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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第1話 入学

 その巨大な建物の門の前に立つ。1000人近くもの生徒を飲み込む、この国、ヴォルスグランに限らず、全世界で見ても最大規模の教育機関。



 ディルガドール学園



 ほとんど家を追い出されるようにして、少しでも経験を積んでこいと入れられたこの学園。正直に言えば、初めて親に感謝している。

 学園になど通わなくても良いから、さっさと前線へ行き、少しでも役に立って死ねと言われる覚悟もしていたからな。

 言われた通り、この学園では貴重な経験を積むことが出来るだろう。それは俺のこれからに大いに役立ってくれるはずだ。


「行くか」


 敢えて呟きを口に出し、新たな人生への一歩を踏み出した。






「新入生諸君、入学おめでとう。このディルガドール学園に入学出来た時点で、君たちの将来には大きな期待が寄せられている。だが、わたしは確信しているよ。君たちなら、そんな期待を軽々と超える結果を出してくれるだろうと」


 学園内でも一際大きな建物であるこのドームは、中央の最も低い場所に広いスペースがあり、そこから全周覆うように階段状に席が並べられている。

 この席に集められた新入生を含む全生徒の前で、ドーム中央に立った理事長が歓迎の意を述べている。理事長は見た目20代半ばほどの、背中くらいまで茶髪を伸ばしている女性だ。


 あまりにも、若すぎないか?


 キレア・ディルガドールといえば、このディルガドール学園創立からずっとトップに立ち続けている女傑のはずだ。

 創立20年になるこの学園の立ち上げからずっと関わっている彼女が、あんなに若いはずがないんだが……。


「なあなあ、理事長さん、美人だな」


「ん? ああ、否定はしない」


 急に隣にいた男子生徒に話しかけられた。俺よりやや背の高い緑がかった髪の男だ。俺が165センチだから、まあ170いくかいかないかくらいだろう。


「否定はしないってなんだよー。そこは積極的に同意しろよな」


「わかったわかった。同意するからあまり騒ぐな。目立つぞ」


 まったく。周囲は静かに聞いているのだから、少し声を出すだけでも目立つというのに。


「周りの女の子たちも可愛い子多いし、やっぱりここに来たのは当たりだったぜ」


 そんな動機でこの学園に来たのか。よく合格出来たな。どんな動機だろうと、それで一定の能力を発揮できるのなら、それは良いことだろう。


「では、わたしの話はここまでとしよう。改めて、入学おめでとう。君たちのこれからの活躍に、期待しているよ」


 いつの間にか理事長の話が終わっていたようだ。こいつのせいと言うべきか、おかげと言うべきか、早く終わったように感じるな。


「お、終わったか。教室行こうぜ」


「同じクラスとは限らんだろうに」




 教室に入る。1年3組。合格者322名を約40人ずつ8クラスに分け、1学年となっているようだ。

 席は自由か。まあ学科授業に学ぶところはほとんどないだろうし、一番後ろで良いか。最後列の中央の席に座る。


「隣失礼っと」


 で、当たり前のようにこいつも同じクラスらしい。


「俺、ハイラス・ダートン。よろしく」


「クレイだ」


 自己紹介していると、続々とクラスメイトたちが教室に入ってくる。一人見覚えがある顔がいるが、わざわざ話しかけに行くような関係ではないし、挨拶はいいか。

 そして最後に教師が入ってくる。肩くらいの長さの茶髪の、20代後半くらいと思われる女性教師だ。また若いな。このエリート学園で教員をしているからには優秀なのだろうが。


「はーい、みんな揃ってるね。わたしはこの1年3組担任の、キャロル・ティスタです。早速だけど、みんなにも自己紹介してもらおうかな。じゃあそっちから順番に」


 廊下側の前の方から順番に自己紹介していくようだ。同じクラスのメンバーは何かと交流も多くなるだろうし、ちゃんと聞いておくか。

 時々その自己紹介の内容にざわつくのを聞きながら、俺の番になる。


「クレイ・ティクライズです。よろしくお願いします」


 ここでも教室が騒めく。ティクライズは有名な騎士の家系だ。王の近衛も多く輩出している名家で、その名前は国外まで知られるほど。

 この学園に入学できるような連中なら当然知っている名前だろう。きっとこいつも凄い奴なんだろうな、と言いたげな視線が突き刺さる。


 止めて欲しい


 ティクライズだからどうだなどと言われるのは勘弁して欲しいものだ。そんなことを言っても、ティクライズと名乗ったのは俺なのだから仕方ないのだが。

 隣の席からも驚いた視線。チャラチャラしているようで、しっかり知識はあるようだ。そうでなければこの学園になど入れないか。


「はい、ありがとう。これから一緒に過ごす仲間の名前はしっかり覚えようね」


 全員の自己紹介が終わった。一度聞けば頭には入る。数人、名前を聞くだけでわかる家の奴もいたな。とはいえ俺のような、家の本来のスタイルとは全く違う存在もいるのだし、名前でわかった気になるのは危ないだろう。情報の一つとして覚えておくに止める。


「みんなわかっていると思うけど、みんなにはこれから班を組んでもらいます。基本的にこれから何か行事がある時は、その班単位で行動してもらうことになるから、班決めはとっても大事」


 班というのは、単なるグループを指す言葉ではない。これから戦闘能力を鍛え、前線に出ていく可能性もある俺たちが、戦う時に共に行動する、言わば戦友だ。

 この学園の行事も、戦闘行動を含む物が多数あり、その時に班単位で行動するということだ。


「班長が1人、班員が5人の計6人が最大人数ね。それより少なくても良いけど、多いのは駄目。別のクラスの人と組んでも良いよ。でも学年は統一してね」


 別クラスでも良いのか。このクラスはあくまで学科授業を受ける単位であって、実技授業は別なんだろうか。


「今日は授業はなし! これから自由時間になるから、班に勧誘するなり、誰かの班に入るなり、自由にして良いよ。決まったら班長が申請用紙を提出すること。申請してから班員を追加することも出来るから、2人でも集まったらとりあえず申請して大丈夫。班の申請期限は夏休みに入るまで。以上!」


 さて、班を組まないとな。このクラスにも有力そうなのがそれなりにいるが、どうするか……。



「良いかな、クレイ・ティクライズ君」



 話しかけてきたのは、金髪の物凄く顔が整った男子生徒。180近くありそうな高身長に、柔らかく微笑む優し気な表情、気品ある所作。どこにも欠点が見られない完璧と言って過言でない男子。


 膝を突き、頭を下げる。


「もちろんです。何か御用でしょうか」


 この男子生徒は、この国、ヴォルスグランの第二王子レオン・ヴォルスグラン。正直何故ここにいるのかわからないお方だ。

 現在第一王子が前線で活躍している。これは、ディルガドール学園を卒業し、その能力が優れていることを世間に示してしまったからだ。

 優れた能力を持つ王子が戦わないのは怠慢ではないか、という貴族たちのふざけた声が無視出来ないほどに大きくなり、戦いに出ざるを得なくなった。


 つまり、こうして第二王子がディルガドール学園に入り、このまま卒業すれば、同様に前線に出ることになる可能性が高い。

 陛下は何を考えておられるのか。まさか息子を喜んで前線に送り出す狂人ではあるまいな。


「ああ、ここは学園だから。そんなに畏まらなくても良いよ。クラスメイトとして、仲良くしてくれ」


「はっ。ありがとうございます」


 目の前に王子がいるのだから、クラスメイトたちも理解はしてくれるだろうが、教室で頭を下げていては目立って仕方がない。ここはありがたく姿勢を戻させてもらおう。


「ティクライズ、というのは、あのティクライズ家のことで合っているかな」


「はい、騎士を多く輩出するティクライズ家です」


「良かった。見覚えがなかったから、間違えたのかと思ったよ。城で見た覚えがないけれど、もしかして僕が忘れてしまっただけかな? だとしたら申し訳ないね」


「いえ、少々事情がありまして、わたしは城に顔を出すことがほとんどありませんでした。恐らくはお忘れになった訳ではないかと」


 事情というと何か重大なことのようだが、単に俺がティクライズの剣を修められなかったから親に置いて行かれただけだ。家族が城へ行くときは、俺はいつも留守番だった。


「ふむ、事情か。あまり初対面で踏み込むのも失礼かな。ここは本題に入ろうか。察しているとは思うけれど、班の話だ。参考までに、入試の実技の成績を聞いても良いかい?」


 そうきたか。恐らく本当に参考までに聞いただけだろう。何も含むところなどないはずだ。

 だが、これは俺にとってかなり都合が悪い。なぜなら、俺の実技の成績はお世辞にも良いとは言えないからだ。


 この王子の人となりからして、断れば諦めてくれるだろう。だが、それで良いのだろうか。

 班は戦友だ。戦場において背を預けて戦う仲間だ。その間に不信感や隠し事、理解不足は極力なくすべきであり、自分の実力など隠していてもすぐにわかる。

 ここは正直に自分の成績を言って、それでも仲間になってくれる相手を募った方が先のためなのではないだろうか。



「1000点中530点です」



「……ん?」


 王子の顔が、聞き間違いだろうかと言いたげにポカンとしてしまった。整った顔でそんな表情をされると、何だか悪いことを言った気分になるな。


「え、今530点って言った?」


「プッ、フフ……本当に? よくそれで合格出来たね……」


「ティクライズに勝っちゃったんだけど」


 王子とティクライズの会話に興味を持ち、こっそり聞いていた周囲から、失笑や驚きの視線が突き刺さり、皮肉混じりの言葉が飛び交う。


「あー、えっと……申し訳ない。興味本位で余計なことを聞いたね。すまない、僕はこれで」


 本当に申し訳なさそうな顔で去っていく王子。別にわざと俺を貶めようとした訳でもあるまいに、優しい人だ。

 しかし、その優しい王子でも班には加えずに去ってしまう程度には、俺の実技の成績は悪い。悪い成績を聞いても班を組んでくれるメンバーを探すべきだと思い正直に言ったが。


 これは前途多難だな。

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