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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第5章 盛況なる学園祭
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第134話 嫉妬深い氷精霊

 警備の仕事を2年生コンビに引き継ぎ、演劇の準備や宣伝を行っていた班の仲間たちと合流する。


「アイリス、ちゃんと仕事して」


 合流して早々、不満そうなフォンからアイリスへ文句が飛び出した。


「な、何のことかしら? ちゃんと警備していたわよ?」


「嘘。クレイとイチャイチャしてたって目撃情報がある」


「うっ……」


 何とも耳が早いことだ。どこから聞きつけてきたのか、既に警備の仕事中にデートしていたことが知られているらしい。


「アイリスとカレンはじゃんけんから除外する」


「ちょっと待って!? 何のじゃんけんよ!?」


「演劇が終わった後にクレイと一緒に回る権利の争奪戦」


「何!? わたしも除外なのか!?」


「以前デートしてた」


「もう20日以上も前だろう! それで除外されるのは納得いかないぞ!」


「ダメ」


「ぐぬぬ……!」


 俺の意見は? いや、別に誰が相手だろうと嫌だということはないが、完全に無視されるのもどうなんだろうか。


「とりあえず、昼食に行かないか?」


 色々食べ歩いたせいであまり腹が減っていないが、それでも何か食べておいた方が良いだろう。


「ごはん! 行きましょう!」


「ティールはずっと何か食べていただろう。まだ食べるのか?」


「カレンさん、分かってないですねぇ。お祭りで食べるものは全て別腹なんですよ?」


「いや、そんな訳ないが……」


 流石のカレンも呆れている。ティールがどれだけ食べていたのかは分からないが、まあティールだしな。気にしても仕方がない。


「全部の食べ物を制覇しますよ!」


 ティールの希望により、まだティールが食べていない店で昼食にした。剣喫茶とかいうたくさんの剣が飾られている店だったが、味は普通だった。確かに一般人からしてみれば剣はあまり見ない物かもしれないが、ただ飾ってあるだけとは手抜きだな。ここは票をもらえないだろう。








 ドームの舞台へ続く通路で出番を待つ。前の班は剣劇を行っているようで、剣同士がぶつかり合う音が聞こえてくる。


「ひえー! 観客席いっぱいですよ!」


 通路から観客席を確認したティールが恐れとも喜びともつかない悲鳴を上げている。

 ざっと見たところ、観客席は7割ほど埋まっているだろうか。相当な人数だ。学生全員が入っても余裕で席が余るこのドームは、何故こんなに大きいのか疑問だったが、これを見ると必要な大きさなのだと分かる。


「今やっている剣劇はそれほどの客を集めるものなのか? 何だかセリフも棒読み気味だし、あまり良い物とは思えないが」


「俺たちの宣伝効果だろう。この次の俺たちの演劇が目的の客が既に集まっているんだ」


 この後も人は増えるはず。俺たちの出番が来る頃には、席の8割くらいは埋まっているかもな。


「わたしたちの演劇を見に……こんなに……! わたしの作品がこんなに……!!」


「ルー、感動するのはまだ早いぞ。これらの客がお前の作品を評価する姿を見てからだ」


「そ、そうですね! 皆さん、お願いしますね!」


 前の班の劇が終わり、舞台が空いた。さて、準備を始めよう。


「皆さん! 練習の成果を発揮出来れば、きっと良い評価がもらえます! 頑張りましょう!」


「おー!!」








「最後まで見てくださった皆様、ありがとうございました! 明日もありますので、もし良ければまたお越しください!」


 ルーの挨拶に合わせて、全員で頭を下げる。観客からは大きな拍手の音が聞こえ、一部歓声まで上がっていることから、楽しんでもらえたことが窺える。


 ドームから出る通路へ入る。次の班が準備をしに舞台へ出て行くのとすれ違い、俺たちはドームの外へ出る訳だが、その前に、


解析(アナライズ)


 この通路は観客席の下を通っている。ここで解析を使用し、通路の上の観客の反応を確認してみる。




「いやー、可愛い子多かったなー」


「な。正直それだけでも見に来たかいがあったわ」


「レオン様最高! レオン様が主人公とか、分かってる!」


「えー、でも勇者途中まで弱いじゃん。レオン様にもっと活躍して欲しかったー」


「ナレーターの声、めっちゃ耳に気持ち良かったんだが、どの子だった?」


「最後に一番右端に並んでた黒と銀が混じったような髪の子だろ。あの子だけ劇中で見なかったし」


「うーむ、魔王以外の演技レベルは、悪くはないが普通だったか。まあこれを専門にしている訳でもないし、こんなものか」


「前評判に負けない程度には出来ていたように思うが。あんなチラシを配るだけのことはあったのではないか」


「俺的には普通に魔王を男にして欲しかった感」


「マジで? 俺的には女の子同士の絡みが最高だったんだが?」


「騎士の子、カッコよすぎるー! あの子になら抱かれても良い……!」


「魔王の方がカッコよかったでしょ? 姫に迫るところ最高だったんだけどー!」


「聞こえてくる感想、ストーリーに触れてるのが誰もいなくてウケるんだが」


「マジそれ。主要キャラの死で引き締め、それによって覚醒する主人公という王道ストーリー。やはり王道、これに限る」


「戦闘シーンの迫力ヤバかったな! めっちゃ興奮したわー!」


「ヤバ過ぎて怖かったよ……。本当に死んじゃったかと思った……」




 満足そうな声が多いか。不満の声についても、ここが駄目だった、ではなく、こうが良かった、という意見なら大丈夫だ。それは劇にのめり込んでいる証拠だからな。

 魔王マーチの演技力が高過ぎてその他と差があるせいで、逆に粗が目立ったという可能性はあるかもしれない。これについては仕方がない。1人だけプロが混ざっているようなものだからな。


「はああぁぁぁぁ緊張した……。大丈夫だったか? わたしはセリフを間違えたりしなかったか?」


「大丈夫でしたよ! カレンさん、カッコよかったです!」


「セリフを少し間違えたくらい、観客には分からない」


「ねえちょっとアイビー。わたしが顔を近づけて迫った時、エロい顔するの止めてくれない?」


「恋愛経験に乏しい姫が迫られて照れている表現ですわ」


「練習の時より大げさになってるって言ってんのよ。わたし間違えて本当にキスしちゃったかと思ったわよ」


「クル、大丈夫だったかい? 少しタイミングがズレて、剣が当たっていただろう」


「はい、問題ありません。軽く触れた程度です」


「はぁ!? レオン、クルに傷を付けたの!?」


「アイリス様、問題ありませんと言っているのですが……」


 わいわいと演劇を振り返りながら、ドームを出る。とりあえず、着替えに行かないとな。


「皆さん、ちょっと良いですか?」


 ルーが全体に声をかける。明日もあるが、一段落ということで一言といったところか。


「まずは1日目、お疲れ様でした。観客の反応も上々だったと思います。今までの練習の成果がしっかり発揮出来た結果です。ありがとうございます。本当に……ありがとう……!」


 頭を下げたルーの声が震えている。自分の作品が評価された喜びが抑えきれなくなったか。


「ルー、まだ早いわ。明日、号泣させてあげるから、もう少し我慢しなさい」


「は、はい、すいません。ちょっと溢れちゃいました。明日もあります。最後に近い出番をもらえましたから、明日が本番かもしれないですね。気を抜かずに頑張りましょう!」


「おー!」


「といったところで、今日は解散にします。衣装は汚さないように、各自で管理をお願いします。背景もですね。お疲れ様でした」


「お疲れ様でした!」








「あーん」


「フォン?」


「口開けて?」


「あ、ああ。あーん」


 休憩用に設置されたベンチに座り、低い体温をはっきり感じるほどくっついてくるフォンが、手に持ったパンを隣から差し出してくる。


 ティール、クル、フォンの3人によるじゃんけんは、フォンが勝利したようだ。午後はフォンと2人で学園祭を回ることになった。

 最初は腕を絡めてくるフォンと一緒に歩いて回っていた。そこでひたすら様々な食べ物を買っていくフォンに、そんなにたくさん食べるのかと思っていたのだが……。


「次はこれ。あーん」


 一通り回り終えると、フォンは俺をベンチへと連れて行った。それからずっとこうだ。買ってきた大量の食べ物を、ひたすら俺に差し出してくる。


「……楽しいか?」


「うん、とっても」


「そうか」


「楽しくない?」


「いや、そういう訳ではないが」


「もっと食べて。全部あげる」


 全部。全部か……。流石に多いな……。


「フォンも食べたらどうだ?」


「ん……じゃあ、はい」


「ん?」


 手に持っていた俺の食べかけのクレープをこちらに渡してくるフォン。これを……どうしろと? 食べれば良いのか?


「あーん」


「ああ、そういう。ほら」


「ん」


 フォンが口を開けたので、渡されたクレープを差し出してやる。


「ふふ」


 ほんのり頬を染めて笑うフォン。いつになく楽しそうだ。


「クレイ、食べて」


「ああ」


「して欲しいこと、何でも言って。何でもしてあげる」


「ん? して欲しいことか。特に思いつかないが」


「何でもしてあげるのに」


 急にそんなことを言われてもな。特にして欲しいことなどない。こうしてデートしてもらえるだけでも充分な幸せだと感じる。

 カレン、アイリスともデートをしたが、ずいぶん贅沢なことをしていると思う。こんな風に誘われるというだけで、



「むぅ」



 思考を遮るように、フォンが俺の顔を両手で挟み込んでくる。ひんやりしたフォンの手が気持ち良い。


「ちゃんと見て」


「お、おう、見ているが」


「じゃあもっと見て」


 顔を固定されているので、フォン以外は見ることが出来ない。目の前にフォンの顔がある。こうして近くで見ると、やはり白くてきれいな肌だ。元が白いので、赤くなっているのがよく分かる。




「ふふ」




「どうした?」


「ちゃんと見てる」


「そりゃあそうだろ。フォン以外見えない」


「ん」


 更に赤くなったフォンの顔を、その後もしばらく見続けることになった。

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