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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第16話 楽しいトレーニング

「行くぞ! わたしがいつもトレーニングしている公園に行こう」


 昼食後、意気揚々と飛び出すカレンに連れられて、公園まで来た。俺たち以外にも、軽く体を動かしていたり、本格的に鍛練していたりする学生と思われる人間がそれなりにいるな。

 まあここは寮から一番近いトレーニング出来る場所だしな。広場にベンチが置かれている以外は特に何もない公園だ。体を動かすにはもってこいの場所になっている。


「よし、素振りを始めるぞ! ほら、お前たちの分の木剣も持ってきた」


「いや、お前以外に剣を使う人間はいないんだが」


 何故4本も木剣を持っているのかと思ったら。そもそも両手剣サイズの木剣なんて振ったことすらないな。


「む、そうだったか。クレイは使えるだろう?」


「そりゃあ一応教わってはいるが、ティクライズは両手に1本ずつ剣を持って戦うスタイルだ。両手剣は使わないぞ」


 力のファレイオルは両手剣による豪快な戦い方、技のティクライズは2本の剣による技巧的な戦い方をするというのは有名だ。何故それをよりにもよってファレイオルであるカレンが知らないのか。


「なにぃ!? 騎士と言えば両手剣だろう!?」


「いや、一般的な騎士は盾と剣だと思うが。2家が有名なのは実力が高いからであって、それが騎士の基本形だからではないぞ」


 もしくは槍か。まあそんなの人や国によって違うんだから何とも言えないが。


「むう……分かった。一人で素振りしてる……」


 トボトボと少し離れて、木剣で素振りを始めるカレン。ほぼ完成されているな。相変わらず剣の腕は素晴らしいと言わざるを得ない。


「ティールもハンマーで素振りだな。少しでも慣れて、ハンマーの扱いを覚えるんだ」


「分かりました。あたしも素振りします」


 カレンと並んで素振りを始めるティール。こちらは体がブレたり体重が乗っていなかったりと安定しない。重りのおかげで振り回されることはなくなったとは言っても、結局ハンマーの扱いが素人なのは変わらないからな。一度座学で扱いを教えても良いかもしれない。


「わたしは?」


「フォンには聞きたいことがある。どんな魔法が使える?」


「氷」


 いや、それは知っているが、そうではなく。


「氷でどんな魔法が使えるのかってことだ」


「何でも?」


「本当に何でもか? 透明にしたり濁らせたり、細かい装飾がされた氷の城を造ったり、雪を降らせたり吹雪を発生させたり出来るのか?」


「出来る」


 誇張でなく本当に何でも出来るのか。魔力の制御が出来ないのに魔法の制御は完璧ってことか? どうやったらそんな風に育つんだ。


「あ、でも小さくは出来ない。勝手に規模が大きくなるから」


「規模さえ大きいなら、装飾したり状態を変えたりも自由ってことか」


 だとするなら作戦の幅も広がるな。1回何でも出来る券をもらった気分だ。試してみたいこともたくさんあるんだが、練習でも1回しか使えないから確認も大変だな。今日は何をしてもらおうか。


「おい、クレイ! お前も素振りをしろ! 素振りは基本だぞ!」


「……ナイフで素振りするのか?」


「型とかあるだろ! ナイフのことは知らないが」


 まあ扱いを体に覚えさせ忘れないためには素振りも必要か。素振りというか型稽古みたいになりそうだが。


「フォン、じゃあこれをやってみてくれ」


「分かった」


 とりあえずフォンにお試しで魔法を使ってもらい結果を確認。フォンが魔力切れで動けない間、素振りをすることにした。





「はぁ……はぁ……」


「クレイ、情けないぞ! まだまだいけるだろう!?」


「いや……お前みたいな、はぁ……体力バカと一緒に、ごほっ、するな……」


 素振りを始めて30分。流石に休みなくこれだけ動けば疲れもする。平気な顔で両手剣を振り続けるこいつが頭おかしいんだ。


「ふぅ、あたしも結構疲れましたー」


 爽やかに汗を拭い笑っているティールは、まだまだ元気そうだ。


「気合いが足りんぞ! 根性だ! 根性を見せろ!!」


「はいっ! 頑張ります!!」


「おお、良いぞティール! 良し、まだまだ続けるぞー!」


「おおー!」


 ブンブンと剣やハンマーを振り始める2人。元気過ぎる。老人になった気分だ。

 俺はもう続けられん。ベンチに座って一休みするとしよう。


「大丈夫?」


「お、どうも」


 フォンが飲み物をくれた。一口飲む。


「げほっ!? ……何だこれ? 異常に冷たいな」


「わたし特製の氷点下水。美味しいよ」


 氷点下水ってなんだよ。氷点下になったなら凍れよ。もう一口。最初から冷たいと分かっていれば、確かに美味しく飲むことが出来る。


「ふぅ、あいつらは元気だな」


「凄い」


 あの元気がカレンの強さの源なのだろうか。あのまま一緒にトレーニングを続けたら、ティールもカレンのようになるのだろうか。



(行くぞ、クレイ! これがロウリューゼの力だ!)



 ……今のままでいてくれ。突撃娘が2人もいたら、制御出来る気がしない。





「よーし、今日はここまで! よくついてきたな、ティール! お前は筋が良い!」


「はいっ! ありがとうございます!!」


 しっかり1時間素振りを行い、やっと休憩するようだ。息が上がってはいても、どこか楽しそうにしている。ああやって心から楽しそうに鍛練を行えるのは、一種の才能だな。


「お疲れ様。はい、これ」


「おお、ありがとう。ごくっごくっ、ぶほっ!? ごほっごほっ!?」


 カレンが噴き出した。思いっきり。口からだけでなく、鼻からも水が垂れている。


「ええ……フォンさん、カレンさんに何を渡したんですか?」


「氷点下水。美味しいのに。ティールにもあげる」


「ええ……いただきます。……ごくっ、ん? あ、美味しいです。とっても冷たいですね」


「いい子いい子」


 珍しく嬉しそうにティールの頭を撫でるフォン。


「鼻が……鼻が痛い……!」


 そして氷点下の水が鼻を通ったせいでもだえるカレン。


「平和だ」


 俺もそろそろトレーニングを再開するかな。素振りだけでなく、せっかく相手がいるのだから模擬戦にでも付き合ってもらうか。負けるだろうが。

 氷点下水は過冷却水とは別物です。刺激を与えた瞬間凍ったりはしないので、飲むことが出来ます。ただし当然とても冷たいので、意識せずに飲むと大変なことになります。

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