第117話 空いた時間
クルの誕生日会が終わって3日ほど経った。その日、生徒会から呼び出しを受けた俺たちは、生徒会室に集まっていた。
俺の班以外にもレオン班のメンバーが集まる中、会長から告げられたのは、
「君たちが討伐した巨人が、モンスター討伐実習の成績に反映されることが決定しました」
予想外の知らせだった。
互いに顔を見合わせ戸惑いを共有する。あの場にいなかったメンバーはもちろん、直接戦った俺やクル、ハイラスやレオンも、思っていることは同じだろう。
代表して俺がその疑問を投げかけることにする。
「会長、あれはとある実験によって生み出された、いわば被害者と呼ぶべき存在であって、モンスターに分類するのは……」
「はい、おおよその経緯は聞いています。しかし、これは理事長が決めたことですから。理由はわたしも聞きましたが、納得出来るものに思えました」
「その理由というのをお聞きしても?」
「『人間が寄生スライムに脳を奪われ、体の操作権をスライムが握っている時、これを寄生体というモンスターとして扱う』という決まりがあるそうなんです。寄生スライムによって人間が自由を失った状態という意味では、今回の事例も形は違えど同様の決まりを適用するというのは、納得出来ると感じました」
なるほど。そんな決まりがあるのは知らなかった。俺もまだまだ勉強が足りない。
「では我々とレオン班、あとはフルーム先輩の班とディアン先輩の班の共同討伐という扱いになる訳ですか」
「んーん。あたしはパス。あたしは巨人には全く関わってないしー」
「サラフさんから話を聞いたディアンさんも辞退したそうです。なので、君たち2班による討伐ということになりますが、どうしますか?」
確かにフルーム先輩は巨人には全く関わっていなかったな。サラフ先輩には倒れたクルをお願いしたのだから協力してもらったと言って良いと思うが、本人はともかくディアン先輩にはどう言っても受け入れてもらえないだろう。
最悪モンスター討伐実習は大した成績が取れなくても良いと思っていた。この期間に伸ばした実力があれば、同学年ではレオン班以外にもう負けることはないだろうから。
だが、ここで断る理由もない。せっかくこの実習でもトップの成績をくれると言っているのだから、もらえるものはもらっておくべきだろう。
レオンに顔を向けてみれば、かなり渋い表情をしている。恐らく自分は最後に止めを刺しただけなのに、良い成績になるのがどうかと思っているのだろう。
ここはハイラスだけに成績を反映するべきじゃないのか、などと考えているのが伝わってくる。
「おいレオン、お前が考えていることを実行したら、他はともかくマーチが絶対に納得しないぞ」
「う……そうだよね。仕方がない、か」
「決まりましたか?」
「はい。クレイ班、レオン班による共同討伐ということでお願いします」
「分かりました。ではそのように学園側には伝えておきます」
礼を伝え、生徒会室から退出した。
誰もいない1年3組の教室に来た。図らずもモンスター討伐実習をこれ以上行う必要がなくなったので、これからどうするかの相談だ。
今月はまだ1週間ある。モンスター討伐実習の期間は今月末までなので、あと1週間時間が残っている。
「時間があるのならトレーニングだろう!」
「はい! まだ魔力制御がちゃんと出来てないので、あたしもトレーニングが良いです」
「クレイに任せる」
「トレーニングが駄目とは言わないけれど……時間が空いたなら、やるべきなのは次の準備ではないかしら」
「次というと、学園祭ですか」
「そう。ディルガドールの学園祭って確か、外部の人間を呼んで、出し物の評価をしてもらって成績を付けるのでしょう? 長く準備期間があればそれだけ有利だし、そうでなくても多くの人間の前で無様は晒せないわ」
来月の行事は学園祭だ。本番は月の最後の休日2日間だが、もちろんそれまでの時間に準備をしなくてはならない。
学園祭は班単位で評価が付けられる。班で何か出し物を行い、外部から呼んだ人間に配られたアンケートによる評価を集計して成績を決定する。
このアンケートというのが、どの出し物が最も良かったか、という1人1票形式なので、相応の出し物を行わなければ0票というのも当たり前にあり得る難しい行事だ。
正直なところ、今度こそ最優秀賞を取るのは難しいと思っている。この班には戦闘以外に人に見せられる技能を持った人間がいない。クルのメイド技能があるくらいだろう。
普段から趣味で音楽室や美術室を使っているような連中のための行事という面が強い学園祭は、俺たちにとって少しでも点が取れるように頑張る、というのが目標になってくる。
だからこそ、せっかく時間が出来たのなら準備に使うべきか。
「では学園祭の準備をしようと思うが、カレン、ティール、良いか?」
「はい、大丈夫です」
「む、ぅ、まあ仕方あるまい」
「そうなるとまずは出し物を決めなければならないが……」
「はいはい! 演武が良い! わたしが豪快な剣舞で人々を魅了して見せよう!」
一番学園祭の準備をするのを渋っていたくせに、真っ先に希望を言ってきたのはカレンだ。勢いよく手を上げ、笑顔で己の意見を主張する。楽しそうだな。
「演武って、わたしとクレイとフォンは見てるだけ?」
「魔法で盛り上げれば良かろう。雷も氷もキレイな魔法だし、クレイならきっとどうとでも出来る」
言っていることは間違っていないように思える。問題があるとするならば……
「カレンって人に魅せる剣術なんか出来るのか?」
「む、わたしの剣はいつも見ているだろう。我がファレイオルの剛剣、その振り下ろす力強さや空を切る音、剣を返す滑らかさ、隙の無さ、全てが人を魅了するだろう」
やはりそうか。カレンは普段通りの剣のままで、人を魅了する力があると思っている。それは間違ってはいないが、今回においては間違っている。
「学園祭に来る外部の人間のレベルだと、カレンの剣を見ても、何かスゴイ勢いで剣を振っていて強そう、というくらいの感想しか持たれないぞ」
「なにぃ!?」
人々の心に残る何かはあるかもしれない。だが、それが最も良かったという評価を得るのは難しいだろう。
他に人に魅せるための武術を修めている人間がいたらなおさらだ。そういう人間は絶対に学園内にいる。0票もあり得る出し物になるだろうな。
「まだまだね。やはりここは喫茶店が良いと思うわ。わたしのお茶、クルの料理、可愛い給仕、完璧ね」
喫茶店ね。喫茶店に限らず、飲食店という選択は一般的だ。もし1班で行うことが難しいと判断したら、複数班が合同で行う場合もある。
他班と協力してでもやろうという人間がいるくらいには人気の出し物だ。力を入れるべき部分が分かりやすいからな。勝負しやすい出し物だと言える。
俺たちの場合、クルの料理という絶対的な武器がある。フォンのかき氷を出しても良い。かなりの人気店になる可能性を秘めているだろう。
だが……
「アイリス、俺たちは恐らく風紀委員の仕事で警備をすることになる。ずっと出し物に張り付いている必要がある店の類は難しいかもしれない」
「あー……」
ただでさえ6人で飲食店は苦しい。それなのに、多くの時間をその内の2人抜きで回さなくてはならないとなると、現実的ではないだろう。
「俺としては、歴史をまとめた資料の展示などが良いと思うんだが」
展示なら当日は自由だ。それに、俺の知識を活かすことが出来る分野でもある。割りと自信がある内容だ。
「えー……」
「歴史、ですか……」
「うん、まあ、そうね……」
一斉に微妙な顔をされた。駄目か……そうか……。
・演武
・喫茶店
・歴史の展示
・模擬戦
・王女と握手会
・氷像
・占い
・人体の動きと目線による先読み技術講座
・ティールに腕相撲で勝ったら賞金
しばらく意見を出し合ったが、なかなか良案は出てこない。意外と難しいものだな。
実はカレンの演武という意見が最も良いのではないかと思えてくる。人に魅せるためのものではないとはいえ、高レベルの武術は見ていて相応に楽しめるだろう。もうこれで行くか?
その時、教室の扉が開いた。
「あ、ここにいたんですね」
入ってきたのはルーだ。その後に続いてレオン班のメンバーがぞろぞろと入ってくる。
「何か用か?」
「はい。クレイさんたちを探していたんです。クレイ班はもう学園祭の出し物は決まっていますか?」
「いや、今考えているところだ。そう尋ねてくるということは、そちらもやはり学園祭に向けた準備をしているのか?」
「そうなんです。それで提案なんですが……」
わたしたちと一緒に演劇をやりませんか?
第5章はかなり露骨にハーレムします。




