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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第4章 モンスター討伐実習
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第99話 それぞれの鍛練

 会長さんに連れられて、訓練場に入る。


「まずは、ティールさんがどういう状態なのかについて、説明しましょう」


 会長さんによると、あたしが魔力を扱えないのは、魔力が多すぎることが原因らしい。魔法に魔力を込めれば込めるほど、威力が上がる半面制御が難しくなるように、体内の魔力も量が多いほど扱いが難しくなるのだとか。


「では、その有り余る魔力をどうやったら扱うことが出来るのか。何が必要だと思いますか?」


 急に問いかけられても、分からない。魔力があるのかどうかすら疑わしかったのに。でも、今まで勉強した内容から考えれば、これかな、という答えは見えてくる。


「イメージ、でしょうか」


「そうですね。大切なのはイメージです。しかし、そのようなことはティールさんだって今まで散々やってきていますよね。それでも魔法が使えないから、困っているはずです」


 それもそうだ。魔法の練習だって何度もやった。魔力を感じることすら出来ず、だからこそ、体内に魔力があるのかどうかを疑ってしまったのだから。


「うーん……分からないです。そもそも魔力ってどんな物なんでしょうか……」


「それです」


「え?」


「あなたは今、魔力がどんな物なのかすら分かっていません。それでは正確なイメージなど出来ようはずもありません。本来人間というのは、自分の体内にある魔力を感じ取ることが出来る能力を備えているんですよ。しかし、あまりに多い魔力を保有していると、その感知能力の限界を超えるんです。結果、自分の体内の魔力すら感じ取ることが出来なくなる」


 あたしが今まで魔法が使えなかった理由は分かった。でも、それでは結局魔法は使えないということになってしまう。


「そこで、これです。この魔法陣は、上にある物に魔力を流し込むだけのものです。基本的に何の役にも立たない無意味な魔法陣なのですが、我々のような人間には非常に助かる代物になります」


「その魔法陣であたしに魔力を流してもらえば、あたしにも魔力を感じることが出来るってことですか?」


「目的としては、そうです。しかしそう簡単なことではありませんよ。ティールさんは、例えば飲み込んだ唾がどのように流れていくか、感じ取ることは出来ますか?」


 言われて、唾を飲み込んでみる。喉を通り過ぎる前に分からなくなってしまった。これが水とかなら冷たい物が通るのを感じることで流れがわかるんだけど、唾では難しい。


「魔力も同じです。我々の体内には膨大な魔力が満ちています。そこに魔法陣から魔力を流したところで、元々体内に存在する魔力にすぐに隠されてしまう。それでも根気良く続けることで、やがて感知出来るようになっていくのです」


 簡単じゃないというのは、つまり根気良く続けないといけないってことなんだ。良かった、何か難しいことをしなきゃいけない訳ではないみたい。


「やってみます!」


「では、魔法陣を起動します。とりあえずは、魔力を感じることが出来るようになるまでこの作業を続けましょう。安心してください。何日でもお付き合いしますよ」








 学園都市リーナテイスを出て、近くの森までやってきた。今年度の初め頃、武装集団の襲撃があった際に敵を一網打尽にした、あの場所だ。

 別にこの場所でなくてはいけないという訳ではないけど、人が来ない場所として最初に思い浮かんだのがここだった。


「クレイには、魔力供給を受けてひたすら魔法を連発するトレーニングをするように言われている」


「ええ、理解しています。それによって、フォンさんの魔力制御を鍛えることが目的ですね」


 魔力制御力は、少しずつ戻ってきてはいる。でも、未だに1発しか魔法が使えない。多少魔力を残すことは出来るようになったけど、もう1発魔法が使えるほどではない。

 シャフィに魔力供給してもらい、何度も魔法を連発することで、以前の魔力制御を取り戻す。完全に取り戻すのは難しいけど、少しはマシになるはず。


「わたしとしても、何度も魔力供給するのは良いトレーニングになると思います。わたしの能力の限界を引き上げるつもりで供給しますので、遠慮なく魔法を使用してください」


「分かった」


 シャフィは魔力収集と魔力供給をより素早く、より多くすること。わたしは、魔力制御を取り戻して魔法を何度も使用出来るようにすること。

 しばらくはひたすら魔法を使い続ける生活になりそう。








 使用許可を取り、ドーム中央の円形フィールドに降り立つ。そこで向かい合うのは、生徒会会計トレール・コルラウンド。

 クレイからは、やりたいように鍛練していれば良いと言われている。他のメンバーには詳しく指示を出していた気がするんだが、わたしだけ扱いが雑じゃないか?


「カレン殿、試合形式は何でもありの寸止め決着でよろしいですか?」


「大丈夫です」


 これから模擬戦を行う。トレール先輩は、特に教えられるような特殊技能はないと言って、模擬戦を提案してきた。斬撃を飛ばすのは特殊技能ではないのかと思ったが、魔法を使えばわたしも似たようなことは出来るし、確かにそれだけ教わっても強化にはつながらないかもしれない。


 クレイは言っていた。トレール先輩と鍛練を行うことで、わたしは強くなれるのだと。だが、以前大会の決勝で戦った時は、1対1なら負ける気はしなかった。実力はわたしの方が上だと思う。クレイの言葉を疑う訳ではないが……どう強くなれるのだろうか。


「では、僭越ながらわたしが合図をさせていただきます。準備はよろしいですか?」


 10メートルほど空けて向かい合い、剣を構える。わたしは両手剣、対するトレール先輩は片手サイズの通常の剣だ。間合い的にもわたしが有利か。



「始め!」



 合図の瞬間、距離を詰める。トレール先輩はその場を動かず、剣を横薙ぎに振るった。


 そこから飛び出す斬撃に、前進しながら剣をぶつけてかき消す。通常この手の衝撃を利用した遠距離攻撃は、直接武器を当てるよりも威力が下がるものなのだが、かき消した手応えが直接打ち合うのと遜色ない。やはりこれは一つの特殊技能だと思う。

 とはいえ、直接打ち合ったところでわたしの方が押し勝つのは間違いない。問題なく飛ぶ斬撃を突破し、更に距離を詰める。


「はっ!」


 接近の勢いを殺さず、全てを剣に乗せて放つ。その単純な振り下ろしはもちろん剣に防がれ、打ち合いが始まる、のだが、



 手応えが……ない……?



 剣と剣が当たっているはずなのに、まるで手応えを感じない。そうして繰り返し打ち合っている内に、段々と自分の剣が本当にいつも通り振るえているのか不安になってくる。自分の想像とあまりにも違う現実に、自分の動きがおかしいのではないかと思い始める。


 そして、そんな迷いのある剣が通用するほど、目の前の相手は弱くない。



「わたしの、勝ちですね」



「……参りました」


 首に突き付けられた剣に、降参を宣言するしかない。以前とはあまりにも違う結果に、思わず不満が顔に出てしまったのだろう。トレール先輩は苦笑いして説明してくれた。


「以前大会で戦った際、我々は5人に対して、カレン殿はほぼ1人。打ち合いの手応えを気にしていられる余裕がなかったのでしょう。実際、普段通りの実力を発揮されれば、わたしはカレン殿より弱いはずです」


「あまりの手応えのなさに自分の剣が信じられなくなったことが、わたしの敗因だということですか」


「そうです。……その言い方だとまるで、わたしがあまりにも弱いせいでやる気がなくなったかのように聞こえますね」


「え、あっ、いや……」


「分かっています。手応えを感じないようにしたのはわざとですから」


 目の前の先輩が持つ極まった技術により、完璧に受け流されたせいで剣がぶつかる手応えを感じられなかった、ということか。なるほど、わたしが学ぶべきはこれなのだな。


「しかし力、速度、反応、全てにおいて、わたしよりカレン殿の方が上ですね。模擬戦を繰り返せば、挌上と戦う良い鍛練になりそうです」


「もう一度、お願いします」


「ええ。時間が許す限り、鍛練を続けるとしましょう」








 他の全員が出て行く中、何故か生徒会室から動かない副会長。


「ねえ、わたしたちは行かないの?」


「行かないよん。わちゃわちゃ動くのは面倒だからねー」


「面倒って……ちゃんと教えてくれるのよね?」


 クレイには、副会長から大規模魔法の使い方を学ぶように言われている。実際、この人の魔法は凄い。水と雷という差はあるけれど、この人に教えてもらえばきっと強くなる道が拓けるはず。


 だというのに……


「さぁ? どうかなー」


 この調子だ。椅子から立ち上がろうとすらしない。教えてもらう立場上、あまり強く言うことも出来ないが、だからといって不真面目にされても困る。


「何か要求があるって訳? どうしたら鍛練に付き合ってくれるのかしら?」


「えー? 別にないけどー? そういうのはクレイ君に言ったしー」


「このっ……!」


 落ち着け。ここで怒鳴り散らして、本気でやる気をなくされてはどうしようもない。ここは冷静に……冷静に……。



「はい、それが駄目」



「え?」


「そんな良い子じゃ、あたしみたいな魔法は使えない」


 良い子じゃ駄目? それが魔法と何の関係があるのよ。やっぱりふざけたことを言ってからかっているんじゃ……。


「じゃあ良い子のアイリスちゃんに問題です。魔法に大切な三つの要素ってなーんだ」


「そんなの、魔力、地点、イメージでしょ」


「せいかーい! 流石アイリスちゃん。あったま良いー!」


 ムカつく……! どうしてこんなに煽られているのよ……!


「じゃあ、大規模魔法を発動するために大切なことって何か分かる?」


 大規模魔法の発動が難しいと言われるのは、必要な魔力が多いというのももちろんだが、その制御難度が主な原因だ。規模が大きくなればなるほど、細部のイメージが曖昧になり、結果として魔法が崩れてしまう。


「隅々まで正確にイメージするのが大切なんじゃないかしら」


 それが出来れば苦労はしないが、出来るか出来ないか以前に必要な要素であるはずだ。



「はい、ブッブー! 大ハズレー!」



「なんでよっ!」


 まさか間違っているとは思わなかった。発動した魔法の細部までイメージするなんて、魔法使いの中では常識なはずなのに。


「あのねぇ、そんな常識的な答えならわざわざ問題なんて出す訳ないでしょ? 少しは頭使ったら? あ、ごっめーん、アイリスちゃんにはそんなの難しかったよね! フルームちゃんたらうっかりさん♪」


「……すぅ……ふぅ……それで、正解は?」




「傲慢さ」




 傲慢さ……? 魔法に関して必要な要素として、そんな物が挙げられるのを初めて聞いた。一体それがどう魔法に関係するというのか。




「世界は自分の物だと思いなさい。それをどう書き換えるも己の自由よ。全てを自分の物だとして、それを自分勝手に改変するの。本来の姿なんて知ったことじゃない。世界の法則もどうでも良い。魔力が届く限り、全てはあたしの物。それが大規模魔法よ」

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