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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第8章 掴み取る頂点
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第194話 あなたの強みは何ですか?

 ドーム全体が、ざわざわと騒がしい。観客席はほとんど埋まり切っている。全生徒が入ってもまだ余裕のあるこのドームの席がこれほど埋まっているということは、外部からの見学者も相当数いるということだ。

 生徒会として外部からの申請には目を通しているが、それでも驚くべき人数だ。それだけ、これからの試合が注目されているということ。



 ダイム・レスドガルン対フルーム・アクリレイン



 誰もが認める、現学園最強を決めるカード。3年生でありながら2年生に挑んでいるというのに、そこに疑問を持つ者は誰一人存在しない。

 ここまでの対戦成績は、ダイム班の3戦3勝。だが、だからといって今回もフルーム班の負けだと確信している者は少ない。



 一回目は、何も出来ず敗北



 二回目は、情報収集に徹して敗北



 三回目は、あと一歩のところまで迫った敗北



 なら、四回目は?



 誰もが期待している。今回はフルーム・アクリレインが勝つのではないかと。誰もが期待している。それでも最強はダイム・レスドガルンだと。



 口々に展開予想をする観客たち。今度こそフルーム・アクリレインの水が全てを飲み込むぞ。いや、そんなものダイム・レスドガルンの剣が斬り裂くさ。



 楽しそうに勝手な予想を吐きながら。静かにこれからの戦いの一切を見逃さないように目を走らせながら。忙しなくメモを取りながら。



 大勢の期待に応えるように



 試合開始の合図が響く。








 モンスター討伐実習期間中、クレイ君とダイム対策を話し合った。いや、話し合ったというより、教わったという方が正しいかもしれない。

 流石に上級生として、一方的に教わるのは何だか嫌だし情けないから、あたしからも何かクレイ君がダイムと戦う時に役立つ知識を教えられたら良いと思っていたのに、結局最後まで教わってばかりだったのを覚えている。




「会長との戦い方として、フルーム先輩のやり方は間違ってないです」


「そう? でも、どれだけフィールドを水で満たしても、あいつら当たり前のように割り進んでくるんだけど」


「フルーム先輩の強みは、フィールドを完全に沈めるほどの規模と、それを発動後も自在に操ることが出来る繊細さを兼ね備えているところです」


「あ、ありがとう」


 自分でも分かっている強みだけど、こうも真正面から一切の冗談なく褒められると、流石に照れるわね。


「対して会長は、フルーム先輩の水を容易く割る剣技と、追撃してくる水を回避する身体能力及び魔法を持っています」


「改めて聞いても馬鹿げた話だねー」


「馬鹿げているのはあなたの魔法規模もですが」


「で? あたしもその辺の事実は理解してるし、それをふまえて戦ったつもりなんだけどなー。でも負けちゃった」


 今度こそという万全の体勢で挑んだ夏休み前の一戦。確かにミスもあったものの、あれで勝てないならどうすれば良いのか、というところまで追い詰めた。

 あの単純な魔力放出。あれだけであたしの水が弾け飛ぶのなら、フィールドを満たす水も攻撃する水も、結局は何の意味もない。



「必要なのは先を見ることです」



 先を見る。それは、クレイ君の得意技だ。全てを読み切り、未来が見えているのではないかという精度で相手を完封する。

 だがそれは、クレイ君の頭脳があってこそ。あたしでは、止まった時の中でのダイムの動きまで読んで攻撃を置いておくなんて超精度の予測は出来ない。


「先を見るというのは、相手の動きを予測して未来位置に攻撃を当てるという意味ではありません。文字通り、この後どうなるのか、を考えながら動くということです」


「えー、それくらい」


「やっていますか? 本当に?」


 言葉を遮られて、自分の戦いを思い返してみる。ダイムを見失った時点で何かされる前に防御したり、自分が気絶した時のために自動発動設定した魔法を用意しておいたり、それなりに先読みは出来ているはず。


 でも……


「相手の予想外の行動への備えは出来ていると思います。しかし、見えている相手の動きを素直に追い過ぎている」


 攻撃は、常に今現在見えている相手を直接狙っていた。それを回避されたら、また素直に回避先を攻撃するだけ。


「攻撃は回避されるものです。回避されたから、じゃあ次は回避先を狙おう。また回避されたから、また回避先を狙おう。それでは一生攻撃は当たらない。フルーム先輩、あなたは普段から広範囲の攻撃をし過ぎて、攻撃を当てる、という技術が鍛えられていないんですよ」


 攻撃は当てるものではなく、当たるもの。ただ全てを薙ぎ払えば勝利出来る。それがあたしの方針で、作戦。狙って攻撃する技術が疎かになっているのは必然だった。

 今まではそれで良かった。狙いを付けて攻撃することなんてなかったから。でも、ダイムのように軽々と水を斬り裂き、吹き飛ばし、薙ぎ払い、範囲攻撃を無効化して攻めてくる相手には、直接狙っての攻撃をしなければならない。


「じゃあこれから先読み技術を鍛えていけば勝てるってこと?」


「無駄とは言いませんが、それよりもやりやすい方法がありますよ」


「んんん? ダイムの動きを読んで直接攻撃を当てられるようにするんじゃないの?」


「それが出来るなら一番ですが、流石に難しいでしょう。時を止める相手に」


「え、だって必要なのは先を読むことだって」


「必要なのは、先を見ることです」


「……何か違うの?」


「別に会長がどう動くかなんて、読む必要はないです。ただ、回避してくるだろうな、という事実が見えていればそれで良い」





 あなたの強みは何ですか?





 あたしの強みは……!





「大海・波王鳴動(はおうめいどう)!」


 試合開始と同時に発動するのは、いつもの広範囲魔法。全てを海に沈める大魔法は、以前の野外フィールドと違い、あっという間にドームのフィールドを埋め尽くす。

 完全に蒼に染まったフィールド。だからといって、それだけでどうにかなるような相手ではない。


「飛剣・空割(そらわ)り」


 トレールの飛ぶ斬撃が海を割る。以前より強力になったその斬撃は、ドームを横断する勢いであたしの魔法を真っ二つにした。そして、割れた水の間を駆け抜けてくるダイム。

 わざわざそんなことをしなくても、自分の魔力を放出すればあたしの海を割るくらい出来るくせに。魔力を節約しようって訳?




 舐めんじゃないわよ!!




「大海・波王鳴動!!」




「なっ!?」


 相手が海を割り開いて突き進んでくるのなら、割ることが出来ないくらいに質量を増してやれば良い。


 相手があたしの攻撃を回避してくるのなら、回避出来ないように隙間をなくしてやれば良い。




「絶海・波王静謐(はおうせいひつ)




 シャフィから今までにない勢いで魔力が送られてくる。それを使って絶え間なく水を追加し、相手に僅かな進行の隙も与えない。

 魔法発動の度に魔力切れの倦怠感が襲い、シャフィから送られてくる魔力で回復する、というのを繰り返している。これがなかなかキツイ。が、手は緩めない。


 さあ、ダイム。節約なんて考える余裕はないでしょ?



「――――」



 来た。魔力放出。どれだけ追加しても無駄だと言わんばかりに、放出した魔力で水を押しのけ、一歩、一歩と進んでくる。


 それに対して、思わず笑みが顔に浮かんだ。



 よし、思った通りの展開だ。



 唯一怖かったのは、これだけの水をぶつけてもダイムには何の障害にもならない、という場合。しかし、あのゆっくりとした歩みを見る限り、どうやらこの水はダイムにとっても重いらしい。


 それさえ分かっていれば良い。



 さあ、根比べといこう



「絶海・波王静謐」



「――――」



 あたしが何度も起こる魔力切れに耐えられなくなるか、ダイムの魔力が尽きるか。それだけの、単純な勝負だ。



 あたしの強みは、魔法規模と、魔法を操る技術と




「根性おおおぉぉぉぉぉッ!!!」

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