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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第6章 機械の国からの来訪者
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第158話 ヴォルスグランの歴史

 アインミークからの来訪者たちが帰った翌日の放課後。仲間たちに用があると告げて別れ、図書室に来た。

 ミュアの未来予知。人間が滅びるほどの災厄が訪れるのなら、何らかの原因があるはずだ。危機に備えるにしても、どんな危機なのかを知らないことには始まらない。


「まずは……歴史からにするか」


 歴史上の出来事から、現在まで影響が残っていそうな物を探す。そんなことが出来るかは分からないが、手掛かりも何もないんだ。やれるところからやるしかない。




 現在は三大国として同列に語られるアインミーク、カルズソーン、ヴォルスグランだが、元々この地域にはカルズソーンとアインミークの2国しかなかった。

 北にある多くの国から難民が流れ込み、それを2国が受け入れ自治権を認めたのが、ヴォルスグランの始まりとされている。多くの人種が混ざり合った国であるため、ヴォルスグラン人の髪色は多彩であるらしい。


 現在の状況から考えて、北の国々で起きた難民流入の原因は、恐らくモンスターの氾濫だと思われる。


 どの歴史書にも、『思われる』『考えられる』としか書いていない北の災厄。不自然なほどにその具体的な内容が不明だ。

 以前から疑問ではあった。何故ここまで曖昧なのか。歴史を調べようとする時、どう足掻いても現在のヴォルスグランに難民が流入してきたところからしか分からない。



 ヴォルスグランの始まりは、今から680年ほど前のことだ。



 当時、モンスターが発生して間もなかった頃。人々がモンスターとの戦い方を知らず苦戦している中、圧倒的な戦闘能力でモンスターを薙ぎ払って見せた英雄。

 その英雄は、混乱する人々をまとめ、大国の庇護とモンスターの薄い地を求めて南下。カルズソーン、アインミークとの交渉の末、現在ヴォルスグランと呼ばれている国の土地を手に入れた。



 英雄の名は、ヴォルス・グラン



 初代ヴォルスグラン国王は、英雄ヴォルスの息子らしい。

 ……何故ヴォルス本人ではないんだ? 建国の際には既に高齢だったのだろうか。


 建国以降、多くの人種の強みを活用して、個人戦闘能力が高い国として国力をみるみる高めていくヴォルスグラン。

 モンスターという脅威に晒されている状況で、単純に強いというのは何よりも分かりやすい強みになる。カルズソーン、アインミークとも協力しながら、前線を構築。内側のモンスターを殲滅し、概ね安全に過ごすことが出来る国家を造り上げた。




「当然だが、知っていることばかりだな」


 歴史書など、今までいくらでも読んできた。今更新しい発見など出来はしない。


 この中から人間を滅ぼせそうな出来事を考えるなら、詳細不明の北の災厄だろう。突如としてモンスターが氾濫、多数の国が滅び、難民として新たに国を造り上げることとなった。

 このモンスター氾濫の原因は何だ? そもそも本当にモンスターの氾濫なのか? この当時、モンスターなどという存在は新しく、対モンスターの戦い方も知らなかったらしい。



 つまり、それまでになかったモンスターという存在を生み出した何らかの出来事がある。



 例えば、その何らかの出来事が再び起きようとしている、としたらどうだろう。


 安定した前線を崩壊させるほどのモンスターの氾濫。あるいは、前線の内側からのモンスターの発生。

 多大な被害が出ることは間違いない。都市がいくつも滅び、もしかしたら国という形すら崩壊するかもしれない。



 だが、それで人間が完全に滅びるか?



 この680年前でさえ乗り越えられたモンスター発生を、現在の進んだ戦闘技術や兵器を以てして耐えられないなどということがあり得るのだろうか。

 ミュアが大げさに言っているだけで、本当は人間全てではなく国が滅びかねないというくらいの災厄なのだろうか。


「駄目だな。これ以上考えても無駄だ。別の方向から探ろう。次は、モンスターだな。図鑑でも見てみるか」


 歴史書を閉じ、顔を上げる。



「じー」



「うおっ!?」


 目の前にフォンの顔があった。隣から覗き込むように俺を見ていたようだ。本と考え事に集中し過ぎて全く気が付かなかった。


「歴史?」


「あ、ああ、少し調べ物をな」


「これ、オススメ」


 そう言ってフォンが差し出してきたのは、『ヴォルス・グラン英雄譚』というそのものズバリなタイトルの本だった。


「おお、ありがとう」


 流石フォンだ。この膨大な蔵書の大半を把握しているのだろう。俺も図書室はそこそこ利用している方だと思うが、1年長く在籍しているフォンには敵わない。


 本を開いて、1ページ目で落胆した。既にモンスターとの戦いを終え、ヴォルスグランという国を造るところだ。

 何が英雄譚だ。パラパラとページを捲り内容を流し見たが、英雄と称えられるに至るまでの経緯がほとんど載っていない。


 フォンは何故こんな本をオススメして……



 いや、待て。



 名前まで残っている英雄だぞ。何故こんなにも情報が少ない?


 名前すら分からない存在したとされているだけの英雄なら、この扱いも分からなくはない。だが、名前は分かっているんだ。だったらもっと何か書くことがあるだろう。



 誰かが意図的に情報を消した?



 いや、それならそもそもこんな本があること自体がおかしい。この本の存在は、ヴォルス・グランという英雄を後世に伝えたいという著者の想いを表している。


 著者は、キャレク・ティスアクドール、か。知らない名前だ。


「フォン、この本は?」


「ん、オススメ」


「いや、何故オススメなんだ?」


「歴史を調べてるなら、良いと思って」


「そ、そうか。この著者の他の本はあるか?」


「ない。それしか書いてない」


 こんな情報がないに等しい英雄譚しか書いてない? 物書きが本職ではないのか。


「駄目だな。やはり分からん。次だ」


「はい」


「ん? モンスター図鑑か。持ってきてくれたのか?」


「ん」


「そうか、ありがとう」


「ん」


「ん? どうした」


「ん!」


 不満げな無表情という器用な顔をしながら、こちらに頭を差し出してくる。少し考えて、その差し出された頭に手を置いてみる。


「ふふ」


 満足そうだ。青銀3割、黒7割くらいになっているサラサラの長髪に指を通す。銀が煌めいて美しい。


「次のオススメ、持ってくる」


 そう言って立ち上がり、本棚へと消えていくフォン。フォンが戻ってくるまでに、この図鑑を読み終えるとしよう。








 歴史、モンスター、土地、外交。様々な観点から調べてみたが、明確に人間の滅亡に繋がるものは見つけられなかった。

 人間を滅ぼしかねないものはある。だが、本当に滅びるのかと考えると、恐らく滅びはしないのでは? としか思えない。


「フォン、帰るか」


「ん」


 フォンと並んで寮への帰路に就く。


 今日だけで簡単に原因を見つけられると思っていた訳ではないが、全く手がかりがない現状、厳しいと言わざるを得ないな。

 本から見つけようとするのが間違いだろうか。別の方法を考えるべきかもしれない。


 そんな思考を巡らせながら、寮の建物へ入る。



「失礼。クレイ・ティクライズ殿で合っているだろうか」



 寮内で待っていたのだろう。灰髪でスーツの男に声をかけられた。護衛らしき男を2人連れているし、恐らくアインミークの貴族だろう。


「はい、わたしがクレイ・ティクライズですが」


「突然の来訪を許して欲しい。わたしはマヴーク・ディムジード。アインミークの侯爵であり、外交を担当している者だ」


 外交か。恐らくアインミークからの使節団の中で、最も前に立っている人間だろう。陛下、もしくはヴォルスグラン側の外交官と主にやり取りしたのがこの人だと思われる。


「お会いできて光栄に思います」


「貴殿の通うディルガドール学園は、明後日、休日であると記憶している。相違ないだろうか」


「はい、確かに」




「陛下が貴殿と話をしたいと仰っている。明後日、時間をいただけるだろうか」




 アインミーク王が、俺と話をしたい、と。


 絶対昨日の事件のことだろ。使者に侯爵を使い、その上わざわざこちらの休みまで待ってくれるというのだから、文句を言われる訳ではないのだろうが……。

 まあ気が進まなかろうと何だろうと、断ることなど出来る訳もない。


「承知しました。どちらに伺えば良いでしょうか」


「いや、陛下がこちらにいらっしゃるそうだ。貴殿はこの寮にて待っていれば良い」


「この寮に、ですか?」


「この後、管理人殿に食堂を利用出来ないか尋ねる予定だ。貴殿もそのつもりで」


「承知しました」


「では、これにて失礼する」


 まさか、王がわざわざ来るとは。ミュアに似て活動的な人なのだろうか。


「アインミーク王?」


「ああ、来るらしい」


「なんで?」


「いや……まあ、ちょっとな」


「…………」


 フォンがじっと俺を見つめてくる。全く視線が逸れない。どうやって誤魔化そうか……。

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