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うさぎ  作者: 稲波 緑風
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 昔々、ある所にたくさんの動物が暮らしていました。ある日、賢いうさぎの一族のやんちゃな一匹が、朝の食事をおえて散歩をしていると、目の前をのんびりと亀が歩いていきました。その亀があんまりにものんびり歩いているので、うさぎは亀に

「おはよう、亀さん。ところで亀さんは眠いのに歩くのかい?」

と尋ねました。亀は

「おはよう、うさぎさん。いいや、眠くないよ。」

と答えました。すると、うさぎは小さく笑っていいました。

「なんだ、亀さんは眠くなくとも歩くのが遅いのかい?誰よりも一等歩くのが遅いのは亀さんみたいだね。」

亀はそれを聞いてちょっと腹を立てて言いました。

「いいや、うさぎさん。私が誰よりも一等歩くのが遅いなんてことはないよ。」

うさぎは腹を立てた亀に面白がってこう言いました。

「本当かい?それじゃあ、亀さん。競争しようじゃないか。どっちが遅いかでも決めようじゃないか。」

亀はうなずいて答えました。

「いいよ、うさぎさん。それじゃあ、杉の川原から、向こうの草の丘の上までではどうだろう?」

うさぎはうなずいて、すぐさま競争を始めようと亀と一緒に杉の川原まで行きました。

 杉の川原では、きつねが魚を取ろうと川とにらめっこしていました。うさぎと亀は、きつねに競争の見守り役を頼もうと話して声をかけました。

「こんにちは、きつねくん。お魚を取ろうとしているところすまないのだけれど、頼みごとがあるんだ。聞いてはくれないかな?」

亀の声掛けにきつねは残念そうに川をちょっと見てから

「美味しそうなものがあるのを横に置いてまで聞かなきゃいけないことかい?」

と尋ねました。亀は申し訳なさそうな顔をして、

「うさぎさんと私で、ここから向こうの草の丘の上まで、どちらが早く着くか競争しようということになったんだ。見守り役をお願いしたいんだよ。」

と答えました。すると、きつねはちょっと目を大きくした後、にやっと笑って

「亀さんとうさぎさんが競争するのかい?それも今から?で、僕が見守り役だって?ふーむ・・・面白そうだね。見守り役になるのはかまわないけれど、競争は今日じゃなくて明日にしないかい?そしたら、僕の兄弟たちを呼んできて皆でここから向こうの草の丘の上まで、しっかり見守ってあげるよ。」

と早口にいいました。これを聞いたうさぎと亀は、互いに近道をするつもりはないが、正しく見守りが必要だと思ったので、きつねの言う通り明日同じ時間に競争することにしました。


次の日、杉の川原に亀とうさぎときつねとその兄弟がそろっていました。

「さて、亀さんもうさぎさんもはじめていいかな?」

きつねはにやっと笑って亀とうさぎに聞きました。

「いいとも。」

「いいよ。」

亀とうさぎはそろって答えました。

「では、いざ向こうの草の丘の上まで、よーい、どん。」

きつねはびょんっと飛んでくるっと回って着地しました。

亀とうさぎは、きつねが飛んだときに競争を始めました。うさぎは元気よくぴょんぴょんと飛んでどんどん進んで行きました。亀は元気ながらもゆっくり歩いて進んで行きました。ただ、亀とうさぎの間はどんどん空いていきました。

うさぎは杉の川原と草の丘の真ん中の真ん中まで来てから、ちょっと後ろを見ました。すると、亀はまだまだ後ろの方でゆっくり歩いていました。

「なんだ、亀さんはまだ杉の川原からそんなに離れていないじゃないか。これなら、先に草の丘の上に着けてしまうじゃないか。」

うさぎは少しゆっくり進むことにしました。

そして、一時ほど走ったところで、きつねの兄弟が、うさぎに言いました。

「うさぎさん、草の丘まであと半分だよ。」

うさぎはきつねの兄弟を見て、足を止めました。

「やっぱり亀さんは歩くのが遅いんじゃないか」

そういって、うさぎは後ろをじっと見つめました。

「あれじゃあ、草の丘に着くのは夕方になりそうだ。面白くもない。いっそのこと、亀さんが追い付いてくるまで、横になっていようか。」

きつねの兄弟はこれを聞いて、にやっと笑い、道の脇にくるりと丸まりました。

「そんなら、おいらも横になって見てよう。うさぎどんが寝る横で立っているのは、面白くない。」

二匹は仲良く横になり、亀がどれほど歩くのがのんびりと眺めていました。

そして、亀さんの姿が少しは大きく見えてきた頃、日差しの温もりに睡魔が訪れ、こくりこくりと舟をこぎ始め、その内、うさぎは寝てしまいました。


亀は、と言うと、しっかり一歩一歩歩いていました。それもとてもゆっくりと。

「亀さん、亀さん。そんなにのんびり歩いていたら、うさぎさんに負けてしまうよ。どうしてそんなにのんびり歩くんだい?」

きつねはいつもよりのんびり歩く亀に、それこそ先に行ったり、戻ったりしながら、ついて歩いていましたが、あんまりにも歩きが遅いので、尋ねました。

「きつねくん、私はね、朝は身体が冷たくて、歩きが遅くなってしまうんだ。でも、負けるとは思わないよ。草の丘の上まではうさぎさんでも、結構かかるだろう?」

亀は確かに少しずつ歩くのが速くなりながら、きつねに答えました。そして、本当に少しずつ足を早めて、うさぎときつねの兄弟の一匹が寝ているところまで、いつの間に着いていました。

「おやおや?なんでうさぎさんは兄弟と寝ているんだろう?まだ、草の丘まで遠いのに。」

きつねはにやにやしながら、つぶやきました。

「きつねくんの兄弟もだましたり、化かしたりは好きでしょう。私も言い忘れていたけれど、見守るだけのお願いにしていたしね。」

亀はきつねの小声に応じて、ささやきました。

「見守り役をお願いされただけだねぇ。亀さん、何かあるかい?」

きつねは歩みを止めない亀の顔を覗いて尋ねました。

「いいえ、何もないよ。しっかりお願いをしなかった私とうさぎさんがいけないのだから。」

亀は小さく頭を横に振って答えました。そして、うさぎときつねの兄弟を起こさず、草の丘を目指して歩き続けました。


「兄弟、兄弟。この勝負、歩く早さだと思っていたけれど、頭の良さを競うことになってしまったね。」

小さな声できつねはきつねの兄弟の耳の横でつぶやきました。すると、寝ているはずのきつねの兄弟が、うさぎを起こさないようにして答えました。

「そうだね、兄弟。さて、うさぎさんはいつ起こしたら良いだろうか」

「ここは、うさぎさんが起きるまで、起こさないのが正しいよ、兄弟。」

きつねの兄と弟は、にやにやと笑ってうなづき、きつねは見守り役を続ける為に、亀の元へとかけていきました。

亀はうさぎときつねの兄弟と離れてから、徐々に歩く速度が速くなり、草の丘に着くのも後一刻、いえいえ、後四半刻ほどになっていました。


日が高くなった頃、うさぎは静かに目を開けると、飛び起きました。

「しまった。しっかり寝てしまった。亀さんはどこにいるだろう?」

きょろきょろと顔をふって周りをみると、亀の姿は草の丘を登っていました。

「大変だ。急がないといけない。」

うさぎは驚き言いながらも、ぴょんぴょんとはねて急ぎました。


「うさぎさん、うさぎさん。亀さんは足が遅いのかい?」

きつねの兄弟はニヤニヤとしながら、うさぎに聞きました。

うさぎはきつねの兄弟を見ませんでした。亀は少し傾いた太陽を見上げました。

うさぎは亀に頭をさげて、言いました。

「足が遅いと言って、笑ってごめんなさい。亀さん。」

「いいよ、うさぎさん。私ものんびり歩いていたもの。」

亀は少し笑ってうさぎに頷きます。

「ふむ、ではこれで終わりかな?僕も僕の兄弟も帰っていいかい?」

「ありがとう、きつねくん。」

「どうも」

亀もうさぎもきつねときつねの兄弟にお礼を言って、みんなわかれたのでした。

2021/02/26

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