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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第6章 機械の国からの来訪者
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第144話 男子会

 休日。午前中は班で集まって勉強を行う。2時間程度の勉強会だ。それが終わると、そのまま班での昼食となる。


「午後からはどうする? トレーニングでもする?」


「あ、悪い。今日は午後から別の用がある」


「あら、珍しいわね、クレイがわたしたち以外で用があるなんて」


「昨日教室で約束していた男子の集まりだな」


「……あの、もしかしてこうやってあたしたちがいつも集まってるの、うっとおしかったりしますか……?」


 ティールが不安そうな表情でこちらを見る。ハイラスが言っていた、俺がいつも女子に囲まれている、というのを聞いて心配になったのだろう。あいつが余計なことを言うからだ。普通に誘えば良いだろうに。


「そんなことはない。気にしなくて大丈夫だ」


「何の話?」


 フォンだけでなく、アイリス、クルも不思議そうにしているので、6組の3人にもハイラスが遊びに誘ってきた時のことを教える。


「あー、なるほどね。確かに、ずっと誰かしらクレイの傍にいるかも」


「夏休み辺りからでしょうか。クレイさんが1人でいるところを一切見なくなった気がしますね」


「そうか? 1学期の頃から、クレイの傍にはほとんどいつでもティールが一緒にいた気がするが」


「うう……やっぱりあたし、邪魔でしょうか……」


「大丈夫だって。俺がうっとおしいと思っている相手と我慢して一緒にいると思うか? 俺ははっきり言うぞ、邪魔だ、うっとおしいって」


「確かに。必要なら我慢したりするかもしれないけれど、不要なら絶対素直に言うわよね、邪魔だって」


「例えば今、我々が共に昼食を取る必要は本来ありませんが、クレイさんは何も言いません。ティールさん、そういうことだと思いますよ」


 俺の言葉と、アイリス、クルの補足に、ティールの表情が明るくなる。俺もこれくらい分かりやすく表情に出せれば、ティールを不安にさせることもないんだがな。


「良かったです! ごちそうさまでした!」


 相変わらず最も量があるのに最も食べ終えるのが早いティール。あまりのんびりしているとハイラスたちを待たせるかもしれん。俺もさっさと食うとしよう。








 昼食を終え部屋に戻ると、ちょうど良いタイミングでハイラスたちが来た。


「よっすー」


「で、何も予定を聞いていないが、何をするんだ?」



「釣りに行こうぜ!」



 見せびらかすように釣り竿を掲げて宣言するハイラス。楽しそうだな。釣りが好きなのだろうか。


「釣り? やったこともないが……」


「任せろって。故郷じゃ一番釣りが上手かったんだ。ガンガン釣り上げてやるぜ! つっても、この辺の釣り場がどうなってるのかとか全く知らんし、マジで釣れるかは分からんけど」


 自信があるのかないのか、威勢だけは無駄に良いハイラスに連れられて、釣りのために移動を始める。


 やってきたのは、リーナテイス近くの森の湖。この場所、様々な用で訪れるな。


「んじゃ、ほい。これ釣り竿な」


 ハイラスから渡された釣り竿を使い、湖に向かって糸を垂らす。これで合っているのだろうか。


 男4人。無言で並んで糸の先を見つめること数分。



「暇だー!」



「あ、おい馬鹿騒ぐな。魚が逃げるだろ」


 フォグルが耐えきれなくなったようだ。正直そんな気はしていた。あまりじっとしているのが得意ではなさそうだからな。


「それなら暇ではなくなるように、何か話しながら釣りをすれば良いんじゃないかな。フォグル、相談があるって言ってただろ?」


「あー、んー、まあなぁ……」


 相談? ただ遊びたいから集まったのではなく、何か話したいことがあったのか? こんな回りくどい誘い方をしなくても、話を聞くくらいなら構わなかったんだが。


「レオンよぉ、あんま何でもかんでも素直にしゃべっちまうなよ。あのフォグルが言いにくそうにしてるなんて、相当だぜ? 本人の準備が出来るまで待ってやろうや」


「いや、わりぃ。せっかく来てもらったんだしな。さっさと話すことにするぜ」


 そこから少し、躊躇うような間があり、フォグルが口を開く。




「女への贈り物って、どんなもんが良いんだ?」




 そうして飛び出した相談は、全く予想していなかった内容だった。


「…………マジで?」


「へ、へぇ、意外というか何というか。いや、良いことだと思うよ?」


「恋人がいたのか? それとも好意を持っている相手がいるのか? どちらにせよ意外ではあるが」


「あ? いや、そんなんじゃねぇって。今度姉ちゃんがこっち来るって連絡があってよぉ。久しぶりに会うから、何かプレゼントしてぇなって」


 そういうことか。詳しくは分からないが、離れて暮らす姉がいるんだな。どうやらフォグルはその久しぶりに会う姉を慕っているようだ。


「レオンとかクレイは女子に詳しそうだからな。アドバイスもらえねぇかなって」


「何で言いにくそうにしてたん? 別に何も変なことなくね?」


「…………ホントはあんま、レオンとかクレイに姉ちゃんを知られたくねぇんだ」


「え? お姉さんは何か問題がある人なのかい?」


 レオンがそう尋ねた瞬間、




「レオンてめぇ! 姉ちゃんに失礼なこと言うんじゃねぇ!!」




 水面が波打つほどの勢いで、フォグルが咆えた。


「姉ちゃんはめっちゃスゲェんだぞ! とあるお嬢様の付き人やってるほどなんだからな! あとめっちゃカワイイんだ、見せてやるちょっと待ってろ!」


 フォグルがズボンのポケットに手を入れて何かを取り出そうとしている間に、ハイラス、レオンと顔を見合わせる。恐らく考えていることは同じだろう。


 こいつ、シスコンだったのか……。


「ほら、見てみろ」


 フォグルが取り出したのは、画面が付いた通信機と思われる機械だ。その画面に、少女が2人、実技のフィガル先生、そして、今よりやや幼い、しかし今と大して変わらないくらい大きく見えるフォグルの4人が写った写真が映し出されている。


 これ、アインミークで流通していると噂の、様々な機能が付いた通信機じゃないのか? 何故フォグルがこんなものを持っているのだろうか。

 いや、今はそれより画面の写真か。恐らくフォグルの家族だろう。2人の少女は、姉と妹か。フォグルとは全く似ていない、かなり小柄な可愛らしい灰髪の少女だ。フォグルが現在と同等の身長と仮定すると、140を少し超えた程度しかないのではないだろうか。


「どうよ、カワイイだろ?」


「こちらの、少し年上に見える人がお姉さんかい? 確かに可愛らしい人だね」




「ん? いや、それは母ちゃんだ」




「……は?」


 母ちゃん? 母ちゃんとは、母親という意味か? この、推定身長140付近の、幼さすら感じる少女が、フォグルの母親?

 ということは、もう1人の更に幼く見えるこちらの少女が、姉だというのか?


「あー、失礼を承知で聞くが、フィガル先生は性犯罪者ではないよな?」


「やっぱそう見えるよなぁ。大丈夫だ。母ちゃんはこう見えて親父より年上だ」


「はぁ!?」


 いや、まさか本当に幼い少女を襲う性犯罪者だと思っていた訳ではないが、それにしたって年上って……。


「俺、出身はアインミークなんだけどよ。家族で一緒に行動してると、そうやって疑われてすぐ通報されんだ。だから俺と親父、母ちゃんと姉ちゃんで別れて暮らしてる」


「そうか、悪いことを聞いたな。すまない」


「いや、別に良いさ。慣れてるからな」


 灰髪はアインミークの一般的な髪色だ。出身がアインミークだと言うのは納得出来る話だ。

 ヴォルスグランは家族以外に同じ髪色は存在しないなどと例えられるほどに様々な髪色の人間が存在するので、灰髪でもおかしくないと思っていたが、本当にアインミーク人だったんだな。


「アインミーク人にしては珍しく、親父は武器を使って戦える人間だったからな。ヴォルスグランは生きていくのに都合が良かったんだ」


「なるほどなぁ。んで? 姉ちゃんが問題ある人じゃないなら、何で知られたくなかったん?」



「レオンとかクレイに姉ちゃんのこと知られたら、姉ちゃんが取られちまいそうだと思ってよぉ」



「何だそれは」


「いや、別に取ったりしないけど……」


「あ、なるなる。理解」


「お前は納得するな」


 人を何だと思ってるんだ、失礼な。


「いやー、割と冗談抜きで納得出来る理由だぜ? レオンはいつも女子にキャーキャー言われてるし、クレイは自分の班だけに留まらずこっちの班の女子まで連れてっちまうし」


「そんな手当たり次第に女子に手を出すクソ野郎みたいな表現をするな」


「ハハハ……」


「レオン?」


 レオンの顔が引きつっている。普段のレオンなら『僕が集めてる訳じゃないんだけどね……』とか言って困った笑みを浮かべるところだと思うが。困るというよりかは、嫌なことを言われた、という感じの表情だ。


「ちょっとね。ほら、僕の以前の班員、あまり良くない子たちだっただろ? あの子たちの本性に触れてから、よく知らない女子に言い寄られるのがちょっと怖くなってしまってね……」


 ルーがいじめられていたあの事件。あれ以降もレオンは特に問題なさそうにしていたが、実はトラウマになっていたのか。

 無理もないだろう。ただでさえレオンは人の内心を読むのが苦手だからな。自分に好意を持って集まってきているはずの人間が、何をしでかすか分からない恐怖。そんなものは、俺には想像も出来ない。


「何も考えず羨ましーって思ってたけど、レオンはレオンで苦労してんだな」


「それなりに話す機会があれば大丈夫なんだけど、一度も話したこともないような子にレオン様ー! なんて近づかれるのは、ちょっと今は止めて欲しいね……」


 レオンの気分が沈むのに合わせているかのように、場が静まる。男子だけで楽しく遊ぼうと集まったはずなのに、どうしてこうなった。


「ん? レオン、引いてるんじゃないか?」


「え? あ、え、かかった!? えっと、どうすれば……」


「落ち着けレオン。ゆっくりだ、ゆっくり」


 しばらく右往左往していたが、少しして、


「おおー、釣れた!」


「デケェ! 50センチくらいあるんじゃねぇか!?」


「ちょっと待てよー……47センチだな。いきなり良いの釣ったな」


「よっしゃあ! 俺も釣るぜ!」


「だから騒ぐなって。魚は臆病なんだぞ」


「楽しいね、釣りって」


 釣れた途端にレオンの機嫌が良くなり、雰囲気も明るくなった。釣り、なかなか侮れないな。俺も1匹で良いから釣ってみたいところだ。

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