第119話 役決め
現状、登場人物は、勇者、騎士、王、姫、魔王、四天王の大男、女、研究者、暗黒騎士の計9人。そこにナレーターも加えるとして10人になる。
ルーを監督ということで役から外したとしても、あと1人役が足りない。
「とりあえず、既に決まっている役から決めていくべきだろうな。余った1人のイメージに合わせて新しい役を作るのが最もやりやすいと思う」
「うーん、そう簡単に新しい役を生み出せる気がしないんですけど……でもクレイさんの案には賛成です。まずは決めていきましょう」
そうなると、既に決まっているような役が一つあるな。
「四天王の大男はフォグルしかいないと思うんだが。拳で戦うという部分は当てはまらないにしても、体格、性格共に完全に一致しているだろう」
フォグル以外のこの場にいる全員が頷いている。全員思っていることは同じか。
「おう、任せとけ! つっても、演劇とか全然分かんねぇけどよ」
本人的にも問題ないようなので、次にいくか。
「あとは研究者だな。こんな役が出来るのはハイラスかマーチしかいない」
「それは褒められてんの?」
「褒められてる訳ないでしょ、馬鹿。まあこの役は性別的にハイラスに譲るってことで」
「え」
研究者、ハイラスっと。あとは……、
「勇者、騎士、暗黒騎士の3人は剣に秀でた人物、魔王は魔法に秀でた人物でなくては駄目だな」
「あれ、勇者も剣が使えないと駄目なんですか?」
「ティール、勇者の一番の見せ場はどこだ?」
「えっと……魔王を倒すところですかね? ……あ、そこで剣が使えないといけないんですね」
これはあくまで演劇なのだから、実際に剣の扱いに優れていなくてはいけないということはない。だが、より良い演劇にするならこだわりたい部分ではあるだろう。
「でもこの中で剣が使えるのって、カレン、レオン、フォグルの3人だけじゃない?」
「そうなんだよな……」
アイリスの言う通り、この中で剣の扱いに優れているのはカレン、レオン、フォグル。だが、フォグルは大男役に決まっている。
「あ、はいはい! 俺、剣使えるって」
「お前が使っているのは短剣だ。あと、お前の魔法と身体能力に任せた戦い方を剣の戦いとは言わん」
「えー……」
ハイラスのことを剣の扱いに優れていると言う人間はそうそういないだろう。下手とは言わないが、先ほど挙げた3人とは比べられない。
「本当はあまりストーリーを変えたくはないですけど……どうしても剣じゃなくちゃ駄目とは言わないです」
ルー的にそこが妥協出来る部分なら、どうにか出来るか。
「なら勇者は性格的にレオン、騎士はカレンだな。暗黒騎士はクルにすれば、武器が拳にはなるがストーリーに変更はなくて大丈夫だろう。観客にクルの拳の威力をアピールするシーンが必要になるが」
主人公がレオンなら見栄え的にも申し分ない。騎士が暗黒騎士に殺されるシーンも、クルの拳の威力さえ観客に伝わっていれば、剣の代わりに拳で貫くという描写で問題なく進行できる。
「あのー……勇者と騎士の性別が違うと、ストーリー的にちょっと……」
「ふむ……じゃあカレンには男装してもらうということで」
「えっ!?」
ここまでうんうんという頷きで進行していたカレンが、初めて違う反応を示した。
「駄目か? 似合うと思うんだが」
「え……そ、そうか? 似合うかな……。クレイがそう言うなら、ちょっとやってみても良いかもしれん。ティールはどう思う?」
「へ? カレンさんの男装ですか? うーん……カッコいいと思います!」
「そうかそうか! よし! ならばわたしが男装して」
「お待ちください」
カレンがやる気になり盛り上がっているのを遮り、待ったがかかる。それは、ここまで一言も発さず様子を見ていた、アイビー・フェリアラントからだった。
「男装でも良いのなら、レオン様が騎士、私が勇者という役割を提案させていただきます」
それは、どうだろう。あまり良い割り振りとは思えないが。
「理由を聞いても?」
「はい。先ほどクレイ様が提案された役割ですと、やはり暗黒騎士の戦いに妥協が出来てしまいますよね。対して、勇者は元々剣を扱うことが出来ないという設定なのですから、私でも充分に役をまっとう出来るはずです」
「ですがそれですと、今度は魔王との決戦に妥協が出来てしまいます」
「その妥協は決着の1シーンのみのはず。暗黒騎士との戦闘全てを妥協するよりは、私が勇者という役割の方が小さい妥協に収められるかと」
堂々と発言することでまるで言い分が正しいように聞こえる、という効果を狙っているようだが、言っていることが滅茶苦茶だ。
そもそもクルを暗黒騎士にすればほぼ妥協はない、という説明はさっきした。
魔王との決着のシーンが一番の見せ場だ、という説明もさっきした。
そもそもアイビーが言う通りだとして、それなら勇者はアイビーでなくても良い。性別を合わせて、俺がやるべきだろう。
何を考えている?
アイビーがここまでの話を理解出来ないほど頭が悪いという可能性は皆無だ。その程度の頭の出来なら、ディルガドールへの転入など出来はしない。
つまり、全てを分かった上でこのような提案をしている。そこには何らかの目的があるはずだ。
自分が主人公をやりたい? アイビーについて詳しい訳ではないが、そんな性格だろうか。それならもっと最初から主張している気がする。
カレンに暗黒騎士をやらせたい? ルーのストーリーを聞いて暗黒騎士との戦いが最も盛り上がると感じた場合、そこに全力を注ぐためにカレンを当てるというのはなくはない。だが、それなら先ほどの見せ場の話の際に主張しても良さそうなものだ。
レオンに騎士をやらせたい? ただの善人です、というより、姫への恋心を持っている、とした方が人物に納得感はある。レオンという魅力的な人材を、魅力的なキャラクターに当てはめることで、演劇全体の印象を良くしようとしている可能性。だが、それはレオンが主人公という場合と大した差はない。魔王との決戦での妥協分、マイナスになると考えられる。
アイビーは転入時、
(まあ! レオン様と同じ班に入れていただけるのですか? 願ってもないことですわ)
と言っていた。つまり、レオンの傍にいたい? レオンが騎士、アイビーが勇者なら、演劇の練習期間中はこの2人での行動が多くなるだろう。それが狙いか?
自分の欲望のために、班の出し物を犠牲にするのか? 果たしてアイビーとは、そんな人物だろうか。先ほど、次は勝つ、という目でこちらを見ていたのは、周囲に合わせた演技だったというのか?
いや、
(あなた様にとって、自由、とは何ですか?)
そうか。
「アイビー・フェリアラント」
「はい。ご納得いただけましたか? 付け加えるなら、私が主人公となった場合、故国からの観覧の方々の応援が」
「それがあなたの言う、自由、なのですか?」
「――――っ!?」
俺の質問に、言葉を失ったように黙り込むアイビー。そして、
「わ、私は……その、ただ……っ! 失礼します!」
何事かを口に出そうとして、そのまま飲み込んで教室を飛び出して行った。
「アイビー!? 一体何が……」
「クレイ、さっきのは何の話? 自由って、あなたはアイビーについて何か知っているの?」
さて、どうするかな。慌てるレオンは、まあ置いておいて、アイリスの質問に答えても良いものか。
「いえ、違うわね。クレイ、あなたはアイビーを追いかけなさい」
「俺が追うのか? 俺は彼女が飛び出して行った原因だ。追いかけても逃げられるだけだろう」
「何も知らない人間が追いかけてどうするのよ。クレイが何か悪いことをしたんじゃないか、なんて疑ってないから安心しなさい。よく分からないけれど、きっとすれ違いとかそういう感じでしょう」
「いや、そういう訳では」
「いいから追う! ついでに彼女のお悩み相談でもしてあげなさいよ。あなたならすぐに解決出来るでしょう?」
「そんな訳ないだろ……」
アイリスに教室を追い出されたので、アイビーを追うことにしよう。このままアイビーが逃げ出して演劇が駄目になったら俺のせいだしな。




