第214話 1年の終わり
時は流れ、学科試験、実技試験を終え、卒業式の日。
ドームに集まった全生徒及び教員の前に、卒業生を代表して生徒会副会長フルーム・アクリレインが立つ。
「まるでわたしたちの卒業を祝福してくれているかのように、晴れ渡る良き日となりました。今日、わたしたちは……」
普段とは違う、厳かな様子で滑らかに挨拶の言葉を述べていた副会長の口が、何を思ったのかピタッと止まる。
「んー、止め!」
そして、持っていた紙をバリッと破り捨て、普段通りの明るさを取り戻して笑顔で再び口を開く。
「こんな作った言葉は無意味だから。みんなが待ち望んでいるフルームちゃんでいっきまーす!」
とても卒業式とは思えない空気になってしまったが、教員たちを含めてそれを咎めようとする者は一人もいない。実際、待ち望んでいたのだろう。彼女のこの姿を。
「まずは、卒業をお祝いしてくれてありがとう。こんな、しっかりみんな集まってくれて、何か泣いちゃってる子までいてね。卒業式とかめんどくせーなーって感じじゃなくて、ちゃんとお祝いしてくれてる感じで、とっても嬉しいです」
このディルガドール学園を卒業するということが、いかに素晴らしいことなのか。それを、この学園に所属する人間なら全員が理解している。卒業生たちの活躍も直接この目で見てきた。
それを祝うことを面倒だと思うような者はいない。卒業していく先輩たちの雄姿を目に焼き付け、自分もああして胸を張って卒業して見せる、と決意を新たにする。この進級の時期まで残っている者ならば、誰もがそれを当たり前のように出来る。
「この学園での生活は、まあ大変なことも多かったけど、とっても楽しかった。大切な仲間を得て、成し遂げたい目標を得て、全霊をかけて戦うことを知って、勝利の喜びも敗北の悔しさも知って。あたしもみんなも、入学時とは比べ物にならないほど成長することが出来た。心残りもあるけどー」
チラリと、先ほど在校生を代表して挨拶をした会長の方へ目をやって、言葉を続ける。
「あんま長くてもアレだし、最後に改めて一言」
ありがとうございました!!
「みんな、1年間お疲れ様」
教室に戻ってきて全員が着席したところで、キャロル先生が話を始めた。
「これで今年の授業が終わって、休み明けにはみんな2年生になります。クラス替えもあって、班のメンバーは全員同じクラスになるようになってるから、楽しみにしててね」
僕の班は今まで、僕、ルー、アイビー、ハイラスは同じクラスだが、マーチ、フォグルは別のクラスだった。そのため、班でトレーニングをするにも相談をするにも、いちいちどこかで集まらなくてはならず、これがなかなか面倒だった。
班を一まとめにしてくれるのはとてもありがたい。この辺りは、ディルガドール学園なら当然の配慮といったところか。
「今年は退学者がたくさん出ちゃって、ちょっと寂しいね。このクラスからもいなくなっちゃった子がいるし。ここにいるみんなは、来年からも頑張って卒業までいけるようにね」
冬休み明けに急にたくさんの退学者が出て、以前から少しずつ減っていたのと合わせて30人ほどが同学年からいなくなっている。
元班員のあの3人もいなくなったし、何となくだが、成績不振ではなく問題行動が原因で退学になったのではないかと予想している。
「この話はここまでにして、来年からの話をしようか。えっと、入学してすぐの頃、先輩たちが山へトレーニングに行っていたのは覚えてるかな」
ちょうどそのタイミングで学園都市への襲撃があったこともあり、記憶に残っている。
学園の設備がある近くの山へ2、3年生が3日間トレーニングに行く行事だ。来年は僕たちも参加することになると聞いている。
「楽しみにしててくれた子には申し訳ないんだけど……急きょ、前線に出てのトレーニングに変更になりました」
前線に出るのか? 2学年全員が? それは……大丈夫なんだろうか。
「先生」
「はい、クレイ君」
「前線は騎士団が維持していて、そこに学生が紛れ込むと様々な意味で危険だということで、学生の前線への参戦は基本禁止されていたはずですが」
「うん、そうだね。今回はあらかじめ調整して、みんなが入っても問題が起きないようにしてるから大丈夫。理事長が直接前線の部隊と陛下にお願いしに行ったからね」
理事長の決定により前線でのトレーニングを行うことになったのか。死人が出る可能性もあるはずだが、何故急にそんな変更をしたのだろう。
「期間は未定。前線でのみんなの活躍次第で終了になるから、頑張ってね」
先ほどからざわついていた教室が静まり返る。この発表には流石に違和感を覚えざるを得ない。
前線での活動期間は未定で、僕らの活躍次第で終了時期が決まる。
それはつまり、
僕らが活躍しなくてはならないほど、前線状況が悪いということなんじゃないのか?
国からの発表は特にない。危険をいち早く知らせるための前線状況報告が新聞には載っているが、それにも異常なしと書かれていたはずだ。
「先生、それは理事長が決定したんですね?」
「うん、クレイ君、そうだよ」
「なるほど、少し見えてきたか……ありがとうございます」
クレイ、何か知っているのか? 王子である僕でさえ何も聞かされていないというのに、どこから情報を手に入れたのだろう。もしかして、何か前線状況悪化の兆候があったのだろうか。
不安そうにしているクラスメイト達の中で、クレイだけが落ち着き払っている。何かを知っているとして、何故落ち着いていられるのだろう。前線状況が悪いということは、この国の、ひいては世界の危機に繋がるというのに。
「他に何か質問はあるかな? 大丈夫そうかな。これから長いお休みに入るから、その間に何か気になることがあったら遠慮なく聞きに来てね」
こうして、ディルガドール学園での1年目の生活が終わった。
最後に大きな衝撃を残して。
多くの者が不安を抱えて。
これまでの成果を強制的に発揮しなければならなくなる、前線参加。
遂に訪れた、本当に命を懸けた戦い。
新たな1年が始まる。
激動を予感させる1年が。
一年次最終成績
クレイ・ティクライズ
学科 1000/1000
実技 630/1000
計 1630/2000
順位 70位/288人
ティール・ロウリューゼ
学科 830/1000
実技 730/1000
計 1560/2000
順位 94位/288人
フォン・リークライト
学科 900/1000
実技 600/1000
計 1500/2000
順位 110位/288人
カレン・ファレイオル
学科 730/1000
実技 990/1000
計 1720/2000
順位 46位/288人
アイリス・ヴォルスグラン
学科 920/1000
実技 850/1000
計 1770/2000
順位 27位/288人
クル・サーヴ
学科 820/1000
実技 720/1000
計 1540/2000
順位 100位/288人
レオン・ヴォルスグラン
学科 960/1000
実技 980/1000
計 1940/2000
順位 1位/288人
ルー・ミラーロ
学科 930/1000
実技 580/1000
計 1510/2000
順位 107位/288人
ハイラス・ダートン
学科 960/1000
実技 940/1000
計 1900/2000
順位 2位/288人
マーチ・イーヴィッド
学科 800/1000
実技 650/1000
計 1450/2000
順位 130位/288人
アイビー・フェリアラント
学科 910/1000
実技 720/1000
計 1630/2000
順位 70位/288人
フォグル・レイザー
学科 640/1000
実技 750/1000
計 1390/2000
順位 151位/288人
これにて第8章完結となります。




