第143話 学園祭の結果
翌日、学園祭の片付けも終わり、通常の授業が再開する。だが、学生たちの関心は未だ学園祭にあった。
結果が掲示板に貼り出され、そこかしこでそれについての話がされている。それは、俺たちも例外ではなかった。
「1位はやはりウェルシー先輩たちの班だな」
班で集まっての昼食。そこで話題になるのはやはり、学園祭の結果についてだ。
1位 ウェルシー・ノルズ班
2位 ダイム・レスドガルン班
3位 クレイ班、レオン班合同
4位 ディアン・プランズ班
5位 フルーム・アクリレイン班
6位 ニーリス・カレッジ班
俺たちの演劇は3位という結果になった。やはり1年では最も高い評価を得られたので、理想ではなくとも最高に近い結果と言えるだろう。
「会長の班はどのような出し物だったのだ?」
「会長を講師とした時魔法講座だ。戦闘を生業とする人間や研究者たちがこぞって聞きに来ていたらしい」
そういったプロをして、大変有意義な講座だったと口を揃えて言うほどの内容だったのだとか。当然評価は高い。むしろそれを抑えて頂点に立ったウェルシー先輩たちが凄まじいのだと言うべきだろう。
「委員長は確か格闘教室だと言っていたわね。4位ということは、自信がありそうにしていたのはあの人の勘違いではなかった訳ね」
「まあ内容も良かったのは間違いないのだろうが……」
聞いた話では、分かりやすくためになる内容もそうだが、サラフ先輩が度々『頑張ってー!』などと応援してくれたり、休憩時に笑顔で飲み物を差し入れしてくれたりするのが、とても良かったとかいう意見が多数あったらしい。
「ん。そのせいでフルームが荒れてるという噂」
フルーム先輩はアイドルライブを行ったらしい。いつも通り可愛さを振りまくキャピキャピしたパフォーマンスは盛り上がったようだ。5位というのは充分な成績だ。
だが、本人的にはむさい男どもの格闘教室に負けたのが納得出来ないとか何とか。あくまで噂だが。
ニーリス先輩の出し物は、射的という新しい遊びであったことや、5階という位置を考えれば、6位という結果は相当高い。あの精巧な人形の効果だろうな。
『あたしの歌を聞けーー!!』
「……ただの噂ではないようだな」
放送からフルーム先輩の声が聞こえてくる。放送で歌だけ流されても評価に困るんだが。きっと本人は踊っているのだろうが、放送越しではそれは見えない。
『ちょっと副会長! 何勝手に放送してるんですか!』
『止めないでニーリスちゃん! あたしは、アイドルとしてもっと高みを目指す!』
『いつからアイドルになったんですか!』
『生まれた時からよ! あたしは生まれながらの最強魔法少女アイドル、その名もフルームちゃんなんだから!』
『意味不明なこと言ってんじゃないですよ! ああもう強制終了!』
ニーリス先輩がスイッチを切ったのか、プツリと放送が途切れた。
「賑やかな方ですね……。突拍子もないことを始めた時のアイリス様のようです」
「えっ!?」
「ごちそうさまでしたー! クレイさん、大丈夫ですか? お手伝いしますよ!」
「いや、大丈夫だ。かなり動かせるようになったからな。流石、ネスク先生は腕が良い」
腕の骨の治療は、もう既にほとんど完了していると言って良い。まだ微妙な違和感は残っているが、痛みはない。
流石はディルガドールの治療師だ。ネスク先生は他の治療師と比較しても腕が良いようだ。
「む、ではもう模擬戦も出来るのか?」
「カレンの勉強がどれだけ出来ているか次第だ」
「うっ」
学科試験まで3週間程度。もうあまり時間がない。試験範囲は以前の学科試験より狭いが、その分勉強に使える期間も短いので、効率良くカレンに詰め込んでいかなければ。
「またテストを作るか。模擬戦はその結果次第ということで」
「うう……やるしかないか……」
放課後。班の全員でまとまって寮まで帰ってくると、予想外の出迎えがあった。
「おかえりなさいませ、クレイ様。皆様」
「あれ以来だな、クレイ。腕を折ったと聞いたが、元気そうでなによりだ」
アイビーと公爵親子だ。周囲に護衛たちも控えている。わざわざ待っていたのか?
「閣下もお変わりないようで。学園祭は楽しんでいただけましたか?」
「うむ、良き祭りであったな。特にお主が女たちに振り回されているのを見るのは愉快であった」
「見ていらしたのですか。お恥ずかしい限りです」
「ガッハッハッ! 女に振り回されるも男の甲斐性よ! ワシも昔は」
「お父様の昔話は長くなりますから、またの機会にいたしましょう」
「む、そうか? もう国に帰るだけなのだから、多少長くなろうと」
「お父様」
「う、うむ。ではまたの機会を楽しみにするとしよう」
目が笑っていないアイビーに見つめられ、公爵が冷や汗を流している。娘には勝てないようだ。無理矢理ヴォルスグラン送りにしたことを許してもらうのが大変なのかもしれない。娘のことを想ってやった事なのに、可哀想に。
「クレイ。多くの女を追いかけるも良いが、アイビーを泣かせるようなことだけはしてくれるなよ」
「大丈夫ですわ。クレイ様は私との将来を約束してくださいましたもの」
間違ってはいないのだろうが、アイビーのその言い方は誤解しか生まない気がする。
「そうかそうか。クレイよ。ヴォルスグランは基本的に一夫一妻制だ。貴族は暗黙の了解的に複数の愛人を持つことが許されているが、それはあくまで見逃されているだけだ」
「え? ええ、そうですね」
公爵の言う通り、ヴォルスグランは一夫一妻だ。複数の相手と結婚することは認められていない。
貴族は愛人がいても許されているとは言うが、もし他の貴族の恨みを買ったりして報告されると見逃してはもらえない。本当に暗黙の了解でしかない。
「カルズソーンはお主を歓迎するぞ? 我が国は婿入りでも爵位を継ぐことが出来る。その上、一夫多妻が認められておる。どうだ、お主にとってこの上ない条件であろう」
なるほど。カルズソーンに行ってフェリアラント公爵家に婿入りすれば、俺が公爵位を継ぐことが出来る訳だ。
それは……本当に魅力的だな。学園卒業時の自由進路の権利を行使してカルズソーン行きを希望する、という選択肢も考えたくなるくらいだ。
「フェリアラント卿、お久しぶりです。ヴォルスグラン第一王女、アイリス・ヴォルスグランです」
「む、お久しぶりですな。挨拶もせず申し訳ない」
「クレイ・ティクライズは我が国の大切な国民です。過度な勧誘はお控えいただけますと」
「おお、そうですな。過度、というほど勧誘したつもりではなかったのです。お許し下され」
「いえ、こちらこそ、口を挟むようなことをしてしまい、申し訳ありません。ご理解いただけて嬉しく思います」
「では、これにて失礼しますぞ。……クレイ、考えておくが良い。ではな」
公爵が去って行く。卒業時の状況次第では、本当にカルズソーンに行くのも良いかもしれないな。
「……クレイ、結構乗り気なの?」
「いや、まあ選択肢としてありだとは思った」
「そう。…………わたしがカルズソーンについて行くことって出来るのかしら」
「ん?」
「ふんっ! 何でもない!」
不機嫌そうに顔を背けるアイリス。何でもなくないのは分かるが、何が気に障ったのかが分からない。ここは本人の言うことを額面通りに受け止めて、何でもないということにさせてもらおう。
公爵がカルズソーンへ帰っていった日から10日。明日は休みだ。カレンの勉強は意外と順調で、そこまで追い込んでやる必要もない雰囲気だ。
平日は普段通りにトレーニングで、休みの日は午前中を勉強会にするくらいで、ある程度の点は取れるかもしれない。
「ふふん、どうだ? わたしとて、やれば出来るのだ」
「いや、取れると言ってもせいぜい650点くらいだろう。そう胸を張れる点ではないぞ」
「ぐぬぬ……クレイ~もっと点を取れるようにしてくれ~」
「分かった分かった。勉強見てやるから、教室でそう引っ付くな」
「あたしも、良いですか?」
「ああ。勉強会をするなら班全体でやった方が効率が良いだろう。また午前中集まってやるか」
6組の3人にも後で伝えておかないとな。どうせ昼は一緒に食べるんだから、その時に伝えれば良いだろう。
「あ、ってことはクレイさぁ、午後は空いてる感じ?」
「ん? ハイラスか。まあ空いてるが。何か用か?」
「用ってほどのことでもねーんだけどさ。クレイっていっつも女子に囲まれてんじゃん? あとレオンもいっつもキャーキャー言われてんじゃん? だからたまには男だけで遊びに行かねー? ってな。どうよ」
「遊びの誘いか。俺とレオンとお前か?」
「あとフォグルもな」
いつも女子に囲まれているのは間違いない。それが嫌な訳ではもちろんないが。男として女子が近くにいるのは歓迎だ。
しかし、それはそれとして、たまには離れて遊びに行くというのも良いだろう。全く気を使わなくても良い集まりというのは、それはそれで良いものだと思う。
「せっかくだ、たまには遊びに行くか」
「っし、オッケーな。んじゃ、明日の昼に部屋まで行くわー」
「ああ」




