おままごと
それからエアリス殿下とわたくしエリザベートは、お庭の散策となりました。
デートだわね。
親睦を深めるらしい。
お互い9歳児。おままごとみたいなもの。
ふたりきりにはなれません。
お互い従者がゾロゾロ付いておりますれば。
はあー退屈だ。
なぜ一度もデート経験のなかったオクダタエコが、こんな9歳の肥満児の相手をせねばならんのだ。
でも……はたしてそうだろうか?
一度もデートしたことなかったけか?
前世のオクダタエコの半生の記憶には、デートしたことはない。
だけど、会社の社長の息子であるボンボンと喫茶店に行ったあの日、あのタエコに何かを告げようとした言葉から先の記憶がすっぽりと抜けている。
自分が事故で死んだことはなんとなく判る。
判るが、なぜ、どのような事故で死んだのかそれがさっぱりわからない。
わたしにはあの時、ボンボンへの恋心のようなものは欠片もなかった。
そしてボンボンにもタエコへの秘めた想いなど、ないはずだ。
ただ。気になることがひとつある。
わたしがこの前世の記憶を思い出す時、ひととき。ほんの僅かだけど最期の映像のようなものが見えた。
死にかけの横たわるわたしを抱いて、ボロボロに泣き崩れているボンボンの姿。
わたしはそんなボンボンの頬を伝う涙を指先で拭いながら、何かを彼に伝えた。
何を伝えたのか?
どんな言葉を告げたのか?
何も思い出せない。
ただあの時のボンボンのわたしに向ける眼差し。
その瞳を今、目に浮かべると胸の奥が締め付けられる。
わたしオクダタエコの人生はどこで終わったのだろうか?あの一瞬の光景は本当なのだろうか?
あの喫茶店でのボンボンの言葉の続き。
今、無性に気になる。
きっとつまらない言葉だろうけど、わたしはただ知りたい。
あの後、喫茶店でのあの日の後の日々。
わたしオクダタエコは誰も愛さず、誰にも愛されなかったのだろうか?
秘かにでもいい。
ほんの少しの勇気を出せて、誰かを愛せたのだろうか?
ありったけの勇気を出して、誰かに愛を告げたのだろうか?
わたしはオクダタエコは、仕事とかではなく、わたし自身を必要としてくれる誰かに出会ったのだろうか?
わたしは一度も味わえなかった、幸せの果実をほんの一口でもかじれたのだろうか?
わたしはわたしらしく生きられたのだろうか?
あれはただの夢幻であったろうか?
おっ。ポヨポヨがこちらを見ている。
「え……え……え……エリザベー……そちは……好きなたべもの……あるか?……」
おっ!おしい!もう一声!
《ト》入れれば完成だったねポヨポヨ。
はて?好きなたべもの?うん?
エリザベートはお菓子好きだね。
オクダタエコはご飯に味噌汁に納豆。
朝ごはんにそれは絶対!
あとは断然オムライス!
あーオムライス食いてえーなー
「エリザベートは出されるお食事なら、どれでも美味しくいただきます。ただ強いていうなれば卵料理が好きでございます。
ふわふわの卵に詰めものが入ったオムレツが好物でございます。
それとお菓子ではオムレット。様々な具材を挟んでその味の変化も楽しゅうございます。」
エリザベートはあまり好きでも嫌いでもなかった。
オムレットなど面倒くさいだろう。
でも今はアイツに気を使うつもりはない。
オクダタエコはその権力をいかんなく使わせてもらう。
次ポヨポヨ主宰で会ったとき、出てくるかもしれない。
ポヨポヨは覚えられないだろうが、従者が逐一記憶しているだろう。
国王夫妻に報告義務があるからね。
「そ……そうか……そちは…黄色いのが……好きなのだな?」
ちょっと違うけど、それはそれで面白い。
ポヨポヨはちゃんとイメージを思い浮かべ、色彩まで想像したのだろう。
返答はまだ9歳児だからね、あまり目くじらたてないよ。十分合格点!
良くできました!
エライねポヨポヨ!
おっポヨポヨ。こっちをじっと見ている。
わたくしの返答待ちだね
「そうでございます殿下。殿下も黄色いもの好きでいらして?」
ポヨポヨはまだ即答、即決はできない。
いつもこうしてゆっくり考えて答えをだす。
端からみれば馬鹿にもみえるかもしれないが、ポヨポヨは決して馬鹿ではない。
これでも中学生から人の顔色をみてきたタエコ。
考えもろくにせず、その場しのぎの空っぽの答えを返す者が、どれだけ多いか?
人を使って仕事していた時もそうだ。
ミスした時に言葉を先に出す人間は、言い訳をあらかじめ用意している事が多かった。
こちらが指摘する前からツラツラと言葉を連ねる。
その場しのぎだ。
こちらはただそのミスを反省し、二度と同じ過ちを繰り返さない努力をしてほしいのだ。
だからタエコはただ言い訳をじっと聞いて、その言い訳のストックか切れたのを見極めてから、こちらの要望を伝えていた。
ちなみに言い訳など一切聞いていない。ボーッとした顔で聞き流している。あんなものは目くそ鼻くそ耳のくそでどれも似たり寄ったり。責任は自分にないといいたいだけ。
でも大概こちらの要望を伝える前に、相手が降参して謝ってきた。
よほどわたしの目力が怖いらしい。
目力といえば……ポヨポヨはわたくしと目線が合っても、全然恐れたり、ビクついたりしない。
初めはロイヤルファミリーだから、そういうところを鍛えてあるのかと思ったが、どうもそれだけではないみたいだ。
おっ。ポヨポヨが熟考を終えたみたいだ
「余は……え……え……エリート……そちが……す……す……好きだ……」
どうやらわたくしは
とても優秀な黄色らしい
うん。なんか現代と異世界。
行ったり来たりの予感!
でもわかんないわ!ホント。
早く続きが知りたい!
どうなる?タエコ!
タエコ。シャチョーになれたの?
ボンボンとどうなったの?
ボンボン名前あんの?
ボンボン。
ボンボンのまま終わったらウケるよね!
顔も良く分からない。
マジでホントに続きが気になる!
たぶんワタシが一番のファンだぞ!
☆
死にかけて告げる言葉。
サーーーーッパリ思い浮かばない。
なんかその場面が再開したら
あ~思い付いたな、こいつ。
とでも思ってください……。
降って沸いて来るの待ちですわ!
たぶん。今は時期じゃないってことっすね!
☆☆
テントウムシの柄パン。ぐぐったあなた!
同士だぞ!