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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第1章 班結成
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第12話 解決へ向けて

「上!」


「ふっ!」


 建物から顔を出して射撃してきた敵の魔力弾を、カレンが振るう両手剣から飛び出した炎が消し去り、そのまま突き進んで敵を焼く。


「よしっ! これぞ我がファレイオルの……」


「いちいち止まるな! 前、5人!」


「む、はあっ!!」


 5人もの敵が乱射してくる大量の魔力弾を、しかしカレンは一蹴して見せる。一振りで全てを薙ぎ払い、敵を討つ。


「後ろ、追って来てるぞ!」


「せあっ!」


 カレンが大暴れしているせいで、目立って仕方がない。敵が応援を呼び、それを倒すことで更に殺害目標に指定され敵が増える。

 こんな予定ではなかった。確かに敵を集めるつもりではあったが、流石に多すぎる。


「おい、クレイ・ティクライズ。お前も戦ったらどうだ」


「俺があんな遠距離武器と正面からやり合える訳ないだろ。隣に使える奴がいるんだから使うに決まっている」


「ほう、ではわたしが戦わないと言ったら?」


「そうか、ファレイオルの騎士様は街を襲う悪党を目の前にして突っ立っているのか。そんな腰抜けだとは思わなかった。仕方がない、逃げて良いぞ」


「ぐ、ぬぬぬ……」


「来てるぞ」


「でやぁっ! 誰が腰抜けだ! 見ていろ、ファレイオルの剛剣を教えてやる!」


 敵はカレンが殲滅してくれる。だが、敵の親玉は頭を使うことが出来る男だ。意味もなく散発的な攻撃を仕掛けてきているとは思えんな。


「こっちだ」


「む」


 路地に入り、入り組んだ道をランダムに走り抜ける。せっかく集まった敵を撒いてしまうのはもったいないが、このままだと囲まれかねない。全方位から一斉に撃たれたら流石に対応出来なくなる。


「いや、待て」


「何だと言うんだ。ウロウロと」


 仮に敵の攻撃によって俺たちの進む道を誘導されていたとして、その場合この路地に入ることも読まれている可能性がある。

 ここは入り組んだ路地だ。この路地のどこから出てくるのかなど、全く予測出来ないはず。しかし、だからこそ、この路地に入るところまでは予測可能だ。


 考えすぎという可能性もある。だが、常に最悪を想定するのは基本だ。このまま素直に路地から出るのは愚策か。罠があるかもしれん。とはいえ、ならばどうするか……。


「何を悩んでいる。少しは相談したらどうなんだ」


 こいつ、自分勝手に突撃して班員に逃げられたんじゃなかったか。意外とまともなことを言うな。


「この路地から出ると罠がある可能性がある。だからどうしようか、とな」


「路地から出なければ良いのか?」


「出なければって、ずっとここにいるつもりか? それは素直に路地から出る以上の愚策だぞ」


「大人しくしていろ」


「何を、お、おいっ!?」


 急に横抱きに持ち上げられた。何を考えて……



「行くぞっ!」



 跳躍。壁を蹴り、更に上へ。そのまま屋根まで跳び上がった。


「嘘だろ……」


 化け物かこいつ。同じ人間とは思えん身体能力だな。


「む、敵が見える。行くぞ!」


「行くな馬鹿たれ! こっちだ!」


「敵を前にして逃げろと言うのか!」


「違う! 勝利のための行動を取れと言っている!」


「すぐそこの敵を滅することこそ勝利だ! 見逃せば民が苦しむ!」


「それでより多くの民が苦しむとしても行くのか?」


「……なに?」


 話を聞いたとき、こいつは何も考えずに突撃する阿呆だと思った。きっと自分の力を過信して、突撃すれば勝てると思っているのだろうと。

 だが、違う。何も考えていないんじゃない。自分が突撃し敵を討つことが、守るべき物を守ることに繋がると思い突撃しているんだ。


 馬鹿だが、思考停止ではない。


「そこの敵一人を倒しても状況は変わらない。このままではいつまで経っても敵がいなくならない。今やるべきは、この事件の解決だ。目の前の敵を討ってもそれは達成されない。事件解決が遠のくことは、民がより苦しむことを意味する。分かるか?」


「……分かる」


「こっちだ。今は一度敵から離れる。心配するな。解決までの道は見えている」


「……承知した」


 屋根を伝い、街の外を目指す。屋根が途切れたところで、下に降りる。また抱えられて。


「跳び下りるくらいは出来るだろう?」


「出来るか。どれだけの高さがあると思ってる」


「もっと鍛えた方が良いぞ」


「これでも相応には鍛えてる。お前みたいにはなれん」


 遠目に都市の門が見える所まで来た。この都市は、不審者が侵入しないように魔法によって強化された壁で囲われ、門を通らなければ出入りが出来ないようになっている。

 だからこそ、こんな武装集団の侵入を許したのが不思議で仕方がないが。さて、仕上げだ。


「デカい魔法は使えるか? 炎が上空に噴き上がるような物が良い」


「少し溜める。回りを見ていてくれ」


 上段に構えられた両手剣に魔力が集まっていく。それは剣が光を帯びるほどに高まり、そして、



剛剣(ごうけん)竜牙炎(りゅうがえん)!!」



 振り下ろされた剣から、竜が昇るがごとく、炎が天へと噴き上がる。そして上空で大爆発を起こした。


「この技は本来前方に打ち出す技なのだが、お前が上空に上がるような物が良いと……」


「解説はいい。走るぞ」


 門に向けて駆け抜ける。予想より派手な技だった。散々カレンの炎を見てきた敵は、今のでカレンがここにいると理解してくれるはず。

 門を守るように銃を構えた敵が二人。こいつらには俺たちが都市を出たことを報告して欲しいため、残しておきたい。


「門番をしてる奴らを跳び越えるぞ」


「承知した。掴まれ!」


 敵が放つ弾をカレンの剣が斬り落とす。そのまま接近、カレンに手を引かれ、跳ぶ。そのまま走り抜け、近くの森へ入る。


「おい、都市を見捨てて逃げてきてどうする! 連中を放置していては、住民が傷付く!」


「大丈夫だ。あいつらはこっちを追ってくる」


「何? 何故そう言い切れる」


 足を止めず、森を奥へ歩きながら説明する。


「まず、連中の下っ端共は明らかにただのチンピラだ。一方的に攻撃されたままで引き下がるような大人しい奴らじゃない。次に、連中の親玉は俺を殺せと指示を出していた。これは俺が奴らの計画を邪魔しようとしたからだが、逆に言えば、俺とお前は殺すべき敵だと親玉にも認識されている」


「そうなのか?」


「あいつらの目的は分からないが、どうやら邪魔をしてくる奴を放置出来る計画ではないらしいな。そして、これが一番の理由だが」


 敵の親玉はそこそこ頭が使える奴のようだった。そして、計画を邪魔しようとした俺のことを、あちらも同様に認識しているだろう。そこそこ頭が使えるガキがいるようだ、と。



「頭が使える奴は、頭が使える敵を放置しない」



 足音が聞こえる。ガサガサと森を駆ける音。一つや二つじゃない。音だけでは数を確認出来ないくらいには、多く。


「この数、マズイぞ! くっ、既に囲まれている……!」


 どうやら包囲してから距離を詰めてきたらしい。数えるのも面倒な人数が周囲に集まり、一斉に銃を向けてくる。わずかだが、遠くから未だに街が破壊される音が聞こえている。これだけ集めてもまだ全員ではないか。どれだけ侵入されているのか。


「このっ、焦焔・破断剣!」


 カレンが振るう剣から炎が飛び出し、敵を襲う。しかし、敵の一人が手を掲げると透明な障壁が作られ、それに弾かれた炎が上空へと逸らされる。


「何っ!?」


「何っ!? じゃないんだよ、お嬢ちゃん。散々見せてくれただろう? その魔法はさ。何のために幹部の俺がこんなところまで出張って来たと思ってるのよ」


 この声、通信していた親玉じゃないな。まああれが親玉とは限らないんだが、幹部か。そんな奴もいたんだな。察するに、あの指輪が障壁を張る魔法を込められた道具か。それが与えられているのが幹部だということだろう。


「散々苦労させてくれたな。本当は少しずつ傷つけてゆっくり殺してやりたいところだけど、あんまモタモタしてると怒られちまうんでね。最期に何か言っておきたいことはあるかい?」


 幹部が手を上げると、周囲の下っ端共の指が銃のトリガーにかかる。


「ここまで、か。こんなところで……」



「意外と諦めが良いんだな」



「何が言いたい? お前が解決出来ると言ったからついてきたのに、この状況だ。その上、諦めが良いな、だと?」


「いやなに。誇り高い騎士たるファレイオルの娘なら、きっと最期まで諦めず、気高く戦ってくれるのではないか、と思っていただけだ。期待外れだったようで、残念なことこの上ないな」


「貴様、煽るのも大概に……」


「ククク、最期に喧嘩とは。このまま眺めてても面白そうだが、長くなりそうだ。それが最期の言葉ってことで良いな? じゃあ、死ねや」


 所詮はチンピラの上司か。この状況で全く諦めた様子がない俺を見て、何も疑問を抱かないとは。まあ今更疑問に思ったところで、もう遅い。



「全て予定通りだ。俺たちの勝利は揺るがない」

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