しっぽボンボン丸
「タエコさんを迷惑だなんて……一度も思ったことないです」
「あら。そう。ありがと」
ボンボンのいつになく真剣な表情に、部署回りでもその顔をしてくれと思うタエコ。
「あっマスター!ブレンド2つね!」
「あいよタエちゃん!とびきり美味しいのをもっていくよ」
「タエコさん」
ボンボンは身を乗り出した
「タエコさんは、ボクのことはどう思っているのですか?」
ボンボンだわね。
真っ先に浮かぶのはね……。
いつもポケーとした締まりのない顔をして、わたしをみてる。自覚してるかな?時々口も開いてるわよ。
やはり社会人なりたては……。
それと……やっぱり……子犬かな?
名前を付けてみよう。
いつも懐いてついて回るし、シッポぶんぶん振っているのが見えるようだわ……だから!
『シッポぶんぶん丸!』
ちょっと長いわね。わりかし気に入ったけど……
……おっこれかしら
『しっぽボンボン丸!』
ぶんぶんをボンボンに変えただけ!
でもぴったりじゃない?
結構いけてる!
でも長いのもそのまま。
じゃあ
『ボンボン丸!』
おい!ボンボン丸!おいで!
ボンボン丸!お手!
ボンボン丸!おすわり!
もう座っているか。
いいけどね~ちょっと言いずらい。
よし。決めた!この名前にしよう
『ボンボン』
うん。言いやすい。
あなたはやっぱりこのあだ名
人でも犬でも
ボンボンよ!
ボンボンはボンボンでなくっちゃ!
あらっボンボン固まってる
そっか。
わたし考え事しながらボンボンをじっと見ていた。
わたしの無駄な目力のせいで、恐怖で顔を真っ赤にして固まっている
「あの……」
「タエコさん……ボクは……はじめてタエコさんを見たときから……」
「お嬢様……お嬢様……あの……お嬢様」
ああ。わたしは今エリザベートね。
つまらない事を思いだしてた。
あの後、何があったっけ?
何て言われたっけ?
思い出せない。
きっと
『あなたが怖かったです』
だろうね。
少し気になるけど……まあ、考えても仕方ないし……。
今はエリザベートだから……でも……心はタエコだね。
オクダタエコ。
エリザベートの記憶はあるけど、あの癇癪持ちの我が儘気儘な生意気くそったれしょんべん臭いワルガキじゃないわ。
もうすぐ社長になれたのにおっ死んだアラサー女子よ!
ん?
わたし社長になれたの?
なれなかったの?
思い出せない。
それ結構ステータス的に重要だと思うんだよね
「あ……あの……お……お嬢様……」
「なにかしら?」
ひいっ!
声をかけたメイドがさ。
ビクッとしてへたり込んだ。
腰が抜けてる?
人が腰抜かすのはじめて見た。
このメイドさん12歳くらいかしら?
いつもおどおどしていて、わたし、いや記憶が戻る前のエリザベートはこのメイドが大嫌いだった。
目を合わせるたびにビクッとして
怯えて震えて……。
別に叩いてもいないし、嫌みも言っていない。
こう一方的に怖がられると、大嫌いになる理由はわかる。
わたしもいい大人だけど、あまりいい気分はしない。
あらあら。泣き出しちゃって。みっともない。
ただ、ひと睨みしただけでこれ?
9歳児にそんなにビビってどうすんの?
それに……この子……
「誰か!誰かいらして!」
「はっ、はい!ただ今!」
ぞろぞろと五人も使用人達が集まってくる。
みんなわたしを見て戦々恐々としている。
ホント腹立つ!
これはわたしオクダタエコが降臨する前……まあ……お子様エリザベートの感情そのまま。気持ちが高ぶりなかなか制御出来ない。
癇癪だろう。
でもここで怒鳴り散らしたら、あのクソガキと同レベルに堕ちてしまう。
ここは焦らず深呼吸。
落ち着いたかタエコ?
よし、いける。
「その座り込んでいるメリッサ。どかしてくださる。
それと、お水をこぼしたようだから、後始末はお願い」
失禁してるよメリッサ。
いい歳してだらしない。
後、ぐじぐじぐじぐじ泣きやがって。
いちいち睨まれただけでお漏らしされたら、この癇癪も抑えきれない。
あー腹立つ!
だめだ。激情に呑まれそうだ。
よし。
このもうひとりのガキンチョメリッサも鍛えてあげねばなるまいて!
「それから、目障りだからそのメリッサをしばらくわたしの視界に入れないように……そうね……殿下との面会が終わるまでは……殿下の前でまたこのような粗相されたら、庇いだてはできませんことよ」
そして五人の使用人のひとりに目を向ける。
藍色の髪の18歳くらいのメイドのミザリだ。
ミザリはメリッサをなにかと面倒をみて、可愛いがっていた。なら
「ミザリ。メリッサの着替えが終わったら、どこぞの部屋で人前で二度とそのような醜態を晒さぬように、指導徹底しなさい。それからあまりきつく叱るとまた泣き出すかもしれないから、ほどほどに……。
それからメリッサ。王太子との面会が終わったらあなたに言わねばならぬことがあります。呼び出すので、そのつもりで!
その時わたくしの前に、その泣き腫らしたみっともない顔であらわれたら許しません。
気持ちを切り替えて、ミザリからきっちり指導をうけなさい。
返事は!」
「はい!お嬢様!」
メリッサは弾けるように立ち上がった。
おっわ。びちょびちょでしょ!
まっ。これはわたくしも悪い。
でもなんだろ。エリザベートよほどこの子が嫌いだったんだろう。
見ただけで毒付きたくなる。
でも、タエコいじめられっこだったからね。
やられた悔しさ。やるせなさ。忘れてないよ。
わたくしはあんたをイジメたりしないから、安心しな!
「メリッサ。先ほどはなぜわたくしを呼びに来たのですか?」
王太子の件なのはわかっている。だけど、この子に言わせなければ……
「王太子殿下が、間もなく到着なされるそうです。
お出迎えの用意をお願いいたします」
「わかりました。ではメリッサ。ミザリ。あなた達は下がりなさい。一人はここの片付け。残りはわたくしに付いて来なさい!」
「畏まりました!お嬢様!」
「さあ!いよいよですわよ!」
エリザベートは胸を張って、スカートの裾をつまみ上げ、堂々とした急ぎ足をする。
王太子とは、どんなやつだ?
乙女ゲームプレイヤーとしては、王太子に会えるなんて、ミーハー気分全開だ!
ガキンチョだろうが王子は王子!
アラサー女子オクダタエコ改め
エリザベートは不敵に微笑んだ。
やめました
オクダタエコ改める気なんて
サラサラありませんことよ!
現代と異世界
こういう切り替え方も新鮮だわね。
☆
小説の人の名前。
この頃は行き当たりばったり。
ホントに事前に考えたりしない。
その時、急に思い浮かぶので
素直にその名前にしてる。
メリッサ。ミザリ。
なんかぴったり大好き、鍛え甲斐ありそう!
現社長。奥様。ボンボン。
みんなまだ名前無し。
しっぽボンボン丸!
思い付いた瞬間
やった!すごいぴったり!
サブタイトルになる!って思った。
オクダタエコ
思い浮かんだ時、電流が走った!
なんだかとんでもなくクソダサイ名前なのに
覚えやすい主人公にぴったりの名前!
いきなりカタカナで
オクダタエコと浮かんだよ。
面白いから、みんな名前カタカナにしよ!