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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第5章 盛況なる学園祭
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第126話 デート

 服屋に向けて歩く。隣を歩くカレンはずっと無言で、頬を少し赤く染めて、ひたすらに前だけを見て歩いている。

 何か気を利かせて話しかけた方が良いのだろうか。だが、何を話せば良いんだ? こんな経験は今までに一度もないし、資料も見たことがない。強いて言うなら、フォンやアイリス、ルーに勧められて読んだ物語の本くらいだろうか。


 だが、経験のない俺でも、物語と現実が違うということくらいは理解している。物語を参考にしてキザなセリフを言っても、現実では白ける可能性の方が高いだろう。

 だが、だからと言って無言というのも空気が悪い気がする。軽く雑談をするくらいはするべきなのでは?


 だが……だが……だが……


「く、クレイ、着いた、ぞ?」


「ん、ああ、そうか。もう着いたか。存外近かったな」


 服屋に着いたので、話題を探す思考を中断する。ここなら、カレンが服を選んで、それに関してコメントを付ける形で会話することが出来るだろう。

 ……俺が服に関して気の利いたコメントを付けられるのか、という問題はあるが。


 しかし、服屋か。

 学園ではずっと制服だし、リーナテイス内でも基本は制服だ。その方が学生向けの各種サービスを受けやすいからな。

 リーナテイスの外に出る時も、学生として行動する時は制服を着ている。実際、モンスター討伐実習の時はずっと制服だった。


 だから学園に入学してから、夏休み中を除いて私服などというものを全く着ていない気がする。当然服屋など来ない。

 それはカレンも同様だと思う。カレンの休日は基本鍛練だからな。こういう店を利用する機会はあまりないだろう。


「クレイ! これ、どうかな?」


 そう言ってカレンが持ってきたのは、何というか、フリフリヒラヒラしている服だった。ワンピース型の服にヒラヒラとしたものがつけられた、可愛らしい服だ。

 こう言っては失礼かもしれないが、カレンのイメージには合わない。カレンは何というか、もっとピシッとした服が合うように思える。


「ああ、良いんじゃないか」


「そ、そうか!」


 だが、カレンがこれが良いと言うなら、そんなことを言っても落ち込ませるだけだろう。俺はカレンの私服姿をほとんど見たことがないんだ。これがカレンの趣味だと言うなら、それで良いじゃないか。


「じゃあ、これとかどうだ?」


 次に持ってきたのも、随分可愛らしい服だ。やはりこういう服が好きなのだろうな。


「良いと思うぞ」


「うむ!」


 俺が良いと言う度、嬉しそうに頬を染めて笑うカレン。そしてまた新しい服を取り、俺に見せてくる。

 普段とはまるで違う。親に褒めて欲しい子供のように、慌ただしく動き回る。これはどうだ? これとか良いんじゃないか? そう言って。



 カレンが持ってくる全てが可愛らしい物だ。



 やっと普段通りに頭が回り出し、その違和感に気が付いた。

 別にそれが趣味だと言うならそれはそれで良いんだが、本当にこれらの服はカレンの趣味なのか?


 俺は、カレンがこうした服が好きだというのは意外だと感じている。カレンだってそれくらい分かっているだろう。普段の言動から、自分が可愛い服が好きだと思われているなどとは考えないはず。

 自分の趣味はこういう物なんだと教えようとしているなら良いんだが、だからと言って一度もイメージ通りのカッコいい系の服を持ってこないのは何故だろうか。



 俺が最初に可愛い服に対して、良いんじゃないか、と言ったからじゃないのか?



 余計なことを言って、カレンが落ち込んだら悪いと思った。だが、嘘を吐いて本音を隠すのは間違っているだろう。

 デートという物に詳しくはないが、恋人同士がする物ならきっと隠し事は良くない。無理をして付き合っても、その先はないから。


 俺たちは恋人という訳ではないが、それでもカレンはデートと言った。なら、そのつもりで、きちんとカレンに向き合ってやるべきだ。


「なあ、カレン」


「ん? 何だ? クレイもわたしに良さそうな服があったら言ってくれ」


「そういう服が好みなのか?」


「あ、ああ、そうだな。意外に思われるかもしれんが、わたしはこういう可愛い感じの服が、す、好き、だぞ?」


 顔が引きつっている。嘘は吐きたくないが、かと言って俺が良いと言ったものを否定したくない。そんな心の声が聞こえてくるようだ。


 まったく、カレンに嘘なんて吐ける訳ないだろうに。


「無理をするな。悪い、俺が曖昧なことを言ったせいで。カレンはそういう可愛らしい服が好きなのだと思って、否定しないようにしていたんだ」


「え? あ……」


「これからは素直に感想を言うから、カレンも俺が好きそうな物じゃなくて、自分が欲しい服を選んでくれ。きっとその方が、カレンに似合うよ」


「で、でも……クレイはこういう可愛いのが好き、なんだろ?」


 こちらの顔色を窺うように、チラッチラッと視線を向けてくる。何故カレンがそんな勘違いをしているのかは分からないが、女子の服に対して拘りなどない。


「カレンに似合う服が、俺の好みだよ」


「――――っ! そっ、そうかっ! 分かった!」


 顔を真っ赤にして駆け出すカレン。店を破壊しそうな勢いだ。


「カレン、店に迷惑をかけるなよ」


「うむっ!」


 ニコニコと笑顔で服を選び始めるカレンの姿を見れば、俺の選択が間違っていなかったと確信出来る。


 何を緊張していたのか。確かにデートなどするのは初めてだが、デートのことは知らずともカレンのことは知っている。余計なことを気にしていないで、カレンを見ていれば問題ない。








 服屋を出る。カレンは結局何も買わなかった。無理をしている訳ではなく、これだという物がなかったのだろう。満足そうに笑って隣を歩くカレンを見れば、無理をしているかもしれないなどと疑う余地はない。


「そろそろ昼だな」


 デートに誘われるとは考えていなかったから、飯をどうするかも当然考えていない。どこか良い店があっただろうか。美味いかどうかならともかく、デートに相応しいかなどという視点で店を見たことがないため、すぐには思い付かない。


「あ、あの、だな。実は、昼食は、用意してきた。だからどこか落ち着ける場所に行こう」


「カレンが作ったのか?」


「う、うむ」


 料理が出来るのは知っているが、弁当のようなものも出来るのか。以前食べたのはステーキだったが、あれは美味かった。どのような弁当が出てくるのか。


「なら公園にでも行くか」


 俺たちがよく利用するのは、寮のすぐ近くにある何もない広場のような公園だが、この都市にある公園はその一つだけではない。

 近場の公園に入り、隅に置かれたベンチに腰を下ろす。


「ど、どうぞ」


 カレンが広げた弁当は、またしてもカレンのイメージとはかけ離れた可愛らしい物だった。

 ハート型に並べられたソーセージ、花の形になっている卵焼き、イヌやネコのような動物を模したハンバーグ。とても手が込んでいる弁当だ。


「言いたいことは分かっている。わたしらしくないと思っているのだろう? こういう弁当が作れる女子の方が、クレイは好きかなと思ってだな……」


「お前のその、俺が可愛いもの好きだという情報はどこから仕入れたんだ?」


「ち、違うのか? だって、ティールとか、可愛いだろ? クレイはティールに特に優しいと思って……」


 要するに、俺の普段の様子を見て勘違いしたのか。そこまで露骨にティールを贔屓しているだろうか。そんなつもりはなかったんだが……。


「ああ、もしかしてあれか。ティールが臆病だったから、特に気を遣っていたのを勘違いしたのか」


「え、じゃあ本当に勘違い……?」


「どちらかというと、カレンを雑に扱い過ぎたのかもしれないな。最初の頃の影響で、どうもカレンだけ辛辣に対応している部分があるような気がする」


「あ、いや、あれはあれで、わたしだけ特別な感じがして悪くないというか、何というか……」


「ん?」


「な、何でもない! ほら、食べると良い!」


「あ、ああ」


 勧められるままに、カレン作の弁当に手を伸ばす。


「美味い」


「そうか! ほら、どんどん食べろ」


 思えば、勘違いとはいえ俺が可愛い物が好きだと思ったからという理由で、本当にこんな弁当が作れてしまうくらいには料理上手なんだよな。

 それだってカレンのイメージからすれば意外なことだ。だが、それが悪いということはない。料理が出来るに越したことはないし、イメージ通りの行動をしなければならないなどというルールもないのだから。


「無理はするなと言ったが」


「え?」


「服屋での話だ。可愛い物が好きでもないのに、可愛い服を選ぶなどという無意味なことはしなくて良い。だが逆に、もし可愛い物が好きだけど自分のイメージには合わないから、などと無理をしているなら、それもしなくて良いからな」


「大丈夫だ。確かにわたしは別に可愛らしい服が好きという訳ではなかったからな」


「服だけの話じゃない。例えばこの可愛らしい弁当。確かに意外ではあるが、もしこういう物が好きだとするなら、それはそれで良いと思う。イメージなんかに従う必要はない」


「……うむ」


 何でもそうだ。誰かに迷惑をかける訳でもないのに、イメージに合わないなどという理由でやりたくもないことをするのは馬鹿馬鹿しい。


「人に迷惑をかけない範囲で、好きにすれば良い」


「……もし、人に迷惑をかけるかどうかも分からなかったら、どうすれば良いと思う? もしかしたらそれをすることで、迷惑をかけてしまうかもしれない。かけないかもしれない。そんな時」


 何の話なのかは分からない。だが、きっとその迷惑をかけるかもしれない相手は、カレンにとって大切な存在なのだろう。そうでなければ、こんな悩みは抱かないはずだから。


 それなら、


「その迷惑をかけるかもしれない相手に、直接聞いてみたら良いんじゃないか? 自分のイメージには合わないかもしれないけど、こうしたいんだって」


 カレンが大切に想う相手なら、それを聞いた程度で離れていったりはしないだろう。


「……そうか。そうかもな」

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