第149話 意図せず得た物
ジェラフィルズ侯爵、研究員シェブロス、護衛たちと共に、学園へ移動する。人目につかない場所が良いということなので、ドームを使用することになった。
学科試験中の今、ドームを使う用など誰にもない。使用許可は簡単に取れるはずだ。
学園までの移動時間に、これから行う模擬戦について尋ねてみる。
「戦うのは構わないのですが、相手はどなたになるのでしょうか。護衛の方ですか?」
「護衛というのは間違ってはいないが、恐らく貴様が考えているものとは違う」
そう言って、侯爵は護衛たちの中から一人呼び寄せる。それは一見して護衛とは思えない、少女の姿をしていた。
この姿、あの機械兵に似ている。
以前学園祭中に陛下を襲ってきた機械兵。あの時と違い、ディルガドールの制服は着ていないが、同じような灰髪の少女で顔の造形も似ている。
違うことと言えば、以前の機械兵はクロスボウを腕に装備していたが、目の前の存在は両腰に銃を差しているということか。
「貴様が破壊した物と同時進行で製作していた、機械兵未来予知型試作4号機だ。こちらは3号機より先読み性能を向上した代わりに、その範囲が狭くなっているという物だ」
俺が以前戦ったのは、確か3号機なのだったか。とはいえ同時進行していたということは、総合的な性能にはほぼ差がないのだろう。
3号機は300メートルもの範囲を解析出来る代わりに一手先までしか読むことが出来ない。4号機はそれが狭くなっているが、数手先も読むことが出来る、ということだろうな。
「こちらの機械兵と戦うのですか?」
「ええ、ええ、そういうことになりますねぇ。君の能力を見るための相手としては申し分ない性能であると思いますよ、ええ。とはいえ、君の話を聞いた今ではこれの性能も物足りなくなってしまいましたがねぇ」
「わたしと機械兵との戦いの映像をご覧になったのならご存知かとは思いますが、わたしでは機械兵を破壊することは出来ませんよ。力が足りませんので」
「破壊はせずとも良い。むしろ、破壊されては困る。今回の戦闘は貴様の能力測定が目的なのだから、破壊の必要性はない」
「機械兵が放つ魔力弾も、威力を抑えて怪我をしないように設定しますから、思う存分戦ってください。出来る限り、全力を出していただけると助かりますねぇ」
「なるほど、承知しました」
使用許可を取り、ドームに入る。フィールドに出て、20メートルほど離れて機械兵と向かい合い立った。
ナイフを抜き構える。相手も両腰の銃を抜いて、両手に一つずつ構えた。
俺たちが向かい合う中間地点に立ったシェブロスが、カタカタと操作していた端末から顔を上げて声をかけてくる。
「準備は良いですか?」
「大丈夫です」
「それでは、試合開始!」
「解析」
試合開始の合図と同時、解析魔法を使用、機械兵の動きを視る。
両手の銃口をそれぞれこちらに向けてくる機械兵。左に回避しようとすると、右手を合わせて動かそうとしてくる。
それを読んで逆へ回避しようとすると、今度は左手がついてこようとする。
なるほど、良い反応だ。
きちんと俺が動く前から先を読んで合わせてくるし、片手ずつ対応することで隙もなくなっている。一手しか読めなかった以前の機械兵とは比較にならない性能だな。
まあ武器の違いもある。一概にこちらの方が優れていると言えるものではないかもしれないが。
左へ深くフェイントを入れる。
右手の銃から魔力弾が放たれた。
それを右へ回避、するように見せかけて後退、するように見せかけて体勢を低くして前進する。
それらのフェイント中に更に追加して、視線、腕の動き、力の入れ方、様々なフェイントを入れる。
結果、左手の銃からあらぬ方向へ飛び出す魔力弾。
一発目の魔力弾の下をくぐり、ナイフを投げる。
機械兵の顔面に直撃。傷を付けることすら出来ずに弾かれる。
「そこまで!」
これが実戦ならまだ決着は付かないが、あくまで模擬戦なので、この一撃で終了となった。
この機械兵はどうやら数手先まで読めるようだ。一度にいくつものフェイントを入れると、5つ目でついてこられなくなり、7つ目で完全に動きが止まった。
「いやー、まさかここまでとは。恐れ入りますねぇ。今、一瞬の間に一体いくつのフェイントを入れたんです?」
「9ですね。わたしとしても、良い練習になりました。ここまで先を読んでくれる相手はなかなかいませんので」
「わたしの目には全く見えませんでしたよ。これは後で映像を解析するのが大変そうですねぇ」
大変そうだ、と言う割には嬉しそうにしている。研究員にも色々な人間がいるが、こいつは研究することそのものが楽しいタイプか。無駄に凝ったりして周囲には嫌われやすいが、能力自体は一番高い奴だな。国を代表する研究員だというのも頷ける。
「ご苦労。貴様の能力が確かに優れていることは確認出来た。例の契約については、貴様が開発に協力したという事実含め俺から陛下に伝え、違えることはしないと約束しよう」
フィールドの端で俺たちの模擬戦を見ていた侯爵が近づいて来て、そんなことを言った。予想外の言葉だ。
「……よろしいのですか? そのようなことをすれば、ただわたしの名を覚えておくだけ、では終わらなくなってしまいますが」
わざわざ王に伝えるということは、貴族の名に懸けてその契約を必ず守ると宣言するに等しい。俺の名前を覚えておく、という約束を王に伝えたりすれば、その相手がそれだけ重要な存在なのだと言っていることになる。
名前を覚えておくと言っただけで、何かをしてやるなどとは約束していない。そういう逃げ道を使うことが難しくなる。
「構わん。あまりに馬鹿馬鹿しい話でなければ、ある程度は聞いてやろう。それだけ、貴様の能力を認めたのだと理解しろ」
「ありがとうございます」
「そのような契約をした以上、これからも貴様は我々の開発に協力する必要がある。これも理解しているだろう。ただ利益だけを得られるとは思わないことだ」
「ええ、もちろんです。またわたしの力が必要であれば、協力させていただきます」
俺から侯爵に何か助力を要請する度に、俺も彼らに協力しなくてはならない。そんな契約になった。侯爵から見て、俺の能力がそれだけ有用そうだと思えたということだ。
無償でいくらでも協力するのだと思われたくなかったから釘を刺しただけだったのに、ずいぶん大きな物を得てしまった。カルズソーンに続き、アインミークにも繋がりが出来た。
そんな意図はなかったんだが、俺という存在もずいぶん大きくなってしまったな。だが、この繋がりはきっと将来役に立つ。
俺自身の力が大きければ大きいほど、俺の自由の価値も上がる。この調子で俺の価値を高めていけば、もしかしたら学園の最優秀班特典を使わずとも自由を手に入れられるかもしれない。
人との繋がりは力になる。もしかしたら、家を出て入手した物の中で、これが一番の成長だと言えるかもしれないな。
学園を出て侯爵たちと別れ、寮に帰った。
翌日、学科試験2日目の放課後。今日はカレンの苦手な戦術、戦略のテストがあったので、昨日よりも苦々しい表情をしている。
「いや、大丈夫、大丈夫のはずだ。以前に比べれば解けた。明日は算術などわたしの得意科目が多いし、きっと大丈夫……」
ブツブツと余裕がなさそうに一人で寮に帰っていった。それほど深刻そうにせずとも、実際明日は大丈夫だろうに。今日のテストを引きずって、明日の得意科目にまで影響が出なければ良いが。
「カレンさん、大丈夫でしょうか」
「ティールは平気そうだな」
「はい! 結構解けてるんですよ! ちょっとスゴイかもしれません! 期待しててくださいね!」
「ああ、明日も頑張れよ」
「じゃああたし、カレンさんを追いかけます!」
ティールはずいぶんと自信がありそうだ。ああやってはっきり自信を口に出せることも含めて、成長したな、などとまるで親目線のような感想が浮かんできて、思わず一人で笑ってしまう。
「クレイさん、楽しそうですね。そんなに面白い問題がありましたか?」
「いや、何でもない。……本当に何でもないから、そのメモを取ろうと構えるのを止めろ」
「いえ、わたしも何でもないですよ」
「何でもなくねーよ。お前が書いてる本、全部検閲してやろうか……」
「え!? 読んでくれるんですか!? ぜひぜひ! 今度持ってきますね!」
嫌がるどころか、嬉しそうにされてしまった。ルーにとって、自分が書いている本を知り合いに読まれるのは嬉しいことらしい。
……俺がネタにされていたらどうしようか。逆に俺が恥ずかしくなるだけな気がするな……。




