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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第8章 掴み取る頂点
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第201話 時の超越者

 この日を待っていた。クレイ班の情報が最も手に入るだろう一戦。


 クレイ・ティクライズ対ダイム・レスドガルン


 クレイたちが勝つにせよ負けるにせよ、必ずその全力を振り絞って戦うだろうこの試合。この試合は、隅々まで見逃せない。


「どんな展開になるだろう」


「さあな。正直、クレイの成長が異常過ぎてまるで予想出来ん」


 クレイがアーサさんと一騎打ちをした際に何をしたのか。それは未だに分かっていない。クレイの持つ能力から考えた予想としては、恐らく目の前から消えているんじゃないか、というところだ。

 だが、いくらクレイが気配を消すことに長けているといっても、目の前にいるのに見失ったりすることがあるのだろうか。


「もしクレイの新しい技が予想通りなら、会長相手でも一人で勝ってしまうかもしれないね」


「わたしも思いました。会長の時止めだって結局は魔法ですから、会長自身が発動しないと使えません。もしクレイさんが目の前から消えるなら、いくら会長でも時を止める間もなく倒されちゃうんじゃないかって」


「いや、恐らくそう簡単には終わらない。ウェルシー班との試合で、会長は不意を突かれそうになっても冷静に対処していた。クレイ相手でもそれは変わらないはず」


「でも、クレイは消えるんでしょ? 時を止めて確認したって、見えないなら関係ないじゃない」


「本当に消えてる訳があるか。どんな技術を使ってるかは知らんが、その場に存在はしてる。時を止めてしっかり確認すれば、見えないってことはないだろう。で、見えてるならあとは実力勝負。そうなったら会長が負けることはない」


「クレイ様もそれは把握していらっしゃるはず。一対一では挑まないでしょう」


「ああ。前回同様、何人かを会長以外に向かわせて、複数人で会長に挑むだろうな。時止めが効かないティールと、あとはクレイと魔法使い一人ってところか」


 今回は最初からティールさんに時止めが効かないことを両者が把握している。それも踏まえて、クレイがどういう作戦を採用するのか。



 試合開始の合図が響く。








「クレイ坊ちゃま」


「ん? クロウか。地下に入ってきて良いのか?」


「はい、許可はいただいております」


 家の地下で暗殺技について調べている時、一度だけクロウが来た。わざわざ地下に入る許可を取ってまで訪ねてきたという事実に、一体何事かと思ったのを覚えている。



「今、坊ちゃまが習得しようとなさっている技についてです」



「……何故それをクロウが?」


「お話しても構わないとは思いますが……今は秘密ということにさせてくださいませ。それより、技についてです」


 ティクライズの中でも極秘扱いであろうこの技について、父以外に知っている者が存在しているという事実。それが意味するところを知りたいという思いはあったが、技についての話が聞けるというならそれも大切なことだ。そう考え、クロウの話を聞くことにした。


「ティクライズの剣の型が暗殺の技にも応用可能であるということはお聞きになっていると思います。この応用可能な技術というのは、剣の扱いではなく、体の動かし方のことです」


「つまり、剣を持っていなくてもこの技は使用可能だということか」


「はい。流石は坊ちゃま、ご理解が早い」


「いや、重要なのはそこではないな。剣の技術ではないということは……」


 思ったより応用の幅が広そうな技術だった。だからこそ逆に使いこなすのが難しくもある訳だが。


「頑張って下さいませ」


「ああ、ありがとう」




 自分が思った通りの効果を発揮することは確認出来た。あとは、これが常に、誰が相手でも通用するのかどうか。こればかりはやってみなければ分からない。

 仲間たちを相手に練習は重ねてきたが、仲間たちに通用するのは癖を知り尽くしているからという可能性もある。


 仲間たち以外のサンプルはたったの1。アーサ・ナインフェールのみ。誰にでも通用すると確信するには、まるで足りていない。

 それでもやるしかない。ぶっつけ本番に近い形でこの相手にぶつけるようなことは、本当はしたくなかったんだがな。


「準備は良いな?」


「うむ」


「完璧」


「はい!」


「万全です」


「行けるわよ」


 さて、いよいよだ。ドームのフィールドに出て、開始の合図を待つ。正面には、距離を空けて向かい合う会長たちの姿。あちらも準備は万端といったところか。


 両班の準備が出来ていることを確認し、審判が手を挙げる。



 試合開始の合図が響く。



 相変わらずやや突出して進行してくる会長。それを回り込むように、ティール、カレン、フォンが相手班員たちへと向かって行く。


「おや、ティールさんはあちらへ行くんですか」


 俺、クルと少し間を空けて向かい合い、会長が足を止める。


「こちらの作戦に付き合ってくださるんですか?」


「いえ、わたしは最も脅威となるであろう相手に向かって行くだけですよ。クレイ君、今の君はかなり厄介そうです」


 俺を脅威と感じてこちらに来てくれたのか。だとすれば、アーサ班相手に今の俺の力を見せたことの思わぬ成果だな。


「しかし、ティールさんをあちらへ行かせて良かったのですか?」


「時止めは俺が対処しますから。それに、今のクルを以前と同じだと思わない方が良い」


「ほう、では試してみましょう」


 瞬間、魔力の高まりを検知。時が止まる前に魔法陣を設置して、会長の攻撃を阻止する。



 そして、



「クル、本気を出せ」



「はっ!」



 自己命令では外せない、人間としてあるべきリミッター。それを、外部からの命令により解除する。

 もちろんそんなことをすれば、体への負担は果てしなく大きい。どのような戦い方をするかにもよるが、制限解除状態のクルが戦えるのは3~5分程度か。



 だが、その効果は絶大だ。



「消え……ッ!」


 クルの動きが速すぎて一瞬見失った会長が、慌てて魔力を身体強化へと動かす。流石の反応速度だ。上手くいけば、身体強化発動前に仕留められるんじゃないかと期待したんだが、そこまで甘くはないな。


 だが、これで終わりじゃない。クルをこちらに残したのは、制限解除状態なら身体強化状態の会長とある程度1人で戦えるというだけではなく、



「消滅の魔弾」



「くッ!?」


 アイリスとの連携が誰よりも上手いからだ。アイリスとクルのコンビなら、俺の指示がなくても完璧な連携で会長を追い詰めることが出来る。

 時止めを俺が封じる以上、会長は身体強化で戦うしかない。それにある程度ついていくことが出来るクルと、完璧に連携して隙を突いてくるアイリス。


 更に、身体強化中なら魔法を使われる恐れがないので、俺も解析により会長が最も対応し辛いタイミングで援護を送ることが出来る。

 それによって隙が大きくなった会長を、速度に秀でた雷魔法が貫こうと迫る。


「こっ……れは……ッ!」


 その雷に何とか対処して斬り裂けば、更にその隙を突くクルの拳。それを回避した先には既に魔法陣が置いてある。


「早送・虚刈り!!」


 身体強化を解除した瞬間に魔法を発動した会長が、間合いを開くために自身の速度を上げて全力で後退する。流石にこの魔法が発動している会長に追い付くことは出来ない。仕方なく、一度仕切り直す。


「はぁ……はぁ……このままでは、奥の手を秘したまま敗北する無様を晒しそうですね。まだ早いかと思いましたが、ここが切り時でしょう」


 やはり何か切り札を持っているか。本当はそんな物を使う間もなく仕留めたかったんだが。




「召喚・虚立ち」




 瞬きする間に、会長が3人に増えていた。




「…………は?」


「別の時間から、自身を呼び出しました。発動中は常に魔力を消費し続けますが、間違いなく実体のある本物のわたしです」


 新たに増えた会長が動き出す。クルに、アイリスに1人ずつ。そして、



「さあ、一対一といきましょうか」



 目の前に立つ、この時間を生きる本物の会長が、剣を構えた。


 前話の後書きで、不定期更新は11月中のみ、と言ったばかりなのですが、現在の仕事を12月も継続してくれと言われてしまいまして、12月末まで不定期更新を続けさせてください。


 楽しみに待ってくださっている方には申し訳ないのですが、どうかご理解くださいますよう、お願いいたします。

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