして全体を元気づけられると良いんだが。


 今は無理だな。何を言っても気休めにしかならん。目的地に着いてから何か良いことがあると祈ろう。








「ようこそ、学生諸君。俺がこの前線で戦う騎士たちを取りまとめる隊長、コルディン・サマンダーだ」


 騎士団第三部隊の隊長、コルディン・サマンダーが前に立ち、歓迎の意を述べている。


 ここは砦内にある訓練室だ。集まった2、3年生の前に、隊長を含め十数名の騎士たちが立っている。

 40代半ばほどの隊長よりも年上に見えるベテランから、20代前半と思われる若い騎士まで幅広い。どういう基準で集められているかは知らないが、これらの騎士たちが主に学生たちの相手をすることになるのだろう。


 その表情も様々だ。


 穏やかに笑って歓迎している様子の者、特に思うところはなさそうな無表情の者、



 そして、険しい表情で睨んでいる者



 気持ちは分からないでもない。過去に死者すら出たことがある学生の前線参加。そんなもの、歓迎出来る訳がない、と考えているのだろう。

 まあどう思うかは自由だ。歓迎していようとなかろうと、民を守る騎士が学生に危害を加えてくることはあるまい。どちらにとっても多少ストレスになるかもしれないが、そこは我慢してもらうしかないな。


「では、前置きはこれくらいにして、これより割り振りを」



「待ってください!」



「……どうした、ヤグス・ニトドムス」


 隊長の話を遮り、20歳程度に見える若い騎士が声を上げた。先ほどから一際険しい表情をしていた騎士だ。


「やはり納得出来ません! 何故学生を前線で受け入れるのですか!?」


「陛下直筆の許可状をキレア・ディルガドールが持ってきたという話は既にしているはずだが。陛下に直接確認もしている。陛下の決定に異を唱える気か?」


「う……し、しかし! 未熟な学生を戦わせることによる弊害が」


「黙れ。既に決定したことに対して騒ぐな」


 隊長に睨まれ、口を閉じる騎士ヤグス。だがその表情は険しいを通り越して憎さすら見えるほどに歪んだままだ。



 ふむ……使えるか?



「隊長、少々よろしいでしょうか」


「む、君は……?」


「クレイ・ティクライズと申します」


「ほう、ティクライズか。して、何か?」


「口を挟んで申し訳ありません。ただ、このままの状態にしておくのも互いにとって良くないのではないかと思いまして。どうやら騎士ヤグスは我々が未熟であることが問題であると考えていらっしゃる様子。で、あれば、ここは我々の実力を見ていただくのが早いのではないでしょうか」


「つまり」



「模擬戦をしましょう。我々の代表、生徒会長レオン王子とコルディン隊長とで」



 これで騎士たちが抱く未熟な学生というイメージを払拭し、更に前線で戦う騎士とて俺たちとそう変わらないということを示して、自分たちでも前線で戦えると教えることで学生の不安を取り除く。

 上手くいけば、これからの前線生活でのストレスがかなり低減出来るはずだ。


「なっ!? おい、調子に乗るな! 隊長を指名だと!? 学生が隊長とまともに戦うことなど」


「騎士ヤグス」


「……何だ」



「論外だ」



「な、何だと……!?」


「恐らくあなたは騎士になりたてだろう。調子に乗っているのはどちらか。学生だから弱い、騎士だから強い。そのような判断基準で考えている内は、強くなることなど出来はしない」


「貴様……! 付け上がるのも大概に」



「黙れッ!! ヤグス、いい加減にしろッ!!」



「っ!?」


 隊長の怒号に口を閉じる騎士ヤグス。その視線に貫かれ、すごすごと下がっていく。


「クレイ・ティクライズ。模擬戦の提案を受けよう」


「ありがとうございます」


「いや、こちらにとっても必要なことであると認識出来た。君の言うことは正しい。学生だからと侮っている者に示さねばなるまい。準備もあるだろう。20分後、再びこの場に集合としよう。…………毎年フルームちゃんの活躍を見てたはずなんだがなぁ」


 最後にボソリと素の発言を漏らして、自身の準備のためだろう、訓練室を出て行く隊長。その後をぞろぞろと騎士たちが追いかけていく。一番後ろで、ギロリとこちらを睨みつけて騎士ヤグスが出て行き、訓練室には学生と教師だけとなった。


「さて、クレイ。どういうつもりだい? 勝手に僕と隊長の模擬戦を決定してしまって」


「必要なことだ。これからのためにな」


 レオンにも理由を説明してやれば、すぐに納得顔になる。流石にレオンだって学生たちの緊張くらいは感じ取っているからな。


「でも大丈夫かな。以前カレンさんと戦った時のような力を発揮出来るならともかく、今の僕の実力だと隊長に勝てるかは結構怪しいよ?」


 それからレオンが隊長について教えてくれた。


 騎士団第三部隊隊長、コルディン・サマンダー


 剣でも槍でも、鈍器でも弓でも、魔法でも物理でも、攻撃魔法でも補助魔法でも回復魔法でも肉弾戦でも、とにかく何でもこなす圧倒的引き出しの多さを武器としている。

 あらゆる訓練の教官を務めることが可能で、前線で戦う騎士たちはそのほぼ全員がコルディン隊長の教えを受けているらしい。


 前衛、後衛、遊撃、斥候、司令塔。あらゆる場所に適性を持ち、どんな戦場でも優れた戦果を挙げる実戦型。

 そのスタイルから「基本に忠実なビックリ箱」の異名を持つとか。


 なるほど、凄まじい人間だな。前線部隊の隊長としてこれ以上ない人材だろう。

 前線配属の騎士たちそれぞれに合った教官を用意しなくても、コルディン隊長1人いれば全て賄ってくれるのだから。


 ……もしかして物凄い苦労人なのでは? 機会があったら、前線配属の隊長挌をもう1人追加してあげて欲しいと父あたりにでも相談するべきだろうか。


「別に勝つ必要はない。学生も侮れないなと思わせるだけの実力を示せばそれで良い。さっき、隊長とまともに戦える訳がないみたいなことを言っていただろ? あんなことを言われないようにすれば良いだけだ」


「それくらいなら出来るかな。コルディン隊長は何でも高水準でこなすけど、どれもその道の達人には敵わないくらいの実力だからね」


 武器は持っている物を使用するにしても、戦闘中に何をしてくるか分からないというのはかなりの優位性だがな。不意の魔法や、隠し持っている武器等に気をつけなければならないだろう。



 普通に戦うなら。



 騎士たちが訓練室に戻ってきた。先ほどよりも人数が多くなっている。恐らく見学のために呼んできたのだろう。もしくは手が空いている者が気になって見にきたか。


 その中から、コルディン隊長が前に進み出てくる。それに合わせるようにレオンも前に出た。


「レオン王子、準備はよろしいですか?」


「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」


 互いに一礼。そして、隊長が剣を抜き、構える。対するレオンは、その手に2本の雷の剣を生み出した。


 審判の騎士が試合開始の合図をする、直前、レオンに声をかける。



「レオン、1本で行け」


 3月も現在の忙しい仕事を継続するので、3月中も週一更新になります。


 4月からは別部署に異動になるようで、残業等の予定が一切分かりません。今より忙しくないと思っていますが……とりあえず4月中も週一更新の予定です。5月以降は仕事の様子次第ですね。


 更新が遅くなって申し訳ありませんが、引き続きお楽しみいただければ幸いです。

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