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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第6章 機械の国からの来訪者
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第161話 解析眼鏡

「クレイさん、荷物が届いていますよ。アインミークからのようです」


「ありがとうございます」


 休日。食堂での朝食を終え部屋に戻ろうとしたところで、寮の管理人から箱を受け取る。アインミークからということは、シェブロス研究員に頼んだ解析眼鏡だろう。

 製作依頼から今日でちょうど2週間だ。ヴォルスグランからアインミークに帰る時間、荷物を送る時間を考えると、実質的な製作期間は1週間あるかどうかというレベルな気がするが……。


 気にしたら負けだろうか。あの変態的な研究員にして技術者の男にかかれば、この程度の製作は簡単なものなのだと思っておこう。


 自室に戻り箱から取り出してみる。黒いフレームのごく普通の眼鏡だ。機械的部品が取り付けられていたり、魔力線が走っていたりはしない。


「解析」


 調べてみると、ブリッジ部分が周辺情報を取得するための装置になっているようだ。機械兵の耳の中に取り付けられていたものと同様の装置だな。

 ブリッジ部分で取得した情報が眼前に映し出される。解析範囲はやはり300メートル。装置の起動に若干の魔力を必要とするが、それ以外に使用者への負担は一切ない優れものだ。


 実際にかけてみると、想像以上にピッタリだ。あの変態研究員、いつの間にか俺の頭のサイズでも測定していたのだろうか。

 起動すると、目の前に情報が羅列される。解析魔法で直接取得するのとはやはり勝手が違うな。これは使いこなすのに慣れが必要かもしれない。


 しかし良い物をもらった。これで頭痛に悩まされることもそうそうなくなる。痛みには比較的強い俺だが、だからといって痛みを感じない訳ではない。痛みがないならそれに越したことはない。


「クレイさん失礼しますよー!」


「ちょ、ルー!? いくらなんでもいきなり扉を開けるのはどうかと思うわよ?」


「聞きましたよクレイさん! 釣りをなさるそうですね? 少々取材……を……」


 ノックもなしに突然部屋の扉を開けて侵入してきたのは、ルーとマーチだ。騒ぎながら中まで入ってきて、俺の姿を見るなり急激に大人しくなったが、流石に注意しておくか。


「ノックくらいしろ。着替え中とかだったらどうする」


「お……お……」


「ルー?」




「おおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!? 眼鏡!? どうしたんですかクレイさんその眼鏡!! ふぉおおおぉぉぉ、ヤバ知的さが溢れ出てるぅぅぅ!!」




 うるさい。自分も眼鏡をかけているくせに、どうやら眼鏡に興奮しているようだ。眼鏡男子が好みなのだろうか。ブンブンと空を切る音が聞こえるほどにルーが腕を振り回している。


「何で眼鏡かけてるんですか!? オシャレですか!? 良いですね、とても良いですね! 是非かけましょうずっとかけましょう一生かけましょう!! 好きです結婚してください!!!」


「ちょっとルー、うるさいわよ。いい加減落ち着きなさい。何どさくさに紛れて告白してんのよ」


「ハッ!? すいません興奮し過ぎました……」


 ぜーはーぜーは―と肩で息をしているルー。どれだけ興奮してるんだ。


「はぁ、ふぅ、落ち着きました。眼鏡、とても似合ってますよ」


「ああまあ、ありがとう。これは着飾るために身に着けているのではないけどな」


「そうなんですか?」


「何、視力落ちたの? 最近何か調べ物してるみたいだし、本の読み過ぎ?」


「視力矯正のためでもない。これは戦闘用の装備だ」


 疑問の表情を浮かべる2人に、この眼鏡がどういう物なのかを説明してやる。


 眼鏡についての説明中、ふと思いついた。俺の解析魔法は俺固有のものだが、この眼鏡なら誰でも身に着けることが出来る。つまり、誰でも俺の解析魔法と同様の情報収集が可能ということだ。

 例えばこの眼鏡をアイリスに使用させ、狙った場所を正確に雷で射抜き続けるということも出来るのではないだろうか。


 シェブロス研究員は俺以外が使っても意味がないなどと言っていたが、そんなことはないだろう。俺よりも解析情報の使い方が拙かったとしても、得られた情報は何らかの役に立つはず。

 俺がこの眼鏡を使いたいのは山々だが、最も戦力が上がる選択肢を選ぶべきだ。一度試してみるべきだろうな。


「へえ、普通の眼鏡に見えるのに。やっぱりアインミークの技術力はスゴイわねー」


「かけてみるか?」


「良いの? じゃあちょっと借りるわね」


 マーチに眼鏡を渡す。興味があるという表情をしていたので、俺以外が使ったらどうなるのかの実験に付き合ってもらうとしよう。


「じゃあ魔力を流すわよー…………うっ、えぇ、気持ち悪い……何か数字が、スゴイ量の数字が迫ってくるぅ……」


 マーチが目を回してフラフラになってしまった。眼鏡を外すことすらままならないようなので、こちらから外してやる。


「大丈夫か?」


「大丈夫じゃないぃ……ちょっとベッド借りるわよ……」


 そう言ってベッドに倒れ込むマーチ。それほどか。どうやら俺以外の人間がこの眼鏡を使用すると、視界になだれ込む情報の濁流に目が回ってしまうようだ。

 情報処理速度が一定を超えないと、得られた情報を活用するどころかまともに情報を得ることすら難しいらしい。


 俺が使う分には問題ないし、予定通り俺が活用するとしよう。


「この状況……ハッ! クレイさん、わたしにもその眼鏡を貸してください!」


「ええ……マーチの状態が見えていないのか?」


「大丈夫です!!」


「何が?」


「大丈夫ですから!!」


 何やら興奮した表情で手を差し出してくるルー。何が大丈夫なのかさっぱり分からん。だが、まあ別に減る物ではないし、そんなに貸して欲しいなら貸してやるか。


「ほら」


「ありがとうございます! では早速……お? おお? おあぅあぁああ……」


 フラフラとマーチの隣に倒れ込むルー。何も大丈夫じゃないじゃねーか。倒れたルーから眼鏡を回収する。


 どうするんだこの状況。ベッドに寝ている女子が2人。何だ? アイビーに続き誘っているのか?



「う……うう……何すんのよ、この馬鹿ども……」



「ん?」


 マーチがうなされている。気絶するように倒れたせいで、悪夢でも見ているのだろうか。


「自業自得でしょ……八つ当たりよ…………」


 ふむ。馬鹿ども、自業自得、八つ当たり、ね。何となく予想出来なくもないが……マーチなら上手くやるだろう。念のため、少し注視するくらいはしておくか。








 それからたっぷり3時間以上も眠り続け、やっと2人が目を覚ました。


「うーん……あら?」


「んー、良く寝ましたー。……やっぱり何もされてないみたいですね」


「おはよう。もうすぐ昼だぞ」


「え、ホントに? ちょっと起こしてよ。こんなに休むつもりじゃなかったのに」


「いや、そんな事情は知らんが。まあもう少しゆっくりしていけ。せっかくだ、昼は一緒に食べよう」


「はい! ぜひぜひ!」


「仕方ないわねぇ。ほら、ゆっくりしていってあげるから、お茶くらい出しなさい」


「仕方ないはこっちのセリフだが」


 茶を飲みながらしばらく休み、昼食のために食堂へ移動する。早めの時間に来たので、まだあまり他の学生はいない。

 食べながら、何となく思い付いたという体で質問してみる。


「最近どうだ? 学園で何か問題は起きていないか?」


「はい、大丈夫ですよ。毎日充実してます」


「最近のルーは問題起こす側だもんね」


「えー!? そんなことないですよ!?」


「ホント、前向きになっちゃって、お姉ちゃん嬉しいやら寂しいやら恐ろしいやらだわー」


「いつからお姉ちゃんになったんですか……」


「最初からよ」


 これは、誤魔化しているのか、素なのか。俺ではマーチの演技を見抜くことなど出来ないからな……。


「マーチはどうだ?」


「わたし? うーん、そうねぇ……最近いつもの清掃活動をしてると、頑張ってるねーとかいつもありがとーとか声をかけられるようになったのよねー……。何か複雑な気分」


 例の魔薬事件の罰として、マーチは今でも街の清掃活動を行っている。もう半年近くやっているので、マーチのことを認識している街の人間は多いだろう。


「それは問題ではないな。学園生活の話でもないし」


「真っ先にそれが出てくるくらいには問題ないってことよ。どうしたのよ、急に」


「いや、何となくな。風紀委員として、学園内の問題には気を配っているつもりだ」


「ふーん、真面目ねぇ」


 マーチの様子に、本当に異常は見当たらない。やはり様子見するしかないだろう。

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