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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第6章 機械の国からの来訪者
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第157話 最初の一歩

 魔導列車で学園都市リーナテイスから王都へ帰り、ヴォルスグランに用意してもらっている屋敷の一室でお父様に全てを隠さず報告した。

 もう遅い時間だから休むようにと言われ、意外とあっさり受け入れてもらえたことに安心して迎えた翌日。



「では、これよりニストフェン・ジェラフィルズの処遇について、話し合うとしよう」



 大きな会議室の大半を埋める長いテーブル。その最奥の椅子から、お父様が告げた。


 アインミーク王であるお父様や、外交担当のマヴーク・ディムジード侯爵を始めとして、今回のヴォルスグラン来訪メンバーのほとんどが集められた会議室。

 進行を任されているのだろうディムジード侯爵の口から、今回の事件の詳細が語られた。


「まさか、ジェラフィルズ侯爵がそんな……」


「反逆だ。処刑以外ありえない」


「真面目過ぎたんだ……」


 この場にいる人たちの反応は、どちらかというとジェラフィルズ侯爵に同情的な物が多く感じる。やっぱり、内心ではミュアが死んでも良かったと思っている人が多いのかな。


「静粛に。皆も分かっていると思うが、王族の殺害を企てたとあっては処刑するという結論を」



「待ってください」



 このまま黙っていては、ジェラフィルズ侯爵の処刑は免れない。本人が何を言っても意味はない。ミュアが何とかしないと。


「どうなさいましたかな、姫様」


「私は、ニストフェン・ジェラフィルズの処刑に反対です」


「ふむ、何故でしょうか。あなたは命を狙われたご本人なのです。反対する理由はないように思われますが」


「犯行動機は聞いているのでしょう? 彼は国を想い行動を起こしたにすぎません。そこには情状酌量の余地が」




「姫様」




 ディムジード侯爵に遮られる。聞く必要もないと思われているのか。




「はっきり言わせていただきます。情状酌量の余地は、ありません」




「え?」


「このような理由があったから王族の命を狙っても良い。そんな理由は存在しません。例え王族の命を奪わなければ自分が死ぬのだとしても、王族への攻撃は許されません」


 ディムジード侯爵は表情も変えずに淡々と事実を語っているが、その他の人々の呆れを含んだ多数の視線が突き刺さる。

 そんな当たり前のことも分からないのか。やはりこの姫は駄目だ。そんな思いが乗せられた視線。



 だからこそ、ここで私が立つ意味がある。



「では、ここでニストフェン・ジェラフィルズの処刑に賛同する者は皆、反逆の意志ありということでよろしいですね?」



「なっ!?」


「何を仰っているのです!」


「そやつは王族の命を狙った大罪人! その処刑に賛同することが何故反逆となるのですか!?」


 皆が口々に叫ぶ。当たり前だ。理不尽に反逆罪を叩きつけられているのだから。


 もちろん、本当にここにいる大半の人間が反逆の意志を持っているなどと考えている訳じゃない。今はまず、私の言葉を聞いてもらわなければならない。そのためには、驚愕だろうと反抗だろうと、こちらにしっかりと意識を向けてもらわなければならない。


「あなた方が全く信じていない私の未来予知。その破滅の未来を避けるために、ニストフェン・ジェラフィルズが必要なのです。彼を処刑しようとする者は、国を、ひいては人間を滅ぼす極悪人ということになるのです」


「な、何を……」


「そんな無茶苦茶な……」


「そもそも何故ジェラフィルズ侯爵が必要なんだ……?」


 そろそろ私がただの子供ではないのだと理解してもらわなければならない。今回ばかりは、今までのように子供の戯言だと流されては困る。



「ニストフェン」



「はっ!」



 短く呼びつけると、まるで忠誠を誓う騎士のように素早く私の前まで移動したニストフェンが膝を突く。


「あなたの役目は何ですか?」


「はっ! ミュアーナ様を支え、来たる災厄に備えることです!」


 一切の間を空けず飛び出したニストフェン・ジェラフィルズの答えに、誰もが驚愕の目を向ける。ここまで無表情を保っていたディムジード侯爵すら例外ではない。


「あのプライドの高いジェラフィルズ侯爵が……」


「誰よりも姫様の行動に不満を持っていたはずなのに」


 今回の事件、確かに誰もが驚きはしたものの、同時にニストフェン・ジェラフィルズならばミュアーナを襲っても不思議ではないかもしれないという、ある種の納得があった。

 それほどまでに、今までのニストフェン・ジェラフィルズはミュアーナ・アインミークを嫌っていた。


 それが、ここまで変わるとは。その驚愕が冷めない内に、続ける。


「私は、ニストフェンを許します。それが今後のためになるからです。もしそれで再び命を狙われようと構いません。その時に私が死ぬのなら、所詮その程度の器だったというだけのこと」


 皆が顔を見合わせている。少しずつ、今までの姫とは何かが違うのかもしれないという思いが芽生え始めている。


「何度でも言います。近い将来、我が国には、人間には、世界には、未曽有の危機が訪れます。それを乗り越えるためには、少しでも力が必要なのです。国を想って暴走してしまうような強い人間には、今いなくなられては困るのです」


 この会議が始まってすぐのような、処刑しろという意見一色の状態ではなくなった。だが、未だに私を信じる者は少ない。


 それは、未来予知の内容があまりに荒唐無稽だから。


 それが真実であるという根拠がない。絶対に嘘であるとは言わないが、信じるのも難しい。そんな状態。ひと押し、何かひと押しが出来れば……。



「ミュアーナよ」



「っ! はい、陛下」


「お前は今、一人の王族として発言している。それはとても重い、強制力すら持つ言葉だ。お前はその発言に、責任を持てるか?」




「はい、持てます」




「…………そうか」


 そうして、しばらくの沈黙。先ほどまでの騒めきが嘘のように、会議室全体が静まり返っている。


 どれだけ時間が経ったのか。ポツリと、しかし強く響く声が発せられる。




「よかろう」




「……え?」




「ニストフェン・ジェラフィルズより爵位を剥奪。そして、強制労働を課す。課す内容については、我が娘、ミュアーナ・アインミークに一任する」




「…………ありがたき幸せ」


 認められた。ただの子供ではなく、発言に責任を持つことが出来る王族だと。



 これが、最初の一歩



 これで満足していては駄目。これから、国中のあらゆる人に認めさせなくてはならない。



 でも、間違いなく大きな一歩だ





「では、ニストフェン・ジェラフィルズの処遇が決定されたところで、聞きたいことがある。ニストフェン」


「はっ。何なりと」




「ヴォルスグラン王を襲撃した機械兵。あれをヴォルスグランに持ち込んだのは何者だ」




 今回の事件。私への襲撃まで含めてニストフェン・ジェラフィルズの計画だったのなら、最初にヴォルスグランへ機械兵を送ったのもニストフェンということになる。

 だが、ニストフェンではヴォルスグラン内まで機械兵を連れて行くことは出来ないし、ましてや王襲撃など不可能だ。絶対にヴォルスグラン側に協力者がいる。


 それは何者なのか? お父様は全体に説明した後、改めて尋ねた。



「申し訳ありません。分からないのです」



「どういうことだ。協力者とは実際に会ったことがないということか?」


「いえ、わたしが計画したのは姫様襲撃だけなのです。以前のヴォルスグラン王襲撃については、全く関与しておりません」


「それではどうやってアインミーク国内で機械兵を盗んだというのだ」


「誰かアインミークに協力者がいたか、もしくは超人的な盗みの技術で誰にも気づかれずにアインミークに侵入、ヴォルスグランまで機械兵を持ち帰った、としか……」


「そのような馬鹿なことが……しかし、ニストフェンが関与していないというのなら、もはやそれしか……」


 機械兵を盗みヴォルスグラン王を襲撃した犯人。その正体は、結局分からなかった。

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