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わたくしをヒロインにしてくださいまし!


エアリス殿下とのファーストダンスを踊り終えたわたくしエリザベートはホッと一息ついております。


今はネルフィス殿下とナシェル侯爵令嬢とのダンスの御披露目の最中。

そして向こう側では、婚約仕立ての第三王子ヘルメウス殿下と妹セシルが緊張した面持ちで待機しております。


それにしても驚きました!

控室で知らされたサプライズ!

我が愛しの妹セシルとダンゴムシ博士のヘルメウス殿下が婚約なんて!

そして何より驚きましたのが、その当事者お二方の驚愕のお顔!

ビックリポンでございます。


お母様がね。

そのお顔を揃って見たいばかりに内緒にして、爆弾を投下したみたい。

扇でお口を隠してフフフと笑うお顔は、悪戯が成功した悪ガキに見えたのはわたくしだけでしょうか?


セシルはね。

わたくしと違いダンスの才能はあるみたいなの。

幼少の頃より仕込まれていましたから、その点は安心なのですけれど……。

顔をあんなに赤く染め上げて……初恋でしょうか?


婚約爆弾投下前からチロチロ殿下をみてましたから、もしかしたらその頃から、お好きになられたのかも知れないわね。

でね。そのお相手ヘルメウス殿下は何故かわたくしをチロチロ見ております。

わたくし

『大丈夫よ。しっかりセシルをリードしてあげてね』

なんて想いを込めて微笑んであげました。


ヘルメウス殿下。俯いてブルブル震えております。

もしかして睨んじゃったか?

でも良かったわ。

将来美人有望のセシルちゃん。

これで安心して白薔薇学園に行けますわね。


ゲームの通りなら、結構誘惑も多いですからね。

誰も殿下のパートナーにちょっかいは出さないでしょう。


あのクソなピンク女みたいなヤツはそうはいないわよ!



失礼!言葉が過ぎましてよ。



ほら。いよいよですわよ。

ヘルメウス殿下とセシルのダンス!

楽しみだわ!



音楽と共に踊り始める可愛らしい9歳のペア。

お互い真っ赤な顔して必死に踊っております。

ヘルメウス殿下。なんかテンパっておいでです。

それをフォローしつつ上手く誘導しているのがセシル。


あれ?


─普通逆じゃね?


こりゃヘルメウス様。

セシルの尻に敷かれる未来しか見えんわ!


なんだかいいもの見たような気がして、幸せな気分に浸れました。


それにしてもこれからの事を思うとちょっと憂鬱です。

これから知らない殿方と踊らないといけないなんて……。

ダンスって結構密着度が高くて、オクダタエコとしては今でもいっぱいいっぱいなのですよ。


まあ。こんな目付きの悪い。

モテナイウダツノアガラナイわたくしですから、そんなに心配することもないわよね……。


良く壁の花っていうお話あるでしょう?

踊ってくださるパートナーがいなくて、壁でひたすら相手を待つ着飾ったご令嬢の事。

わたくし、それになりたいと思っておりますの。


─はあ~


終わりましたわ!


未来のご夫婦。ヘルメウスペア!

踊り切ったセシルは晴れやかな笑顔。

一方殿下はちょっと意気消沈。


なんだか可哀想ですわね。


ここは下手なわたくしがお相手して、お引き立て致しましょうか?


セシルが笑顔でわたくしの元へ駆けてきました。


えっと……忘れ物していませんこと?


「セシル様。とても素敵なダンスでしたわよ。

でもパートナーを忘れてはいけませんよ。

ちゃんとお連れして……あなたパートナーでしょう?

最後まで寄り添っておあげなさい」


「はい。お姉様!」


なんてヘルメウス殿下を引っ張ってくる。

まだまだ子供ですわね


「エリザベート嬢。ぼくは……とても……。

朝の話。辞退させてください。

もっと沢山練習して……」


悔しそうに唇を噛む殿下に、ほんの少し屈んで目線を合わせます。

殿下の悔しさが伝わってきます


「イヤでございます殿下。

わたくし殿下と踊ることを楽しみにしていたのでございますよ」

「だがぼくは……エリザベートに恥をかかせてしまう」


わたくしは首をふり


「わたくし。恥の幅がとても狭いですから、ちょっとやそっとのことで挫けたりは致しません。

わたくしはね殿下。

別に踊りの完璧な殿下と踊りたいとは思っておりませんことよ。ただ純粋に殿下とのダンスを楽しみたいだけでございます。

さあ。笑顔をお見せになってくださいな。

もし笑ってくだされたらわたくし、明日浮気して殿下とデート致しますわ」

「デートですか?」


わたくしはニコッと微笑み


「ダンゴムシの群生地を見つけのでございます。

こんな辛いお顔のヘルメウス殿下とは一緒に行けませんことよ。

さあ!わたくしを誘いなさいヘルメウス殿下!

くよくよなさるのは、わたくしと踊ってからにしてくださいな」


勢いに呑まれて殿下はわたくしに手を差しのべました。

わたくしは恭しく手を添えると、殿下と共に会場へ向かいました。

わたくしと殿下とのやり取りの間に一曲が終わり、ちょうど新しいメロディが流れ出しました。


わたくし達が進むと人の群れは割れ、二人は自然にフロアの中央に陣どりました


「もっと遠慮なさらずに引き寄せてください。

わたくし実はダンスが苦手でございます。

妹のセシルのように殿下をリードは出来ません。

だからしっかりわたくしの身体を支えてくださいまし。

わたくしはしっかりヘルメウス様の目を見据えて……いえ睨んでひたすら付いていきます。

ヘルメウス殿下もわたくから視線を外さず、わたくしを主役(ヒロイン)にしてくださいまし!」


ヘルメウス殿下は頷き、ギュッとわたくしを引き寄せました。

合わせた手から汗がにじみ出ます。

滑らないよう手を強く握り合いました。



「いくよ。エリザベート嬢。

君を今日のヒロインにしてあげる」



そして二人は光の世界へと漕ぎだしたのでございます














あんたがヒロインになって

どうすんだい?


セシルちゃんに譲りなさい。


めっ!

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