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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第8章 掴み取る頂点
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第207話 風雷乱舞


 躱す



 躱す



 躱す



 前からも後ろからも、右からも左からも、上からも下からすらも。

 どこからでも無限に飛来する雷をひらりひらりと回避していく。


 王女自身はただ腕を組んで目を閉じ、じっとそこに立っているだけだというのに、切れ間なく、時には複数同時に襲い来る雷。

 魔力切れを恐れている様子もない。わたしと王女の2人を閉じ込める程度の範囲とはいえそれなりの規模がある魔法だというのに。


「一つ、教えてあげる。この魔法は発動には大きく魔力を消費するけれど、それ以降はほとんど魔力を使わないわ。時間稼ぎは無意味。さっさと降参しなさい」


 そしてまた、降参を促してくる。降参しろ降参しろとうるさいわね。


「そんなに降参して欲しいなら、絶対に敵わないって思わせてみなさいよ。言っとくけど、こっちだってこうして飛んでるだけなら大した消耗はないんだからね」


「……そう。後悔しないでよ」


 再び襲う雷。見た目は派手だけど、結局これしか出来ないなら大した脅威じゃない。そろそろこちらから打開を



 回避した雷が戻ってくる



「っ風よ!!」



 咄嗟に風で球状に周囲を覆い防御する。




「止まったわね?」




「マズッ!?」



 今まで動き続けていたから回避出来ていた雷。それが、動きを止めてしまったわたしに全方位から殺到してくる。

 自身を覆う風がみるみる削られていく。エネルギーを消費して更に防御を固めても、


「降参宣言がされるまで、一生そのまま攻撃し続ける。エネルギー切れで倒れる前に、諦めることをオススメするわ」


 このままではジリ貧。仕方がない。少し大きめに消耗するけど。



「弾けッ!!」



 纏う風を弾けさせ、一瞬だけ襲い来る雷に隙間を作る。そこから脱出してどうにか再び回避が可能な体勢に戻ることに成功した。


「しぶといわね」


「当然。勝つのはわたしなんだから」


「本気で言ってる?」


 明らかに舐められてるけど、それも仕方がない。ここまででわたしがやれたのは、ただ回避することだけ。一切攻撃出来てない。

 正直、ここまで回避だけで苦戦するとは思わなかった。この妖精形態になったわたしの速度は、レオンとだって張り合える程だと自負してる。雷なんて軽く回避して、すぐにでもあの余裕を剥いでやるつもりだった。


 でも、このままじゃどうにもならない。


 だから、そろそろやろう。消耗するから、早期決着を狙わないといけなくなるけど。



 エレ



 うん、だいじょうぶ



「本気に決まってるでしょ」



 廻れ! 大自然の奔流よ!!



 体中を巡る自然エネルギーの流れに更に多くのエネルギーを流し込むと、ヒラヒラと踊る翠の帯や翅から、輝くエネルギーが鱗粉のように舞い散り始めた。

 全身が淡く発光し、一回り大きくなった翅が自ら生み出した風の流れを捉えて震えている。


 回避で苦戦するなら、更に速度を上げて余裕を持って回避出来るようにするだけ。



「さあ、行くわよ」



 わたしの変化など知ったことではないと言わんばかりに、変わらず襲ってくる数多の雷。



「どこ狙ってるの?」



 王女の頭上から風の塊を叩き落とす。


「っ」


 昇る雷が風を迎撃し、



「後ろよ」



 背後から声をかけた瞬間、正面に回り込んで鋭い風の刃を放つ。



 雷は一瞬前までわたしがいた場所を撃ち抜いている。これは完全に不意を突いた。直撃する




「墜ちろ」




 王女を守護するように降り注ぐ雷。それは壁のように王女の姿を覆い隠し、風の刃も飲み込まれて消えていく。

 間一髪、距離を取るのが間に合った。一本一本雷を落とすだけでなく、あんな壁みたいな広範囲攻撃もあるのね。危うくわたし自身も飲み込まれるところだったわ。


「本当は、こんな防御ではなくて止めを刺す時に使いたかったんだけれど。駄目ね。ちょっと侮り過ぎたかしら」


「そのまま倒れてくれれば良いのに。相手を舐めたまま地を這う様はさぞ滑稽でしょうね」


「あなた、本当に性格悪いわね。可愛らしくなったのは見た目だけか」


「一流の女は性格が悪くても魅力的に見えるのよ。むしろそこが魅力に見えるくらいにならなきゃ」


「じゃああなたは一流の女ではないわね」


「あんた程じゃないわ」


 どうしたものか。ああいう広範囲攻撃は速さを武器にするわたしみたいな人間には天敵なのよね。副会長みたいな攻撃なら空を飛べば避けられるのに。


 賭けになるけど……行くしかないか。


 エレ、少し無理するわよ


 まーち……だいじょうぶ?


 大丈夫大丈夫。エレの方こそ、エネルギー切れになる前にちゃんと言いなさいよ。


 うん……。



 よし



 グッと一つ、力を込めて



 速く、速く、どこまでも!



 残像を置き去りに、雷のドームを縦横無尽に飛び回る



 もっと、もっと、上げろ、上げろッ!



 視界がブレて、自分でさえ制御出来ているのか怪しくなるほどに速く



 襲ってくる雷の狙いが段々ズレていく。目を閉じているのは多分、このドーム内なら目視以外で完全に知覚出来ているってことなんだろうけど、その知覚能力すら置き去りにするほどに速度を上げて全力で飛び回り、ドンドン雷を引き離していく。



 そして



 一気に間合いを詰めて



「ぶっ飛べッ!!」




 ぶん殴るッ!!




 振りかぶった拳を叩き付ける、直前



 わたしの顔にかざすように、目の前に広げられた掌



 その指の隙間から




 目が合った




「今度こそ」




 墜ちろ




 体を貫く轟雷。明らかにこの瞬間を狙って溜めていたその一撃は、全身を痺れさせると共にわたしの体を軽々と吹き飛ばし、雷のドームへと叩き付ける。

 ドームを形成する雷が身を焼き、体から力が抜けて飛んでいられなくなる。


 ドサリと、地に伏した。


「わたしの広範囲攻撃に対抗するには、わたしが反応する間もないほどの高速で攻撃を叩き込むしかない。魔法ではどうしても速度に限界がある。なら、次にあなたが仕掛けてくるのは物理攻撃。速度を乗せて殴りに来るのは分かっていたわ」


 体が痺れて動かないまま、倒れたわたしの耳に声が入ってくる。


「高速で飛び回っている時、動きがやけに直線的なのは知覚出来ていた。あなた自身も制御し切れていないのは明白だったわ。なら、あなたの攻撃は真正面からの殴打。それしかない」


 こいつ……


「ねえ、忘れているのかもしれないけれど、わたしだって元々は班長をしていたのよ? クレイ程良くはないのは知っているけれど、そんな単純な攻撃に当たってあげるほど頭が悪くはないの」



 ムカつく……!



 まーち、もうえねるぎーが……


 だったら、わたしの魔力をあげる。自然エネルギーに変換して。同調が進んでる今なら出来るでしょ。


 だめだよまーち! そんなことしたら、もっと……!


 同調が進むでしょうね。そろそろわたしが完全に人間じゃなくなるのも近いかしら。


 だったら!



「バカね」



 言ったでしょ? 人間かどうかなんてどうでも良いの。



 まーち……




「わたしは、わたしだッ!!」




 吹き抜ける風。床に手を突いて、ゆっくりと体を起こしながら、風を放出する。


「いい加減しつこい! 倒れなさい!」


 落ちてくる雷を風が弾く。



 そして、



 放出する風が広がっていく。



「これは……! くっ、倒れろ!!」


 飛来する数多の雷を全て弾き、放出する風がどこまでもその規模を増していく。


「わたしの魔力、全部持っていきなさい!」


 ただでさえ痺れて感覚が薄い体から、どんどん力が抜けていくのを感じる。物凄い勢いで魔力を搾り取られている。



 まーち、これいじょうは……


 全部って言ってるでしょ! まだ、こんなんじゃまだ足りない!!



 広がる風がついに雷のドーム内全てを埋め尽くし、逃げ場をなくした王女を飲み込んで打ち上げる。



「お返しするわ」



 墜ちろ



 打ち上げられ、抵抗することも出来ずに風に遊ばれていた王女を床に叩き付ける。そのまま風で抑えつけ追撃。確実にその意識を奪い取った。


「はぁ……っふふ、ざまぁみろってのよ……はぁ、コホッ! はぁ……」


 消えていく雷のドームを見上げながら座り込む。完全にすっからかんね。もう一歩も動けない。


 でも、勝ちは勝ち。他の援護は出来そうにないけど、まあ大丈夫でしょ。きっと勝ってるわよ。



 ああ、良い気分だわ。

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