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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第8章 掴み取る頂点
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第197話 最初で最後の決勝戦

 遂にこの日が来た。そんなことを思っている奴らもいそうね。


 ディアン・プランズ。あたしのすぐ後ろについて来ている現在の3年生第2位。


 でも、今までに彼らと戦ったことはただの一度もない。


 1年の頃の最初の大会はあたしが不参加だった。その次の夏の大会はディアンが準決勝で、あたしが決勝でフルズ・ヴォルスグランに敗れた。

 1年最後の希望制戦ではあたしは王子に挑んだし、ディアンは同学年の別の班を希望していた。


 2年の夏もやっぱりダイムのせいでディアンと戦う機会はなかったし、その年の希望制戦はあたしはダイム、ディアンはやっぱり別の班だった。


 学年の頂点を目指すなら絶対にあたしに挑まなければならないはずなのに、ディアンは常にそれを避けてきた。

 だから、同学年の中には結構な数、ディアンはフルームから逃げていると思っている奴がいる。



 でも、あたしは知っている。あいつはあんな見た目をしていて、実はとても慎重な人間だって。



 動くのは、やれると思った時か、やらざるを得ない時かの二択。挑戦を選択するのなら、常に勝利への道筋が見えてから。



 果たして今回は、やれると思って挑戦してきたのか、それとも最後だからやらざるを得なかったのか。



 展開は分かり切っている。あとは、どちらがより押すことが出来るか。



 さあ、最初で最後の勝負といきましょう。



 試合開始の合図と同時、



「大海・波王鳴動」



 こちらの作戦はいつも同じ。圧倒的規模と質量で押し潰す。何度突破されようと、これは変わらない。他にもっと強力な作戦があれば変更する可能性はなくはないけど、少なくとも、突破されてしまったから変更した方が良いのかな? なんて、そんな理由で作戦を変えるほどあたしの魔法は安くない。


 対するディアンがやることもまた、単純明快。



「おらあああああぁぁぁぁッ!!」



 ひたすら拳を打ち出し、あたしの水に抵抗する。目的は時間稼ぎ。サラフちゃんの魔法が完成するまで、ただ耐えること。

 ここが第一段階。サラフちゃんの魔法が完成するまでディアンが耐えきるかどうか。


 ここで勝負を決められれば、それほど楽なことはない。でも、



「ディアン君、頑張って!!」



 ま、無理よね。


 班全体ではなくディアン単体に魔法の対象を絞ることで、発動速度を上げた強化魔法。これの発動までに終わらせることが出来るほど、ディアンは弱くない。



 そして、強化を受けたディアンは、ダイム並に脅威となる。



 それまでギリギリのところで水を吹き飛ばして耐えていたディアンが、強化を受けた瞬間、軽く腕を振るうだけで班員たちが安全に行動出来るだけのスペースを確保出来るほどになった。

 ここが第二段階。サラフちゃんが他の班員たちに強化をするまでの時間を、ディアンが水を吹き飛ばすことで稼ぐ。


 何度も水を追加して質量を増してやるけど、ディアンにはまるで効いていない。突破力だけならダイムよりも上だ。このままでは、相手全員が強化されてしまうのも時間の問題。

 仲間たちにもディアンを攻撃させた方が良い……? でも、シャフィの魔力供給だって万能じゃない。仲間たち全員へ充分な供給なんて出来ないんだから、あたし以外の魔法の使いどころは考えなければならない。


 落ち着きなさい……大丈夫。瞬間移動してきて気が付いたら負けているなんてことにはならないんだから。落ち着いて、作戦通りにやる。



「みんな、頑張って!!」



 来た。第三段階。ディアン以外の相手班員たちが強化され、ディアン抜きでもあたしの水を吹き飛ばして耐えられるようになった。

 サラフちゃんの四方を囲み、あたしの水を弾いて守っている。水を操って様々な角度からサラフちゃんを狙ってみるけど、反応速度、移動速度、攻撃威力、攻撃技術、全てがもれなく強者の領域。完全に防がれてしまって、サラフちゃんまで届く気配すらない。



 そして、解き放たれたディアンが動き出す。



憐禍(れんか)絶天(ぜってん)



 打ち出される拳。消し飛ぶ海。



 パラパラと、舞い上がった水が雨のごとく降り注ぐ。



 拳の一撃で、フィールド上の水を五分の一くらい吹き飛ばし、真っすぐ向かってくるディアン。水を操り足止めを試みるも、全て腕の一振りで掻き消されて止められない。

 水の追加は継続しているが、結局はディアンの前方にある水は吹き飛ばされてしまうため、他の班員たちの動きを制限することしか出来ていない。


 そんなことをしている間に、もう目の前まで来ているディアン。その速度は学園一。時を止めて移動するダイムを除く誰よりも速い。



「死ぬんじゃねぇぞ」



 拳の一撃。水の防御も、最初から体をピッタリ覆うように張っていた結界も軽々と貫通し、腹へと突き刺さる。



 そして、そのまま腹を貫通して背中へと抜ける。



「……チッ、偽物か」



 貫かれたあたしの姿が崩れ、バシャリと床に落ちる。そこにいたのは、水で作った偽物。試合が始まってすぐ、フィールドを埋め尽くす水を利用して隠れて移動し、最初の位置には偽物を置いておいた。

 あんな化け物と正面から殴り合ってなんていられない。サラフちゃんに強化された状態のディアンは、恐らく正面からの純粋な戦闘では学園最強だ。隙を突いて戦わないとどうにもならない。


 だから、まずは攪乱。



「どこに行きやがったん、だッ! と」



 再び拳にて水を吹き飛ばすディアン。手当たり次第に水を掻き消して行けば、いずれ見つかるだろうという考えか。



「…………クソが、めんどくせぇ」



「さあ、本物はどーれだ?」



 吹き飛ばされた水に隠されていたフィールドが露わになる。そのフィールド上のあちこちに立つ、あたしのような物体。これらは全て結界で保護しているので、水を吹き飛ばす衝撃程度なら耐えられる。ディアンが直接攻撃しなければ消えない分身たちだ。


「一体一体、しっかり倒して探してね♪」


 そんなあたしの声に従った、という訳ではないだろうけど、手近なところから順番に偽物のあたしを破壊していくディアン。自分の姿をしたものが何度も拳に貫かれて崩れていくのを見るのは、あまり気分が良くないわね。


「ふんッ! セッ! ハッ!」


 何体か偽物を倒し、再び迫ってきた水を吹き飛ばし、また偽物を破壊し、押し寄せる水を掻き消し。


「うっとおしい。何の意味があんだ、この時間稼ぎに」


 繰り返すこと5度。20体以上もの偽物を破壊し、その終わらない作業に段々ストレスが溜まってきたディアンが、流れ作業で偽物に拳を叩き付け、



 瞬間、偽物のあたしに仕掛けていた罠の結界が起動。突き出された拳を固定し、動きを封じる。



「なにッ!?」



 更に床から地魔法による足枷が出てきて拘束。そこへ、風、炎による攻撃が飛んでくる。



「クソがッ!! 罠かッ!?」



 慌てたディアンが暴れて拘束を破壊しようとする。急速に結界にも足枷にもヒビが入っていくが、それが壊れるよりも攻撃が到達する方が早い。これは直撃するはず。



「なんつってな。サラフッ!!」



「ディアンくーん、ファイト―!」



 その声が聞こえた瞬間、結界も足枷も簡単に砕け散り、



「オラァ!!」



 風も炎も一まとめに、腕の一振りで消えていく。



「見ーつけたァ」



 そして、魔法が飛来した方向からあたしたちの居場所を把握したディアンが、真っすぐにこちらへと向かってくる。

 足止めのための水も、炎も、風も、全て軽々突破して、その俊足を遺憾なく発揮し、もう目の前。

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